北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 陳 傑
 
2019年4月23日、「『中華人民共和国不正競争防止法』の改正に関する決定」は、第13期全国代表大会常務委員会第10回会議にて通過され、4月23日より改正後の条項が施行されることになった。今回の改正前には意見募集がなかった。改正前の「中華人民共和国不正競争防止法」(以下、「不正競争防止法」と略称する)は、2017年11月4日付で開催された第12期全国人民代表大会常務委員会第30回会議にて改正され、2018年1月1日より施行されているが、改正後わずか1年で再改正を行なうことは、中国の立法実務上、滅多にないことである。また、今回の改正内容は主に営業秘密に集中され、更に同時改正された「商標法」及び1ヶ月前に改正された「技術輸出入管理条例」、「中外合資経営企業法実施条例」に合わせてみれば、今回の法改正は中米貿易紛争の背景下で、中国政府が多くの非難を受けた知的財産権保護問題の解決を図ろうとした政策ではないかと理解されている。

中米貿易紛争において、米国は中国の知的財産権関連の法律制度及び保護現状について、多くの意見を提出したが、そのうち、繰り返して強調されているのは、営業秘密侵害に係る内容である。このような状況は、企業の知的財産権保護における営業秘密の重要性を反映するだけでなく、国内企業が営業秘密に係る法律制度、保護及び救済手段に対して未だ詳しくないことも反映されている。

本稿においては、今回の「不正競争防止法」改正の内容を通じて、読者に中国の営業秘密の構成要件、侵害認定及び救済手段などの法制度を紹介すると同時に、当所が取り扱った営業秘密案件の実務経験に結び付けた上、企業の営業秘密保護のためにアドバイスをさせていただく。文字数の制限や守秘義務に鑑み、細かいところまでの展開が難しいため、もっと詳しい情報が必要な場合、当所に直接にお問い合わせください。

1、今回の法改正について

1)主な改正内容

今回の改正は四つの条項に及んでおり、3つのポイントにまとめられる。

1)第9条 営業秘密の定義、侵害主体の範囲及び侵害手段と侵害行為について、現在の情勢に応じて新たに追加し、明確化した。

第9条において、営業秘密の定義を「技術情報及び事業情報」から「技術情報及び事業情報などのビジネス情報」に改正し、受け皿規定を追加した。

また、第9条に1項を追加し、事業者以外の他の自然人、法人又は非法人組織を営業秘密の侵害主体の範囲に入れた。

更に侵害手段と侵害行為について、第9条第1項(1)号に「電子的手段による侵入」を権利者の営業秘密を獲得するための不正手段の1つとして追加し、(3)号の「取り決めの違反」を「秘密保持義務の違反」に明確化し、かつ「他人を教唆、誘導、幇助して秘密保持義務に違反させたり、又は権利者の秘密保持関連の要求に違反させたりすることにより、権利者の営業秘密を獲得、開示、使用し、又は他人に使用を許諾すること」の内容を第9条第1項(4)号として追加した。

2)第17条と第21条 営業秘密侵害行為に対する懲罰を強化した。

第17条において、悪意のある侵害行為に対する懲罰的損害賠償の規定を追加し、かつ法定賠償の上限を引き上げたが、「悪意で営業秘密侵害行為を実施し、情状が深刻である場合、権利者が権利侵害により受けた実際の損失、又は侵害者が権利侵害により獲得した利益の1倍以上5倍以下の賠償額を確定するものとする」内容を追加したと同時に、法院が判決を言い渡す際の最高賠償額を300万元から500万元に引き上げたた。

また、第21条において、違法所得の没収処罰を追加し、罰金の上限を50万元、300万元からそれぞれ100万元、500万元に引きあげることにより、行政処罰力を強化した。

3)第32条 営業秘密民事訴訟案件における立証責任の分担を明確化し、司法実務における「接触+類似」の立証方法を明文化した。

今回の法改正で新たに追加した第32条の営業秘密侵害に係る民事裁判手続において、営業秘密の権利者が初歩的証拠を提出することにより、主張する営業秘密に対して、すでに秘密保持措置を講じたことを証明し、かつ営業秘密が侵害されたことについて、合理的に表明した場合、被疑侵害者は権利者の主張する営業秘密が本法に規定する営業秘密に該当しないことを証明しなければならないと明確に規定している。

