中国商標弁理士・弁護士 宗 可麗
北京魏啓学法律事務所
 
中国市場経済の発展及び知的財産権保護意識の高まりに伴い、中国での商標登録出願件数は長年にわたり高い水準を維持しており、年間平均で数百万件規模に達している。一方で、悪意のある先取り出願、商標の買い占め、区分を超えた他社商標の類似商標の登録などの不正行為が多発しており、商標登録秩序を乱し、公平な市場環境を損なっている。中国は、現行『商標法』(2019年改正)をはじめとする各種の規範的文書や司法解釈の公布といった措置を通じて、商標異議申立や無効審判などの権利付与・権利確定案件において、悪意のある商標登録出願行為への取締りを強化し、顕著な成果を上げてきた。法律適用の観点からみれば、『商標法』第44条第1項の「その他の不正な手段」による商標登録を無効とする規定は、悪意のある先取り出願を規制するための重要な法的手段として機能している。

今年4月、北京市高等裁判所が発表した『2025年度商標権利付与・権利確定司法保護10大事例』1において、「その他の不正な手段による商標登録」に焦点に当てた事例が3件含まれていた。関連判決は、悪意のある商標登録出願行為を厳しく取り締まるシグナルを発信し続けており、商標登録制度を使用という本来の目的に回帰させ、誠実かつ秩序のある市場環境を維持するという中国政府と司法機関の立法趣旨を十分に示している。

本稿では、『商標法』第44条第1項の「その他の不正な手段」に係る法的根拠と適用要件を整理し、最新の司法実務に基づいて同条項の裁判基準及びその変遷を分析し、さらに、2027年に施行予定の新『商標法』の関連規定と対照しつつ、同条項の今後の適用ルールを展望することで、実務において悪意のある商標登録出願行為を的確に規制するための有益な参考を提供することを目的とする。

1.法的根拠と適用要件

現行商標法(2019年改正)第44条第1項は、「登録された商標が、この法律の第4条、第10条、第11条、第12条、第19条第4項の規定に違反する場合、または欺瞞的な手段またはその他の不正な手段により登録を得た場合には、商標局は当該登録商標の無効を宣告する。その他の単位または個人は、商標審判委員会に当該登録商標の無効宣告を請求することができる。」と規定している。

このうち、「その他の不正な手段により登録を得た」との規定については、2013年の商標法改正以来、実質的な改正はなされていなかった。商標法の全文構成から見ると、本条項は第5章「登録商標の無効宣告」に設けられ、商標登録後に当事者が無効宣告手続きを行う際に援用できる法的根拠である。本条項の「その他の不正な手段により登録を得た」ことは、第10条の使用禁止条項、第11条の不登録条項等と並列されており、いずれも登録商標の絶対的無効理由に該当する。さらに、本条項の適用には登録から5年以内という期間制限はない。

「その他の不正な手段により登録を得た」との具体的な事由については、早くも2010年公布の『最高裁判所による商標権利付与・権利確定に係る行政案件の審理における若干問題に関する意見』(法発[2010]12号、以下「2010年司法意見」という)第19条に規定されている。具体的には、「裁判所が登録商標の取消しに係わる行政事件を審理する際、係争商標がその他の不正な手段により登録を得たか否かを判断するに当たっては、当該行為が欺瞞的な手段以外の手段であって、商標登録秩序の乱れ、公共利益を損ない、公共資源を不正に占用し、またはその他の方式で不正な利益を図るものに該当するかを考慮しなければならない」である。また、「特定の民事権益のみを損なう場合には、商標法第41条第2項、第3項及び商標法その他の関連規定を適用して審査判断をしなければならない。」と適用の範囲を規定している。つまり、特定の主体の民事権益のみを侵害する場合、「その他の不正な手段」は適用されず、当事者は具体的な相対的理由に基づいて法的救済を求める必要がある。2017年の『最高裁判所による商標権利付与・権利確定の審理における若干問題に関する規定』(法釈[2017]2号、2020年改正)の第24条も、基本的には2010年司法意見の内容を踏襲している。

2019年の『北京市高等裁判所による商標権利付与・権利確定に係る行政案件の審理ガイドライン』の第17.2条は、「その他の不正な手段」の適用要件について以下のとおり規定している。

