北京魏啓学法律事務所
 
はじめに
 
多くの外国企業にとって、中国は、知的財産権、特に特許権を行使することができる国ではないという印象が持たれているようである。かかる印象は、渉外特許権侵害訴訟に相当長い時間と大きな労力を費やしているにもかかわらず、最終的に期待していた効果を得ることができず、特に高額の損害賠償を得ることが難しいことに起因していると言える。しかしながら、当該印象は、あまりにも一方的すぎる。現在、中国において、毎年10万件近くの知的財産権侵害訴訟が提起されており、うち、特許権侵害訴訟は約1万件に達し、高額の損害賠償事件も増加の一途をたどっている。
 
周知のように、侵害行為の差止めと損害賠償は、知的財産権訴訟における最も主な民事責任を負う方法である。法律で明確に規定された賠償責任を負わなくてもよい情状、すなわち、善意の販売者、使用者及び商標権侵害事件における登録商標の専用権者が裁判所の要求するその前3年間の実際使用状況と侵害行為により、その他の損失を被ったことを証明できない場合を除き、侵害者は、いずれも損害賠償という侵害責任を負わなければならない。
 
林達劉グループの2013年年報において、知的財産権訴訟における侵害行為の差止めに係る民事責任を負う方法を紹介させていただいた。本稿では更に一部の判例及び弊所が代理した実際の訴訟経験に基づき、現在の司法実務に及んでいる損害賠償という知的財産権侵害訴訟における民事責任を負う方法を紹介するとともに、比較的高額の損害賠償を得ることのできる訴訟における立証方法を紹介する。少しでもお役に立てば幸甚である。
 
1.損害賠償の計算方法
 
「民法通則」における関連規定のほかに、知的財産権に係る専門法律及び主な関連司法解釈において、いずれも損害賠償という民事責任について、明確に規定されており、かつ、損害賠償の計算方法についても明確にされている。例えば、「特許法」第65条、「商標法」第63条、「著作権法」第49条等である。しかも、各法律で規定されている損害賠償の計算方法は、大体同様であるが、次のいくつかに分けることができる。
 
1)権利者の実際の損失
 
すなわち、権利者が侵害により被った実際の損失に基づいて確定することである。
 
具体的に言えば、権利者が侵害により被った損失は、侵害行為により減少した権利者製品の販売数量に、製品1つごとの合理的な利益を掛けて得た額に基づいて計算することができる。権利者の販売量の減少総数を確定することが困難である場合、侵害製品の市場販売総数に、製品1つごとの合理的な利益を掛けて得た額を、権利者が侵害により被った損失としてみなすことができる。
 
2)侵害者が権利侵害により得た利益
 
権利者の実際の損失を確定することが困難である場合、侵害者が権利侵害により得た利益に基づいて確定することができる。
 
具体的に言えば、侵害者が権利侵害により得た利益は、権利侵害製品の市場販売総数に、権利侵害製品1つごとの合理的な利益を掛けて得た額に基づいて計算することができる。侵害者が権利侵害により得た利益は、一般に侵害者の営業利益に基づいて計算し、完全に権利侵害を業とする侵害者に対しては、販売利益に基づいて計算することができる。
 
ここで侵害者が権利侵害で得た利益を確定する際に、侵害者が当該侵害行為により得た利益に限らなければならず、その他の権利により生じる利益については合理的に控除しなければならないことに注意する必要がある。発明・実用新案権を侵害する製品が他の製品の部品である場合、裁判所は、当該部品自体の価値及びその製品の利益を実現する際の役割等の要素に基づいて、合理的にその賠償額を確定しなければならない。意匠権侵害製品が包装物である場合、裁判所は、包装物自体の価値及びそれに包装された製品の利益を実現する際の役割等の要素に基づいて、合理的にその賠償額を確定しなければならない。
 
3)ロイヤリティの参照
 
権利者の損失又は侵害者が得た利益の確定が困難な場合、ロイヤリティの倍数を参照して、合理的に賠償金額を確定することができる。
具体的に言えば、裁判所は、権利の類別、侵害者の権利侵害の性質と情状、ロイヤリティの金額、許諾の性質・範囲・時間等の要素に基づき、ロイヤリティの1~3倍を参照して合理的にその賠償額を確定することができる。
 
4)法定賠償
 
上述の方法について、いずれも確定が困難な場合、裁判所は、権利の種類、侵害行為の性質と情状等の要素に基づいて賠償額を確定することができる。
 
なお、法定賠償範囲については、各法律の改正の進捗状況が異なっているため、その規定も異なっている。
 
商標侵害事件において、2013年第3回改正「商標法」では、悪意により商標専用権を侵害し、その情状が深刻である場合、上述の方法で確定した金額の1倍以上3倍以下の賠償額を確定することができると規定している。法定賠償の最高額についても、2001年第2回改正「商標法」で規定された50万元を300万元に引き上げている。
 
