中国弁護士  陳  傑
 
中国の司法裁判における基本原則の一つは、「事実を基にして法律をよりどころにする」ことであり、事実に関しては証拠による証明が必要である。それゆえ、訴訟では以前から「証拠が王である」とも言われている。中国では米国のようなディスカバリー(証拠開示)制度がないため、通常、「主張する者が立証する」という原則に基づき、原告が重い立証責任を負うことになっている。

知的財産権侵害訴訟において、通常、原告は計3種類(以下、第1、第2、第3証拠という)証拠を提出しなければならない。第1証拠は主張する権利の帰属、状態と保護範囲を証明するために用いられ、第2証拠は主張する権利侵害行為を証明するために用いられ、第3証拠は相手側に対する損害賠償に係る計算根拠を含む、権利侵害の責任を負うことを求めるための事実的な根拠を証明するために用いられる。

専利権侵害訴訟にとって、第1証拠を収集することは明確で容易である。例えば、専利証書、専利公報、登録名簿副本又は年金納付証明を収集することだからである。もし、評価報告を申請することができる実用新案と意匠の場合は、訴訟が無効審判請求の提起により中止にされる可能性を減らすと同時に、先行専利の状況を証明するために、評価報告を証拠として提出することについても考慮することができる。

第2証拠は、各専利に係る技術がそれぞれ異なるため、収集の難易度に大きな相違がある。特に方法専利又は大型設備及びB2B製品に係る専利の場合は、客観的に被疑侵害者の実際の製造方法又は被疑侵害製品を合法的なルートを通じて取得することができないため、権利侵害に対する立証は、権利行使における最大の難点になっている。第1、第2証拠は、案件の勝敗に直接影響を与えると言えるものである。中国では裁判官が酌量を経て裁定する法定賠償制度が制定されているため、第3証拠は権利侵害に対する認定に影響を与えず、往々にして賠償金額に影響を与えるだけである。したがって、通常、第3証拠を軽視する権利者の態度が、現実的にはその賠償金額を低くする重要な原因にもなり、訴訟の効果にも影響をもたらしている。

それゆえ、本文では専利権侵害訴訟における第2証拠と第3証拠による立証方法について説明し、かつ参考のために、判例に合わせて司法実務における立証上の困難を解決するための手段を分析し、紹介する。

1、権利侵害行為に対する立証

「専利法」第11条では、「発明及び実用新型の専利権が付与された後、本法に別途規定がある場合を除き、 如何なる部門又は個人も専利権者の許諾を受けずにその専利を実施してはならない。すなわち、生産経営を目的として、その専利製品に対する製造、使用、販売の申出、販売、輸入を行ってはならず、その専利方法を使用することはできず、当該専利方法により直接獲得した製品に対する使用、販売の申出、販売、輸入を行ってはならない。 外観設計権が付与された後、如何なる部門又は個人も専利権者の許諾を受けずにその専利を実施してはならない。すなわち、生産経営を目的として、その外観設計権製品に対する製造、販売、輸入を行ってはならない。」と規定している。

したがって、権利侵害行為に対する立証では、被疑侵害者が上述の行為を実施していたことを証明しなければならない。立証の手段と方法には次のような数種類がある。

1)被疑侵害製品に対する公証付購入

いわゆる公証付購入とは、公証人の立会いの下で被疑侵害製品を購入することをいう。実務においては、常に証拠を偽造するという状況が現れているため、司法実務上、事実を認定するためのポイントになる証拠に対しては、比較的厳しい審査が行なわれている。もし、購入過程で公証手続を行わず、かつ相手側が関連製品に対する製造・販売行為を否認した場合は、当該製品の購入証拠が採用されなくなる可能性が高い。したがって、被疑侵害製品に対する公証付購入は、権利侵害行為に対する最も有効でよく見られる立証方法である。

実際に、市場で公開的に販売されている商品に対する公証付購入は、比較的容易であるものの、B2B製品に対する公証付購入は、非常に難しく、特に販売対象が相対的に固定され、かつ特殊分野に属するB2B製品を公証付で購入することは一層難しい。しかし、いくら難しいとは言っても、全くその可能性がないわけではない。上記の製品の公証付購入を行うに当たり、当所では早い段階で、大量の準備作業を行い、専門調査員を派遣して、対象会社と対象製品の商流状況に対する調査を行うと同時に、調査状況に基づいて対象会社との接触を図り、購入の可能性を検討することを提案する。当所が代行・代理した多くの案件において、公証付購入が不可能に見える一部の製品についても、調査を経てそれの購入ルートを見つけることができた。例えば、当所が代理した発明専利権侵害紛争案件において、被疑侵害製品は包装紙の一種であったが、当該包装紙は電器製品を製造する部品メーカーに直接販売され、更に部品メーカーにより、部品の包装・運輸の過程に使用され、当該部品が電器製品工場に運ばれた後、当該包装紙は廃棄されることになっていた。それゆえ、市場で販売されていた製品には包装紙が使われておらず、部品メーカーは電器製品工場に対してその製品だけ直接供給していた。全般的な商流からみれば、当該包装紙又は包装紙が使われている部品を購入することは、確かに難しいことであった。しかし、当所は踏査・調査を経て、意外にも当該包装紙のメーカー傘下の販売代理店が少量の包装紙サンプルを販売していることを確認でき、最終的には同販売代理店から対象製品を購入することができた。

