中国弁護士  邢博
北京魏啓学法律事務所
 
多くの外国の権利者は、ドメイン名紛争について、そのスピードの速さ、コストの低さから、WIPO仲裁調停センターに仲裁を申し立てることを希望する。被申立人が中国企業または中国公民であり、WIPO仲裁調停センターによる係争ドメイン名の移転という裁定を不服とする場合、管轄権を有する中国裁判所に訴訟を提起できる。

弊所は、このようなインターネットドメイン名の権利帰属、権利侵害訴訟事件を多数代理し、その大部分は勝訴を勝ち取っている。例えば、最近代理したイタリアのある有名ブランドに係る当該種類の訴訟事件では、弊所の主張は裁判所から全面的に支持され、最終的に係争ドメイン名はイタリアのブランド側に帰属すべきであるという判決が言い渡された。

法律規定及び弊所の経験に基づいて、WIPOのドメイン名裁定を不服として中国裁判所に訴訟が提起された事件に対する外国企業の対応について、以下の通り簡単に紹介する。
 
 WIPO仲裁調停センターによる裁定は最終的なものではない。

「統一ドメイン名紛争処理方針」第4条(k)には、「裁判手続の利用可能性。第4条が定める強制紛争処理手続は、登録者または申立人が、この紛争処理手続の開始前または終結後に、個別の解決を求めて管轄裁判所に出訴することを妨げるものではない。紛争処理パネルが、登録者のドメイン名登録の取消、または移転の裁定を下した場合には、当レジストラはその裁定結果の実施を、紛争処理機関からの通知後10日間(当レジストラの主たる事業所の営業日で計算)の間、保留する。この10日間の内に、当レジストラが登録者から、手続規則第3条(b)項(xiii)に基づいて申立人が合意している管轄裁判所に訴訟を提起したという公式文書(裁判所の受領印のある訴状の写し等)を受け取らなければ、当レジストラはその裁定を実施する。」と規定されている。

上記の規定によると、WIPO仲裁調停センターによる裁定は最終的なものではなく、ドメイン名の保有者が中国企業または中国公民である場合、当該裁定を不服として、管轄権を有する中国裁判所に民事訴訟を提起することができる。実務において、民事訴訟では通常、申立人とドメイン名のレジストラが共同被告とされる。ドメイン名のレジストラの所在地のインターネットドメイン名の所有権をめぐる紛争を管轄する、例えばインターネット裁判所などの裁判所は、この種の事件を受理することができる。
 
 訴訟は中国の民事訴訟手続に従って審理される。

国家知識産権局の行政裁決を不服として国家知識産権局を被告として北京知的財産裁判所に提起した行政訴訟とは異なり、被申立人がWIPOのドメイン名裁定を不服として中国裁判所に訴訟を提起した場合の被告は通常WIPO仲裁調停センターではなく、ドメイン名のレジストラと申立人とであり、事件の審理には中国の民事訴訟手続が適用される。
 
 外国企業の応訴対策

1.積極的に応訴する。

中国裁判所に事件が受理されたことが分かったら、外国企業には積極的に中国弁護士に応訴対応を依頼することをお勧めする。外国企業が応訴しない場合、中国裁判所は、被申立人の意見を聴取した上で、中国の法律に基づいて欠席判決を下すことができる。中国の法律は、WIPOが適用する「統一ドメイン名紛争処理方針」とは異なっているため、外国企業が証拠を提出せず、かつ意見陳述をしなかった場合、中国裁判所は外国企業に対して不利な判決を下す可能性がある。

2WIPOのドメイン名裁定段階で提出された証拠に基づいて、中国の法律に従って証拠を補足する。

「最高裁判所によるコンピューターネットワークドメイン名に関わる民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題についての解釈」第4条には、「裁判所はドメイン名紛争事件を審理する場合、以下の各号の条件に合致するものについては、被告がドメイン名を登録、使用するなどの行為は権利侵害または不正競争に当たると認定しなければならない。

(1)原告が保護を求める民事上の権益が合法的かつ有効である場合。
(2)被告のドメイン名もしくはその主要部分が原告の馳名商標の複製、模倣、翻訳もしくは音訳に該当する場合、または原告の登録商標、ドメイン名などと同一もしくは類似し、関係公衆の誤認をもたらしやすいこと。
(3)被告が当該ドメイン名またはその主要部分について権益を有せず、当該ドメイン名を登録、使用する正当な理由がない場合。
(4)被告が当該ドメイン名の登録、使用について悪意を有する場合。」と規定されている。

