中国弁護士  陳  傑
北京魏啓学法律事務所
 
懲罰的賠償とは、裁判所が判決した賠償額が実際の損害額を超える賠償のことをいう。中国において、知的財産権侵害行為の賠償について、権利者が権利侵害により被った「実際の損失」を補填することを目的として、補填原則を採用してきた。しかし近年、知的財産権保護を強化し、権利侵害者に打撃を与えるために、懲罰的賠償制度を徐々に導入し始めている。当該制度には、懲罰的賠償を通じて、権利侵害者の侵害コストを確実に高めることで、権利侵害による利益をなくすという意義がある一方、一部の事件においてよく見られる隠蔽され、発見されにくい悪意の権利侵害、繰り返しの権利侵害行為が、懲罰的賠償を適用することで、ある程度権利者の損失を補償するのにも役立つという意義もある。本文は、懲罰的賠償の法適用、適用要件、計算方法などについての規定及び判例を合わせて説明する。

I. 法律規定及びその適用

懲罰的賠償制度を最初に導入したのは2013年改正商標法で、その第63条に「悪意により商標専用権を侵害し、情状が深刻な場合、上述の方法で確定した金額の1倍以上3倍以下で賠償額を確定することができる。」と規定した。その後、2019年商標法の第4回改正で、懲罰的賠償の倍数を従来の「1倍以上3倍以下」から「1倍以上5倍以下」に引き上げた。

また、2021年1月1日に施行された『民法典』の権利侵害責任編においても、知的財産権侵害事件の懲罰的賠償について特に規定しており、すなわち、第1185条には、「故意に他人の知的財産権を侵害して、情状が深刻な場合、被侵害者は相応する懲罰的賠償を請求する権利を有する」と規定されている。民法典は民事法律関係の一般法として、当該条項は知的財産権分野における懲罰的賠償に関する規定として指導的な役割を有していると言える。

2021年6月1日に施行された改正『専利法』と『著作権法』も同様に懲罰的賠償を導入し、懲罰的賠償の倍数を1倍以上5倍以下と明確に規定し、適用条件は民法典の表現と同じであった。

2019年の『不正競争防止法』の改正において、「事業者が悪意をもって営業秘密を侵害する行為を実施し、情状が深刻な場合、上述の方法で確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償額を確定することができる。」という相応する内容が追加され、すなわち、営業秘密に係る侵害行為に対して、懲罰的賠償を明らかに規定している。

そのほか、2021年3月3日、最高裁判所は『最高裁判所による知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈』(以下、『解釈』という)を公布して、知的財産権民事事件における懲罰的賠償の適用範囲、「故意」と「情状が深刻」の認定などについて具体的に規定している。

上述の法律と司法解釈は、一般法から特別法、さらに法律適用まで知的財産権侵害事件に関する懲罰的賠償の完全な制度を構築していると言える。

特に注目すべきことは、民法典は専利法、著作権法などの特別法の上位法としてすでに懲罰的賠償制度を明確に規定しており、民法典に基づいて懲罰的賠償を確定することは、すでに法的な障害はないということである。したがって、専利法及び著作権法の懲罰的賠償の導入は民法典より遅く、営業秘密に係る権利侵害以外の不正競争行為について、依然として『不正競争防止法』に懲罰的賠償が規定されていないとしても、民法典の施行後、民法典の関連規定に基づいて懲罰的賠償を判定することができる。