被疑侵害品に対する公証付購入は、権利侵害行為の存在を証明するための有効な手段である。しかも、購入過程において販売者の販売行為を直接証明でき、もし、公証付購入した製品の実物又はそのラベル・包装に製造者の名称、住所、商標などの情報が付されていた場合は、製造者の製造行為と販売行為を証明することができる。実際に、製造者の中には自社が製造した被疑侵害製品について否認し、他社が模倣製造した製品であると主張する製造者もいる。しかし、当該否認について、関連証拠による十分な証明ができない場合は、当方の主張が認められないため、製造者の標章が付されている被疑侵害製品を公証手続を経て購入できた場合は、被疑侵害者が実施した製造・販売などの行為を証明することができ、購入した製品の実物も権利侵害対比に用いることができるため、権利侵害行為の主な立証も十分に完成できることになる。

B2B又は部品に係る一部の権利侵害案件において、常に遭遇する難点は、購入済みの製品に包装又はラベルもなければ、明確な製造者の標章もないことである。このような場合は、更に補充立証を行なわなければならない。例えば、当所が代行・代理した発明専利権侵害案件において、被疑侵害製品は製品の部品であった。当所は公証付購入を通じて、当該部品が搭載された端末製品を購入した。しかし、製品に搭載されていた部品の体積が小さく、かつ製造者の詳細な情報もなく、4つのアルファベットによる略称のみがあった。当所が確認した結果によれば、当該アルファベットの標章は商標として登録されていなかった。そこで当所は対象製造会社の工商登録ファイル、対外的な事業宣伝情報を収集することによって、対象会社が使用した英語社名の頭文字と当該アルファベットの略称が相互対応できることを証明し、かつ公証人の立会いの下で対象会社の工場外観を撮影し、建物に当該アルファベットの略称を掲げていることを証明した。前記証拠に基づき、法院は当方の主張を認めてくれ、当所の入手した端末製品に搭載された部品が対象会社の製造したものであり、対象会社に被疑侵害製品の製造行為があることを認定した。

しかしながら、購入済みの製品に如何なる標章も付されていない場合は、既存の手掛かりにより製造者の証拠を収集することも非常に難しくなり、ひいては権利者も真正な製造者が誰であるかを知らない可能性も生じる。かかる状況に当たっては、販売者の事業範囲、生産能力、対外的に宣伝する経営モデルなどについて、補充立証することができる。もし、販売者の事業範囲に製造が含まれ、かつ対外的に生産能力と経営モデルを有する製造メーカーであると宣伝していながら、販売者として製品の出所を証明するための証拠を提出できない場合は、当該販売者が正に製品の製造者であると推定することができる。当所で代行・代理した株式会社MTGと侵害者との間のRefaリファカラット(美容ローラー)に係る数件の外観設計権侵害訴訟案件は、いずれも当該問題に及んでいた。すなわち、当所が購入した権利侵害製品の実物には、製造者の如何なる標章も付されていなかったため、当所は販売者の工商登録ファイル、店舗の宣伝情報、宣伝パンフレットなどに基づき、販売者が製造者であることを主張し、かつ最終的に法院に認められた。結局、法院は被告に対して、製造・販売、販売の申出などの権利侵害行為を差止め、数十万元の賠償金を負担することを命じる判決を言い渡した。

しかし、販売者の事業範囲に製造が含まれず、かつ経営モデルも明らかに販売代理店に該当しない場合、販売者が製造行為を実施していたと主張することは、法院に認められにくい。かかる状況に当たり、当所はやはり販売者に対する訴訟を提起し、販売者を追い込むことにより、販売者に損害賠償の負担から免れるために、やむを得ず製品の出所及び製造者に係る手掛かりを暴露させ、最終的に製造者の情報を追及することができた。