●適用主体:係争商標の登録出願人、及びその登録出願人との間に特定の関係を有し、係争商標の登録出願行為について意思の連絡を有する主体。

●適用対象:登録済み商標及び登録出願中の商標を含む。(商標法の文言を超え、立法趣旨に基づき、出願中の商標もその範囲に含めるものである)

●行為の結果:商標登録秩序を乱し、社会公共の利益を損害すること。または、公共資源を不正に占有し、その方式により不正な利益を図るに該当すること。

●適用限界:特定の民事権益のみを損なうものではないこと。

同ガイドラインの第17.3条では、さらに「その他の不正な手段」の3つの具体的状況が挙げられている。すなわち、係争商標出願人が、比較的識別力が高い又は知名度が高い他人の先行商標と同一又は類似する商標を複数出願すること、他人の企業名称等のその他の商業的標識との同一又は類似する商標を複数出願すること、さらには係争商標出願人が商標の売却の勧誘を行ったり、真の権利者に対して侵害訴訟を提起したりすることなどが、総合的な判断要素として考慮される。

2021年の『商標審査審理指南』における「その他の不正な手段により登録を得た」との規定の適用状況は、基本的に前記の北京市高等裁判所のガイドライン第17.3条と同様である。ただし、その適用対象については、国家知識産権局は『商標法』の文言上の意味を超えず、本条項をすでに登録された商標のみに適用し、出願中の商標については規制対象に含めないという、比較的に保守的な立場をとっている。

   特に注目すべき点として、北京市高等裁判所のガイドラインは「同一の商標権者による同一または類似しない商品・役務における登録出願状況」を、本条項の適用状況として明確に組み入れたことが挙げられる。このルールは、一般の商標が馳名商標と認定されなくても、区分を超えた保護が得られるかのような法的効果をもたらすように見えるが、両者の法的根拠は全く異なる。『商標法』第44条第1項の保護対象は商標登録の公共秩序であり、規制対象は商標登録管理秩序を破壊し、公序良俗に反する悪意のある出願行為である。本来の立法趣旨は、単に特定主体のグッドウィルや商標専用権を保護することのみではなく、公序良俗の原則を維持し、商標の登録管理秩序を規範化して良好な市場環境を構築することにある。同条項の適用における中核的な判断基準は、先行商標が比較的高い知名度を有していることや、混同可能性の存在を適用の前提とするものではなく、係争商標の出願人における主観的悪意及びその行為が秩序に及ぼす危険性に置かれている。

したがって、一般的な先行商標が非類似商品において、他人による悪意の区分を超えた先取り出願を阻止し得るのは、法律が一般商標に対し、馳名商標と同様の区分を超えた排他的私権を付与したからではなく、司法機関が商標の悪意の買い占め、模倣、及び商標登録の公共秩序を乱す行為を規制した結果として生じる「客観的な付随効果」に過ぎない。これは、商標登録秩序を維持し、誠実信義の原則を遵守させるという同条項の立法趣旨に合致するものである。

2.裁判基準及びその変遷

近年、商標の買い占め・転売、悪意の先取り出願、他人の商業的信用の便乗といった不正登録の行為が多発している。商標の権利付与・権利確定案件において、国家知識産権局及び司法機関は『商標法』第44条第1項の「その他の不正な手段により登録を得た」とする法的根拠を活用し、数多くの悪意のある登録商標を無効と宣告してきた。これは、不正な出願・登録行為の再発が強く抑制され、商標登録を通じて不正な利益を得ようとする不法主体に対して打撃した。これにより、商標登録秩序が維持され、中国の特定時期における商標問題の適切な解決に重要な役割を果たしてきた。

例えば、「UL」に係る商標無効宣告事件2において、係争商標は有名なアパレルブランドであるユニクロ社傘下の軽量ダウンジャケットブランド「UL」を悪意により先取り出願したものであった。その登録者である指南針社及びその関連会社である中唯社は、累計で2,600件以上の商標を出願登録しており、実質的に支配する商標取引プラットフォームを通じて商標を売却し、利益を得ようとしていた。同社らは「UL」商標について、真の権利者であるファーストリテイリング社に対して800万元という高額の譲渡費用を要求した上、中国全国の多くの地域で大規模な悪意訴訟を提起した。最終的に、国家知識産権局と司法機関は相次いで、係争商標の登録は「その他の不正な手段により登録を得た」事由に該当すると認定し、法律に基づき当該登録商標の無効を宣告した。本件は、商標登録秩序を乱し、社会公共の利益を損なう極めて典型的な事例である。関連裁定及び判決結果はまさに妥当であり、今後の同種の悪意ある先取り出願事件の審理に対しても重要な参考及び模範的指針を提供することとなった。