営業秘密の権利者が初歩的証拠を提出することにより、合理的に営業秘密が侵害されたことを表明し、かつ次に掲げるいずれかの証拠を提供した場合、被疑侵害者は自己に営業秘密侵害行為が存在しないことを証明しなければならない。

①被疑侵害者が営業秘密を獲得するためのルート又は機会を有し、かつ被疑侵害者の使用した情報と当該営業秘密が実質的に同一であることを表明できる証拠、
②営業秘密がすでに被疑侵害者により開示、使用され、又は開示、使用されるリスクがあることを表明できる証拠、
③営業秘密が被疑侵害者に侵害されたことを表明できるその他の証拠。

2、改正の影響と意義

今回の改正は重大な意義を有すると言えるものの、実務上の操作に与える影響はさほど大きくないとも言える。その理由は改正内容の多くが司法実務の中ですでに明確にされたやり方を明文化したにすぎないからである。

1)第9条の改正について

営業秘密の定義形式に「などのビジネス情報」という基本的表現を追加したことは、技術情報、又は事業情報として分類されかねるその他のビジネス情報が営業秘密の構成要件を満たす状況下で、営業秘密として保護を受けられることを図るためである。司法実務において、通常、技術性が比較的高い情報は、技術情報として分類され、それ以外は事業情報として分類されることが多いため、分類しかねるものはさほど多くない。また、営業秘密を2種類に分けることはそれなりの現実的な意義があり、当該2種類の情報に対する管轄機関も異なっている。技術秘密に係る侵害紛争案件の一審については、知的財産法院又は知的財産法廷が管轄し、二審については最高人民法院が統一的に管轄している。なお、技術情報以外の事業情報に係る侵害紛争案件は、馳名商標の認定に係らない商標権侵害・その他不正競争案件と同様に、一般的知財案件に該当し、その一審は一般的に知財案件管轄権を有する基層法院又は中級法院が行い、二審は相応する上級法院が行なうため、通常、最高人民法院までに届かない。

第9条では事業者以外のその他の自然人、法人と非法人組織を営業秘密侵害の責任主体の範囲に入れているが、これは主に事業者以外、例えば企業の従業員、元従業員などの自然人による侵害情状に対応するためである。実務上、営業秘密侵害案件における営業秘密漏洩の主なルートは従業員であり、従業員、元従業員による営業秘密侵害紛争案件の件数は、営業秘密関連案件総件数の90%以上を占めている。改正前の「不正競争防止法」では、営業秘密の侵害主体を「事業者」に限定していたものの、司法実務においては、従業員などの自然人に対しても、「不正競争防止法」に照らしてその責任を追究できるとすでに合意を得ており、ほとんど争議にならない。

侵害手段と侵害行為について、「電子的手段による侵入」を追加したことは、当然に社会の電子情報化が高速に発展しつつある現状と合致するものの、改正後の第9条第1項(1)号に「又はその他の不正手段」という受け皿規定があるため、たとえ改正前の法律の場合においても、「電子的手段による侵入」という不正手段から営業秘密を獲得する行為に対して、同様に当該条項に照らしてその責任を追究することができる。また、新たに追加した第9条第4項に「他人を教唆、誘導、幇助して秘密保持義務に違反させたり、又は権利者の秘密保持関連の要求に違反させたりすることにより、権利者の営業秘密を獲得、開示、使用し、又は他人に使用を許諾すること」は、間接侵害の行為者を規制するのに有利であるものの、たとえ法改正の前の場合においても、上述のような侵害行為に対して、「中華人民共和国権利侵害責任法」第9条の「他人を教唆、幇助して権利侵害行為を実施させた場合は、行為者と共に連帯責任を負わなければならない」という規定に照らして、責任を追究することもできる。

