北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 陳 傑

前書き

2015年から2016年に弊所が代理したパナソニック株式会社(以下、「パナソニック社」という)が珠海金稲電器有限公司(以下、「金稲社」という)を訴えた「スチーマー」に係る意匠権侵害紛争事件において、一審裁判所の北京知識産権法院と二審裁判所の北京市高級人民法院は、パナソニック社が主張した賠償額320万元の訴訟請求を全額容認する判決を言い渡した。本事件(以下、「前事件」という)は北京市高級人民法院により2016年度北京市法院知的財産権保護10大典型事例に、最高人民法院により2016年度中国法院10大知的財産権事件に選出され、国内外の広範な注目を集め、大きな社会的影響力を有した。

しかし、上記判決が発効した後、金稲社は侵害行為を中止しなかったため、パナソニック社は再度訴訟を提起しなければならなかった。一審裁判所の北京知識産権法院は、金稲社に対して経済的損失450万元、共同被告の北京麗康富雅商貿有限公司(以下、「麗康富雅社」という)に対して経済的損失5万元、及び金稲社と麗康富雅社に対して共同で訴訟の合理的支出15万元の支払いを命ずる判決を言い渡した。その後、二審裁判所の北京市高級人民法院は、一審判決を維持する判決を言い渡し、長年にわたり続いた本事件を終結させた。

本事件は繰り返し侵害にかかわるもので、侵害行為が発生した時、専利権侵害に係る懲罰的賠償制度がまだ導入されていなかったため、懲罰的賠償が適用されなかった。弊所弁護士が、数回にわたり保全された証拠物である被疑侵害品の販売データに基づき、被告の権利侵害における悪意、侵害行為の継続期間、販売台数と利益などを強調した結果、裁判所は最終的に、弊所の主張を支持し、前事件より高い賠償額を認めてくれ、侵害者に対して打撃的な効果を与えた。

本稿は、本事件を通じて、中国専利権侵害の実務における繰り返し侵害に対する対応策及び損害賠償の計算について説明するものであるが、少しでも参考になれば幸いである。

事件の概要
 
1.基本情報
一審原告  パナソニック株式会社
一審被告1 珠海金稲電器有限公司
一審被告2 中山市金稲電器有限公司
一審被告3 北京麗康富雅商貿有限公司
 
審理裁判所及び受理番号
一審 北京知識産権法院(2017)京73民初1156号
二審 北京市高級人民法院(2020)京民終801号
 
2事件の経緯

パナソニック社は、1918年に創業された世界的な電機メーカーである。同社のブランド製品は、家電、オーディオビジュアル製品、オフィス製品、美容製品など多くの分野で世界的に有名である。また、最も早く中国に進出した日本企業として、パナソニック社のブランドは、中国において知名度が非常に高い。近年、パナソニック社が開発したフェイスケアのスチーマーは、中国消費者の極めて高い人気を博している。

パナソニック社は、スチーマー製品の一つについて、2011年6月1日に中国国家知識産権局に美容器の意匠を出願し、2012 年9 月5 日に意匠権登録された。この意匠権は、登録公告番号がZL201130151611.3であり、優先日が2011年1月26日であった。

金稲社は中国の美容機器メーカーで、スチーマーはその定番製品であった。金稲社は2013年から、パナソニック社の本件意匠に係る物品を模倣したKD2331(取っ手付き、取っ手なしの2種類を含む)、KD2331T(取っ手なし)のスチーマーを大量に製造、販売、宣伝し始めた。パナソニック社はECプラットフォームに金稲社の前記被疑侵害品の販売リンクを削除申請したが、金稲社が全く侵害行為を中止する意思がなかったので、被疑侵害品を販売しているオンラインショップの麗康富雅社を共同被告として北京知識産権法院に意匠権侵害訴訟を提起し、侵害行為を差止めた上、金稲社に対して経済的損失300万元、両被告に対して共同で合理的支出20万元を支払うように請求した。

北京知識産権法院は、2015年2 月に当該事件を受理し、2015年11 月に、金稲社が製造したKD2331(取っ手付き、取っ手なしの2種類を含む)、KD2331T(取っ手なし)がパナソニック社の本件意匠に類似し、本件意匠の権利範囲に属していると判断した上で、両被告に対して侵害行為の差止め、金稲社に対して経済的損失300万元、金稲社と麗康富雅社に対して合理的支出20万元の支払いを命ずる判決を言い渡した。

金稲社、麗康富雅社は一審判決を不服として、上訴した。北京市高級人民法院は、被疑侵害品が本件意匠の権利範囲に属し、賠償額に関して、一審裁判所がパナソニック社の経済的損失の賠償請求を全額容認したことについて、事実及び法的根拠があるとして、2016年12月に一審判決を維持する(2016)京民終245号民事判決書を言い渡した。

