インターネット裁判所の訴訟活動を規範化し、当事者及びその他の訴訟参加者の合法的な権益を保護するために、最高裁判所は「インターネット裁判所の案件審理における若干の問題に関する最高裁判所の規定」(以下「規定」という)を公布し、9月7日から正式に施行する。
 
中国では去年8月に浙江省杭州市に世界初のインターネット裁判所が設立された後、中央改革全面深化委員会第3回会議で審議・採択された「北京インターネット裁判所、広州インターネット裁判所の増設に関する方案」に基づき、北京市、広東省広州市にインターネット裁判所を増設し、かつ、今月より案件を受理し始めた。杭州、北京、広州のインターネット裁判所で受理した案件が公正・高効率に審理されることを確保するために、最高裁判所は調査・研究を行い、広範な意見を聴取した上、本「規定」を検討・起草した。
 
当該「規定」は計23条あり、インターネット裁判所の管轄範囲、上訴メカニズムと訴訟プラットフォームの構築要求を規定し、身分認証、立件、応訴、立証、法廷審理、送達、署名、ファイル整理などに係るオンライン訴訟規則を定めることにより、「オンライン紛争のオンライン審理」を実現し、ネットワ—クスペース整備の法治化の推進に対して、重要な意義を有している。本「規定」は主に次のような4つの内容を含んでいる。
  
まず、案件の管轄範囲を明確にしている。インターネット裁判所ではその所在市管轄区内で基層裁判所が受理すべき特定類型のインターネット案件を集中的に管轄する。主にインターネットショッピング・サービス契約紛争、インターネット金融貸借・小額貸借契約紛争、インターネット著作権権利帰属と権利侵害紛争、インターネットドメイン紛争、インターネット権利侵害責任紛争、インターネットショッピング商品品質責任紛争、検察機関が提起したインターネット関連公益訴訟案件、インターネット行政管理による行政紛争、上級裁判所の指定管轄によるインターネット民事・行政案件を含んでいる。
 
上記の案件は、インターネット特性が際立ち、その証拠も主にインターネットにより発生・保存され、オンライン審理に適合し、訴訟の便宜を計ると同時に、裁判を通じて法による法治ネット規則を構築・制定することができる。
 
また、オンライン審理メカニズムを確立している。本「規定」では杭州インターネット裁判所のオンライン審理経験に基づき、インターネット裁判所が案件を審理する際に、審理過程の全面的なオンラインを基本原則として要求している。すなわち、案件の受理、送達、調停、証拠交換、開廷前の準備、法廷審理、判決の言い渡しなどの各訴訟ステップについて、通常、インターネット上で全部完成することを要求している。当該規定は裁判方式、訴訟規則とインターネット技術との間の高度な融合に役立ち、当事者のために訴訟上の便宜を最大限に提供し、司法上の効率を高め、インターネット時代の司法界に対する新たなニーズと新たな期待に適応している。
 
さらに、オンライン訴訟プラットフォームを構築している。本「規定」ではインターネット裁判所に訴訟プラットフォームを構築することを明確にし、裁判所が案件を取り扱い、当事者及びその他の訴訟参加者が訴訟行為を実施するための専用プラットフォームとなっている。当該プラットフォームに依託することにより、インターネット裁判所はデータリンクを開放し、関連電子商取引プラットフォーム事業者、インターネットサービスプロバイダ―、国家関連機関に係る案件関連データに秩序的にアクセスし、十分にシステムの安全性、技術的な中立を保障することを基にし、オンライン状態下での身分の確認、オンライン状態下での証拠の抽出、オンライン状態下での情報の流転を実現し、インターネット化・立体化・知能化されたインターネット裁判モデルの形成を推進する。
   
最後に、オンライン訴訟規則を改善している。本「規定」では現行民事訴訟法の枠組みにおいて、インターネット技術の最新の発展と電子的な訴訟の基本的な特徴に立脚し、司法規律を満たすだけではなく、時代潮流に追い付けるネットワーク訴訟規則を探索し、オンライン審理方式、電子的な送達方式などにおいて、重大な新機軸を打出すことにより、インターネット裁判所での改革・革新を深めるために、制度上の支援を提供している。
 
「インターネット裁判所の案件審理における若干の問題に関する最高裁判所の規定」は、2018年9月3日付で最高裁判所裁判委員会第1747回会議で通過し、ここに公布する。当該規定は2018年9月7日から施行するものとする。最高裁2018年9月6日  法釈〔2018〕16号
  
インターネット裁判所の訴訟活動を規範化し、当事者及びその他訴訟参加者の合法的な権益を保護し、公正で高効率的な案件審理を確保するために、「中国民事訴訟法」、「中国行政訴訟法」などの法律に基づき、かつ、裁判所の裁判業務の実情と結び付けて、インターネット裁判所の案件審理に係る問題について、次のとおり定める。
 