また、第1項(3)号において、「取り決めの違反」を「秘密保持義務の違反」と明確化し、更に法定の秘密保持義務に違反した情状を含めている。改正前の法律条項の表現は、取り決め及び権利者の要求にその重点を置いていたが、実務においては明確な取り決めがなくても、法定の秘密保持義務に該当すれば、往々にして黙示された秘密保持取り決めと秘密保持の要求が主張されることになる。しかし、当該内容に対する改正が法律の条項を一層厳密にさせたことは間違いない。

2)第17条と第21条の改正について

処罰及び賠償の強化は、ここ数年間の法改正における主な傾向となり、経済の発展と緊密につながっている。

不正競争行為による賠償について、法律に定められた計算方法は、特許、商標などの権利侵害案件における計算方法と一致する。今回の改正で第17条に悪意のある権利侵害に対して、懲罰的損害賠償の規定を追加し、かつ法定賠償額の上限を引き上げたことは、同日に公布された「商標法」の関連改正内容と完全に一致する。したがって、今後、「特許法」改正においても同様な改正が行なわれると思われる。

悪意のある権利侵害に対する懲罰的損害賠償について、今回の改正では関連条項を追加しただけでなく、懲罰的損害賠償倍数の上限を5倍に引き上げた。これは世界各国の法律制度においても珍しいことであり、中国の知的財産保護を強化しようとする決意を示している。司法実務からみれば、最初に懲罰的損害賠償を導入した法律は、2013年に改正された「商標法」であったが、2014年5月1日より施行以来、懲罰的損害賠償を適用した判例は極めて少ない。その主な原因は、処罰の基数となる権利者の損失、及び侵害者の利益を正確に計算しかねたため、基数がない状況下で当然に倍数をかけることも難しかったからである。そのため、多くの案件には、悪意は、法定賠償額を確定するための一つの考慮要素となり、悪意のある行為は、比較的に高い賠償額を判決された。

今回の改正では法定賠償の上限を高めたため、権利者にとって、より高い法定賠償額を獲得できる機会があることを意味する。しかし、あらゆる案件の賠償額が高められるとは限らず、裁判所は依然として案件の具体的な情状に基づいて判断していることに鑑み、権利者は具体的な案件において、最大限の保護を求めるために、積極的に立証しなければならない。

3)第32条の改正について

今回、新たに追加された第32条は、主に民事訴訟における立証関連の条項である。法律レベルで民事訴訟における立証方法について詳しく規定することは、中国の立法実務上、滅多にないことである。

本条第1項からみれば、営業秘密に該当するか否かについて、権利者より初歩的証拠を提供して、すでに秘密保持措置を講じたことを証明し、かつ営業秘密が侵害されたことを合理的に表明した場合、被疑侵害者より権利者の主張する営業秘密が法律に規定する営業秘密に該当しないことを証明しなければならない。営業秘密の三大構成要件は、非公知性、商業的価値と秘密保持措置である。そのうち、商業的価値については言うまでもないが、非公知性は消極的事実に該当するため、司法実務において、権利者が営業秘密を主張する際に、すでに秘密保持措置を講じたことに対する立証は、その重点となる。被疑侵害者は非公知性に対しても、反証を行なうことができる。したがって、第1項は営業秘密の構成要件及び証拠の特徴に対して確定した規定でもある。

本条第2項は侵害行為の立証に関する規定である。そのうち、(1)号は「接触+類似」という司法実務における営業秘密侵害案件の立証に係る基本原則に対応する条項である。「接触」とは、被疑侵害者が営業秘密を獲得できるルート又はチャンスを有することを指し、「類似」とは、被疑侵害者の使用した情報と当該営業秘密が実質的に同一であることを指す。(2)号は営業秘密侵害行為に係る直接証拠を把握している情況を指し、この場合においては、「接触+類似」を用いて推定する必要がない。(3)号は受け皿規定に該当する。

本条項は事実上、主に司法実務における立証方法を明文化し、実質的な改正は行なっていないものの、立証責任の分担が明確化されたことは、権利者にとって明確な法律根拠があるようになり、立証が難しいという問題の解決に役立っている。