ヒント

事実上、公証付購入の過程は、いくつかのステップに分けられる。例えば、契約の締結、発注、支払、入荷などである。簡単な日常用品の購入は、その過程全般がほとんど同一時間内に完成できるため、比較的容易に過程全般に対する公証手続を完成することができる。しかし、B2B製品の購入においては、同一時間内に購入過程全般を完成することが極めて少ない。かかる状況に当たっては、できる限り各ステップにおける対応を確保することにより、完璧な証拠チェーンを形成しなければならない。上記の内容で及んでいる公証付購入の早い段階において、専門調査員による調査を必要な準備作業とすることが最も望ましく、公証付購入を行うときの弁護士の関与も不可欠になっている。当所が取り扱った一部の案件において、当事者は調査会社に委託して購入過程を完成した後、公証付購入に係る公証書を当所に提供したものの、当所の検討によれば、公証書に記載されていた内容に多くのステップが欠けていた。その証明力には補充内容が必要となり、更に一部の内容が対象会社に対応することもできなかったため、結局、当該証拠(公証書)は根本的に使用することができなかった。したがって、公証付購入に関する方案の全般及び公証書の記載内容については、事前に受託弁護士に確認してもらうのが最も望ましい。

2)ウェブサイトの公証

インターネットの普及につれて、ネットを利用して製品を宣伝することもあれば、ひいてはオンラインで直接販売する状況も益々普及されている。被疑侵害製品に係る宣伝情報、営業画面などに対して公証手続を行い、更にオンラインで公証付購入を行うことも、権利侵害証拠を収集するための常用の有効手段となっている。

いわゆるウェブサイト公証とは、公証処において、公証人の立会いの下で、公証処のコンピューターとインターネットを利用して、インターネット上に示された情報に対するプリントアウト又はスクリーンショットなどの方法を通じて、証拠を固めることをいう。インターネット情報の更新と変化が速いため、遅滞なく有用なウェブサイトにおける情報を固めることは、非常に重要である。実務上、公証手続を通じて、ウェブサイト情報を固める方法のほかに、現在ではタイムスタンプを通じて、ウェブサイト情報を固める方法も徐々に採用されている。個別のウェブページにおける情報の固定・保全を行うとき、タイムスタンプは公証手続に比べ、時間と人力を節約することができる。しかしながら、ウェブサイトに対する一連の操作に係る場合、例えば、検索、リンク、記入情報などは、タイムスタンプに比べ、公証手続を通じて証明する効力のほうが一層信頼性がある。したがって、重要でかつ一連の操作に係るウェブサイト情報について、当所は公証手続の利用方法を採用して固めることを提案し、副次的で個別ページに係る情報については、コストの低減を考慮して、タイムスタンプの方法を通じて固めることを提案する。

ネットワーク宣伝情報に関する公証手続は、被疑侵害製品の販売の申出行為を証明できるだけではなく、オンラインの販売ページにおける販売行為を証明することもできる。しかも、販売ページに示された販売状況は、権利侵害の規模、範囲などを証明するのにも役立つ。例えば、当所が代行・代理し、2016年中国知的財産権10大事例に選出されたパナソニック社の美容スチーマー案件において、当所は各大手電子商取引サイトにおける被疑侵害製品の販売ページに対して、公証手続を行い、販売ページに示されていた販売数量などに基づいて、被告が権利侵害により得た利益を推定した結果、当所の請求した賠償金320万元の全額が法院に認められた。

また、公証付購入を完成できない案件においては、往々にしてウェブサイトに対する公証手続の役割が一層重要になっている。例えば、製品の製造方法に対する簡単な紹介、製品の型番と写真に示された情報などは、方法専利又は大型設備製品に及んでいる専利案件において、いずれも権利侵害行為の存在を推断できる初歩的な証拠とすることができるが、法院に証拠保全の手続を申請するとき、初歩的な証拠による立証が非常に重要なポイントになる。

仮に公証付購入を完成したとしても、上記の製造者が不明確な場合は、インターネット上の宣伝情報に対する公証手続が、相手側の製造行為を証明できる補助的な証拠となり得る。例えば、当所が代行・代理した間接権利侵害に係る専利権侵害案件において、権利侵害製品だけに用いられる専用部品を製造・販売する間接侵害者は、部品に製造者の情報を明確に表記せず、製品の型番しか表記していなかった。当所は当該間接侵害者のホームページに対する公証手続を行ったが、そこには当該部品の宣伝情報が掲載され、かつ製品の型番と外観のいずれも正規品と対応できたものの、相手側の弁護士は繰り返し否認し、当方の立証が不十分であると主張した。しかし、当方は民事証拠の蓋然性の規則に基づき、当方がすでに高い盖然性のある初歩的な立証を完成していると主張し、相手側が反証を提出できない場合は、当方の証拠を採用するべきであると主張した。最終的に法院は当方の主張を認めてくれた。