また、商標法の他にも、民法典などの法律は発効されて日が浅く、司法実務において、民法典などの法律の施行日以前に行われた権利侵害行為が多く存在している。理論的には、法改正前に発生した行為は、法律不遡及の一般原則に基づいて、懲罰的賠償を適用せず、賠償額は法施行日又は改正日を境にして計算すべきである。しかし、最高裁判所による『「中華人民共和国民法典」の時間的効力の適用に関する若干の規定』法釈〔2020〕15号(以下、「時間効力司法解釈」という)の第1条第3項に「民法典施行前の法律事実は民法典施行後まで継続し、当該法律事実により生じた民事紛争事件は、法律、司法解釈に別途規定がない限り民法典の規定が適用される」と規定している。第2条に「民法典施行前の法律事実により生じた民事紛争事件は、当時の法律、司法解釈に規定がある場合、当時の法律、司法解釈の規定を適用するが、民法典の規定を適用することが民事主体の合法的権利・利益の保護、社会と経済秩序の維持及び社会主義の中核的価値観の発揚により有利である場合を除く」と規定している。第3条に「民法典施行前の法律事実により生じた民事紛争事件は、当時の法律、司法解釈に規定がなく、民法典に規定がある場合、民法典の規定を適用できるが、当事者の合法的権利・利益を明らかに減損するか、当事者の法定義務を増加させるか、又は当事者の合理的な予想と乖離する場合を除く」と規定している。したがって、権利侵害行為が民法典施行後まで継続している場合、その施行前の侵害行為に対しても、懲罰的賠償に関する民法典の規定を適用できる。
 
さらに、知的財産権保護の強化は、中国において知的財産強国の建設にかかる長期的な政策の方向性であり、懲罰的賠償制度は2013年の商標法改正時に、知的財産権侵害分野にすでに導入されており、悪意のある特許権侵害行為に対しても同様に懲罰的賠償を適用すべきであり、権利侵害者はその悪意のある特許権侵害行為をしたことで、懲罰的賠償を受けることが予想されてしかるべきである。したがって、その民法典施行前の悪意のある権利侵害行為に懲罰的賠償が適用されることについて、権利侵害者の合理的な予想と乖離することなく、且つ民事主体の合法的な権利・利益の保護及び社会と経済秩序の維持により有利である。実際に、(2019)津03知民初1262号、(2020)沪民終555号など民法典施行前の悪意のある特許権侵害行為に対して、懲罰的賠償を判定した司法判例がすでに多くある。

一方、(2019)最高法知民終562号事件では、裁判所は、法律不遡及の一般原則に基づいて、賠償額は法律改正日を境にして計算しなければならないと認定した。しかも、本件では具体的に、まず、被疑侵害者が財務帳簿などの資料を提出しなかったことが立証妨害に該当し、認定された権利侵害により得た利益は、その自認した売上高に基づいて確定したものであり、その権利侵害により得た利益の一部にすぎない。次に、被疑侵害者は本件において、その法律改正前後の具体的な権利侵害により得た利益の状況を証明する証拠を提出していないため、法律改正日を境にして計算することはできない。さらに、二審証拠から、権利侵害者は一審判決後も権利侵害行為を停止しておらず、その行為は連続性を有し、その権利侵害の規模は大きく、持続時間は長いことが分かる。上記に鑑み、賠償額は客観的に分けて計算することは難しい。そのため、裁判所は最終的に確定した全体的な権利侵害により得た利益を基数として懲罰的賠償を確定した。それらのことから、分けて計算する必要があるか否かは、事件の具体的な状況を総合的に考慮しなければならないことが分かる。

II. 適用要件

法律の規定から見ると、懲罰的賠償の適用条件は、主観的な故意があること、及び客観的に権利侵害の情状が深刻であるという2つである。

1.故意

主観的な状態について、商標法と不正競争防止法に規定されているのは悪意であるが、民法典及び改正された専利法と著作権法に規定されているのは故意である。この点について、『解釈』では、「本解釈にいう故意は、商標法第63条第1項及び不正競争防止法第17条第3項に規定されている悪意を含む。」と明確に規定している。実際に、ここにおける悪意と故意は同じものとみなしている。

故意の認定について、『解釈』では、侵害された知的財産権の対象のタイプ、権利状態及び関連製品の知名度、被告と原告又は利害関係者との間の関係などの要素を総合的に考慮しなければならないと規定している。また、次の状況に該当する場合、故意を有すると初歩的に認定することができると具体的に提示している。

