中国商標弁理士・弁護士 姚敏
北京魏啓学法律事務所
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中国の消費者が中国国内で輸入商品を購入することは、すでに一般的な消費行動となっている。輸入商品を取り扱う海外サプライヤーは、通常、中国で商標を登録して使用しているが、近年、商標が継続して3年間使用されていないことによる取消し(以下、「不使用取消審判」という)が、こうしたサプライヤーにとって頻繁に直面する法的リスクとなっており、その具体的な対応策については十分に検討する価値がある。本稿では、弊所が最近代理した商標の不使用取消審判審決取消訴訟に関する実務事例を踏まえ、2つの実務上の問題について検討する。第一に、『類似商品・役務区分表』(以下、「区分表」という)における中国語訳名とニース分類の英語表記が一致しない場合、指定商品の範囲を如何に認定するかということである。第二に、輸入通関申告書や中国国内取引用インボイスに、商標の中国語音訳名のみが表示されている場合、その表示をもって当該商標の使用事実を如何に認定するかということである。筆者は、事例の具体的事情を踏まえて考察を行い、輸入商品を取り扱う商標権者が不使用取消審判に対応する際の実務上の参考を提供したいと考えている。
本件において、原告は商標権者であるイタリア企業であり、中国において外国語商標(以下、「本件商標」という)を登録していた。その後、本件商標は、第三者によって、不使用取消審判が請求された。本件商標は、不使用取消審判の段階では登録維持が認められたものの、その後、不使用取消不服審判段階において登録取消しとする審決が下された。これに対し、2026年4月、北京知識産権法院は一審判決を言い渡し、国家知識産権局(以下、「被告」という)が下した不使用取消不服審判の審決を取り消した上で、本件商標について改めて審決を下すよう命じた。被告及び第三者のいずれも上訴しなかったため、現在、この一審判決はすでに効力が生じている。
1.『類似商品・役務区分表』における中国語訳とニース分類の英語表記が一致しない場合の商品の範囲の認定
本件において、商標権者は実際に「クスクス(中国語訳名:古斯古斯面食)」を取り扱っており、本件商標は「粗麦蒸糕」を指定商品としていた。
本件商標の出願時に適用されていた2019年版の区分表において、「粗麦蒸糕」に対応するニース分類番号は300163であり、その英語表記は「Couscous [semolina]」(中国語訳名:古斯古斯飯[粗粒小麦粉])であった。その後、2020年版のニース分類では、分類番号300163の商品名称は「Couscous」へと簡略化され、これに合わせて中国の2020年版の区分表においても、中国語名称が「古斯古斯飯(300163)」に訂正された。
被告は不使用取消不服審判の審決において、商標権者が実際に使用していた「古斯古斯面食」は、本件商標の指定商品である「粗麦蒸糕」には当たらないと認定した。
指定商品と実際の使用商品が一致するか否かは、本件において商標登録を維持できるか否かを左右する重要な争点の一つである。そこで、弊所は裁判所に対し、商標権者が実際に使用している商品と本件商標の指定商品とは実質的に同一商品であり、被告の認定判断には誤りがあることを、以下のとおり主張した。
①「古斯古斯面食」は、デュラム小麦の粗挽き粉を原料とし、粗粒状の形状を有し、その外観は米粒に類似している。一方、本件商標の指定商品である「粗麦蒸糕」は、第30類の類似群コード3007「インスタント食品」に属しており、本件商品も調理時間はわずか5分であり、商品宣伝にも「即席主食、熱湯で5分蒸らせばすぐ食べられる」と表示されていることから、明らかにインスタント食品に該当する。原材料、形状及び食用方法を総合的に考慮すれば、当該商品は、指定商品に対応する標準訳名である「古斯古斯飯)」(類似群コード3007)と実質的に同一商品であると言える。