ヒント

ウェブサイトに係る公証手続は、簡単に見えても実際には、注意すべきところが多い。実体からみれば、公証手続の内容は完璧でなければならず、形式からみれば、如何なる瑕疵があってもならない。例えば、ウェブサイトにアクセスするとき、当該ウェブサイトの運営者の情報を固めたか否か、製品の販売ページに対する証拠を固めるとき、販売記録に係る証拠を固めることに注意を払ったか否か、更なる問い合わせのために、検索結果のページを固めるとき、具体的な住所を保留したか否かなどである。したがって、仮にウェブサイトに対する公証手続を行う場合でも、当所は案件状況に対して、最も深く理解している担当弁護士に公証手続の具体的な内容と公証方法を確定してもらうことを提案する。

3)展示会での公証

展示会での公証とは、公証人の立会いの下で、被疑侵害者が展示会に出展した被疑侵害製品の状況に対して、撮影・録画を行い、取得製品の宣伝用パンフレット又はサンプルなどを入手することをいう。

もし、展示会の現場に被疑侵害製品の実物が出展されている場合は、製造行為と販売の申出行為が存在することを証明することができる。たとえ製品の実物が出展されてなくても、製品カタログを配布したり、その写真を展示したりしている場合は、少なくとも証明販売の申出行為を証明することができる。高価格の大型製品について、公証付購入を行うことは、コストが高くなるため、展示会で公証手続を行うことも一つの選択肢である。しかしながら、公証付購入に比べ、展示会での公証には二つのデメリットがある。一つは、実際に販売行為が発生していることを証明することができないことであり、もう一つは、権利侵害製品の実物を入手できないため、写真又は写真に示された状況だけでは、権利侵害製品の対比に障碍をもたらすことである。特に発明又は実用新型に係る専利権侵害案件について、その外観対比だけでは被疑侵害品が専利権の保護範囲に入るか否かを確定することができないため、当所はできる限り公証付購入を完成した上で、更なる補充措置として展示会での公証手続を行うことを提案する。ただし、公証付購入を行なうことが確かに難しい場合、展示会で被疑侵害品に対して、製品外観・構造に対して撮影することも、権利侵害行為を証明できる初歩的な証拠となる。このような場合に注意を払うべきことは、できる限り被疑侵害製品に対して、専利の請求項に記載されている技術的特徴に相応する、被疑侵害製品の特徴に関する撮影又は録画を行なうことである。例えば、当所が代行・代理した大型加工機器の実用新型専利権侵害案件において、対象製品の売値は約100万元に達し、かつ販売対象もある程度固定されていたため、公証付購入の難度は非常に大きく、コストも高かった。したがって、当所は対象会社が展示会に出展するときを選び、公証人の立会いの下で、対象会社が出展した機器に対して撮影を行なった。しかし、実際に出展者は他人が写真を撮ることに対し、常に警戒心を持ち、撮影行為を差し止める傾向にある。特に製品の内部構造に対する撮影に当たり、全部の技術的特徴を撮影の方法を通じて、その侵害内容を完全に確定することは極めて難しい。上記の案件において、当所が対象製品、特に稼動時の内部構造を撮影しようとしたとき、相手側に何回も妨害されたため、やむを得なく、最終的に複数の人数で数回に分けて、当方が求める主な技術的特徴の内容を撮影し、録画するしかできなかった。

展示会での公証のもう一つの重大な意義は、管轄権の選択に役立つことである。出展行為が販売の申出の権利侵害行為に該当するため、展示会の所在地の法院は、権利侵害行為の発生地の法院としてその管轄権を有する。したがって、このような方法は、製造者の所在地以外の地域で製品を購入することができなかったり、期待している管轄地で製品を購入することができなかったりした案件にとっては、展示会の所在地で期待する管轄法院を選べられる方法でもある。例えば、当所が代行・代理した数件の専利権侵害案件は、いずれも上海で開催された博覧会において、被疑侵害品に対する展示会での公証手続を行えたことで、上海知識産権法院へ起訴することができた。

ヒント

通常、展示会は限られた日数で開催されるため、展示会で公証を行なうためには、その時機を見逃してはならない。海外権利者の場合は、展示会での公証手続を申請するとき、常に現地公証処に公証・認証を経た身分証明書などを提供することになっている。したがって、もし、展示会で対象会社が対象製品を出展する可能性が極めて高いと判断した場合は、事前に公証処と連絡と取ることにより、公証申請に係る手続と必要資料を確認し、公証人と日程を約束し、公証のための準備作業を行わなければならない。対象製品の出展を確定したときは、直ちにすでに約束した公証人と連絡を取り、定時に公証手続を行わなければならない。

