中国弁護士 姚敏
北京魏啓学法律事務所
 
工業製品であっても、美学に優れた造形デザインがあると、プラス効果となる。企業も製品の意匠への投資を非常に重視し、その製品のデザインに対して積極的に法による保護を求めている。通常、意匠権は工業製品のデザインを保護する最も有効な手段であるが、意匠権の保護期間はわずかの15年間であり、意匠権の保護期限が満了後の工業製品のデザインに対する保護は多くの企業に注目されている。筆者の実務経験によれば、多くの企業は、その製品が実用性と芸術性の結合であり、実用芸術品として中国『著作権法』に保護されるかについて強い関心を持っている。工業製品は芸術的美感を有する作品に該当すると認定され、中国著作権法によって保護される可能性があるかについてはよく疑問を持っている。本文は当該疑問点から、実務判例を踏まえて、実用芸術品の著作権法上の保護条件、方式及び内容を分析して、実務における難点を検討して、ご参考に供したい。

一、実用芸術品の著作権法上の保護条件、方式及び内容

中国の司法実務において、実用芸術品は美術作品として中国著作権法に保護されることはすでに定説となっており、実用芸術品に対する保護条件、方式と内容についても基本的に共通認識に達している。最高裁判所が2021年8月2日に発表した第28回指導判例のうち、第157号判例である左尚明舎家居用品(上海)有限公司が北京中融恒盛木業有限公司、南京夢陽家具販売センターを訴えた著作権侵害紛争事件((2018)最高法民申6061号)において、実用芸術作品に係る著作権保護の内容、方式と条件を明確にした。独創性、芸術性、実用性、複製可能性を有し、かつ芸術性と実用性が分離できる実用芸術品は、実用芸術作品として認定することができ、美術作品として著作権法によって保護される。つまり、著作権法に保護される実用芸術作品は芸術性を有さなければならず、著作権法によって保護されるのは実用芸術作品の実用性ではなく、芸術性である。

(一)保護条件と方式

中国現行の著作権法では、実用芸術作品を、列挙の方法を通じて保護される作品の類型として直接にリストアップされていない。司法実務において、通常実用芸術作品を美術作品として保護する。最高裁判所の指導判例では、実用芸術品が条件に満たす場合、つまり、独創性、芸術性、実用性、複製可能性を有し、かつ芸術性と実用性が分離できる条件の下、実用芸術作品と認定し、美術作品として保護されることを明らかにした。

上記の保護条件は、独創性、芸術性、複製可能性とまとめることができ、そのうち、芸術性は実用性から分離して独立して存在しなければならない。

(二)保護の内容

実用芸術作品は実用性と芸術性の結合であるが、著作権法によって保護されるのはその芸術性のみであり、すなわち実用芸術作品における独創性を有する芸術造形や芸術図案、つまり、当該芸術品の構造又は形である。最高裁判所は、上記指導判例を発表する前に、多くの司法判例において、当該基準を実行してきた。北京市高等裁判所が制定した『著作権侵害事件の審理ガイドライン』は、「実用芸術作品における独創性を有する芸術的美感のある部分は、美術作品として著作権法によって保護されることができる。」と指摘した。

二、実用芸術品の著作権法による保護の実務上の難点

実用芸術品の著作権法による保護実務において、通常、まず、実用性と芸術性が分離できることをどのように理解して認定するか、また、実用芸術品の芸術創作のレベルが美術作品の要求に達しているかをどのように認定するかが争点になりやすい。

(一)実用性と芸術性の分離

最高裁判所は、上記の指導判例において、実用性と芸術性の相互分離について具体的な要求を指摘した。つまり、実用的な機能を備えた実用性と芸術的な美感を体現する芸術性は、物理的に分割して単独で存在する物理的な相互分離であってもよい。実用芸術品における芸術性を変更しても、その実用的な機能の実質的な喪失を招くことがない、観念的な相互分離であってもよい。実用芸術品の実用性と芸術性が分離できない場合、著作権法によって保護される美術作品に該当しない。

物理的な相互分離は比較的に理解しやすい。例えば実用的な機能を有するランプソケットと芸術的美感を体現するランプカバーは物理的に分離することができる。実務において、ほとんどの実用芸術品の機能的な部分と芸術的美感を体現する部分がよく融合し、物理的に互いに分離することができない、その場合、両者は観念的に分離できればよい。最高裁判所はより直感的な方法で「観念的な相互分離」という抽象概念を解釈し、つまり実用芸術品の芸術性を改変することを想定し、実用的な機能の実質的な喪失を招くことがなければ、実用性と芸術性は観念的に分離できると考えられる。これは実際には「観念的な相互分離」を「表現が唯一ではない」と具体化し、実務上判断しやすくなる。他の表現の使用により実用的な機能の喪失に至らない場合、実用性と芸術性は分離できると判断し、他の表現の使用により実用的な機能が損なわれたり失われたりすると、両者は分離できないと判断する。