2、営業秘密の保護について

今回の法改正をまとめてみると、中国における営業秘密の保護は、立法上、比較的完全になったが、執行中は依然として様々な難しい問題に直面するだろう。したがって、営業秘密の保護を強化することは、相変わらず企業が重視すべき課題だと思われる。

1)営業秘密の構成要件
通常、中国の営業秘密の構成要件は三つあり、これは日本とほぼ同じである。

1)非公知性(秘密性)
非公知性とは、関連情報が当業者に知られていない、かつ容易に得ることができないことをいう。

上述のとおり、非公知性は消極的事実に該当するので、司法解釈には相反する立場から非公知性を満たさない情状を掲げている。すなわち、

(1)当該情報がその所属の技術、或いは経済分野の一般常識或いは業界の慣習である場合。
(2)当該情報が商品の寸法、構造、材料、部品の簡単な組み合わせなどの内容に関係するだけで、市場に出た後に関わる大衆が商品の観察を通じて即直接得ることができる場
合。
(3)当該情報が既に出版物或いはその他メディアで公然と公開されている場合。
(4)当該情報が既に報告会、展覧などの方法で公開されている場合。
(5)当該情報がその他公開されたルートを通じて得ることができる場合。
(6)当該情報が一定の代価を支払わずとも容易に得ることができる場合。

上述の状況のいずれかに該当する場合は、営業秘密として見なすことができない。注意すべきところは、例えば、業界関連調査報告などについて、報告の内容が公開ルートから獲得できる情報に該当するとしても、当該情報に係る検索、収集、整理において、明らかに一定の労働を必要とする場合、当該情報には非公知性を満たす可能性がある。

2)商業的価値(実用性)
商業的価値とは、関連情報は現実的又は潜在的な商業価値を有し、権利者のために競争上の優位を勝ち取ることができることを指す。上述のとおり、情報の商業的価値については言うまでもなく、実務において、通常、権利者はわざわざ商業的価値を証明するまでもない。商業的価値を有しないことにより、営業秘密に該当しないという判例は極めて少ないが、決してないことはない。

例えば、北京君和信達科技有限公司、孫暁明などが経営秘密を侵害する紛争案件(一審案件番号(2014)一中民(知)初字第6248号、二審案件番号(2017)京民終398号)において、一審裁判所も二審裁判所も、二部分の情報が商業的価値を有しないと判断した。そのうち、一部の情報は初期の取引情報に該当すると明確に認定した。裁判所は初期販売された設備型番が初期型番に該当し、権利侵害として訴えられた期日との間隔が比較的長く、かつ被疑侵害者も上述の初期設備をプロジェクト競争に参加するための型番としなかったため、上述の初期販売設備の販売価格及びパラメーターなどの情報は本件における商業的価値を有せず、本件の営業秘密に該当しないと認定した。裁判所はもう一部の情報が初期取引習慣に該当し、政策上の変化により取引習慣もすでに変わっていたため、初期プロジェクトにおける取引習慣がすでにその商業的価値を有しなくなっていると認定した。ここで注意を払うべきところは、本件の判決書に「本件において、商業的価値を有せず、本件の営業秘密に該当しない」と記載されていることである。したがって、商業的価値を有するかどうかにはその相対性があり、案件の具体的な情状に合わせて判断すべきである。

 3)秘密保持措置
秘密保持措置とは、権利者が情報の漏洩を防止するために講じた、その商業的価値などの具体的な状況に相応する合理的な保護措置のことを指す。情報媒体特徴、権利者の守秘要望、秘密保持措置の識別可能程度、他人が正当方法で獲得できる難易度などの要素に基づき、権利者が秘密保持措置を講じたか否かについて認定すべきである。