4)専利行政管理部門への調査・証拠収集申込

上記の三種類の方法は、権利者が常用する主動的な証拠収集の方法であるが、権利者がいくら全力を尽くしても依然として証拠を十分に収集できない状況は存在する。このような場合は、行政機関又は司法機関の力を借りることも考えられる。

中国での専利権侵害紛争について、権利者は専利行政管理部門(通常の地方知識産権局又は科学技術管理局)に行政取締を申請することもできれば、法院に訴訟を提起することもできる。一般的に多くの海外当事者は、行政ルートについて、さほど詳しくないため、通常、司法ルートを選ぶことが多い。しかしながら、ここ数年間、行政ルートでの取締が快速であるという特徴があるため、益々注目を集めており、行政ルートを通じて紛争を解決する案件も年々増加している。

「専利行政取締弁法」の規定に基づき、専利権侵害紛争取扱過程において、当事者が客観的な原因により、自ら収集できない一部の証拠について、書面により専利業務管理部門にその調査・証拠収集を申請することができる。専利業務管理部門は、具体的な状況を踏まえた上で、関連証拠を調査・収集するか否かを決定する。専利業務管理部門もニーズに応じて、職権により関連証拠を調査し、収集している。

実務上、一部の地区(例えば、広東省など)における専利業務管理部門は、当事者から調査・証拠収集の書面申請を受け取ったとき、基本的に当該申請のいずれにも同意する。専利業務管理部門が証拠を調査し、収集する方法には、案件に係る契約、帳簿などの関連書類に対する調査・複製、当事者と証人に対する尋問、測定、撮影、録画などの採用方法による現場踏査が含まれる。製造方法専利権侵害の疑いがある場合は、被調査人に対して、現場でデモンストレーションを行なうことを求めることができる。しかも、専利業務管理部門は、証拠を調査・収集するとき、証拠に対するサンプリング方法を採用することができる。すなわち、被疑侵害製品の中からその一部を抽出してサンプルとすることができる。方法専利に係る場合は、当該方法により直接利益を得た疑いのある製品の中から、その一部をサンプリングすることができる。

したがって、権利者が自ら十分な証拠を収集できない状況、例えば、侵害行為が方法専利に及ぶか、又は被疑侵害製品の実物を入手することが難しい案件においては、専利業務管理部門に行政摘発及び証拠の調査・収集を申請する方法を考慮することができる。

しかしながら、司法ルートに比べ、行政ルートでは損害賠償を請求することができないため、権利侵害に対する脅威力が比較的弱く、かつ複雑な専利権侵害紛争に対する行政機関の取扱能力が裁判官より弱く、複雑な専利権侵害紛争案件又は多大な注目を集めることを望んだり、損害賠償を求めたりする案件について、権利者は司法ルートを通じて解決する方法を選択することが多い。実際に、権利者は上記の調査・証拠収集の手続を利用するために、行政取締を申請し、証拠を収集できた後、直ちに行政取締申請を取り下げ、追って法院に訴訟を提起することもある。

ここで注意を払うべきことは、専利業務管理部門が現場踏査から調査・収集した証拠は、直接権利者に渡されるのではなく、案件ファイルに記録された後、口頭審理の法廷で証拠調べを行なわなければならないことである。しかも、当事者が行政取締申請を取り下げた後でも、関連証拠は権利者に渡されず、行政機関においてファイルとして保存される。したがって、もし、訴訟において行政ルートから調査・収集された証拠の利用を望む場合は、法院に申請することにより、法院が行政機関から証拠を取寄せるしかできない。

ヒント

行政取締を申請するときも、権利侵害に係る初歩的な証拠を提出しなければならない。したがって、先行して上記の三種類の方法を採用することを通じて、できる限りの証拠を収集することは、非常に重要なことである。しかも、各級専利業務管理部門は、決して全ての調査・証拠収集申請を許可するのでもなく、調査・証拠収集を必要とする案件において、すべての希望する証拠を有効に保全できるわけでもない。当所が代行・代理した数件の専利権侵害紛争に係る行政取締案件において、確かに大部分の案件では、現場踏査による調査・証拠収集が行われたものの、依然として一部の地方知識産権局は、当方の調査・証拠収集申請を許可してくれなかった。また、現場踏査を通じて、調査・証拠収集が行われた案件において、一部の案件では被疑侵害者の営業場所における被疑侵害製品が見付からなかった。このような状況は、製造期間の終了により現場に相応する製品の在庫がない可能性もあれば、その他の生産基地を所有する可能性もあり得る。したがって、行政取締による調査・証拠収集も決して万能なものではなく、案件の具体的な情状に基づき、適切なルートを選ぶことが望ましい。