しかし、上記判決が発効した後も、金稲社は侵害行為を中止せず、KD2331を販売し続けただけでなく、製造規模をさらに拡大させるために、新たな製造基地として中山市金稲電器有限公司を設立し、元の被疑侵害品に非常に類似しているKD2331(元のKD2331とは微差がある)、KD2331A、KD2331Sの3種類のスチーマーを発売した。そのため、パナソニック社は2017年6月、両金稲社及び麗康富雅社を被告として、北京知識産権法院に意匠権侵害訴訟を提起し、経済的損失500万元及び合理的支出20万元の支払いを請求しなければならなかった。

北京知識産権法院は本事件を審理して、2020年6月に、両金稲社が製造しているKD2331、KD2331A、KD2331Sの3種類のスチーマーはパナソニック社の本件意匠の権利範囲に属すると判断し、両金稲社に対して経済的損失450万元、麗康富雅社に対して経済的損失5万元及び3被告に対して共同で合理的支出15万元の支払いを命ずる(2017)京73民初1156号民事判決書を言い渡した。

双方当事者は一審判決を不服として、上訴した。北京市高級人民法院は審理を経て2021年6月に、一審判決を維持する(2020)京民終801号民事判決書を言い渡した。

Ⅱ 専利権侵害紛争における繰り返し侵害に対する対応策

侵害行為の差止めは、侵害者が負うべき最も基本的な民事責任であり、権利者が権利行使する最も主要な目的でもある。しかし、実務において、侵害行為の差止めという民事責任を負う方式は、裁判所から支持されることが多いが、執行において問題が存在している。侵害行為を繰り返し行ったり、侵害者の身分や製品の包装、型式を変更したりして侵害行為を継続する状況がよく見られる。本事件において、金稲社は前事件の判決が発効した後も、元の権利侵害品の在庫を何ヶ月にもわたり販売し続け、かつ元の権利侵害品の意匠に微調整を加え、新製品として宣伝、販売を継続した。

このような継続的な侵害及び繰り返し侵害に対して、理論的には以下のような法的措置を講じることが考えられる。

1.裁判所への強制執行の申請

被告が言い渡された判決義務を履行しない場合、原告は裁判所に強制執行を申請できる。そのため、被告が、発効した判決で命じられた侵害行為を差止める義務を履行せずに、侵害行為を継続した場合、原告は、裁判所に判決における義務を強制執行することを申請できる。しかし、実務において、金銭と物品に対する強制執行は有効であるが、行為に対する、特に不作為に対する執行を実施することは困難である。侵害行為の差止めとは通常、製造しない、販売しない、使用しないなどの不作為の形式によるものである。実務において、裁判所が採用できる執行手段としては、執行裁判官と被執行者との面談、裁判官が被執行者に被疑侵害品を引き続き製造、販売又は使用しないことを重ねて言明すること、被執行者に面談記録にサインし、保証してもらうことなどが挙げられる。

本事件において、実際には、金稲社が判決義務をタイムリーに履行しなかったため、パナソニック社は北京第一中級人民法院に、発効した前事件の判決に対する強制執行を申請した。パナソニック社の強制執行の申請内容は、賠償額の支払いだけでなく、金稲社が権利侵害品の対外販売を継続している状況を裁判所に説明した上で、オンラインショップの販売サイトのページなどの画像などの資料も裁判所に提出した。しかし、上述のように、不作為に対する執行を実施することは困難であるので、裁判所は被執行者に侵害行為を差止めるよう、執行裁定を下したが、その効果は微々たるものであった。

2.行政機関への処理の請求

周知のように、中国では、専利権侵害紛争が生じた場合、裁判所に提訴する司法保護を求めることができるだけでなく、行政機関に紛争処理を請求することも考えられる。

繰り返し侵害について、『専利行政執法弁法』第20条に、「専利業務管理部門又は人民法院が、権利侵害が成立すると認定し、かつ侵害行為の即時差止めを命じる処分決定又は判決を出した後に、被請求者が同一専利権に対し、同一種類の侵害行為を再度行い、専利権者又は利害関係者が処分を請求する場合、専利業務管理部門は侵害行為の即時差止めを命じる処分決定を直接出すことができる」と規定されている。