しかし、その一方で、悪意のある登録出願を厳しく取り締まるために、一部の案件においては、「その他の不正な手段」の適用が「出願件数のみを重視する傾向(いわゆる数字至上主義)」に陥るなど、極端化する傾向も見受けられる。同条項に基づく無効請求は登録後5年以内という期間制限を受けず、指定商品の区分による制限も受けないため、登録から長期間が経過し実際に使用もされている商標が、競合他社により無効請求されるといった、異常現象すら生じている3。これにより、本来であれば権利が安定しているはずの多くの商標権が容易に無効宣告され、商標登録者が法律上享有すべき行政上の信頼利益が損なわれるだけではなく、安定した商標登録管理秩序に対しても一定の悪影響を及ぼしている。

筆者の観察によれば、近年の裁判例には新たな傾向が見受けられる。以下では、具体的な事例を踏まえながら、二つの側面から考察を加えたい。

(1)係争商標出願人の商標出願件数

北京市高等裁判所のガイドライン及び『商標審査審理指南』においては、「複数の商標」、「大量、大規模」といった抽象的な表現にとどまり、商標出願件数に対して定量的基準は規定されていない。実務上、商標登録者は数十件から百件ぐらいの商標を保有していることが、比較的に一般的に見られているが、出願件数が数百件を超えれば必ずしも「その他の不正な手段」に該当するのであろうか。逆に、出願件数が少なければ、必ず該当しないと言えるのであろうか。

「招財猫」に係る商標無効宣告事件4において、二審裁判所は、係争商標の登録者である陝西中煙社が複数の区分にわたり300件余りの商標を出願登録したことについて、正常な生産経営の需要を超え、商標登録管理秩序を乱すものとして、「その他の不正な手段により登録を得た」事由に該当すると認定した。しかし、最高裁判所は二審判決を取り消し、「商標出願人の出願件数が一定の規模に達している場合であっても、件数のみを理由にその出願登録行為が『その他の不正な手段で登録を得た』ものと即断することは適切ではない。さらに事業の生産経営等の実情を踏まえ、出願商標に実際の使用意図が存在するか否か、また合理性ないし正当性を有するか否かを総合的に考慮する必要がある。出願商標に実際の使用意図が存在すること、またはすでに商標を実際の事業で使用していることを証明できる場合には、その出願登録行為が2013年『商標法』第44条第1項に規定する上記事由に該当すると認定することは適切ではない」と指摘した。最高裁判所は、陝西中煙社の企業規模及び生産経営の実情に照らし、同社の商標全体の出願件数及び指定区分(主にたばこ製品、及びその宣伝に用いられる関連商品またはサービス)が生産経営上の実際の需要に適合しており、合理性及び正当性を有すると判断した。また、係争商標は2016年の登録以降、指定商品である「たばこ」において継続的に使用されており、市場における売上高は28億元に達し、数々の受賞歴を有していた。したがって、最終的に係争商標の登録は合理性及び正当性を有するものと認定され、その登録が維持された。

「SK-Ⅱ」に係る商標無効宣告事件5において、係争商標の登録者である董某及びその関連会社は15件の商標を出願していた。それらの商標標識には「SK-Ⅱ」、「MOONY」、「ABC」など、一定の知名度のある他人の商標と酷似しているものが含まれる。しかも、董某は多くの商標について実際に使用しておらず、自ら商標出願登録行為が正常な生産経営の需要に基づくものであることも証明していなかった。最終的に、最高裁判所は当該行為が「その他の不正な手段により登録を得た」事由に該当すると認定した。本件は、裁判所の裁判例データベースに収録されている。