司法解釈では更に権利者が秘密保持措置を講じたと認定すべき状況を掲げている。

(1)秘密に関わる情報を知る範囲を限定し、知る必要のある関連人員についてのみ、その内容を告知する場合。
(2)秘密情報に関わる媒体に鍵を掛けるなどの防犯措置を採る。
(3)秘密情報に関わる媒体に秘密保持のしるしをつける。
(4)秘密に関わる情報にパスワードやコードを採用する。
5)守秘契約を締結する。
(6)秘密に関わる機械、工業、生産現場などの場所への来訪者を制限する、或いは守秘を要求する。
(7)情報の秘密を確保するその他合理的な措置。秘密保護措置は権利者がなすべき立証の重点の一つであり、立証の容易度からみれば、情報媒体に秘密保持のしるしを表記し、秘密保持契約書を締結し、かつ秘密保持措置関連の守秘制度を発表することは、比較的容易であるため、企業は確実に注意を払うべきである。

2)営業秘密侵害における救済手段
営業秘密侵害案件が発生した場合、中国の法律規定に基づき、民事、行政、刑事の三種類の救済ルートを選ぶことができる。しかも、権利者は自力救済を選び、警告又は侵害者との交渉を通じて、紛争を解決することができる。

事実上、当所は今まで警告又は交渉により、数多い営業秘密侵害紛争案件を取り扱った経験を有する。証拠収集が終わった後、侵害者に警告状を送付し、更に和解条件について交渉を行い、最終的に侵害行為の停止、悪影響の解消及び損害賠償の条件を基にして和解に達した。自力救済手段は必要日数が短く、コストも低いため、救済手段を講じる際の第一歩として採用することができる。しかし、侵害者が比較的頑固である場合は、公的力を借りて一層強硬な救済手段を利用する必要がある。

1)行政ルートによる救済
行政ルートは中国特色として、「不正競争防止法」における営業秘密関連の規定に違反した行為について、工商行政管理職責を履行する県級以上政府部門に苦情を申し立てることを指す。現在の機構改革特徴からみれば、工商行政管理職責を履行する県級以上政府部門は、凡そ現地の市場監督管理局に該当する。

行政ルートの大きなメリットは、行政機関として被疑不正競争行為を調査するとき、以下に掲げる措置を講じることが、権利者が自発的に調査し、証拠を収集することよりもっと効果があることである。

①被疑不正競争行為に係る営業場所に対する立入検査を行う。
②調査を受ける事業者、利害関係者及びその他の企業・団体、個人に尋問し、当該者に対して関連状況の説明、又は被調査行為に係るその他資料の提供を求める。
③被疑不正競争行為に係る契約書、帳簿、証票、文書、記録、業務書簡及びその他の資料を問合せ・複製する。
④被疑不正競争行為に係る財物の差押・押収を行う。
⑤被疑不正競争行為に係る事業者の銀行口座を問合せる。

また、行政機関は法律規定に違反したと認定した後、侵害者に対して、違法行為の停止を命じると同時に、違法所得を没収し、10万元以上100万元以下の罰金を科すことができ、情状が深刻である場合は、50万元以上500万元以下の罰金を科することを含む行政処罰を行うことができる。

しかし、行政ルートにおいて、権利者が直接損害賠償を求めることができず、かつ行政機関を説得して立件させることが比較的難しいことに鑑み、権利者は依然として大量の証拠を収集すべきである。

2)民事訴訟による救済

民事訴訟とは、管轄権を享有する裁判所に提訴し、侵害行為の停止と損害賠償を含む民事責任を追究することを指し、権利者が良く知っている救済手段でもある。

今回の法改正において、民事賠償の法定賠償額を高めると同時に、更に民事訴訟における立証規則を明確化したため、民事訴訟の救済ルートを通じて紛争を解決する優位性は、なお更拡大されつつある。

また、権利者は証拠保全などの手続を通じて証拠の取得・収集を実現することもできる。しかも、司法実務において、営業秘密侵害案件における権利者の立証が確かに容易ではないことで、証拠保全の申請が裁判所に認められる可能性も比較的高くなりつつある。当所が取り扱った営業秘密侵害民事案件においては、裁判所に提出した証拠保全申請が認められただけではなく、裁判所が侵害者の工場に立ち入ることにより、大量の図面とデータ資料を保全したため、最終的に勝訴判決の言い渡しのために、堅実な基礎を築くことができた。