2008年第3回改正「特許法」で規定した法定賠償の範囲は、1万元以上100万元以下で、これも2000年第2回改正「特許法」で規定した5000元以上50万元以下と比較して、随分高くなっている。さらに、すでに公布された第4回改正「特許法草案」の意見募集稿では当該賠償範囲は、「商標法」の規定と同じ300万元まで引き上げられている。
 
上述の内容に比べ、「著作権法」の改正は余り進展がないため、規定されている法定賠償の範囲は、依然として50万元以下である。
 
法律条項において、法定賠償の範囲を限定することにより、裁判所の自由裁量権が大きくなりすぎることを防いでいるものの、「現在の経済情勢下における知的財産権裁判の大局支持に係わる若干の問題に関する最高裁判所の意見」第16条において、「侵害により被った損失又は権利侵害により得た利益の具体的な金額を証明することが困難であるものの、上述の金額が明らかに法定賠償の最高限度を超えていることを証明できる証拠が有る場合、事件全般の証拠状況をまとめた上、法定最高限度額以上の合理的な賠償額を確定できる。」と規定している。したがって、法定賠償の最高限度額については、具体的な事件において、証拠状況に応じて打ち破られる可能性が大いにあると言える。
 
5)合理的な支出
 
上述の方法により計算して得た損害賠償のほかに、賠償金には権利者が侵害行為の差止めのために支払った合理的な支出も含まれなければならない。
 
しかも、「現在の経済情勢下における知的財産権裁判の大局支持に係わる若干の問題に関する最高裁判所の意見」第16条において、「法律に別途規定がある場合を除き、法定賠償を適用する際、合理的な権利保護コストの賠償については別途計算しなければならない。」と規定している。また、「特許紛争事件審理における法律適用の問題に関する最高裁判所の若干規定」第22条において、「権利者が侵害行為を差止めるために支払った合理的な支出について主張する場合、裁判所は、『特許法』第65条に定める賠償金額以外に別途計算することができる。」と規定している。
 
したがって、上述の方法により計算した損害賠償のほかに、権利者は、更に別途侵害者に対して合理的な権利保護コストの賠償を求めることができる。
 
2.損害賠償の立証方法
 
上述の損害賠償の計算方法は、法律条項の内容からみれば、まず、権利者が侵害により被った実際の損失に基づいて計算すること、次に、実際の損失の確定が困難な場合、侵害者の侵害により得た利益に基づいて計算すること、そして、権利者が侵害により被った損失と侵害者の侵害により得た利益のいずれも確定が困難な場合、そのロイヤリティを参照すること、さらに、上述の内容のいずれも確定が困難な場合、法定賠償を適用することという優先順序が適用されているようである。しかし、実務において、権利者が自己の主張する損害賠償について立証責任を負う必要があるので、権利者は、立証可能な内容に基づいて、その計算方法を採用することが往々にある。以下に、各種の計算方法に係る立証内容と立証方法について詳しく述べる。
 
1)権利者の実際の損失
 
上述の通り、権利者の実際の損失 = 侵害行為により減少した権利者製品の販売数量、又は侵害製品の市場販売総数×製品1つごとの合理的な利益という計算方法で表すことができる。したがって、権利者は、当該計算方法を主張するとき、侵害行為により減少した権利者製品の販売数量又は侵害製品の市場販売総数、及び製品1つごとの合理的な利益について立証しなければならない。
 
司法実務上、侵害行為により減少した権利者製品の販売数量について立証することは非常に難しい。まず、当該数量について、通常、権利者が自ら統計しているので、その真実性が認められにくい。次に、仮に権利者の製品販売量の减少数を証明できたとしても、当該減少数が侵害によりもたらされたものであるかを証明することは難しい。さらに、市場全体の販売量の拡大により侵害行為が存在しているものの、権利者の製品販売量の减少がさほど際立たないことも多い。したがって、権利者は、当該方法を選択して実際の損失を計算するとしても、侵害製品の市場販売総数に基づいて計算することが往々にある。
 
また、侵害製品の市場販売総数についても、通常、権利は関連データを掌握することが困難である。実務において、裁判所又はその他の機関により証拠保全が行われなければ、被疑侵害者の侵害製品の販売量に係るデータを入手することができないことが多々ある。
 
権利者の製品1つごとの合理的な利益について、その証拠について、権利者自身が掌握しているので、権利者自ら提供することができる。しかし、権利者が利益について1つの数字だけを主張して、具体的な根拠を提出しない場合、認められにくいことに注意する必要がある。通常、関連製品の財務諸表を提供し、当該製品の合理的な利益に対しては、会計監査機関による会計監査により得られたものでなければならない。
 
無錫森松機械有限公司等の営業秘密侵害事件 において、裁判所 は、営業秘密の保有者の損失を判定する際、侵害製品の市場販売総数に製品1つごとの合理的な利益を掛ける方法を採用した。当該事件に係る調査において、公安機関は、被告の各種資料を押収し、かつ、かかる資料により被告が販売した保有者の営業秘密に関連している4種類の侵害濾過器の販売総数を確定することができた。しかも、会計監査機関が営業秘密の保有者の製品販売資料に対して、会計監査を行うことにより、製品の合理的な利益が得られた。公訴機関は、当該2種類のデータを掛けることにより営業秘密の保有者の損失総額が計700万元近くになると確定した。一審と二審の裁判所は、いずれも当該計算方法と主張を認めると同時に、最終的に被告に対してその営業秘密侵害罪が成立すると認定して、有期懲役に処したほかに、各被告に対して約1000万元の罰金を併科した。
 