第1条  インターネット裁判所がオンライン方式を採用して案件を審理し、案件の受理、送達、調停、証拠交換、開廷前の準備、法廷審理、判決の言い渡しなどの訴訟ステップは、一般的にオンラインで完成しなければならない。
 当事者の請求又は案件審理のニーズに応じて、インターネット裁判所はオンラインで、一部の訴訟ステップを完成することを決めることができる。
 
第2条 北京、広州、杭州インターネット裁判所は、その所在する市の管轄区内において基層裁判所が受理すべき次の一審案件を集中的に管轄する。
(1)電子商取引プラットフォームを通じて、インターネットショッピング契約の締結又は履行により生じる紛争。
(2)締結・履行行為がいずれもインターネット上で完成されたインターネットサービス契約紛争。
(3)締結・履行行為がいずれもインターネット上で完成された金融貸借契約紛争、小額貸借契約紛争。
(4)インターネット上で初めて発表された著作物の著作権又は隣接権の権利帰属に係る紛争。
(5)インターネット上での著作物のオンライン発表又は伝達に係る著作権又は隣接権に対する侵害から生じた紛争。
(6)インターネットドメイン名の権利帰属・権利侵害及び契約に係る紛争。
(7)インターネット上で他人の人身権・財産権などの民事権益を侵害することにより生じた紛争。
(8)電子商取引プラットフォームを通じて購入した製品に欠陥が存在することにより、他人の人身・財産権を侵害して生じた製品責任紛争。
(9)検察機関が提起したインターネット公益訴訟案件。
(10)行政機関が下したインターネット情報サービス管理、インターネット商品取引及び関連サービス管理などの行政行為により生じた行政紛争。
(11)上級裁判所が指定管轄させたその他のインターネット民事・行政案件。
 
第3条 当事者は本規定第2条に確定する契約及びその他の財産権益紛争範囲において、法により争議と実際に関連がある所在地のインターネット裁判所による管轄とすることを協議にて約定することができる。
 
電子商取引の経営者、インターネットサービスプロバイダ―などがフォーマット条項の形式を採用して、ユーザーと管轄協議を締結した場合は、フォーマット条項に関する法律及び司法解釈の規定を満たさなければならない。
  
第4条 当事者が北京インターネット裁判所の言い渡した判決、裁定に対して上訴を提起した案件について、北京市第四中等裁判所より審理するものの、インターネット著作権の権利帰属・権利侵害紛争、インターネットドメイン名紛争に係る上訴案件については、北京知的財産権裁判所より審理するものとする。
 
当事者が広州インターネット裁判所の言い渡した判決、裁定に対して上訴を提起した案件について、広州市中等裁判所より審理するものの、インターネット著作権の権利帰属・権利侵害紛争、インターネットドメイン名紛争に係る上訴案件については、広州知的財産権裁判所より審理するものとする。
 
当事者が杭州インターネット裁判所の言い渡した判決、裁定に対して上訴を提起した案件については、杭州市中等裁判所より審理するものとする。
 
第5条  インターネット裁判所は、インターネット訴訟プラットフォーム(以下「訴訟プラットフォーム」という)を構築し、裁判所が案件を取り扱い、当事者及びその他の訴訟参加者が訴訟行為を実施する際の専用プラットフォームとしなければならない。訴訟プラットフォームを通じて実施される訴訟行為は、法的効力を有する。
 
インターネット裁判所が案件を審理する際に必要とする案件のデータは、電子商取引プラットフォームの経営者、インターネットサービスプロバイダ―、関連国家機関が提供するものとし、かつ、秩序的に訴訟プラットフォームにアクセスし、インターネット裁判所がオンラインで確認し、タイムリーに固定し、安全的に管理するものとする。案件のデータに対する訴訟プラットフォームにおける保存と使用は、「中国ネットワーク安全法」などの法律・法規の規定を満たさなければならない。
 
第6条 当事者及びその他の訴訟参加者が訴訟プラットフォームを使用して訴訟行為を実施する際、身分証明資料、証書証明資料の対比、生物特徴の識別又は国家統一の身分認証プラットフォームによる認証などのオンライン方式を通じて、身分認証を完成し、かつ、訴訟プラットフォームにアクセスするための専用アカウントを取得しなければならない。
 
専用アカウントを使用して、訴訟プラットフォームにアクセスすることで実施した行為は、被認証者本人の行為とみなされる。ただし、訴訟プラットフォームの技術的な原因によりシステム故障が生じたり、被認証者が訴訟プラットフォームのアカウントが盗用されたりしたことを証明できる場合は除外する。
  