上述の規定から見れば、継続的な侵害又は繰り返し侵害に対し、行政機関の処分を請求する場合、行政機関は審理せずに侵害行為の即時差止めを命じる処分決定を出すことができる。しかし、権利侵害が成立すると認定され、かつ侵害行為の差止めを命じる処分決定が既に出されたことが前提であり、侵害行為の差止めを命じる処分決定を再度出すことによって、侵害者の責任が重くなることはないし、その処分決定が執行されるか否かという問題にも直面することになる。この視点から見れば、行政機関に処分を請求する意味があまりない。ただし、隠蔽性のある侵害行為に対し、行政機関に処分を請求することには肯定的な意義がある。行政機関が行う現場検証は、権利者が侵害者による繰り返し侵害に関する有力な証拠を取得することに役立つ。弊所が代理している繰り返し侵害による事件においても、行政機関に処分を請求することで立証を補充できたことがある。

また、専利権侵害紛争に係る行政処分には罰金などの行政処罰に関する規定はないが、『福建省専利促進及び保護条例』第39条には、「専利権侵害が成立すると認定された行政処分決定又は民事判決が発効した後に、侵害者が同一の専利権に対し、同一種類の侵害行為を再度行い、専利権者又は利害関係者が処分を請求した場合、専利業務管理部門は侵害行為の即時差止めを命じる処分決定を直接出し、違法所得を没収すると共に、違法所得の1倍以上5倍以下の罰金に処することができる。違法所得がない場合は、1万元以上5万元以下の罰金に処する。」と規定されており、罰金の処罰に関する内容が追加され、侵害者に対する打撃をさらに加えた。ただし、上述の規定は福建省の地方規則に過ぎず、現在のところ、繰り返し侵害に対する行政責任を拡大する全国的な規定はまだ制定されていない。

3.別途提訴

上述した2つの対応策は、不作為に対する執行を実施することが困難であることに対して、別途提訴することは、実施することが困難な侵害行為の差止めに対する執行を、実施しやすい金銭の補償へ転換できるという利点がある。つまり、継続的な侵害又は繰り返し侵害に対して、損害賠償を請求できるということである。特に懲罰的賠償制度が導入されたことで、判決が発効された後に継続的な侵害又は繰り返し侵害行為に対して、懲罰的賠償を請求できるため、権利者の利益を保護すると同時に、侵害者に対する懲罰も強化した。

別途提訴には、次のようなもう一つの利点がある。実務において、被疑侵害者が敗訴した後、以前からの権利侵害品を引き続き製造して販売するのではなく、以前からの権利侵害品を改良した上で販売することが多いため、改良した製品が依然として権利侵害に該当するか否か、改めて判断することが必要である。そのため、強制執行又は繰り返し侵害に対する行政処分によって直接に解決することは困難である。この場合、別途提訴すれば、同一製品による継続的な侵害及び改良品による侵害を合わせて解決できる。裁判所は、本事件において、金稲社の以前からの権利侵害品及び改良された権利侵害品を含む多くの権利侵害品に対して、権利侵害に該当すると判断し、権利侵害品の販売による全ての販売利潤を考慮した上で、損害賠償について判断を下した。

 一方、別途提訴は時間がかかり、コストが高いというデメリットがある。本事件の場合、2017年6月に再度提訴してから、2021年6月に終審判決が言い渡されるまで、4年間かかった。それは、北京インターネット法院、最高人民法院知識産権法廷の設立によって北京知識産権裁判所の裁判官に頻繁な人事異動及び新型コロナウイルスの影響による開廷審理の延期などがあったからである。通常、権利侵害訴訟事件の解決に4年もかからない。また、本事件の終審判決が2021年6月に言い渡されたが、金稲社は二回目の訴訟の大きなプレッシャー及び裁判官の勧告に鑑み、2018年8月までにすべての侵害行為を止めた。

4.刑事責任の追及

2007年1月に、当時の最高人民法院副院長であった曹建民氏が『全国法院知的財産権裁判業務座談会』において、「侵害行為の差止めについての判決が発効し、かつ執行措置を講じた後に、侵害者が侵害行為を継続した場合、権利者は法律に基づき別途提訴し、その新たに発生した行為の民事責任を追及できる。審理によって、侵害者が原判決で認定された侵害行為を引き続き実施したと認定された場合、裁判所は実際の状況に応じて、公安、検察機関と調整し、法律に基づき、判決・裁定執行拒絶罪により刑事責任を追及しなければならない」と発言した。上述発言の内容に基づき、別途提訴し、審理によって、侵害者が原判決で認定された侵害行為を引き続き実施したと認定された場合、侵害者の刑事責任を追及できる。ただし、司法実務において、このような判例はまだない。