例えば、上記の指導事例において、一審裁判所は権利者が主張した「唐韻クロークルーム家具」が実用工業製品であり、その機能性と芸術性が分離できないため、作品に該当しないと判断した。しかし、最高裁判所は再審判決において、「唐韻クロークルーム家具」の板材の色柄、金属部品の組み合わせ、中国式対称などの造形デザインを変更しても、クロークルーム家具として衣類を陳列するという実用的な機能が影響を受けないと指摘した。したがって、最高裁判所は「唐韻クロークルーム家具」の実用的な機能と芸術的な美感が分離して独立して存在できると認定した。

(二)実用芸術品の芸術創作のレベルは美術作品の要求に達する

芸術創作のレベルについての判断は通常主観性を有する。司法実務において、裁判所は通常創作者が作品を創作する際の取捨選択、選択、デザイン、レイアウトなどの創造的な労働を考察することを通じて、実用芸術品が審美的な意義を有するか、美術作品の芸術創作のレベルに達しているかを認定する。

上記の指導事例において、最高裁判所は「唐韻クロークルーム家具」が板材の色柄のデザイン、部品のデザイン、家具に角花縁取りを使用するか否か、角花に利用された図案、縁取りの具体的な位置などについて、いずれも左尚明舎公司の取捨選択、選択、デザイン、レイアウトなどの創造的な労働を体現している。中国式家具のスタイルから見ると、「唐韻クロークルーム家具」の右側には中国式の1対1の対称デザインが採用され、調和のとれた美しさを伝わっている。したがって、「唐韻クロークルーム家具」は審美的な意義を有し、美術作品の芸術創作のレベルを備えていると判断した。

北京市朝陽区裁判所は(2016)京0105民初10384号民事判決書において、ジャガー・ランドローバー社の「攬勝極光(レンジローバーイヴォーク)」自動車の意匠は線、色、造形などの面において、デザイナーの美感への追求をある程度入れ込ませているが、一般的な自動車の意匠に比べて、これらの具体的な表現は美術作品の独創性の最低限の要求を達成するには不十分であるため、一般公衆はそれを芸術作品ではなく工業製品と見なすことが多い。したがって、ジャガー・ランドローバー社の「攬勝極光(レンジローバーイヴォーク)」自動車の意匠は、全体的に美術作品に要求される芸術創作のレベルに達しておらず、独創性を有せず、美術作品に該当しないと認定した。北京市朝陽区裁判所は、上記の認定のロジックを以下の通り明確にした。「中国の著作権法には、実用芸術作品は美術作品の特殊な類型に属し、少なくとも一般美術作品の独創的な要件を満たさなければならず、創作者の美学分野における独特な創造力と観念を体現することができる。また、実用芸術作品は、意匠権と著作権による保護が重なっている典型的な状況であり、もし実用芸術作品の芸術創作のレベルに対する判断に緩すぎると、専利法の関連制度が形骸化させる恐れがあり、ひいてに工業財産権体系の発展に深刻な影響を与える恐れがある。独創性の判断基準について、実用芸術作品は少なくとも一般美術作品の創作レベルと一致し、工業製品ではなく芸術作品として看做すことに十分でなければならない。」。二審の北京知的財産権裁判所も一審裁判所の上記認定を支持した。

上記2つの事例を比較すると、最高裁判所の指導事例は、実用芸術作品の創作レベルが工業製品ではなく芸術作品として看做すのに十分でなければならないことを要求しておらず、「唐韻衣食住家具」の板材花色設計、部品設計などの面から創作者の取捨選択、選択、設計、配置などの創造的な労働を体現しているかどうかを判断し、さらに美術作品の創作レベルに達しているかどうかを認定しなければならないと指摘した。最高裁判所の上述の事例における実用芸術作品が有すべき創作のレベルに対する要求は、「工業製品ではなく芸術作品として看做すのに十分」という要求より明らかに低い。実務の中には、最高裁判所の上述の指導事例における実用芸術作品の創作のレベルに対する要求が低すぎて、著作権法によって保護されるべきでない内容を保護したという意見が少なくない。なぜならば、大衆にとって、「唐韻のクローク家具」は「美しい家具」にすぎず、「芸術品」として見ることは難しいからである。後続の実務において、最高裁の上述の指導事例によって、より多くの大衆にとって美しい工業製品が著作権法の保護を受けるかについては、さらに観察する必要がある。

三、実務上の事例

実用芸術品が保護されるための創作レベルの要求をより直感的に理解してもらうために、実用芸術品が著作権によって保護されるか否かについて、より多くの参考を提供できるように、近年の実用芸術品が美術作品として保護された事例及び保護されなかった事例を下表にまとめた。

四、 まとめ

中国の立法と司法実務は、条件を満たす芸術的美感を有する工業製品に対して、意匠権のほか、著作権法による保護を除外していない。実務において、実用芸術品が美術作品として著作権法の保護を受けた事例は少なくない。また、反不正競争法第6条も、比較的に高い知名度を有し、かつ一定の識別性を備えた製品の意匠に対して、一定の影響力のある装飾によって保護を受ける可能性を提供している。例えば、上記の「攬勝極光(レンジローバーイヴォーク)」は、著作権法の保護を受けていないにもかかわらず、反不正競争法第6条に規定されている影響力のある装飾に該当すると認定され、保護を受けた。したがって、一定のデザインを有する工業製品について、権利者は実際の状況に応じてより優れた保護方式を選択することができる。