上記の法律規定及び中国の訴訟審理の実務によれば、外国企業は、中国の訴訟において、その商標が中国では合法的、有効的で、かつ一定の知名度を有することを証明することが必要であるが、このような証拠は、WIPOのドメイン名仲裁段階で提出されていなかった可能性がある。したがって、中国の訴訟段階において、以下の関連証拠を補充提出することをお勧めする。

1)中国における先行民事権益を有することを証明する証拠

商標の地域性に鑑み、外国企業がその所在国の登録商標証明書をWIPO仲裁調停センターに提出したとしても、中国の訴訟手続において、外国企業は、中国におけるその民事上の権益が合法的かつ有効的であることを証明する証拠を提出すべきであり、当該証拠は通常、中国商標登録証明書、または中国国家知識産権局によって発行されたマドリッド国際商標登録証明書であり、商標の登録日は、係争ドメイン名の登録日よりも早いものでなければならない。

2)中国において知名度のある証拠

WIPOのドメイン名裁定の審理段階において、外国企業は通常、その商標権が全世界または国外(通常は外国企業の所在国)において知名度がある証拠を提出する。中国の訴訟段階において、外国企業は、係争ドメイン名が登録される前に、その商標権が中国において一定の知名度を有することを証明できる証拠を中国裁判所に補充提出する必要がある。例えば、中国国家図書館より発行された外国企業の商標をキーワードとして検索された中国新聞の報道、外国企業の商標をキーワードとして検索された中国語ウェブページ、外国企業と中国の販売代理店との間で締結された販売契約、外国企業と中国の広告代理店との間で締結された広告契約、広告費の領収書、外国企業の商標を表示する広告などが挙げられる。

3)ドメイン名の所有者に悪意がある証拠

「最高裁判所によるコンピューターネットワークドメイン名に関わる民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題についての解釈」第5条には、「被告の行為が次のいずれかの情状に該当することが証明された場合、裁判所は被告に悪意があると認定しなければならない。
  • ビジネス目的のために、他人の馳名商標登録をドメイン名に登録した場合。
  • ビジネス目的のために、原告の登録商標、ドメイン名などと同一または類似のドメイン名を登録、使用し、故意に原告が提供する製品、サービスまたは原告のウエブサイトとの混同を生じさせ、ネットワークユーザーを誘導してそのウエブサイトまたはその他のオンラインのサイトを訪問するように仕向ける場合。
  • 高値で売却、貸出すか、またはその他の方法で当該ドメイン名を譲渡することで、不当な利益を取得した場合。
  • ドメイン名を登録した後、自分で使用せず、または使用の準備もせず、権利者が当該ドメイン名を登録することを意図的に阻止する場合。
  • その他の悪意の情状を備える場合。」と規定されている。
実務において、被申立人が電子メールによって、係争ドメイン名を高額で売却する意向があることを外国企業に連絡した場合、外国企業は、被申立人が悪意を有することを証明する証拠として、被申立人との間の電子メールを保存することに留意する必要がある。被申立人が中国における訴訟で当該電子メールの真実性を否定する可能性があるため、証明力を高めるため、外国企業はこれらの送受信電子メールをその所在国で公証した上で、その国の中国大使館で認証を取得することお勧めする。
 
留意点:中国裁判所は証拠形式に対する要求が比較的に高く、例えば、証拠書類に対して通常、真実性を検証できる原本による提出が要求される。したがって、証拠を整理して補充提出する場合、原本または公証文書、図書館検索報告書などの証明力の高い証拠をできるだけ準備す​​ることが必要である。国外で形成された証拠については、関連規定に基づいて公証または公証認証手続きを経る必要がある。
 
おわりに

中国企業または中国公民がWIPOのドメイン名裁定を不服として中国裁判所に訴訟を提起した場合、外国企業は中国弁護士を依頼して、積極的に応訴すべきであり、最終的に勝訴するために、中国において先行商標権を有し、当該商標が中国において知名度を有することを証明する証拠などを整理して補充提出すべきである。