②被告は、区分表における公式訳名が訂正されている事実を看過し、2019年版における訳名の偏差のみに基づいて商品の属性を判断しているが、これは、「同一のニース分類に対応する中国語と外国語の商品名称は本質的に同一の商品を指すべきである」という適用ルールに反するものである。2019年版の区分表における翻訳上の偏差は、あくまで公式作成過程における段階的な問題に過ぎず、商標権者に起因するものではない。このような偏差により生じた不利益を商標権者に負担させることは、明らかに公平の原則に反する。
商標出願時に適用されたニース分類及び中国の区分表の元の記載に加え、その後の訳名訂正という客観的事実を踏まえると、弊所は訴訟において、2019年版の区分表における「粗麦蒸糕(300163)」は、ニース分類における「couscous [semolina](300163)」と同一商品に該当すると認定すべきであると主張した。
北京知識産権法院の一審判決は、弊所の主張を採用し、本件商標の指定商品である「粗麦蒸糕」と、権利者が中国に輸出した「古斯古斯面食」は同一商品に該当すると認定した。
実務において、区分表における新旧訳名の相違や、中国語名と外国語名に対応する商品が同一かどうか判断するにあたっては、ニース分類コード、商品の原材料、機能、用途及び消費シーンを中核的基準として検討すべきであり、特定の版の区分表における中国語訳名のみに基づいて認定すべきではない。また、公式の訳名の偏差に起因する不利益を商標権者に負担させるべきではない。
2.通関申告書及び販売インボイスに商標の表示がないからといってことは、商標の不使用を意味せず、商標の実際の使用行為は証拠チェーンで判断すべきである
本件審判段階において、本件商標が「古斯古斯面食」において中国国内市場ですでに実際に使用されていることを立証するために、商標権者は複数の証拠を提出した。具体的には、商標権者と中国の販売代理店との間の注文書やインボイス、税関の輸入貨物申告書、輸入関税専用納付書及び輸入付加価値税専用納付書、ECサイト上の商品販売ページ、製品の包装写真等である。
商標権者と中国の販売代理店との間の注文書やインボイスは自ら作成した証拠であり、商標の表示がなく、かつ中国法人の公印も付されていなかった。また、税関の輸入貨物申告書、輸入関税専用納付書及び税関輸入付加価値税専用納付書には、いずれも本件商標に対応する中国語音訳名のみが記載されていた。ただし、輸入通関手続は主として中国国内の輸入業者が行うものであり、書類に中国語音訳名のみが記載されることは、輸入取引において比較的よく見られる状況であり、本件特有の証拠上の欠陥というものではない。
審判段階において、被告は各証拠を個別に審査するにとどまり、証拠相互の関連性及び内在的な論理関係を十分に考慮せず、さらに、ECサイト上の商品販売ページ及び製品包装における商標使用の事実も認めなかった。そして、最終的に、本件証拠は完全な証拠チェーンを形成するに至らず、本件商標の指定商品における実際の使用を立証するには不十分であると判断した。
訴訟段階に入ってからは、商標登録の維持を確保するために、弊所は商標権者に対し、中国国内の販売代理店がエンドユーザーに発行した付加価値税専用インボイス、京東プラットフォームにおける本件商品の注文データ、商品の現物写真及び領収書を追加提出するよう助言し、これらにより中国国内における当該商品の流通実態を裏付けた。前記付加価値税専用インボイスには、いずれも中国語音訳名のみが記載されていたものの、商品現物には本件商標が明瞭に表示されていた。
一審の法廷審理において、弊所は審理の場を十分に活用し、合議体に対して、本件証拠全体のロジックを整理して示すとともに、本件商標の商品現物における実際の使用状況を説明し、被告が証拠を切り離して個別に検討し、商標の実際の使用事実を看過している点を指摘した。さらに、法廷において商品現物を提示して、権利者が当該商品の製造者であること、製品の外包装に本件商標が継続的に使用されていることを明確に示した。
