中国弁護士  于 篠欧
北京魏啓学法律事務所
 
電子商取引(以下、「EC」という)の革新と発展に伴い、中国市場への進出を図ろうとしているものの、伝統的な国際貿易モデルによるコスト、通関審査手続きなどの制約を受けている多くの海外企業は、保税区の越境EC輸入モデルを通じて中国の消費者向けに続々と製品を販売している。それにより、商業上の利益を多く得ているが、商標権侵害のリスクを含む一連の法的リスクも生じている。

保税区における越境EC輸入は、「ネットショッピング保税輸入」、「1210越境EC小売輸入」などとも呼ばれ、税関総署公告2014年第57号『税関監督管理方式コードの追加に関する公告』において追加された税関監督管理方式コード第1210号「保税越境貿易電子商取引」における輸入部分のことであり、すなわち、EC企業が税関に認可されたECプラットフォームで越境取引を実現し、税関の特殊監督管理区域または保税監督管理場所に出入りするECを通じて輸入商品を小売りするものである。このモデルでは、海外貨物は保税区に一括して保管され、必要に応じて小包として通関して中国国内の消費者に郵送できる。返品された場合、貨物は保税区に戻され、整理して再包装して再販売できる。中国の倉庫保管費、人件費が比較的安価であるため、企業は大きなコストを節約し、通関の負担を低減でき、消費者が海外商品を購入する際に注文から実際に商品を受け取るまでにかかる時間も大幅に短縮できる。

保税区の越境EC輸入に大きなメリットがあることに鑑み、多くの企業は取りあえず越境ECモデルに乗り出しているものの、法的リスクに対する注意を怠っている。商標権を例にすると多くの越境EC企業の商品に付いている商標は、その輸出国ですでに商標登録されているが、中国では、同一または類似する商標が他人によってすでに登録されていることがある。越境EC企業が輸入する前に商標調査と検索を十分に行わなければ、商標権侵害の法的リスクが生じる可能性がある。

   商標権の属地主義の原則は、商標法における重要な原則である。ある国または地域で取得した商標権はその国または地域においてのみ有効であり、商標権の取得、維持、消滅の効果が生じるが、その他の国や地域に延ばすことはできない。そのため、越境EC企業が海外で取得した商標権はもちろん中国に及ぶことはない。越境EC輸入に関する中国国内の司法判例においても、商標の属地主義の原則を尊重し、強調する傾向が示されており、これは保税区の越境EC輸入モデルにおける法的リスクの予測に重要な参考的意義を有する。

例えば、「Freshjive」事件((2013)深福法知民初字第1257号)において、裁判所は商標権に属地性があると指摘し、被告が原告の許諾を得ずにその開設した越境ECサイトを通じて商標「Freshjive」が付された米国のアパレル製品を中国に販売している行為は、中国国内の権利者の登録商標権「Freshjive」を侵害する行為に該当すると判定した。

また、「UGG」事件(((2016)浙0110民初16168号)において、杭州市余杭区裁判所は「知的財産権は属地性を有しており、係争製品はオーストラリアでは合法的な製品に該当するかもしれないが、オーストラリアから中国に輸入されたものなので、中国の法律を遵守しなければならず、中国の商標権者の権利を侵害してはならない。」と指摘した。

「orangeflower」事件((2016)粤73民終61号)において、広州知的財産裁判所は、「商標権の属地性に基づいて、恒利公司は、登録商標の専用権及び他人の許諾なしの使用に対する禁止権を享有しており、当該権利は法によって保護されなければならず、恒利会社の許諾を得なければ、いかなる機関または個人も使用してはならない。さもなければ、恒利会社の商標専用権に対する侵害に該当する。」と認定した。さらに、被告ACCOMMATE CO.LTD及びその関連会社は、サーバーを介して韓国に設置された韓流アパレルECサイトを通じて、第三者である韓国企業が製造した商標「orangeflower」が付されたアパレルを中国国内に販売することは、中国登録商標「orangeflower」に対する権利侵害行為に該当すると認定した。