5)法院への証拠保全申請

法院が行う証拠保全は、専利管理部門が行う調査・証拠収集と類似し、当事者が客観的な原因により、一部の証拠を入手できない場合は、法院に証拠保全を申請することができるが、当該ルートにおける証拠収集の手段も行政取締ルートと類似する。司法実務において、証拠保全が許可される比率はさほど高くないものの、方法専利権侵害案件、営業秘密侵害案件などのような、原告が確実に十分な証拠を入手できなかった案件において、原告が一部の初歩的な証拠を提供できた場合、法院が証拠保全を行うことを許可する可能性は、大きくなる。特にここ数年間、「立証が難しい」問題を解決するために、各級法院、特に北京、上海、広州における三つの知識産権法院では証拠保全に対して、ある程度積極的な態度を取っている。例えば、知識産権法院を設立してから3年以来、上海知識産権法院は各種類の訴訟関連保全手続計638件を認める裁決を下した。

証拠保全は、具体的な申請時期に基づき、訴訟前と訴訟中に分けられる。保全の効果からみれば、訴訟前の保全効果が一層頼りになることが明らかであるため、相手側が無防備な状況下にあるとき、突然奇襲することを通じて、証拠収集の可能性を大いに高めることである。しかし、仮に訴訟前の保全時機を見逃したとしても、自ら十分な証拠を収集することができない案件において、訴訟過程での保全は見逃すべきではない。

証拠保全を申請するとき、法院に権利侵害を証明できる初歩的な証拠及び証拠保全の必要性を説明する理由を提出すべきである。初歩的な証拠の収集方法については、前文の内容を参照することができるが、必要とされる初歩的な証拠の程度については、明確な定性又は量化された基準がなく、初歩的な証拠は直接的なものであるほど、その量がより多く、権利侵害の構成を明らかにする可能性がより大きく、法院が証拠保全を認める可能性もより大きい。証拠保全の必要性については、被疑侵害者が権利侵害証拠を掌握しているため、客観的に原告に合法的に権利侵害証拠を入手できるルートがないことは、有力な理由の一つである。当所が代行・代理した製造用金型に係る発明専利権侵害紛争案件においては、被疑侵害者の製品に係る販売の申出情報を初歩的な証拠とし、係争専利の製造用金型が当該製品の製造に必要な金型であることに対する説明を補充として、裁判官を説得し、被疑侵害者の工場に対する調査を行なうことにより、その工場内における製造用金型に対して、写真を撮り、測定を行なった。

しかも、原告は証拠保全を申請するとき、書面による申請を提出し、保全を求める証拠内容を明確にしなければならない。法院が申請を許可するときも、原告が申請した範囲内でその保全手続を行っている。事実上、原告が保全を申請するとき、通常、権利侵害行為に係る証拠と権利侵害利益に係る証拠に対しては、同時にその保全を申請している。法院は保全の進行を認める裁定を下すとき、実際状況に基づき、その一部の申請を許可することができる。実際の保全過程において、通常、法院は案件の審理ニーズに基づき、権利侵害行為に係る証拠に対する保全を一層重視している。しかも、仮に権利侵害利益のみに係る証拠に対する保全申請の場合、司法実務上、法院はやはり許可してくれない。したがって、法院による証拠保全では、必要な権利侵害判断に係る証拠の調査・証拠収集を一層重視し、権利侵害行為に係る証拠収集に対しては、基本的なやり方として徹底的にすべきであり、同時に有効なやり方ですべきである。もし、被疑侵害者が権利侵害行為を実施していたことに対して、確信することができるものの、証拠収集が難しいことだけを悩んでいる場合は、完全に初歩的な証拠(権利侵害者が権利侵害行為を実施したことに対して確信できる根拠)に基づき、法院に証拠保全を申請することができる。

ヒント

法院による証拠保全と行政ルートにおける調査・証拠収集には、それぞれ多くの類似点があるが、実際の案件において如何に選ぶべきだろうか。当所は権利者が望む救済手段に基づき、すなわち、行政ルートを選ぶか、それとも司法ルートを選ぶかを決めるのが最も重要であることを提案する。行政ルートと司法ルートには、それぞれのメリットとデメリットがあり、案件の具体的な状況と権利者の権利行使目標に基づいて選ぶことができる。また、上記のとおり、行政機関が調査・証拠収集を行ってくれるか否かは、現地の知識産権局の一貫したやり方に係っており、一部の地区にある地方知識産権局では、全ての調査・証拠収集申請を認めているものの、一部の地区ではそのやり方が前者と正反対であるため、事前に対象会社の所在地にある知識産権局の一貫したやり方を把握することは、調査・証拠収集申請が許可されるか否かに対する可能性の判断に役立つ。調査・証拠収集申請が許可される可能性の大きい地域については、優先的に行政ルートを採用することを考慮できる。