① 被告が原告又は利害関係者からの通知、警告を受けた後も、権利侵害行為を引き続き実施している場合。
② 被告又はその法定代表者、管理者が原告又は利害関係者の法定代表者、管理者、 実際の支配者である場合。
③ 被告が原告又は利害関係者との間に労働、労務、協力、許諾、販売、代理、代表などの関係を有し、且つ侵害された知的財産権に接触したことがある場合。
④ 被告が原告又は利害関係者との間に取引関係があるか又は契約の締結などのために交渉したことがあり、且つ侵害された知的財産権に接触したことがある場合。
⑤ 被告が海賊版、登録商標詐称行為を実施した場合。

司法判例によると、商標権侵害紛争事件において、保護を求める商標の知名度が比較的高く、被疑侵害標章が係争商標と同一か類似程度が高く、模倣する悪意が明らかな場合、故意を有すると認定される可能性が比較的高い。例えば係争商標が「小米」であった(2022)粤03民初723号事件、係争商標が「華為」であった(2021)浙01民初886号事件において、係争商標の極めて高い知名度はいずれも被疑侵害者が権利侵害の悪意を有していると認定される重要な要素となった。

特許権侵害紛争事件において、特許権自体に効力の相対的な不確実性及び権利侵害判断の専門性があるため、権利者に通知又は警告された後も権利侵害行為を継続して実施した場合、必ずしも権利侵害の悪意があるとみなされるわけではない。実際には、「警告された後も引き続き実施している」という理由だけで、権利侵害の悪意があると認定され、さらに懲罰的賠償を認定された事件はほとんどない。

一般的な状況において、裁判所が権利侵害判決又は知的財産権行政法執行機関が行政調停処理決定(行政法執行機関が権利侵害の成立を認定した行政決定をしたり、双方の侵害紛争について調停して調停書を作成したりすること)を下し、且つ権利侵害者が特許権侵害行為を継続して実施した場合、「故意による権利侵害」と認定される可能性が高い。

例えば、裁判所から以下のように認定された判例がある。(2022)粤民終876号事件では、被告は、先行事件で権利者の本件意匠権を侵害したと認定され、且つその経済的損失の賠償を命じられた。そして、先行事件の被疑侵害製品と本件被疑侵害品の意匠は基本的に一致していたため、被告は本事件では、本件意匠の創作を明らかに知っていると認定できるが、被疑侵害製品を製造、販売、販売の申し出を再びしたことは、同一意匠権を依然として侵害しているとして、被疑侵害行為を故意に実施したと認定すべきである。また、(2022)最高法知民終871号事件では、被告がかつて被疑侵害製品を販売していたことで提訴され、その後、双方は『和解契約』に合意し、被告が権利侵害行為の停止と経済的損失の賠償に同意したものの、先行訴訟事件を経た後、すでに関連特許権者を明らかに知っており、その販売した被疑侵害製品が係争特許権を侵害していることも明らかに知っているものの、先行事件で権利侵害行為の停止や賠償金の支払いに同意したとしても、被疑侵害製品を引き続き販売していたことで、権利侵害の故意を有すると認定された。

前述の2つの事件において、権利侵害者はいずれも同一の権利に対して再侵害を行い、且つ再侵害にかかる被疑侵害製品が先行事件の被疑侵害製品と同一か又は基本的に一致していることで、「故意」と認定されたことに鑑み、特許権侵害事件において、故意に対する認定は依然として慎重であることが明らかである。同一特許でなければ、他の特許権を侵害していても、通常侵害の繰り返しとはみなされず、侵害の故意を有するともみなされない。同一の特許権を侵害しているが、被疑侵害製品が完全に同一でないか、又は基本的に一致していない場合、すなわち、被疑侵害者が被疑侵害製品に対して一定の設計変更を行った場合、設計変更されたものが依然として侵害と認定された場合、理論的には繰り返しの特許権侵害行為と認定することができる。しかし、当事者が係争特許の保護範囲を回避しようとしていることを考慮すると、主観的な故意が明らかではない場合、設計変更の程度など具体的な状況を総合的に考慮して判定しなければならず、倍数も相応して軽減される。