2)侵害者が権利侵害により得た利益
 
侵害者が権利侵害により得た利益 = 侵害製品の市場販売総数×権利侵害製品1つごとの合理的な利益
 
上述した権利者の実際の損失に係る計算方法に比べ、計算における相違点は、採用する合理的な利益が権利製品の利益であるか、それとも侵害製品の利益であるかにある。通常、権利製品の利益は、権利侵害製品の利益より高いので、一部の事件において、被告は、侵害製品の利益により計算すべきであるという抗弁の主張を提起することがある。上述した無錫森松機械有限公司等の営業秘密侵害事件においても、被告は、侵害製品の利益により計算すべきであると抗弁した。しかし、裁判所は、関連法律の規定に基づき、権利者の実際の損失を確定することが難しい場合のみ、侵害者が権利侵害により得た利益を計算の根拠とすべきであると認定した。当該観点は、損害賠償の4種類の計算方法の適用における優先順序を明確にしているといえる。
 
しかしながら、大多数の状況において、権利製品の利益は往往にして企業の営業秘密に及んでいるので、多くの権利者は、関連データを開示することを望まない。したがって、その場合、権利者は、侵害製品の合理的な利益による計算方法を自主的に選んで採用することが多い。しかし、侵害製品の利益も同様に、権利者にとって、入手困難な証拠であるので、証拠保全のほかに、公開された報道内容又はその他のルートを通じて取得したデータに基づいて侵害製品の利益を算出する方法もよく採用されている。また、上述の通り、権利侵害により得た利益を計算する際、その他の権利の貢献的要素を排除しなければならない。
 
例えば、本田技研工業株式会社等と北京旭陽恒興経貿有限公司等との間の意匠権侵害紛争事件 における係争意匠は、バンパー関連意匠権であった。本事件の侵害製品は、双環公司が製造した来宝(LAIBAO)車に装着されているフロントバンパーであった。一審裁判所は、現有証拠では係争自動車の販売利益に占めている侵害フロントバンパーの利益の割当額を確定できず、本田技研工業株式会社が侵害により被った損失、又は双環公司、江蘇卡威公司が侵害により得た利益の明細を確定できないとして、係争意匠の類別及びデザインの難易度、双環公司、江蘇卡威公司の権利侵害の性質と情状、権利侵害の持続期間等の要素に結びつけた上、法定賠償範囲内で斟酌して50万元という額の賠償金を言い渡した。
 
二審において、北京市高等裁判所は、「双環公司が別件で提出した『会計監査報告』及び『諮問報告書』に基づき、来宝(LAIBAO)車一台ごとの販売コストと利益及び販売台数が確定でき、かつ、双環公司より提出された保定徳鑫公司が双環公司に発行した領収書によれば、フロントバンパーの単価は286.32元で、自動車全体に占めるフロントバンパーの比率を確定することができる。」と認定して、侵害製品の製造・販売、及び侵害製品の製造により、双環公司と江蘇卡威公司が得た利益は172万元であると確定し、改めて被告に対して172万元の損害賠償の支払いを命じる判決を言い渡した。
 
3)ロイヤリティの参照
 
権利者にとって、第三者に対して関連権利を許諾した場合、ロイヤリティの存在とその金額を証明することは、さほど難しいことではない。しかし、実務において、ロイヤリティは、権利者の営業秘密に及んでいることが往々にしてあるので、権利者は、同業者である被疑侵害者に知られることを望まない。しかも、多くの場合、権利者が権利を許諾する対象は、その関連会社であり、ロイヤリティに対する設定では決して単純に技術的価値だけを考慮するとは限らない。したがって、関連証拠を提供できたとしても、権利者は、当該種類の計算方法の採用を望まないことが多い。
 
権利者がこの計算方法を選択する場合、ロイヤリティが本当に存在することとその金額を証明できる証拠を提出しなければならない。一部の事件において、権利者が高額のロイヤリティが明記されたライセンス契約をその証拠として提出し、かつ、裁判所に当該ロイヤリティを参考としてもらうことを望んでいる場合がある。しかし、契約のほかに、当該ライセンス契約が真実かつ有効で、実際に履行されていたことを証明できるように、当該ライセンス契約が関係主管機関にて届出されたことを証明する証拠及びライセンシーがロイヤリティを支払った受取書のような証拠を提出していないことがある。このような場合、裁判所により、ロイヤリティに係る証拠が欠如することを理由にロイヤリティの参照が認められない可能性が生じてしまう。例えば、中山市忠明亮電子有限公司と中山市科順分析測試技術有限公司との間の実用新案権侵害紛争事件 がある。
 