第7条 インターネット裁判所がオンライン状態で原告の提出した起訴書類を受け入れ、かつ、書類を受け入れた後7日以内にオンライン状態で以下のとおり処理する。
 
(1)起訴要件を満たす場合は、登録・立件し、かつ案件受理通知書、訴訟費用納付通知書、立証通知書などの訴訟文書を送達する。
 
(2)提出された書類が要件を満たさない場合は、適時に補正通知を送付し、かつ補正書類を受け入れた後の翌日から改めて受理期日を起算し、原告が指定期限内に補正しない場合は、起訴書類に対して撤回処理を行う。
 
(3)起訴要件を満たさない場合は、釈明を経て原告が異議を申し立てなければ、起訴書類を返還処理し、原告が引き続き起訴を堅持する場合は、法により受理拒絶裁定を下す。
  
第8条 インターネット裁判所は、案件を受理した後、原告より提供した提携電話番号、ファクシミリ、電子メール、インスタント通信アカウントなどを通じて、被告、第三者に対して、訴訟プラットフォームを通じて、案件関連と身分認証を行うように通知する。
 
被告、第三者は訴訟プラットフォームを通じて、案件情報を把握し、訴訟書類を受け入れ、提出し、訴訟行為を実施しなければならない。
   
第9条 インターネット裁判所がオンラインの証拠交換を組織する場合、当事者はオンライン電子データを訴訟プラットフォームにアップロードし、導入するか、又はスキャン、複製、ダビングなどの方式を通じて、デジタル化処理を経て、訴訟プラットフォームにアップロードして立証しなければならず、すでに訴訟プラットフォームに導入した電子データを運用して、自己の主張を証明することもできる。
  
第10条 当事者とその他の訴訟参加者が技術的手段を通じて、身分証明書、営業許可書副本、授権委任状、法定代表者の身分証明書などの訴訟書類、及び証書、鑑定意見、実地検証筆録などの証拠資料に対して、デジタル化処理を経て提出した場合は、インターネット裁判所による審査の上、通過した後、原本形式の要件を満たすものとみなされる。相手側当事者が上記書類の真実性について異議を申し立て、かつ合理的な理由を有する場合、インターネット裁判所は当事者に対して、原本の提供を求めなければならない。
 
第11条 当事者が電子データの真実性に対して、異議を申し立てた場合、インターネット裁判所は証拠調べの状況に合わせて、電子データの生成、収集、保存、伝送過程の真実性を審査・判断し、かつ次の内容を重点的に審査しなければならない。
 
(1)電子データの生成、収集、保存、伝送が依存したコンピューターシステムなどのハードウェア、ソフトウェアが安全、信用できるか否か。  
(2)電子データの生成主体と期日は正確であるか否か、表記内容が明晰で客観的で正確であるか否か。
(3)電子データの保存、保管媒介は明確であるか否か、保管方法と手段は妥当であるか否か。
(4)電子データの抽出と固定化された主体、ツールと方式は信用できる否か、抽出過程は再現可能か否か。
(5)電子データの内容に追加、削除、修正及び不完全などの状況が存在するか否か。
(6)電子データは特定の形式により認証できるか否か。
 
当事者の提出した電子データが電子署名、信頼できるタイムスタンプ、ハッシュ値チェック、ブロックチェーンなどの証拠収集、固定的で改ざん防止などに係る技術的手段又は電子証拠収集・保管プラットフォームの認証を通じて、その真実性を証明できる場合、インターネット裁判所は確認しなければならない。  
 
当事者は専門知識を有する者に電子データの技術問題について、意見の提出を請求することができる。インターネット裁判所は当事者の請求又は職権に基づき、電子データの真実性に対する鑑定を依託したり、その他の関連証拠を取り寄せて確認したりすることができる。  
 
第12条 インターネット裁判所はオンライン動画方式を採用して法廷審理を行なうものとする。確かに法廷での身分調査、原本の確認、実物検査などの特殊事情がある場合、インターネット裁判所はオンラインでない状態下での法廷審理を決めることができる。しかし、その他の訴訟ステップは、依然としてオンライン状態下で完成しなければならない。
  
第13条 インターネット裁判所は状況に応じて、次に掲げる方式を採用して、法廷審理の手続を簡易化できる。
 
(1)開廷前にすでにオンライン状態下で当事者の身分確認、権利・義務の告知、法廷審理紀律の宣言を完成した場合、開廷時に再度繰り返さなくてもよい。
 
(2)当事者がすでにオンライン状態下で証拠交換を完成した場合、争議がない証拠について、裁判官は法廷審理において説明した後、再び立証・証拠調べを行なわなくてもよい。
 
(3)当事者の同意を得た上、当事者の陳述、法廷調査、法廷弁論などの法廷審理の各ステップは、併合して行なうことができる。簡単な民事案件についての法廷審理は、直接訴訟上の請求又は案件要素をめぐって行うことができる。
 