類似事件として、筆者が代理人としたF商標の無効宣告事件6が取り上げられる。この事件において、係争商標標識は、上訴人である○○株式会社が中国で先に登録していたF商標と酷似していたものの、『類似商品及び役務区分表』によれば、双方の商品は類似商品には該当しない。係争商標登録者が出願した商標の総件数が多くなく、出願時期も比較的分散していた。また、係争商標の登録者が模倣した他人の商標は、主に中国国内のニッチブランドであり、その対象も多岐にわたる業界に及んでいた。国家知識産権局及び一審裁判所はいずれも、係争商標は「その他の不正な手段により登録を得た」事由には該当しないと認定した。しかし、二審において裁判所は弊所の主張を認め、審理を経て、当該登録者が係争商標の出願前後2年間に『類似商品及び役務区分表』のすべての区分にわたり80件の商標を出願していたこと、ならびに係争商標以外にも他の区分において他人の識別力の高い商標標識と類似する商標を多数出願していることを発見し、その行為は正常な生産経営の需要を超えるものであると認定した。これに基づき、係争商標を出願登録した主観的意図は正当とは言い難いと推定され、最終的に係争商標は「その他の不正な手段により登録を得た」事由に該当すると認定された。

以上から明らかなように、商標の出願件数は、「その他の不正な手段により登録を得た」事由を認定するための絶対的な基準ではなく、個別案件を検討する際の参考要素の一つに過ぎない。つまり、商標出願の件数が多いことが当然に不正な手段に該当するわけではない。実務上、IT・テクノロジー、食品・ヘルスケア、多品目展開などを取り扱う市場主体は、ブランド戦略に基づき一括して多数の商標を登録出願する必要性がよくある。また、知名度の高いブランドを有する事業者は、他人が非類似商品において自分の商業的信用に便乗することを防ぐため、合理的な範囲内で防衛商標の登録出願を行う。仮に商標出願人が、自らの出願行為に実際の使用意図が存在すること、実際の使用事実が存在することを立証することができ、他人の先行権利に便乗する意図が存在しておらず、かつ商標の登録秩序を乱していなければ、不正な手段だと認定されるべきではない7。一方、出願件数が少ない場合であっても、不正登録に該当する可能性がある。具体的案件の審理においては、北京市高等裁判所の審理ガイドラインの「4つの適用要件」に準拠し、件数のみならず、係争商標標識と他人の先行の商業標識との類似度、登録者の主観的意図など、複数の要素を総合的に考慮してはじめて、妥当な判断を下すことができるのである。

(2)善意による商標の譲受は係争商標の「悪意出願」の認定に影響を及ぼすか

『商標法』第44条第1項の文言から見れば、同条項が主な規制対象は不正な登録手段である。すなわち、「商標登録時」、商標の登録秩序を乱し、社会公共の利益を損ない、公共の資源を不正に占有し、またはその他の方式により不正な利益を図る手段を講じたか否かが問われる。したがって、「商標登録時」の登録者の行為や主観的意図などが極めて重要となっている。

例えば、「雨花石」に係る商標無効宣告事件8において、係争商標の元の商標権者は複数の区分において、他人の有名ブランドと同一または類似する商標を相次いで出願し、その株主は公開報道の取材で自社が先取り行為を行っていた事実を自認していた。本件商標がNEW BEACON社へ譲渡された後、中煙工業社は同商標に対して無効宣告を請求した。一審及び二審裁判所はいずれも、元の商標権者の行為に基づき、係争商標の登録は「その他の不正な手段により登録を得た」事由に該当すると認定した。譲受人であるNEW BEACON社は再審請求を提起したが、最高裁判所に棄却された。最高裁判所は判決において、NEW BEACON社が係争商標を譲受したことについて、「不正な登録出願により生じた法的結果について、責任を負うべきである」と明確に指摘し、裁判所の立場を明確にした。

本件の裁判ロジックは、まさに長年にわたる司法実務における主流の見解である。商標の登録出願段階において商標登録の秩序を乱す行為が認められる以上、当該悪意は譲受によって消滅せず、いわゆる「毒樹の果実」に該当する。

しかし、実務上、善意の譲受人が商標を譲り受けた後、当該商標を継続的に使用し、誠実に事業を営むことで次第にブランド知名度を高めたものの、後に元の商標権者に不正行為があったとして第三者から無効宣告を請求され、不利益を被る事例もある。例えば、「Beaba」に係る商標無効宣告事件9において、係争商標の現権利者である傑喬社は、原権利者である陳氏より同商標を譲り受け、その後長期にわたり宣伝・使用を継続し、市場において相当の信用を獲得し、需要者間においても安定的な出所表示機能を有するに至っていた。しかしながら、陳氏の当初の商標出願登録行為が「その他の不正な手段により登録を得た」ものに該当することを理由に、一審・二審裁判所はいずれも係争商標の登録を無効とした。そして裁判所は、「傑喬社における使用行為は、係争商標の登録に係る不正性を払拭するものではない」と明示した。