また、中山徳立潔具有限公司と中山迪瑪衛浴有限公司との間の特許権侵害紛争事件 において、広東高等裁判所は、「特許ロイヤリティの合理的な倍数を参照することは、特許権侵害の賠償額を確定する1つの方法である。ただし、上述の規定の適用においては、『権利者の損失又は侵害者が得た利益を確定しにくい』、『特許ロイヤリティの参照をできる』等の要件を備えているほかに、特許権の類別、侵害者の侵害性質と情状、特許ロイヤリティの金額、当該特許ライセンスの性質、範囲、時間等の要素は、いずれも考慮すべき要件であり、簡単に特許ロイヤリティの金額をもって1~3の倍数を掛けて得た額によるものではない。」と認定し、裁判所はロイヤリティを参照して賠償額を確定する計算方法を認めなかった。
 
一方、上海帥佳電子科技有限公司(以下「帥佳社」という)等と山東九陽小家電有公司(以下「九陽社」という)等との間の発明特許権侵害紛争事件 において、原告は証拠を提出して、王旭寧が本件特許の全国範囲における独占的通常実施権を九陽社に許諾したこと、及びライセンス期限は本件特許の有効期間と同じで、そのロイヤリティが300万元であることを証明した。双方当事者は、すでに当該契約について国家知識産権局にて届出を済ましている。しかも、一審訴訟において、九陽社と王旭寧は、帥佳社と西貝楽公司が製造・販売している被疑侵害製品の帳簿に対する証拠保全を実施するよう請求した。一審裁判所は、法により当該請求を認める裁定を下した。一審裁判所が両被告に対して当該裁定を送達し、その執行を命じたが、両被告は関連資料の提供を拒絶した。そこで、一審裁判所と二審裁判所は、被告のウェブサイトに掲載されている1年間の営業高の宣伝内容から、侵害行為により巨大な利益を得ていることが分かると認定した。被告は、両原告の間で締結された特許ライセンス契約に対して異議があるものの、王旭寧と九陽社との間で締結された特許ライセンス契約及び特許ロイヤリティの金額が客観性に欠けることを証明できる証拠を提出できなかった。なお、一審裁判所が被告に対して関連財務帳簿の提供を求めた情況下で、被告は、その提供を拒絶したので、被告が利益を得ていないという主張も証明することができない。一審裁判所と二審裁判所は、上述の総合的な要素を考慮した上、最終的に権利者の主張を認め、被告に対して300万元の賠償金を支払う判決を言い渡した。
 
したがって、単純にロイヤリティに係る契約を提出することはさほど難しいことではないものの、裁判所に確実に参考にしてもらうためには、関連証拠を提出することにより、ロイヤリティが本当に存在し、かつ、実際に履行していたことを証明するだけではなく、特許権の価値、侵害の情状等を証明できる証拠をできる限り提出しなければならないということが明らかである。
 
4)法定賠償
 
司法実務において、権利者にとって、上述の計算方法の立証はある程度困難が伴うので、通常、大部分の事件において、裁判所は、法定賠償を採用している。しかし、法定賠償を採用しても、権利の種類、侵害行為の性質と情状等の要素は、賠償額の確定に明らかな影響をもたらしている。
 
例えば、深セン邁瑞生物医療電子有限公司(以下「邁瑞社」という)と深セン市理邦精密儀器有限公司(以下「理邦社」という)との間の一連の事件、すなわち、原告邁瑞社が被告理邦社の多種類の複数パラメーターのモニター製品に対して提起した特許権侵害と営業秘密侵害訴訟事件 において、一審裁判所は、被告に対して原告の経済的損失及び合理的な権利保護費用としてそれぞれ1500万元と2000万元の賠償金を支払うことを命じる判決を言い渡した。
 
上述の事件における賠償額の計算問題について、事件の審理過程において、原告邁瑞社は、被告理邦社の係争8種類の複数パラメーターのモニター製品の平均営業利益に対して会計監査を行うことを請求したが、被告は会計監査に必要な財務帳簿資料の提出を拒絶した。したがって、会計監査機関は、被告の目論見書、原告が提出したウェブサイト公証書に明記されている被告の情報、被告の公式ウェブサイトにおいて公開された被告の「2011年アニュアルレポート」及び被告のウェブサイトに公開された侵害製品の情報等の関連データに対して会計監査を行った。そして、当該資料に基づき、2009年4月から2011年4月までの期間における被告の11種類のモニター製品(本事件の8種類の被疑侵害製品を含む)の粗利益(10593.33万元)、製品1種類あたりの平均粗利益(963.03万元)、営業利益(3857.8万元)、及び製品1種類あたりの平均営業利益(350.71万元)を確定した。しかも、裁判所は、被告のウェブサイトに公開されていた侵害製品の情報に対する審査を通じて、被告が製造・販売したモニター製品(本事件の8種類の被疑侵害製品を含む)が計12種類であったことを確定した。そして、会計監査機関による鑑定意見と照らし合わせた上、製品1種類あたりの平均営業利益により、被告の8種類の被疑侵害製品の営業利益を2571.84万元と推定し、かつ、事件の会計監査の締切日から判決が下されるまでにさらに3年も続き、被告の権利侵害による不当利益が引き続き増えていたことも考慮した。
 