弊所は裁判所に対し、中国国内市場で流通する輸入商品については、一般に外国語商標が主要なブランド標識として使用されることを説明した。証拠の性質からみても、通関申告書、関税納付書及び付加価値税納付書は、税関監督及び税務計算のための法定信憑であり、その主な機能は商品の品名、規格、原産地及び貨物価額等の通関・課税関連情報を記載する点にあり、ブランドに関する詳細を表示する必要はない。したがって、これらの書類に中国語音訳名のみが記載されていることは、その機能に照らして自然なことであり、これをもって商標の使用事実を否定することはできない。
商品現物の包装に表示された外国語商標は、消費者に向けられた中核的な識別標識である。さらに、ECサイトにおいて英語と中国語のブランド名が併記されており、両者は相互に対応関係を示すことで、相互に裏付け合う関係が形成されている。商品現物、オンライン販売資料及び通関・税務関係書類を組み合わせることにより、完全な証拠チェーンが形成され、本件商標が実際に使用されていたことを十分に証明できる。輸入商品の選択・購入に当たり、消費者は主として製品包装や販売ページといった視覚的に直接確認できる媒体を通じてブランドを識別するのであり、通関申告書等のような内部的な監督管理資料によって識別しているわけではない。したがって、被告が通関書類や税務書類に本件商標の表示がないことだけを根拠として、商標の使用を否定したことは、証拠の証明力を一面的に解釈し、証拠相互の内在的な関連性を切り離して評価するものであり、「事実に基づいて認定する」という裁判原則に反するものである。
一審裁判所は、本件における全ての証拠を総合的に審査した結果、原告が商品「粗麦蒸糕」について保有しているのは、本件商標に係る有効な登録商標一件のみであるが、商品包装及びECサイトのページ等の資料にはいずれも本件外国語商標が表示されていることから、原告に実質的な使用意思があることが十分に裏付けられ、本件商標が使用される可能性は高度に認められると判断した。以上のことから、本件証拠はすでに完全な証拠チェーンを形成しており、原告が指定期間内に、指定商品について、本件商標を実際に使用していたことを十分に証明できる。
本件において、北京知識産権法院は、単一の証拠に形式的な完全性を過度に要求することなく、商標の不使用取消審判制度の立法趣旨に立ち返り、当該商標が実際に商業的使用に供されていたか否かを重点的に審査した。その結果、弊所が証拠ロジックを一貫して整理し、法廷において、十分な主張・立証を行い、案件の事実関係を的確に提示することによって、審決結果を覆すことができた。この結果は、商標権者の合法的な利益を実質的に保護しただけでなく、本件における代理方針と裁判所の判断は今後、同種事案の処理においても一定の参考意義を有するものと考えられる。
3.まとめと提言
実務においては、多くの商標権者が実際に商標を使用しているものの、保存されている証拠には形式上の不備が見られるケースがある。このような場合、権利者は自ら積極的に証拠を補完し、証拠相互間の内在的な論理関係を整理したうえで、各手続段階を十分に活用し、自らの合法的な権益を守るべきである。たとえ証拠に形式的な欠陥が存在するとしても、十分な理由付けを行うことで、審査機関の理解と認可が得られる可能性もある。また、商標権者においては、通関申告書、インボイス、契約書等の取引関連書類において、実際に使用している商標をできる限り明示し、使用証拠を体系的に保存することで、商標の不使用取消リスクに積極的に対応することが望まれる。
さらに、輸入商品を取り扱う外国語商標の権利者においては、外国語の主要な商標とその中国語音訳名との使用ルールを統一し、両者の対応関係を裏付ける資料を保存しておく必要がある。商標の不使用取消審判において、証拠上の不備がある場合には、業界慣行、商品の属性、区分表のルール等も踏まえて十分に主張し、審査機関に対して、証拠全体に基づく商標の使用事実を総合的かつ客観的に認定するよう促すことで、証拠上の不備に起因する法的リスクを軽減することができる。