2、権利侵害責任に関する立証

権利侵害の民事責任を負う方法には、幾つかの種類があるが、そのうち、専利権侵害に係る民事責任を負う方法には、主に権利侵害行為の差止めと損害賠償がある。権利侵害行為の差止めに係る民事責任について、通常、権利者より権利侵害行為が継続していることを別途立証しなくても支持が得られる。ただし、被疑侵害者が侵害行為をすでに停止したことを立証・表明した場合、権利者が依然として権利侵害行為の差止めを求める場合は、侵害行為が停止されていないことに対して反証を提出しなければならない。権利侵害行為の差止めに対する具体的な表現形式において、一部の具体的な請求については、その立証・表明が必要となる。例えば、在庫品又は製造のための専用金型の廃棄を求めた場合、法院は往々にして在庫品又は専用金型の存在を証明できる証拠を提供すること、又は在庫品又は専用金型が存在すると主張するその理由を説明するよう要求している。司法実務上、法院も常に常識に基づき、在庫品又は専用金型の存在を推定している。権利侵害行為の差止め責任を負う方法に係る司法実務について、当所は林達劉事務所2013年アニュアルレポートにおいて、詳細に紹介している。読者に関連内容を参考にしてもらえればと思う。

司法実務において、権利侵害責任に関する立証の重点は、損害賠償の計算根拠に対する立証にある。損害賠償の計算方法に係る法律条項からみれば、権利者が権利侵害により被った実際損失に基づいて計算すべきであるが、実際損失を確定できない場合は、権利侵害者が権利侵害により得た利益に基づいて計算すべきである。権利者の損失と権利侵害者が権利侵害により得た利益を確定できない場合は、その許諾使用料を参考にすることができる。更に上記の損失又は利益を確定できない場合は、法定賠償額を適用することになる。しかしながら、権利者は自己の主張する損害賠償に対して、立証責任を負わなければならないため、往々にして立証できる内容に基づき、採用したい計算方法を選ぶことになる。林達劉事務所2015年アニュアルレポートにおいて、当所は一部の事例及び当所が訴訟代行・代理を行なった実際経験に基づき、訴訟中で如何に比較的高い損害賠償を得るべきであるかについて、比較的詳細な論述を行なっているため、その内容についても参考にしてもらえればと思う。ここに重点的に述べたい内容は、ここ数年間、法院が損害賠償に係る立証について、有力な措置を取っていることに鑑み、権利者は自ら積極的に証拠を収集するほかに、案件の具体的な状況に基づき、それに相応する手段を運用できると言うことである。

1)調査令

調査令は決してここ数年内に新たに制定された制度ではないものの、今まで実際に運用されたことはさほど多くない。しかし、法院はここ数年における立証困難の問題を解決するために、調査令の発行について、過去に比べ、一層積極的に取り扱っている。

調査令とは、当事者が民事訴訟において客観的な原因により、自己に必要な証拠を入手することができないため、法院に申請し、かつ許可を得た上、法院が当事者に対して発行し、訴訟代理弁護士が関連企業・団体と個人に提出する、必要な証拠を収集するための法律書類のことをいう。

調査令を申請するための要件は、申請者が必ず法院がすでに立件・受理した案件の当事者又は当事者の委託を受けた訴訟代理人に該当することである。申請者は法院に申請書を提出するとき、収集の必要がある証拠と証明しようとする事実、及び上記の証拠を入手できない原因を説明しなければならない。調査令の持参者は案件当事者の訴訟代理人として、有効な弁護士ライセンスを取得した弁護士に限られている。

司法実務上、調査令は今までその運用が比較的少なかったため、発行時に法院が厳しく審査する原因のほかに、一部分の原因は、たとえ調査令を取得したとしても、少数の企業・団体と個人が依然として積極的に調査令の持参者に協力して、証拠収集を行なうことがなかったからである。例えば、当所が経験した発明専利権侵害案件において、当方は被告の所在地にある税務局から被告が被疑侵害製品の販売時に使った領収書を取り寄せ、被告が被疑侵害製品を販売した数量を明らかに調査し、更に権利侵害により得た利益を明らかに調査することを望んだ。しかしながら、税務局と繰り返し意見交換を行ったにもかかわらず、税務局は弁護士が調査令を持参する方法を通じて取り寄せることを認めず、必ず法院がその職権に基づいて取り寄せるべきであると主張した。したがって、当該案件において、当方は法院に調査令を申請せずに、法院にその職権により証拠を取り寄せることを申請した。