裁判所は、上述の状況及び原告が係争製品に対して、同時に特許権侵害と営業秘密侵害で訴訟を提起したこと、製品における特許技術と営業秘密の技術比率、権利侵害における被告の主観的な過失の程度,被告の権利侵害の継続時間、結果及び利益状況等に基づき、ざまざまな事情を斟酌して、被告に対して、特許権侵害事件では1500万元の賠償金の支払いを、営業秘密侵害訴訟では2000万元の賠償金の支払いを命じる判決を言い渡した。
 
当該事件で確定された賠償額が法定賠償の最高限度を遥かに超えたのは、権利者が被告の侵害利益に対して、最大限の立証と算出を行ったからである。算出して得た金額は、さほど正確ではなく、全額が裁判所に認められたわけではなかったが、当該算出による金額は、最終的に裁判所が斟酌して法定賠償を確定する際に重大な影響を与えたものと考えられる。
 
5)合理的な支出
 
上述の通り、最高裁判所の指導的な意見及び特許権侵害紛争に係る司法解釈で言及されている合理的な権利保護コストについては別途計算・賠償しなければならないものの、司法実務においては、賠償と合理的な権利保護コストを共に考慮して、1つの金額で言い渡される事件がその大多数を占めている。上述の邁瑞社と理邦社との間の紛争事件において、裁判所が言い渡した1500万元と2000万元の賠償額には、いずれも合理的な権利保護コストが含まれていた。
 
しかし、増加の一途である訴訟事件において、裁判所は、損害賠償と合理的な支出についてそれぞれに金員を確定するようになっている。合理的な支出においても、権利者の全ての主張を認めるのではなく、斟酌して金員の額を判定している。通常、合理的な権利保護コストは、さほど高額ではないものの、比較的高い合理的な支出を認めた事例も発生している。
 
例えば、仏山海天公司(以下「海天社」という)が高明威極公司(以下「威極社」という)を訴えた商標権侵害及び不正競争紛争事件 において、裁判所は、海天社が16日間で取得すべき合理的な利益及び合理的な利益の減少幅に基づき、海天社の商業的信用が損なわれたことにより被った大体の損失を算出し、かつ、威極社が登録商標の専用権を侵害した行為、及び不正競争行為の性質、持続期間、結果等の要素を結びつけて、海天社が製品の販売量の減少により被った利益の損失は350万元であると斟酌の上確定した。しかも、海天社が事実を解明し、かつ、悪影響を排除するために公開声明を発表したが、海天社が主張した広告費用について、裁判所は、広告における公開声明の一部分の内容が事実の解明、悪影響の排除に用いられたので、当該主張を支持すると認定した。広告における製品宣伝に係る部分については、海天社が自社の商業的信用を回復するために適切に自社製品を宣伝したとしても、必要限度を超えてはならないとした。裁判書は、最終的にさまざまな事情を斟酌して、海天社が支払った広告費用の中の300万元、及び同社が本事件の訴訟に支出した弁護士費用5万元についても認めた。
 
如何なる種類の費用も合理的な権利保護コストとして認められるかについて、本田技研工業株式会社等が力帆実業(集団)有限公司等を訴えた特許権侵害紛争事件 の一審裁判所の認定は、比較的明確で、緻密な内容になっている。当該事件の合理的な費用について、原告は、弁護士費用、建物賃貸料、警備費用、電話代、電気代、車両購入費と公証費用等の費用を提出した。一審裁判所は、審理を経て、「車両購入費と公証費用は、原告が被告の侵害行為を差止めるために発生した必要な支出なので、当該費用計19800元は認めるものとする。建物賃貸料等の費用は、必要な支出であるものの、実地調査によれば、360平米の倉庫は、本件オートバイの収納場所としては大き過ぎるので、原告の主張通り、全ての係争に係る4種類の規格のオートバイも一緒に考慮し、関連費用を分担させるとしても、やはり不合理なところがあるので、実際状況に基づき、斟酌した上、関連費用2万元を認めるものとする。弁護士費用については、事件の経緯、関連費用請求基準、原告弁護士がなし得た効果的な作業等の要素を斟酌した上、15万元について認めるものとする。その認定においては、①本事件は結審までの所要時間が長く、かつ、何回にわたって開廷されたこと、②本事件が渉外事件で、その手続の進展、証拠資料の提供等において、原告弁護士による多くの作業が必要であったこと、③原告の弁護士が事件の解明、特に被告が権利侵害により得た利益を明らかにするために、多くに労力を費やし、積極的かつ有効な各種のルートを通じてその手掛かりを収集し、証拠を提供したことを特に要素として考慮した。」と認定した。
 
したがって、権利保護コストについて、裁判所に認めてもらいたい場合、当該コストの発生を証明する証拠を提供すると共に、裁判所に当該コストの発生の合理性と必要性も説明しなければならないことが分かる。
 