民事訴訟のデメリットは、作業必要日数が長く、費用も比較的高く、裁判所による証拠保全の調査手段と強度も行政ルートと刑事ルートより弱いことである。

3)刑事訴訟による救済

侵害情状が深刻であると同時に、その損害が50万元を超える場合は、刑事責任を追究することができる。具体的にいえば、権利者は公安機関に通報することもできれば、刑事告訴を提起することもできる。刑事告訴において、権利者は自発的に大量の証拠を収集すべきであるため、刑事ルートによる救済を選択する場合、公安機関に通報する方法がよく見られる。

刑罰は明らかに侵害者に対する強い脅威力を有し、損害が50万元以上の場合は、3年以下の有期懲役又は拘留に処し、罰金を併科又は単科する。損害が250万元以上の場合は、3年以上7年以下の有期懲役に処し、罰金を併科する。また、刑事調査手段は民事ルートと行政ルートよりもっと有力である。刑事案件において、直接損害賠償を求めることは難しいものの、刑事段階に和解したり、又は刑事判決が言い渡された後、別途民事賠償訴訟を提起したりすることはできる。すでに犯罪行為が認定された刑事判決を基にする民事訴訟は、比較的順調に運ばれる可能性がある。

しかし、刑事ルートによる救済は、情状が深刻であり、かつ損失が刑事責任の追究が可能な程度に達した案件のみに適用されるため、公安機関に通報したとして直ちに受理・立件できるわけでもない。したがって、権利者は依然として比較的多い証拠を提出することにより、犯罪行為が存在する可能性を証明しなけれならない。例えば、通常、司法鑑定機構が発行し、かつ権利者の主張する営業秘密の要件が成立するという鑑定意見があってこそ、公安機関が正式に立件することがある。

3、営業秘密漏洩時の対応

営業秘密漏洩に対する発見には、以下の二種類がある。その1つは会社の守秘情報が不当接触されていたことを発見した場合である。例えば、米国イーライリリー・アンド・カンパニー(Eli Lilly and Company)、礼来(中国)研究開発会社が黄孟煒を訴えた技術秘密侵害紛争案件において、イーライリリー社は、従業員黄孟煒が自社のサーバーにログインし、かつ自社のコア技術秘密をダウンロードした記録を見つけた時点で緊急対応措置を取った。しかし、事業者が自社の関連秘密情報の流出に気付いていないうちに、突然市場で同一・類似する商品又は情報が現れ、それを見付けた時点で、ようやく自社の営業秘密が漏洩されたことに警戒するようになる場合が圧倒的に多い。

上述のいずれかの状況にもかかわらず、事業者は自社営業秘密の漏洩可能性があることを見付けた時点で、直ちに調査確認の措置を講じるべきである。しかも、情報漏洩のルートと範囲を確認した上、遅滞なく漏洩ルートを切断し、優先的に対策を立てることにより、損失の拡大を防止すべきである。具体的な調査確認の方法は、各自の会社で異なっているものの、基本的な方法としては、優先的に守秘情報に接触できる者及び接触方法から取り掛かるべきである。

すでに発生した侵害行為について、その侵害状況、範囲及び把握した証拠などに基づき、適切な救済手段を選ぶべきである。上述のとおり、各種の救済手段にはそれぞれのメリットとデメリットがあるため、具体的な状況に応じて、最適な救済手段を選ぶことが頼もしいが、いずれにしても証拠の収集は欠かせない。

権利者は以下に掲げるいくつかの方面から証拠を収集すべきである。

①権利内容 営業秘密の媒体(図面、技術書類、顧客名簿など)、
②権利帰属 研究・開発過程中の技術書類、又は権利帰属約定済みの契約書など、
③主張する営業秘密のために講じた秘密保持措置 秘密保持協議、守秘規則など、
④被疑侵害者の秘密情報に接触する可能性 侵害者が権利者の元従業員であった際、又は提携関係を有した際の労働契約又はその他の委託契約書など
⑤被疑侵害者が使用した情報と営業秘密との間の同一性又は類似性 これについての立証は最も難しく、特に製造方法、設備の技術秘密情報に係る場合の立証はなお更難しいが、それは被疑侵害者の使用する情報が権利者の合法的手段による証拠収集の範囲を遥かに超えているからである。このような場合、権利者としてはまず初歩的証拠の収集を考えられる。例えば、相手の製品を公証付購入することを通じて、製品の類似性から製造方法及び設備の類似する可能性が高いことを説明したり、又は被疑侵害者による対外的宣伝情報、特に会社の技術力及び製造方法に関する宣伝内容の中から手がかりを探し出したりすることができる。