ただし、調査令により成功裏に終えた事例もある。例えば、オランダのフィリップス社が訴えた外観設計専利権侵害紛争案件において、上海知識産権法院は、法により原告の代理弁護士に調査令を発行し、原告がタオバオサイトから被告の販売記録を取り寄せると同時に立証できるよう支持した。法院は前記の方法を通じて、被疑侵害製品の販売規模、利潤率などに係る事実を明らかにすることができ、被告が権利侵害により得た利益が原告の請求金額より多いことを確定し、最終的に権利者による賠償請求全額を認めてくれた。

タオバオサイトなどの電子商プラットフォームでは、事実上、当該プラットフォームにおける製品販売データの全部資料を掌握しており、このような資料は、権利侵害の規模、範囲、数量、利益などを判断するための重要な意義を有する。しかし、このような情報について、タオバオサイトなどの電子商プラットフォームでは、情報保護の立場から簡単に権利者に提供するようなことはしない。現段階での司法実務において、法院又は行政機関だけに取り寄せる権利があり、又は権利者の代行弁護士が法院の発効した調査令を持参してこそ、関連証拠を入手することが可能となるのである。

したがって、仮に被疑侵害製品がタオバオサイトなどの電子商プラットフォームにおいて、大量に販売されていることに対して、権利者が確信できる場合は、法院に調査令を申請することを考慮できる。

2)証拠開示命令

「立証が困難で、賠償が少ない」という問題を解決するために、2016年4月1日から正式に施行された「専利権侵害紛争案件の審理における応用法律の若干の問題に関する最高裁判所の解釈(二)」(以下「司法解釈二」という)においては、正式に権利侵害により得た利益に係る証拠開示命令制度が導入された。当該規定は事実上、「『中華人民共和国民事訴訟法』の適用に関する最高裁判所の解釈」における証拠開示命令制度と「民事訴訟証拠関する若干の規定」(以下「証拠規則」という)における立証妨害推定規則から托生されたものである。しかし、司法解釈二の施行前に、証拠規則第75条を運用することは、非常に困難であった。当所が代行・代理した数件の案件において、当所は被告が得た権利侵害利益に対して、初歩的な立証と推定を行なった上で、証拠規則第75条を主張することにより、被告に対して、被告の掌握した権利侵害利益の資料を提供するよう要求し、さもなければ原告による主張を認めるべきであると試みたものの、法院はいずれに対しても明確な評価を行わずに、依然として不明瞭な自由裁量を通じて、その賠償金額を確定した。

司法解釈二の規定は一層明らかな対応性を有し、主に専利権侵害訴訟における権利侵害利益に係る証拠に対応している。現在の司法実務において、法院も権利侵害利益に係る証拠開示制度の運用について、通常、一定の積極的な態度を採用している。権利者が権利侵害利益の大まかな状況を初歩的に証明することができ、かつ法院に申請を提出した状況下で、法院は通常、権利者の請求を支持している。

ここ数年間、当所は数件の専利権侵害訴訟案件において、成功裏に当該制度を運用し、インターネット電子商の販売数量と利潤率などに係る初歩的な証拠に関して立証した後、法院に権利侵害者に対して、権利侵害利益証拠を提出することを命じるよう申請した。結局、権利侵害者が関連証拠を提出できなかったため、法院は当方が請求した約100万元の損害賠償金の全額を認めてくれた。例えば、当所が代行・代理したフィットネス機器の外観設計専利権侵害案件において、当方はタオバオ、Tモールと京東サイトの被疑侵害製品の直営店舗に示された販売数量と製品の売値などの証拠を提供し、かつその権利侵害利益が莫大であることを推算し、法院に被告に対して、その帳簿資料を公表することを命じるよう請求した。広東省高級法院は書面により、被告に対して、指定期限内にインターネットのオンライン状態下での被告の全ての取引情報などの資料を提供することを命じる裁定を下した。被告は指定期限内に関連資料を提出しなかったものの、当方は証拠調べを行い、かつ反証を提出することにより、被告の提出した資料が現段階の記録にすぎず、全ての過去取引記録ではなく、タオポオ/Tモールのプラットフォームにおける全ての販売記録は、いずれも削除することが不可能であることを証明した。したがって、法院は被告が正当な理由なしに、販売記録に係る資料を提出していないと認定し、当方が請求した賠償金の全額220万元を認めてくれた。

権利侵害利益に係る証拠開示命令制度の具体的な運用について、当所は2018年9月のIPNEWSにおいて、比較的詳細な論述を行なっているため、読者に当該内容を参考にしてもらえればと思う。

後記

本文では専利権侵害訴訟における権利侵害行為などに関する主な立証方法と手段を紹介した。ただし、具体的な案件の経緯が様々であるため、似ているような立証方法でも様々な変化がある。上記の内容について、更なる探索及び意見交流を望む場合、当所は喜んで対応する。