3.損害賠償の立証についての提案
 
1)権利者の証拠収集
 
権利侵害訴訟において、権利者が損害賠償に係る如何なる証拠も提出できなかったとしても、裁判所は、やはり事件の経緯を総合的に考慮し、法定賠償の範囲内で斟酌して損害賠償を判定する。しかし、次のような証拠を提供できた場合、裁判官が斟酌、判断する際の考量要素となるので、より高い賠償額を得ることができるだけではなく、さらに法定賠償の最高限度額を超える高額賠償を得られる可能性すら有り得る。
 
(1)被告による権利侵害の継続時間と権利侵害の範囲
 
被告による権利侵害の継続時間と権利侵害の範囲は、権利侵害の情状を説明することができるし、侵害製品の販売状況を反映することもできる。
 
権利侵害の継続時間と権利侵害の範囲に対する証明方法について、被告のウェブサイトにおける宣伝を通じて説明することができる。例えば、被告のホームページでは販売区域等が紹介されていることが往々にあり、製品の紹介では、製品の発売日等の内容も含まれていることがある。したがって、被告のホームページ又はその他のウェブサイトにおける宣伝情報について、全面的な公証を行うことができる。また、異なる時間と地点及び多種類のルートから侵害製品を購入することを通じて説明することもできる。もちろん、関連費用の節約を考慮すれば、毎回公証付で購入する必要はなく、希望している管轄地で公証付で侵害製品を購入して、管轄と侵害製品の実物を確保した後、その他の地点又はその他のルートを介して製品を購入する際、仮に公証付購入を行わなくても、できる範囲で製品の型番、数量、金額が明記された領収書又は捺印済の受取書、発注書又は送り状、送金伝票等を含む全面的な購入に係る証拠を留保しなければならない。
 
(2)被告の製品情報と財務情報
 
被疑侵害製品の販売数量のような情報については、直接取得することは往々にしてできないので、その他の情報の中から探し出さなければならない。例えば、上述の邁瑞社が理邦社を訴えた事件では、被告が公開したアニュアルレポートに記載された利益等の情報に基づき会計監査して得たモニター製品の総利益をさらにモニター製品の種類数で割ることにより、各種のモニター製品の平均利益を算出して得たものである。したがって、公開された被告の製品情報と財務情報に対して公証保全を行うことができる。
 
被告の製品情報は、そのホームページ上によく公開されており、上場会社の場合、インターネット上で会社の毎年の財務情報を公開している。したがって、ウェブサイトに対する公証を通じて必要な情報の保全を実現することができる。しかしながら、被告が非上場会社である場合、その財務情報の取得は比較的困難である。かつては、工商局に保存されている企業ファイルにおいて年度ごとの検査資料があり、それには企業が毎年提出している財務資料も含まれていたので、いずれかの地区において、企業工商ファイルを取り寄せることにより、被告の一部の財務情報を入手することができた。しかし、工商部門ではすでに企業に対する年度ごとの検査制度を廃止したので、現在企業工商ファイルの中には企業の年度ごとの財務情報が含まれなくなっている。今後の事件について、企業工商ファイルを取り寄せる方法は、すでに採用することができなくなっている。
 
また、一部の特別な業界において、その製品の製造について政府部門にて登録手続を行わなければならず、業界年鑑の中には主要メーカーの毎年の販売状況についての統計報道も含まれている。例えば、自動車業界では、国家発展改革委員会、公安部の「自動車完成品の出荷における合格証明管理の規範化に関する通知」において、「2005年7月1日から国家発展改革委員会の『車両生産企業及び製品公告』にリストアップされているオートバイを国内で販売する時、自動車生産企業は1台ごとに関連規定を満たす合格証を配布しなければならず、2005年10月1日から自動車生産企業は、国家発展改革委員会が指定した合格証情報を管理する業務部門に、配布した全ての合格証の基本情報を送達しなければならず、現在の合格証の関連情報は、データセンターへアップし、国家発展改革委員会は、合格証の作成、使用と情報送達についてその監督管理の責任を負うものとする。」と要求している。したがって、データセンターのデータは、自動車生産企業の生産台数を反映することができるといえる。その他、「中国自動車工業年鑑」等の業界年鑑においても企業の生産高と販売収入、利益等を公表している。上述の本田技研工業株式会社等が力帆実業(集団)社等を訴えた特許権侵害紛争事件において、原告が立証時に提出したデータセンターのデータ及び「中国自動車工業年鑑」等の業界年鑑の内容は、最終的に一審裁判所に認められた。
 
さらに、被疑侵害製品がインターネット販売されている場合、電子商の販売データも重要な参考になるので、かかる情況下では、電子商の販売データについて公証付保全を行うことも採用可能な方法である。
 
(3)利潤率
 
実際の損失又は権利侵害による利益を導き出す際、製品の販売数量のほかに、製品の販売価格と利潤率を明確にしなければならない。製品の販売価格は、公証付で購入することで、明らかにできるので、利潤率の証明こそがポイントとなる。
 