権利者は上述の証拠を最大限に収集した後、法院に提訴することができるものの、証拠が不足する場合は、証拠保全を同時に申請することもでき、又は行政機関に苦情を提出したりすることも可能である。情状が深刻である場合は、公安機関に通報することもできる。

4、営業秘密保護に関するアドバイス

法律に営業秘密侵害に係る救済が規定されているにもかかわらず、事後的救済には三つの難しい問題がある。1番目は証拠収集が難しいことである。企業管理上の不注意により、秘密保持措置、権利帰属と労働契約などの証拠が失われることが常に発生し、かつ侵害行為が目立たない場合は、被疑侵害者が侵害証拠を有しているため、たとえ証拠保全などの手段があるとしても、証拠の収集が難しくなる。2番目は権利侵害の認定が難しいことである。技術秘密案件には技術レベルが高く、専門性が強く、経営情報が営業秘密に該当するか否かについての争議も多く、証拠自体も複雑であるため、営業秘密侵害案件において、どのような救済手段を選ぶかにかかわらず、権利侵害として認定されるまで、比較的時間がかかり、さほど容易なことではない。3番目は有効な保護が難しいことである。救済手段を取ることにより侵害行為の停止を求めることはできるものの、すでに侵害者の把握した営業秘密が引き続き利用されるかどうかについては、確かに確保しかねる。しかも、民事訴訟段階での立証は、二次漏洩になりやすく、損害賠償の責任については、実際損失の認定が難しいため、賠償額を高く求められない現象も客観的に存在している。

したがって、事後的救済より事前措置を実施するほうがもっと重要である。具体的な営業秘密保護措置に関して、以下のとおり提案する。

1)企業の営業秘密管理制度の改善

営業秘密管理規則を制定し、企業の営業秘密を分類して管理し、営業秘密の開示を必要な範囲に限定し、営業秘密に該当する情報媒体に対して、秘密保持のしるしを付し、妥当的に保管し、取り扱うべきである。

社内の従業員及び社外の提携会社などを含む営業秘密に接触するすべての従業員及び会社との間に守秘契約書を締結し、守秘義務を明確化すべきである。従業員が離職する際には再度守秘確認書を締結した上、従業員の保有した秘密情報媒体がいずれも回収されたことを確認すべきである。

従業員に対する守秘意識教育を強化し、会社の営業秘密管理規則を説明し、具体的にどのような情報が会社の秘密情報に該当し、どのような守秘措置を講じるべきであるか、営業秘密侵害の責任及び営業秘密漏洩を見付けた際に講じるべき措置などについて説明すべきである。

2)証拠収集と保管上の注意点

会社の秘密情報について、遅滞なく公証、タイムスタンプなどの措置を講じて証拠を固め、秘密情報の権利帰属及び存在時間軸を証明できる証拠を確保する。それと同時に、守秘教育、会社の守秘管理規則などについても証拠保全を行い、守秘措置を講じたことを証明すべきである。

従業員書類、労働契約書、職責、守秘契約書、秘密情報の接触記録を長期間にわたって保留し、証拠の消滅を防止すべきである。

3)権利侵害対応体制の構築

企業の守秘管理制度を構築すると同時に、侵害対応体制の確立、責任者の確定、及び営業秘密紛争代理弁護士の選定を図るべきである。一旦、営業秘密の漏洩又は漏洩のリスクを見付けたら、その時点で遅滞なく行動を取り、証拠の消滅を防ぐと共に、損失の拡大も防ぐべきである。