2.情状が深刻

知的財産権侵害の情状が深刻であるという認定について、『解釈』では権利侵害の手段、回数、権利侵害行為の持続時間、地域範囲、規模、結果、権利侵害者の訴訟における行為などの要素を総合的に考慮すべきであると規定している。また、次のような状況に該当する場合、情状が深刻であると初歩的に認定できると具体的に提示している。

① 権利侵害により行政処罰を受けたか、又は裁判所から責任を負う旨の判決を言い渡された後、同一又は類似の権利侵害行為を再び実施した場合。
② 知的財産権利侵害を業としている場合。
③ 権利侵害に係る証拠を偽造、毀損又は隠蔽した場合。
④ 保全裁定の履行を拒否した場合。
⑤ 権利侵害により得た利益又は権利者の被った損害が大きい場合。
⑥ 権利侵害行為が国家安全、公共利益又は人の健康に危害を損なうおそれがある場合。

司法実務において、通常、権利侵害の規模、権利侵害のタイプ、権利侵害の利益などを考慮して情状が深刻であるか否かを認定するが、例えば前述したように権利侵害の繰り返しの情状がある場合、権利侵害の規模が極めて大きくなくても、情状が深刻であると認定される。例えば、前記(2022)最高法知民終871号事件では、被告は先行事件で和解の合意に達成してから2カ月以内に再び権利侵害行為を実施し、権利侵害の持続期間が短く、侵害により得た利益は限られており、且つ係争特許はすでに期限満了となっており、本件は一括権利保護事件(同一権利者が同一裁判所で同一又は類似の権利をもって、複数の侵害者に対して訴訟を提起すること)に該当するため、本件情状のみを考慮すると情状が深刻な程度に達していないものの、依然として侵害の繰り返しに該当すると認定されたため、先行事件の『和解契約』で約定された賠償額を計算基数として、懲罰的賠償責任が確定された。

また、訴訟手続において、裁定の履行の拒否、立証妨害などの情状があるか否かということも情状が深刻の認定に影響を与える。

III.  計算方法      
                         
1.基数の確定

『解釈』第5条に、「裁判所は懲罰的賠償額を確定するにあたって、それぞれ関連法律に基づき、原告の実際の損害額、被告の違法所得額又は権利侵害により得た利益を算定基数としなければならない。当該基数には、原告が侵害を阻止するために支払った合理的な支出を含まない。法律に別途規定がある場合は、その規定に従う。

前項にいう実際の損害額、違法所得額、権利侵害により得た利益のいずれも算定が困難である場合、裁判所は法に従い、当該権利の許諾実施料の倍数を参照して合理的に確定し、且つそれを懲罰的賠償額の算定基数とする。

裁判所は法に基づき、被告に対してその把握している権利侵害行為に関わる帳簿、資料の提出を命じ、被告が正当な理由なく提出を拒否するか、又は虚偽の帳簿、資料を提出した場合、裁判所は原告の主張及び証拠を参考にして懲罰的賠償額の算定基数を確定できる。民事訴訟法第111条に規定する事由に該当する場合、法に基づき法的責任を追及する。」と規定されている。

上記規定によると、基数の計算方法は、補填賠償の計算方法と一致しており、すなわち、権利者が権利侵害によって被った実際の損失、権利侵害者が権利侵害により得た利益及び権利の許諾実施料の倍数を含むことが明らかになった。しかし、この基数には原告が侵害を阻止するために支払った合理的な支出は含まれず、斟酌して決定した法定賠償でもない。例えば、(2022)粤民終876号事件では、二審裁判所は、判決書に法定賠償額は懲罰的賠償額を確定する計算基数にしてはならないことを明記し、一審裁判所が当該事件の証拠を総合的に考慮して被告の賠償額を斟酌して決定し、しかも、これを懲罰的賠償の基数として認定したのに対して、法適用に誤りがあると判断して、是正した。そのため、前記権利侵害の故意と情状が深刻という適用要件を満たしても、基数が確定できなければ、懲罰的賠償を適用することはできない。