司法実務において、権利者のアニュアルレポートの立証を通じて権利者の利潤率を計算する方法もあれば、業界の平均利潤率について立証する方法もあり、被告のアニュアルレポートを通じて被告の全体の利潤率を立証する方法もある。事件の実際の状況に基づき、上述の3種類の方法から選択して、利潤率を算出することができる。立証の方法には、原告のアニュアルレポートの提出、業界の平均利潤率が報道された新聞雑誌の内容に対する選択又は公証、被告のアニュアルレポートの取寄せ等がある。
 
(4)被告の悪意
 
被告に権利侵害の悪意があったか否かについては、権利侵害が成立するか否かの判断にも影響を与えないし、実際の損失又は侵害により得た利益の計算にも影響を与えない。しかしながら、実際の損失又は侵害により得た利益の確定が困難になり、法定賠償により損害賠償金額を確定する際、被告に悪意があったか否かは、権利侵害の性質に係っており、裁判所が法定賠償を考量する要素の1つにもなっている。したがって、被告に悪意があったこと及び悪意の程度について立証できた場合、裁判官の心証に影響を与えるだけでなく、最終的には賠償金額の結果にも影響が及ぶ。
 
被告の悪意については、被告が侵害行為の存在を明らかに知っていたことを立証することで証明することができる。例えば、当該被告に対して権利侵害警告書を発送したか否か、被告に原告権利の存在を明らかに知っていたことを示唆する表現があったか否か、又は被告に故意に公衆に混同をもたらしたその他の侵害行為又は不正競争行為があったか否か等により立証できる。
 
(5)権利の価値
 
権利の価値も同様に、裁判官による法定賠償の判断に影響を与える要素の1つである。商標権侵害事件において、商標の知名度、ブランドの価値に対する証明は、非常に重要である。一方、特許権侵害事件においては、特許製品のイノベーション状況、受賞状況、消費者からの信頼度等もある程度裁判官の心証に影響を与えており、特許技術開発コスト、ロイヤリティ等も参考要素になっている。
 
(6) 権利保護コスト
 
司法実務において、公証付で購入した侵害製品の費用、各種の証拠保全に係る公証費用、訴訟書類の翻訳費用等の費用について、有効な領収書による証明ができた場合、通常、裁判所は、その全額を認めてくれるので、当該領収書については、合理的な権利保護コストに係る証拠として提出すべきである。
 
弁護士費用について、通常、裁判所は、事件の実情と弁護士費用の一般基準を考慮した上、一部分の金額を認めてくれる。そのため、弁護士費用の領収書の他に、同時に委託契約、弁護士費用請求基準及び細則を提出できた場合、弁護士費用の発生に係る真実性と合理性をより十分説明することができ、より多くの部分についても認めてもらう可能性がある。
 
その他の費用について、例えば、調査会社への調査依頼の所要費用は、中国では調査会社がまだ正式に認可されていないので、通常、裁判所は、当該費用を認めてくれない。したがって、調査業務については、弁護士による証拠収集作業の一部として、法律事務所を通して調査事項を委託すれば、調査費用を弁護士費用の中に含めることができ、訴訟過程において一部分認めてもらえる。
 
さらに、侵害製品の貯蔵、運輸等の費用が実際に発生した場合、関連領収書と当該侵害製品に係っていることの証明が提出できた場合、裁判所に認められる可能性も大きくなる。
 
2)裁判所への証拠収集又は証拠保全の請求
 
上述した通り、権利者が自ら収集した証拠は、被告の侵害による利益の導き出したり、権利侵害の情状と性質等を証明したりすることに用いることができるので、法定賠償額に対する裁判所の斟酌・判断に影響を与えることができる。しかし、実際の損失又は侵害による利益を確実に証明しようとする場合、被疑侵害製品の販売総数と利益等の証拠を取得することが重要なポイントになる。これらの証拠は通常、被告が掌握しており、かつ、簡単には対外的に公開しないので、権利者にとっては、裁判所に証拠保全を請求することが、これらの証拠を入手できる唯一の手段であるといえる。
 
証拠保全とは、法律規定に基づけば、裁判所が起訴前又は証拠に対する調査を行う前に、請求人、当事者の請求に応じて、職権により滅失する可能性があり、又は今後取得が困難な証拠について、調査・収集と固定・保存を行う行為のことを言う。毎年、最高裁判所が公表する「知的財産権司法保護状况」に示されている訴前の証拠保全請求の裁定の支持率は、90%を上回っており、ひいては95%に達することもある。しかし、司法実務において、製法特許又は営業秘密侵害事件でない場合、証拠保全の請求、特に被告の財務資料のみに対する証拠保全の請求が認められる比率は高くない。裁判所が公布した裁定の支持率が高い原因は、大多数の事件において、当事者の証拠保全の請求について、裁判所は、受け付けず、又は認めないことを口頭で通知し、請求の却下に係る書面裁定を発行しないからである。
 
