北京魏啓学法律事務所
商標弁理士 宗 可麗

去る中国「独身の日(11月11日)」に、各Eコマースプラットフォームは、様々な宣伝やプロモーションを大々的に打ち出した。多くの人がウェブサイトのトップページに掲載された魅惑的な商品の写真や数学オリンピックの問題の難易度に匹敵するような割引の計算方法に引き付けられ、1年に一度のショッピングフェスティバルに参加したのではないだろうか。特に「天猫国際」(Tmall International)、「京東全球購」(JD Worldwide)などでは、中国だけでなく世界各国の商品が多く販売され、消費者は自宅で指を動かし、携帯のアプリから注文しさえすれば、1週間以内に日本の洗剤、米国のサプリメントやベルギーのチョコレートなどを入手できる仕組みになっている。経済のグローバル化の進展に伴い、人々にとって、越境Eコマースでのショッピングは現在、日常的な消費活動になっている。しかし、それに伴い、商標の国際保護は、企業にとって益々重視すべき焦点となっている。
周知のように、現在、海外企業の商標が中国で保護を得るには、マドリッド・プロトコルによる国際登録出願(以下、「マドプロ出願」という)及び中国における直接出願という2つのルートがある。前者は、出願人がマドリッド制度に基づき、本国の官庁経由で国際事務局(WIPO)へ願書を提出することにより、中国を指定して保護を求めることであり、後者は出願人が中国の渉外商標代理機構を通じて、中国国家知識産権局へ登録出願することである。いずれのルートで商標出願しても、中国国家知識産権局の審査を受けた後、登録条件に合致すると認められれば、中国における法的保護を得られ保護の効力も同一である。

多くの海外企業は現在、上述のどちらのルートで商標出願をすればよいかを悩んでいるのではないかと推察する。筆者は長年の実務経験に基づき、以下にマドプロ出願のメリットとデメリットをまとめ、分析を進める。その内容が皆様の実務に少しでもお役に立てば幸いである。

メリット

1. 複数の加盟国を指定する場合、費用は中国国内出願より低廉である。
 
マドプロ出願の費用は基本手数料、付加手数料、追加手数料などに分けられる 。基本手数料は定額の653スイスフランであり、追加手数料は商品が3つの分類を超える場合、超過する1分類ごとに100スイスフランを徴収する標準を適用している。追加手数料は、指定する国の数ではなく、分類の数で徴収するため、コスト削減の効果が非常に大きいと言える。

一方、中国国内の商標出願の場合、1分類ごとに出願手数料は定額の300元であり、各分類の指定商品が10個を超えた場合、1商品ごとに追加手数料として30元を徴収する標準を適用している。指定商品の数が多い場合、出願手数料だけで相当な金額になる。マドプロ出願の場合、各分類の指定商品の数に対する制限がないため、商品をいくつ指定しても手数料は追加徴収されない。

また、マドプロ出願は中国の商標代理機構を通じて手続きをする必要がないため、中国代理人の費用も発生しない。拒絶査定などの中間処理が発生せずに順調に登録できれば、コストパフォーマンスは高くなる。

2. 後続手続きが簡単で、企業の商標情報管理がしやすい。
 
後続の譲渡、変更、削減などの手続きにおいて、マドプロ出願の手数料は国際登録番号ごとに徴収され、分類、指定国の数とは関係がない。変更手続きによるコスト削減の効力はより大きく、出願人の名義によるすべての国際登録商標を一括で変更でき、国際登録番号の数、指定国の数にかかわらず、一律150スイスフランしか徴収されない。

1件のマドプロ出願で複数の加盟国を指定し、保護が得られた場合、企業のクローバル商標を統一管理しやすく、その後の変更、譲渡なども1回の手続きで処理できる。手続きが簡単で、しかも全ての指定国で法的効力を有している。

それに対して、中国国家知識産権局も商標案件の手数料を相継いで引き下げている。2019年7月1日より、商標更新登録手続き費用が登録番号1つごとに1000元から500元に、、変更手続き費用は同様に登録番号1つごとに250元から150元に引き下げられた。また、中国国内の商標出願の電子化プロセスを推進させるために、商標のオンラインシステムを利用し変更手続きをすれば、費用免除を適用している。しかし、一括の手続きで複数の指定国で法的効力が生じるマドプロ出願ほどコストパフォーマンスが高いとは言えない。

3. 包括範囲の広い商品も登録を取得できる。
 
中国国家知識産権局のマドプロ出願における指定商品に対する審査は現在、比較的緩やかである。商品の表現は中国「類似商品及び役務区分表」の標準表現、又は官庁が発表した「類似商品及び役務区分表」に収録されている標準以外に認められる商品及び役務リストでなく、たとえ複数の類似群を包括していても、相応する分類を超えない限り、中国国家知識産権局に認められる。