しかし、司法実務において、権利侵害により得た利益や権利者の損失は証明することが難しいため、ほとんどの事件は法定賠償をもって賠償金額を斟酌して決定している。法定賠償は懲罰的賠償の基数にすることができないので、懲罰的賠償に関する規定は、実用性がなく、名ばかりの存在なのであろうか。

これに対して、弊所は、侵害により得た利益に関する証拠の初歩的な立証責任を果たして、証拠開示制度を活用することを提案する。

『最高裁判所による知的財産権に係る民事訴訟の証拠に関する若干の規定』第24条と第25条には証拠開示制度を規定している。また、『専利法』、『商標法』などの知的財産権専門法にも明確な規定があり、権利者が立証に尽力しても、権利侵害行為に関連する帳簿、資料が主に権利侵害者により掌握されている場合、裁判所は権利侵害者に対して権利侵害行為に関連する帳簿、資料の提出を命じることができる。権利侵害者が提出しないか、又は虚偽の帳簿や資料を提出した場合、裁判所は、権利者の主張及び提出した証拠を参考にして賠償額を決定できる。

したがって、権利侵害により得た利益の適切な金額について、権利者は立証することは難しいものの、権利侵害により得た利益に対して力を尽くして立証する機会があり、且つ初歩的な立証を完了し、権利侵害により得た利益を計算した後、裁判所に権利侵害行為に関する帳簿資料の提出を命じるよう申請する。もし被疑侵害者が帳簿資料を提出しない場合、権利者の主張と証拠を参考にして賠償を決定できる。

弊所が代理した多くの知的財産権侵害事件において、権利侵害により得た利益を尽力して立証したり、証拠開示命令を申請したりすることで、最終的に高額の賠償額が認められた事例も多くある。例えば、主にECプラットフォームで販売されている権利侵害品について、ECプラットフォームで示されている販売量、価格及び消費者評価に示されている販売期間などによって、権利侵害製品の総売上高を計算して、業界の平均利益率などで権利侵害により得た利益を推計したことがある。また、主にオフラインで販売されている権利侵害品について、被疑侵害者の全体的な利益状況と製品の種類に基づいて、製品ごとの平均年間利益を算出して、権利侵害期間と結び付けて、権利侵害により得た利益を推計したこともある。被疑侵害者が帳簿資料の提出を拒否し、相応する反証も提出できない場合、裁判所は通常、権利者の主張と証拠の信頼度、合理性などを一つ一つ考察し、販売量、価格、利益率などを認定することで、権利侵害により得た利益を算出したこともある。当該金額は懲罰的賠償の基数とすることができ、且つ被疑侵害者が帳簿資料の提出を拒否する行為は、前述の情状が深刻の考慮要素に該当する。

例えば、前述の(2022)粤民終876号事件では、二審裁判所は、一審裁判所が斟酌して決定した賠償額を基数として懲罰的賠償を確定することを否定したものの、当該事件は懲罰的賠償を適用できると認定した。二審において、裁判所は権利者が主張した権利侵害により得た利益の計算方法を審査し、且つ賠償事実を明らかにするため、被疑侵害者に関連財務帳簿を提出するよう命じて、十分な立証期間を与えた。被疑侵害者は正当な理由なく関連証拠の提出を拒否する状況において、権利者の主張と証拠を参照して被疑侵害製品の月生産高、賠償計算の期間、製品の単価、利益率及び特許の寄与度などを審査、確定したことで、且つ被疑侵害者の権利侵害により得た利益を審査、認定し、懲罰的賠償額を確定するための計算基数とした。

つまり、懲罰的賠償の基数は、補填賠償の計算方法と立証方法とは同一であり、懲罰的賠償を適用できる事件において、権利侵害により得た利益を含む賠償額の計算と立証により留意しなければならない。