このような紛争に対し、司法実務は画一的な処理手法を採用する傾向にある。すなわち、買い占められた商標の市場流通を阻止し、不正な者による商標譲渡を通じた不当利得の余地を減少させることにより、商標買い占めを当初から規制するものである。しかし、善意の譲受人の立場からみれば、相当の対価を支払って商標権を譲り受け、所定の手続きに従って移転登録を申請し、国家知識産権局の承認を得た上で、行政上の信頼保護の原則に基づき当該商標を使用し、多大な時間・労力・コストを投入してきたのである。それにもかかわらず、当該商標が登録時の瑕疵を理由に無効とされるならば、長年の経営投資と蓄積されたのれんはすべて徒労に帰し、まさに寝耳に水というほかない。

最近、「華凌」に係る商標無効宣告事件の二審判決が業界の注目を集め、「商標譲受の合法性判断に関し新たな視点を示した」と評されている。本件では、係争商標「華凌」の元の商標権者が、過去に国内外の多数の有名ブランドと同一又は類似する商標を登録出願していた。美的集団は「華凌」ブランドの先行権利者として係争商標に対して異議申立を行い、拒絶査定不服審判において当事者間で和解が成立し、美的集団が当該商標を譲り受けることで国家知識産権局が登録を承認した。その後、広州某会社から「元の商標権者による出願登録行為は『その他の不正な手段で登録を得た』事由に該当する」として無効宣告を請求し、国家知識産権局は無効理由の成立を認め、無効決定を下した。

訴訟において、一審裁判所は「美的集団は『華凌』ブランド商標の真の権利者であり、係争商標を譲り受けて使用した行為は公共の利益を損なわない」と判断した。さらに、広州某会社の商標出願行為自体に美的集団の「華凌」ブランドの商業的信用に便乗する意図が認められ、過去の民事判決でも同社の行為が美的集団に対する不正競争行為に該当すると認定されていた経緯を踏まえ、一審裁判所は係争商標の登録を無効とできではないと判断した。

二審裁判所は、一審判決を維持したうえで、美的集団が係争商標を譲り受けた目的は自らのブランド利益を維持する点にあるとし、同行為は商標法第44条が規制対象とする「商標の登録秩序を乱し、社会公共の利益を損ない、公共の資源を不当に占有し、または不正な利益を図る」行為には該当しないと明確に判示した。また、美的集団による商標譲受後の使用実績を積極的に評価し、同社が主観的にも真実の使用意図を有し、客観的にも使用を継続していると認定したうえで、元の商標権者による他の商標登録出願行為のみを理由に本件商標の登録適格性を否定することは適当ではないと判断した。

なお、最新の「曙光」に係る商標無効宣告事件(一審判決日:2026年4月28日)および「椰果世家」に係る商標無効宣告事件(二審判決日:2026年3月25日)における北京知的財産裁判所および北京市高等裁判所の判決も、いずれも前記検討した華凌商標無効事件と同様の判決ロジックを示している。

無体財産権としての商標権は、公権と私権という二重の属性を有する。本来登録が認められるべきではない商標が登録された後、譲渡を経てからの「公権としての法的規制」と「私権としての権利保護」との間における利害関係をどのように調和させるかは、極めて重要な課題である。公示・公信の原則の下、善意の譲受人の利益は譲渡時及び譲渡後において必要な保護を受けるべきという声も聞かれる。また、単に元の商標権者の出願時の悪意のみをもって、現在の商標権者の善意及び市場において既に客観的に形成された安定的な市場秩序を完全に無視し、画一的に登録を無効とすることは、ブランドと現在の商標権者との間に形成された出所識別関係を遮断し、既存の市場秩序を乱すのみならず、かえって社会公共の利益や市場秩序を害することになるという考え方もある。

筆者は前述の見解に同感し、特に商標の譲渡後、善意の譲受人による継続使用を通じて、市場において既に安定した出所識別機能を有している場合には、当該商標権の存続に正当性を認めるべきだと考える。このような裁判例の増加は、司法機関が商標の私権属性を尊重することを示すものであり、市場主体による行政上の権利確定手続きに対する予測可能性を高め、行政法上の信頼保護の原則を確保することにも資するものである。