例えば、第9類の「科学用、光学用、信号用及び検査(監視)用機器」(Scientific, optical, measuring, signalling and checking (supervision) apparatus and instruments)は、中国「類似商品及び役務区分表」によれば、第9類の区分に該当し、0907、0910、0911などの複数の類似群を包括している。この表現は複数のマドプロ出願で認められ、登録を取得している。

それに対して、中国国家知識産権局の中国国内における商標出願に対する審査は、厳格である。もし商品表現が複数の類似群を包括し、範囲が広すぎるか、又は狭すぎる場合、「規範的な商品表現」へ修正するように通常補正指令が出される。

デメリット

1. セントラルアタック制度。
 
マドプロ出願は国際登録日から5年の期間が満了するまで、その基礎出願又は基礎登録と従属関係を有している。国際登録日から5年以内に、本国官庁における基礎登録が取下げられたり、無効にされたり、又は基礎出願が拒絶査定された場合、当該マドプロ国際登録商標はすべての指定国における保護も喪失することになる。これを「セントラルアタック」という。

5年の期間はさほど長くないように感じるが、「国際登録が取り消される原因が国際登録日から5年以内に発生したのでありさえすれば、実際の理由は国際登録日の後から何時発生しても、国際登録が取り消される1。」ということが、「セントラルアタック」の最も恐ろしい影響であると言える。例えば、基礎登録が国際登録日から5年以内に拒絶査定されたり、無効宣告されたりした場合、出願人が不服審判請求や訴訟などの様々な法律救済手段を講じても基礎登録を起死回生させることができず、その基礎登録は出願から10年後に無効にされ、それに伴い、その基礎登録に従属する国際登録も取り消されてしまうことになる。

マドリッド協定議定書には「セントラルアタック」に対して、「出願人はセントラルアタックを受けた場合、各指定国においてマドプロ国際登録を国内出願へ変更することが可能であり、且つもとの国際登録日及び優先日を保留できる。」という救済措置が規定されている。これは確かにグッドニュースに違いないが、国際登録を国内出願へ変更することに係る金銭的及び時間的なコストは、最初から国内出願するよりも遥かに高くなる。

2.登録証明書の取得に長くかかり、早急な権利行使が必要な場合に不便である。

マドプロ出願が中国で権利行使する際の権利帰属証明書は、中国国家知識産権局が発行する登録証明書である。しかし、中国国家知識産権局から自発的に登録証明書が発行されないため、出願人は商標代理機構に依頼し、登録証明書の発行を申請しなければならない。しかも、申請提出のタイミングは厳しく制限されており、拒絶査定できる審査期間(12ヶ月又は18ヶ月で、加盟国/協議国によって異なる)が満了しないと申請できない。最近、中国を指定してから5、6ヶ月経過した頃、中国国家知識産権局が審査を終了し、保護声明を発行するケースが増えている。通常、出願人が保護声明を受領すれば、当該商標は、中国において登録商標としての法的効力を取得したことを意味する。ただし、保護声明を受領しても、審査期限が満了するまで待たなければいけない。そうでなければ、登録証明書の発行申請は、期限未満という理由で受理されない。

筆者が取り扱った案件を例にするが、ある国際登録商標の国際登録日は2018年11月26日で、中国を指定した後に拒絶査定できる審査期間の起算日は2019年2月5日であり、中国国家知識産権局による保護声明の発行日は2019年6月26日であった。しかし、当該国際登録商標の登録証明書は、2020年8月5日以降(マドリッド協定国の拒絶理由通知期間は18ヶ月である)にならないと、申請できない。つまり、国際登録日から登録証明書の発行まで約21ヶ月かかることになる。

それに対して、中国国内における商標出願の場合、登録査定され約1ヶ月後には、中国国家知識産権局より商標登録証明書が発行される。拒絶理由などの中間処理がなければ、商標出願日から約10ヶ月後には、登録証明書を取得できる。

現在、中国の各Eコマースプラットフォームも知的財産権の保護を重視としている。「天猫」(Tmall)、「京東」(JD)などは、出店者に開店時に商標登録証明書の提出を要求している。登録証明書を提出できない場合、オンラインショップの開店が延期されたり、商品がタイムリーに入荷できなかったりする恐れがある。ビジネスチャンスは瞬く間に過ぎ去ってしまう昨今、消費の最盛期が到来する前に商品をタイムリーに販売できる準備をすることは、企業にとっても代理店にとっても非常に重要なことである。

3.一部の商品表現について、予想した権利範囲が実際の権利範囲と一致しない可能性がある。

前述のように、中国国家知識産権局のマドプロ出願の指定商品に対する審査は、比較的緩やかであり、包括範囲の広い商品表現でも順調に方式審査を通過し、登録を取得できる。しかしながら、筆者の実務経験によれば、大きなトラブルを引き起こす可能性もある。