上記の判例から分かるように、越境EC輸入に関する司法判例において、裁判所は商標権の属地性を一貫して尊重する伝統を有している。一方、「保税区+越境EC輸入」モデル下において、保税区の商品は中国『商標法』及び関連法律の適用範囲に属しているのだろうか。

保税区の越境EC輸入モデルの「保税区」とは、越境貿易EC輸入モデルケースの展開が許可された税関の特殊監督管理区域と保税物流センターのことを言い、「境内関外(国境内にあるが関税は外国扱い)」という特徴を有している。税収、通関手続きなどにおいて越境EC企業などに多くの便宜と減免政策を提供しているが、依然として中国国内にあるため、すべての税関の監督管理及び中国国内の法律適用の排除を意味するものではない。

中国『商標法』第48条によると、商品、商品包装又は容器及び商品取引文書、又は宣伝広告、展覧及びその他の商業活動において商標を使用し、商品の出所を識別する行為はすべて商標の使用に該当する。中国国内において、同一または類似する登録商標がすでに先にある場合、越境EC企業が同一または類似する製品、製品包装などにその商標を用いて保税区の越境EC輸入活動を行う場合、中国『商標法』第57条に基づいて商標権侵害行為に該当すると判断される可能性が高い。

しかし、関連判例を整理すれば分かるように、海外に設立された越境EC企業の関連行為に対して訴訟を提起して、最終的に勝訴した商標権侵害紛争事件は稀である。中国の登録商標権者がECプラットフォーム経営者、代理購入業者、越境EC企業と協力している中国国内のEC店舗を訴えて勝訴した判例はある。

以下の理由に基づいて、海外にある越境EC企業のこのような行為が権利侵害行為に該当する可能性は依然としてある。

まず、保税区の越境EC輸入モデル下において、越境EC企業、ECプラットフォーム経営者、または越境EC企業の国内サービスプロバイダは、いずれもビジネスモデル全体の一環であり、当該ビジネスモデルにおける商標権侵害の判定について、一致性を維持しなければならず、同一の状況においてECプラットフォーム経営者と国内サービスプロバイダが商標権侵害に該当するものの、越境EC企業が商標権侵害に該当しない状況はあってはならない。一部の海外越境EC企業が当該ビジネスモデルにおいて、海外での商品生産及び引き渡しのみを実施している可能性があるとしても、商品は保税区の越境EC輸入モデルを通じて中国国内に進出する場合、商品の販売行為が中国に広がっているとみなされる可能性がある。

次に、海外越境EC企業が起訴されて敗訴した関連判例が少ない理由は、海外越境EC企業に対する証拠収集などが困難である。通常、海外越境EC企業は海外に位置しているため、調査・証拠収集、文書送達、事件の執行、企業の監督管理には比較的高いハードルがある。調査・証拠収集について、一部の関連証拠が国外で形成されており、それ自体が証拠収集を実施する主体の言語能力、合法的な権益の保護コストなどの面で高い条件が設けられている。そのため、このような状況が現れたのは、実践においてある程度の権利行使の難しさがあるだけだからであり、海外の越境EC企業が法的には、必ずしも商標権侵害行為に該当しないことを意味するものではない。また、海外の越境EC企業の国内協力者、協力プラットフォームなどが起訴され、責任を負った場合、双方が締結している契約に基づいて海外の越境EC企業を訴追する可能性もある。

以上のことをまとめ、保税区の越境EC輸入モデルにおいて、例えば国内の同一、類似商品にすでに同一または類似する登録商標が存在している場合、当該輸入商品に付されている商標が国外で合法的に取得された登録商標であっても、保税区の越境EC輸入の方式を通じて中国市場に進出する際に、中国の登録商標に対する権利侵害行為に該当する可能性がある。ECプラットフォームの経営者、国内サービスプロバイダ、海外の越境EC企業などのいずれも、保税区の越境EC輸入活動に従事する際に、可能性のある商標権侵害の法的リスクに慎重に対応し、必要に応じて関連商標の検索を行われなければならない。