3.新『商標法』の視点による展望

2026年6月、中国全国人民代表大会において改正された新『商標法』が可決され、2027年1月1日より施行されることとなった。新『商標法』においても、「その他の不正な手段」に関する条項は引き続き維持されており、悪意のある商標登録出願を引き続き取締り、商標登録管理の秩序及び公序良俗を維持するという中国の一貫した姿勢が示されている。

新『商標法』の全文構成からみると、「その他の不正な手段」に関する条項は、現行法の第5章「商標登録の無効宣告」から、新商標法の第2章「商標登録の要件」に移され、現行法第4条の「使用を目的としない」条項と統合されて、新法第19条に位置づけられた。改定後の条文は以下のとおりである。

第19条 使用を目的とせず、かつ明らかに正常な生産経営の需要を超えて商標登録出願をしたものについては、登録を認めない。

欺瞞的な手段又はその他の不正な手段により商標登録出願をしてはならない。

新『商標法』は、北京市高等裁判所の審理ガイドライン第17.2条の司法実務経験を踏まえ、「その他の不正な手段により登録を得た」に関する規定の格上げを行い、現行法が登録済み商標のみを規制対象としていた限界を打破し、適用対象を「登録商標」から「出願中の商標」へと拡大した。これにより、同条項を商標登録出願、異議申立、拒絶査定不服審判、無効宣告といった権利付与・権利確定の全過程において一体的に適用することを実現した。これは、悪意のある商標登録出願を規制し、商標の登録秩序を維持するという立法趣旨が、商標の出願審査、登録承認、権利付与・権利確定及びこれに対応する訴訟の全過程において「正当な根拠をもって」貫徹されることを象徴するものであり、行政審査と司法裁判の基準を統一し、商標登録における公共秩序の制度的セーフティネットをより強固なものとするものである。

新『商標法』の施行後、本条項は悪意による商標の買い占めや区分を超えた先取り出願などの不正な行為を規制する上での重要な法的ツールとして、より一層の効果を発揮することが期待され、行政監督と司法規制との相乗効果は顕著に向上するものと見込まれる。司法実務においては、引き続き利益衡量の理念を堅持し、商標権益の実質的な帰属、市場秩序の安定性、行政上の信頼保護、及び当事者の主観的意図といった多角的な要素を総合的に考慮した上で、法律適用の境界線を的確に見極める必要がある。これにより、悪意のある商標登録出願行為を厳しく規制すると同時に、市場主体の合法的な権益を慎重に保護し、立法の趣旨と個別案件における実質的公正との有機的な調和を図ることが求められる。
 
——————————————————————————————————————

1北京高等裁判所が2025年度の知的財産権司法保護10大事例および商標権利付与・権利確定司法保護10大事例を公表——ウィーチャット公式アカウント『京法網事』2026年4月24日に掲載
2ユニクロ「UL」に係る商標無効宣告事件の二審判決書(2017)京行終5603号
3孔祥俊『商標法』「その他の不正な手段」適用の是正と廃棄——ウィーチャット公式アカウント『知産前沿』2025年9月12日に掲載
https://mp.weixin.qq.com/s/YWoNMmFb7nPK2uOg4orKTQ
4「招財猫」に係る商標無効宣告事件 (2024)最高法行再88号
5「SK-Ⅱ」に係る商標無効宣告事件 人民裁判所事例庫(2021)最高法行申577号行政裁定
6F商標無効宣告事件 (2025)京行終11738号
7李輝・周迪 『商標法』第44条第1項「その他の不正な手段により登録を得た」の適用に関する考察——『中華商標』雑誌2026年第6期
8「雨花石」に係る商標無効宣告事件 (2024)最高法行申4895号
9「Beaba」に係る商標無効宣告事件 (2022)京行終4726号
10華凌商標無効事件 (2025)京行終2669号
11知産宝(IP HOUSE) 『北京高等裁判所:商標譲受の適法性評価に関する突破口』2025年9月8日
https://mp.weixin.qq.com/s/9hqO3_CBP4RFAR8JLwbFXg
12「曙光」に係る商標無効宣告事件 (2025)京73行初24183号
13「椰果世家」に係る商標無効宣告事件 (2025)京行終11710号
14袁源・王璐 『商標譲渡人による悪意の商標買い占めが善意の譲受人に及ぼす影響に関する考察』——中華商標雑誌2025年第5期
15夏旭・楊凱 『商標法第44条第1項「その他の不正な手段」条項の利益衡量と適用限界に関する研究——「華凌」事件の分析から』——中華商標雑誌2026年第2期