マドプロ出願は本国官庁における基礎出願又は基礎登録に基づき、出願手続きを行う必要がある。出願人は指定商品を選定する時に、基礎登録に制約され、本国官庁の商標制度及び商標実務に影響されることを回避できない。そのうち、中国の商標制度及び「類似商品及び役務区分表」は特有である。中国国内で商標出願をする場合、包括範囲の広い商品表現は不明確、不規範だと見なされ、官庁の要求に従い、明確で、具体的な商品表現に補正するほかないが、マドプロ出願で中国を指定すれば、順調に登録を取得できる。

しかし、中国では、商品表現が中国語の言語環境において内容的に不明確な場合、審査官は個人の理解、実務経験に基づき、指定商品をどの類似群に分類すればよいか判断するしかない。したがって、商品表現について、出願人が予想した権利範囲(本国における範囲)と中国における実際の権利範囲と一致しないことがよくある。

 例えば、日本の出願人がよく指定する商品表現「電子応用機械器具」(electronic machines)について、筆者の知る限り、日本の「類似商品・役務審査基準」によれば、当該表現は電子コンピュータ及びその周辺設備、スキャナー、複写機、集積回路、コンピュータプログラム、半導体などの各種商品を含んでいるが、中国「類似商品及び役務区分表」によれば、少なくとも0901「電子コンピュータ及びその外部設備」、0903「その他の事務用機械(タイプライター、複写機、ガリ版印刷機を除く)」、0913「電器用結晶体及び炭素材料、電子電気汎用部品」などの複数の類似群を含んでいる。しかし、筆者の長年の実務経験によれば、当該指定商品が0913類似群のみに分類されたことが度々あった。ある日本企業は、製品のコンピュータ周辺設備について、マドプロ出願によって中国を指定し、「電子応用機械器具」を指定商品としたことで、幅広い権利範囲を取得できると思い込み、最も重要な商品さえ保護を取得できていないことを知らなかっただけでなく、その後登録された類似商標に対する防御にもなっていなかったことすら知らなかった。

4.翻訳ミスで正常の権利行使へ影響を与える恐れがある。

マドプロ出願は、英語又はフランス語で出願書類を作成し、WIPOへ提出しなければならない。指定国の追加で中国を指定する場合、出願書類は官庁が指定する翻訳機構によって中国語へ翻訳された後、中国商標局の商標データベースに収録される。翻訳機構は、商標分野専門の機構ではないため、中国「類似商品及び役務区分表」及び商標実務に必ずしも精通しているわけではなく、言語の視点から翻訳しているだけである。しかも、近年の出願件数の増加に伴い、翻訳の業務量も急増している。したがって、翻訳誤差を回避できなくなっている。

筆者が取り扱った案件のうち、第9類指定商品の「navigational apparatus」が「航海儀器(航海装置)」と翻訳されたことがある。出願人が本来指定したかった商品は「導航儀器(ナビゲーション装置)」で、商品表現は一文字しか違わないが、意味は全く違っている。Eコマースプラットフォームで開店してナビゲーション装置を販売しようとする場合、Eコマースプラットフォームの要求に従い、権利商品が「ナビゲーション装置」であることが記載された登録証明書を提出しなければならないが、官庁から発行された登録証明書には「航海装置」と記載されており、Eコマースプラットフォームの要求に合致しないという理由で販売を拒否された。最終的に、出願人は商標局に補正申請を提出し、商品表現を「ナビゲーション装置」へ変更し、ようやく問題を解決できた。

実務において、企業はマドプロ出願が登録査定された後、指定国の追加で中国を指定する場合、商品表現における翻訳誤差の有無をあまり確認することがない。問題が発生した場合、前述の案件と同じようにタイムリーに官庁へ連絡し、補正を行うのが解決方法の1つであると考えられる。明らかな翻訳ミスであれば、官庁は通常速やかに補正指令を出すが、どちらの表現でもよいという程度の翻訳誤差であれば、具体的な情況に応じて分析し、対応する必要がある。

筆者が取り扱ったもう1つの案件において、ある海外のクライアントが第36類で指定した役務「liability guarantee and acceptance of bills」が官庁指定の翻訳機構に「手形の責任保証及び引受」と直訳されたため、官庁に3602「金融サービス」に区分されたが、出願人が本来指定したかった役務は「債務保証と手形引受」であり、3602「金融サービス」及び3606「保証」の2つの類似群が含まれるべきであった。この案件では、翻訳誤差で出願人の権利範囲が不十分になり、3606類似群の関係役務を他者に登録されてしまい、出願人は未だに他者の登録商標に係る訴訟手続を行っている。

以上に鑑み、商標出願人には、マドプロ出願のメリットとデメリットを十分考慮した上で、企業自身及び具体的な商標の情況に応じて、最適な登録方法を選定することをお薦めする。   
 
注:
1、『馬徳里商標国際注冊問題研究』(マドリッド・プロトコルによる国際登録の問題に対する研究) 編著者:張宇 発行元:中国工商出版社