第14条 インターネット裁判所は、オンライン法廷審理の特徴に基づき、「中華人民共和国裁判所法廷規則」の関連規定を適用するものとする。調査を経てネットワークの故障、設備の損害、電力中断又は不可抗力などの原因を明らかにした場合を除き、当事者が時間どおりにオンライン法廷審理に出頭しない場合は、「出廷拒否」とみなし、法廷審理の中から無断で退出した場合は、「中途退廷」とみなし、それぞれ「中華人民共和国民事訴訟法」、「中華人民共和国行政訴訟法」及び関連司法解釈に基づいて処理するものとする。
  
第15条 当事者の同意を得た上で、インターネット裁判所は中国裁判手続の情報公開サイト、訴訟プラットフォーム、携帯電話のメッセージ、ファクシミリ、電子メール、インスタント通信アカウントなどの電子方式を通じて、訴訟文書及び当事者が提出した証拠資料などを送達すべきである。
 
当事者が同意することを明確に表明していないものの、すでに紛争発生時の訴訟過程に電子的な送達を適用することを約定した場合、又は受領の回答、相応する応訴行為の表明などの方式を通じて、すでに完成された電子的な送達を受け入れ、かつ、電子的な送達に対する否認を明確化していない場合は、電子的な送達に同意したものとみなす。
 
当事者の権利・義務に対する告知を経て、かつその同意を得た上で、インターネット裁判所は電子的な送達により、裁判文書を送達することができる。当事者が紙質の裁判文書に対するニーズを提出した場合、インターネット裁判所はそれを提供しなければならない。
  
第16条 インターネット裁判所は、電子的な送達を行う際に、当事者に電子的な送達の具体的な方式と住所を確認し、かつ電子的な送達の適用範囲、効力、送達アドレスの変更方式及びその他の告知必須の送達事項を告知しなければならない。
 
被送達人が有効な電子的な送達のアドレスを提供していない場合、インターネット裁判所は被送達人本人の直近3ヶ月以内に日常的に有効状態にある携帯電話番号、電子メール、インスタント通信アカウントなどの常用電子アドレスを優先的な送達住所とすることができる。
  
第17条 インターネット裁判所が被送達人の自ら提供し、又は確認した電子アドレスに送達する場合、その送達情報が被送達人の特定システムに送達されたときを送達とみなす。
 
インターネット裁判所が被送達人の常用の電子アドレス又は入手できたその他の電子アドレスに送達する場合は、次に掲げる状況に基づいて、その送達が完成されたか否かを確定する。
 
(1)被送達人がすでに送達書類を受領したと回答したり、送達内容に基づいて相応する訴訟行為を行ったりした場合、有効な送達が完成されたものとみなす。
 
(2)被送達人の媒介システムにより被送達人がすでに閲読・了解したことをフィードバックし、又はその他の証拠により被送達人がすでに受領したことを証明できる場合は、有効な送達が完成されたものと推定する。ただし、被送達人が媒介システムに故障が存在すること、送達アドレスが本人の所有又は使用に該当しないこと、本人が閲読・了解していないことなどを証明できる状況は除外する。
 
有効な送達が完成された場合、インターネット裁判所は電子的な送達証憑を作成しなければならない。電子的な送達証憑は送達受取書の効力を有するものとする。
  
第18条 公告による送達を必要とする事実が明らかで、権利・義務関係が明確な簡単な民事案件について、インターネット裁判所は簡易手続を適用して審理することができる。
  
第19条 インターネット裁判所がオンライン審理を行なった案件について、裁判人員、判事補、書記官、当事者及びその他の訴訟参加者などがオンライン確認、電子スタンプなどのオンライン方式を通じて、調停協議、筆録、電子的な送達証憑及びその他の訴訟書類を確認した場合、「中国民事訴訟法」における「署名」の要求を満たすものとみなす。
  
第20条 インターネット裁判所がオンライン審理を行なった案件について、調停、証拠交換、法廷審理、合議などの訴訟ステップにおいては、音声識別技術を運用して、同期に電子的な筆録を生成できる。電子的な筆録はオンライン方式によりチェック・確認された後、書面による筆録と同等な法的効力を有する。
  
第21条 インターネット裁判所は訴訟プラットフォームを利用して、案件と同期に電子文書を形成し、電子ファイルを形成させなければならない。案件の紙質ファイルの全てがすでに電子ファイルに転化されている場合、電子ファイルをもって、紙質ファイルに代替し、上訴のための移送と書類の保存に用いることができる。
  
第22条 当事者がインターネット裁判所が審理した案件について上訴を提起した場合、二審裁判所は原則的にオンライン方式を採用して審理する。二審裁判所はオンライン審理規則について、本規定を参照して適用するものとする。
  
第23条 本規定は2018年9月7日から施行する。最高裁判所が以前に発布した司法解釈と本規定が一致しない場合は、本規定に準ずるものとする。