また、計算基数が確かに確定できなければ、裁判所は懲罰的賠償を適用できず、法定賠償の方式を採用するしかないが、侵害の故意と情状の深刻さも、賠償額を斟酌して確定するときの重要な考慮要素になる。例えば、(2021)粤73民終6209号事件では、裁判所は「懲罰的賠償は数量計算の賠償方法に該当し、計算基数がなければ、法により適用できない。前記基数を確定できない場合、懲罰的賠償を適用できず、法定賠償を適用しなければならない。法定賠償は、権利侵害の情状に基づき、斟酌して賠償額を確定する自由裁量という方法に該当し、法定賠償を適用するとき、事件の具体的な状況に基づいて、懲罰的な情状を、高い賠償額を判決されるための考慮要素とすべきである」と指摘し、これを理由に権利者の500万元の賠償請求主張を全額支持した。したがって、権利侵害の故意と権利侵害の情状が深刻な主張と立証は、最終的に懲罰的賠償が適用されなくても、賠償額が高くなるように斟酌して決定されるために、重要な役割を果たす。

2.倍数の確定

法律規定によると、懲罰的賠償は基数の1倍以上5倍以下である。具体的な倍数は請求人より主張し、裁判所は事件の具体的な状況、すなわち「故意」と「情状が深刻」の程度に基づいて確定する。

司法実務において、裁判所は故意と情状の深刻さを総合的に考慮し、2倍の懲罰的賠償を適用する事件が比較的に多い。もちろん、権利侵害の悪意は十分に明らかであり、権利侵害の情状が極めて深刻な場合、裁判所はさらに高い4倍、ひいては最高の5倍の懲罰的賠償を適用することもある。

例えば、(2019)最高法知民終562号事件では、二審裁判所は、被疑侵害者は成立されて以来、権利侵害製品の製造を主要業務とし、且つその前法定代表者が営業秘密侵害行為を実施したことで刑事責任が追及されており、関連する製造技術、プロセス及び設備に権利者のノウハウ侵害の疑いがあるものの、被疑侵害者は製造を停止しておらず、販売範囲は20余りの国と地域に及ぶとともに、当該事件の一審段階で正当な理由なく関連会計帳簿と証拠の提出を拒否し、立証妨害に該当していたため、その権利侵害の主観的な故意と権利侵害の情状の深刻さが明らかであったため、最終的に権利侵害により得た利益の5倍で本件損害賠償額を確定した。

ここに説明しなければならないのは、懲罰的賠償の1~5倍の倍数について、補填賠償をそのうちの1倍とするのではなく、つまり懲罰的賠償が補填賠償の上に、別途計算される。この点について、2021年4月、最高裁判所が「人民司法」に発表した記事「『知的財産権侵害民事事件の審理における懲罰的賠償の適用に関する解釈』の理解と適用」の第6項「基数の確定について」の第3段落に「指摘しなければならないのは、補填賠償の金額、すなわち基数と懲罰的賠償額はそれぞれ単独で計算しなければならないということである。つまり、懲罰的賠償の倍数が1倍であると確定した場合、被疑侵害者が負担する賠償の総額は、補填賠償に懲罰的賠償額を加えることで、基数の2倍となる」と明記されている。したがって、裁判所が5倍の懲罰的賠償を確定した場合、被疑侵害者が負担する賠償責任は、補填賠償+5倍の懲罰的賠償で、すなわち総額は補填賠償の6倍になる。前記(2019)最高法知民終562号事件では、裁判所は権利侵害により得た利益の5倍で賠償額を確定したが、実際に認定された懲罰的賠償の倍数は4倍であった。

おわりに 

ここ数年、立法面においても、司法実務においても、「立証が難しい」と「賠償が低い」という問題の解決に力を入れており、権利者の立証責任を軽減し、権利侵害者に対する懲罰を強化し、懲罰的賠償を適用する事件が増加の一途である。懲罰的賠償を防ぐという観点からみれば、企業は知的財産権リスクの事前調査をしっかりと行い、裁判所や行政機関に権利侵害の疑いがあるとすでに指摘された場合、速やかに是正したり、設計変更を行ったりしなければならない。権利者の観点からみれば、より高い賠償額及び強力な保護を図るため、権利侵害の故意、情状の深刻さ及び被疑侵害者が権利侵害により得た利益を最大限立証しなければならない。