証拠保全の請求が認められない可能性はあるものの、最善の訴訟効果を得るために、、やはりトライする価値はある。証拠保全請求時に注意すべき事項は、次の通りである。
 
(1)事前調査
 
証拠保全を請求する際、関連証拠が被疑侵害者に掌握されていること、滅失するリスクがあるという客観的な情況、及び当該証拠の存否と具体的な保存地点について、裁判所に対して説明する必要がある。一部の事件において、裁判所は、被告の財務諸表等の証拠保全に係る権利者の請求を認めないことがあるが、これは、当該保全裁定の執行の可能性と効果を考慮しているからである。例えば、被告の場所に対する調査を行っても、財務諸表が見つからなかったり、又は見つかった財務諸表では被告の真実の経営状況を説明できなかったりする可能性があるからである。かつてある裁判官が、「数件の証拠保全を行ったことがあるものの、その効果は、さほど良いものではなく、ある時は、財務資料が見つからなかったり、またある時は、保全を経た財務資料に対して会計監査をしたところ、被疑侵害製品の利益がマイナスになっていたりしたので、却って権利者の損害賠償の計算に不利だったことがあった。」と言及したことがある。したがって、裁判所に証拠保全を請求するか否かを考慮する時、事前に被告企業の経営状況に対する調査を行うことにより、被告の財務資料の所在地とその状況をできる限り把握しておくことが得策である。
 
(2)裁判所との十分な意見交換
 
上述の通り、裁判所は、当事者からの証拠保全請求を認めないことが多いものの、大部分の状況において、裁判官は、当事者の請求に対して、真面目に考慮し、慎重に研究している。担当裁判官と十分に意見交換を行い、事件の状況、証拠保全の必要性を説明すると同時に、権利侵害の可能性が大きく、保全により証拠を取得する可能性が大きいこと等を説明することにより、保全の失敗に対する裁判官の憂慮等を取り除くことができれば、権利者の請求が認められる可能性も高まるものと考えられる。通常、証拠保全の請求は、書面により提出し、その後、裁判官は、電話又は面談による方法により、権利者に状況確認を行っている。書面、電話又は面談にかかわらず、権利者は、常にしっかり準備をして、裁判官と十分な意見交換を行うことが必要である。
 
(3)証拠収集の請求
 
裁判所に被告が掌握している財務資料に対する保全を請求できるだけでなく、裁判所に税務機関等の国家機関に保存されている証拠の取寄せを請求することも考慮できる。通常、企業としては税務機関に税務申告を行っており、税務申告の内容も、企業の販売収入状況等を反映することができる。しかし、実務において、裁判所がこのような証拠収集を認める比率はさほど高くなく、取扱うことも容易なことではない。
 
(4)財務司法監査
 
被告の財務資料を順調に保全するために、財務司法監査は必要不可欠である。会計監査機関の会計監査により確定された利益取得等の情報がなければ、裁判所の支持と認可を得ることはできない。当該会計監査に必要な費用については、通常、権利者が先に納めるものの、最終的に権利侵害が確定した場合、当該費用は、被告が負担する。
 
実際に、財務司法監査だけではなく、上述の自ら証拠を収集したり、裁判所に証拠保全等を請求したりするとき、いずれも権利者の労力と金銭を費やすことになるので、多くの権利者は、費用対効果の関係を考慮した上、損害賠償の立証において、あまり多くの時間と労力を投入することを望んでないことも、最終的に高額な賠償金が得られない一因となっている。したがって、比較的良い訴訟効果を確保するために、損害賠償に対する立証もお座なりにすべきではない。
 
おわりに
 
本稿では、知的財産権訴訟における損害賠償という民事責任を負う際の難点と立証方法等について紹介してきた。
 
司法実務において、大多数の権利者は、損害賠償より侵害行為の差止めという実際的な効果を重視しがちである。しかし、侵害行為の差止めは、その執行や監督が非常に難しい。言い換えれば、損害賠償による効果は、より直接的であり、より執行しやすいものである。しかも、高額の損害賠償は、侵害者の経済力に打撃を与え、侵害者を威嚇する役割を果たせ、権利侵害の再発を防ぐことができるといえる。
 
損害賠償の平均金額は、さほど高くないものの、中国の知的財産権の保護環境は、日増しに改善されつつあり、立法の立場からみても、法定賠償の最高額は、徐々に引き上げられ、損害賠償に対する立証も権利者の立証責任を軽減させる方向に発展している。ここ数年に公布された最高裁判所の指導的意見において、権利侵害に対して経済的賠償が威嚇となり、制裁を与える役割を強化することについて、何度も言及している。しかも、法定賠償限度額を遥かに超えた高額賠償事件が次々に発生し、賠償の平均金額も増加の一途をたどっている。
 
権利者は、中国の知的財産権保護に対して自信を持つべきである。権利者は、自己の合法的な権益を最大限に保護するために、現有の司法体制下で、できる限り全方位にわたる立証を行うと同時に、自己の訴訟権の行使に尽力し、自己にとって最善の訴訟結果を目指すべきである。このような効果を実現するために、権利者と弁護士は、手を携えながら努力し、如何なる権利侵害現象に対しても横行することを放任してはならないと考える。