『最高人民法院による判決及び裁定の執行拒絶に関わる刑事事件の審理における法律の適用に係る若干問題に関する解釈』第2条にも、刑法第313条の解釈に規定している「その他に執行能力があるものの、執行を拒絶する深刻な情状」と認定すべき具体的な行為を挙げている。

上述の司法解釈の規定及び最高人民法院が発表した典型事例から見れば、判決・裁定執行拒絶罪は現在、主に財産移転、執行能力があるものの支払いを拒絶するなどの事件に集中している。知的財産権侵害、特に専利権侵害の認定は複雑で、専門性が高いため、侵害者の刑事責任を安易に認定せずに、民事賠償責任によって処理する傾向にある。

したがって、総合的に見れば、侵害行為の差止めの観点から見ても、十分な賠償を取得する観点から見ても、別途提訴するのは繰り返し侵害に対応する最適な選択である。これも、本事件において、パナソニック社は再度訴訟を提起した理由である。

専利権侵害事件の賠償責任

2008年版の専利法第65条の規定によれば、専利権侵害の賠償額は、権利者の損失、侵害者の得た利益及び専利の実施許諾料などに基づいて算出するが、算出するのが困難な場合には、裁判所は専利権の種類、侵害行為の性質と情状などに基づいて賠償額を決定できる。第4回改正専利法では、賠償額を算出する基本方法に関する内容には変更はないが、法定賠償額が引き上げられ、懲罰的賠償制度が導入された。

しかし、専利権侵害事件の裁判実務において、権利の価値、収益及び侵害行為による実際の損失の具体的な金額を算出するのは困難である。侵害者、訴外は通常、自分が把握している権利者の実際の損失又は侵害者が侵害行為によって利益を得たことに関する証拠を自ら提示せず、権利者が自身の証拠収集能力の限界によって証拠を収集できないため、実際の損失額又は侵害行為によって得た利益額を確認するのが難しいケースはよくある。この場合、裁判所が酌量して賠償額を決定する時、10万元程度に抑えることが多い。

前事件が10大事例に選出され、広範な注目を集めた理由の一つは、裁判所がパナソニック社の計320万元に及ぶ賠償請求を全額容認したからである。当時の司法実務において、意匠権侵害事件で認められる賠償額は概ね、数万元であった。また、当時の専利法に規定されていた法定賠償額の上限額が100万元という状況下で、前事件の320万元の賠償額は画期的な意義があり、意匠権の価値が十分に示されていると言える。

本事件において、裁判所は、当時の法定賠償額の上限より遥かに高く、かつ前事件より高い賠償額を支持した。また、本事件における賠償額の認定は全体的により詳細に、十分に行われた。本事件の一審裁判所は、珠海金稲社と中山金稲社の侵害により得た利益、本件意匠の貢献度、珠海金稲社と中山金稲社の主観的な悪意及び繰り返し侵害行為であるという3つの要素に基づいて、珠海金稲社と中山金稲社の賠償責任を判断したことを一審判決書に明確に示した。

1.侵害により得た利益

パナソニック社も侵害により得た利益額に関する確実な証拠の取得が難しいという問題に直面していたものの、中国においてネット販売が普及し、被疑侵害品が主にECプラットフォームで販売されている日用品であったため、被疑侵害品の販売により得た利益を算出する初歩的な証拠を見つけることができた。ECプラットフォームにおける被疑侵害品の販売記録によって侵害により得た利益を計算するという基本的な考えに基づき、弊所弁護士はタオバオ(TAOBAO)、アリババ、京東(JD.com)などの主なECサイトで被疑侵害品が販売された証拠を確保した。

前事件において、確保された証拠を統計した結果によれば、被疑侵害品は、タオバオサイトにおける1ヶ月の販売台数が140,918台、アリババサイトにおける3ヶ月間の販売台数が18,411,347台に達していた。被疑侵害品の単価が260元であることと結び付けると、1台あたりの被疑侵害品の利益を低く見積もっても、侵害者が被疑侵害品の侵害により得た利益は数千万元に達することになる。そのため、裁判所は、パナソニック社の320万元の賠償請求を全額容認した。

本事件において、弊所弁護士は、複数の時点で公証又はタイムスタンプにより、3大ECプラットフォームで被疑侵害品が販売された証拠を確保し、金稲社の直営店が直接に小売で販売した台数と、その他の代理店を経由して卸売で販売した台数、異なる単品の利益及び3種類の侵害品の販売期間、販売台数、販売価格及び販売により得た利益などをそれぞれ統計した。

一方、金稲社も本事件において多くの立証を実施した。前事件において、金稲社はECプラットフォームで販売された被疑侵害品の大部分が模倣品であり、サイトで確認された販売台数も架空注文などによるものであると主張したが、如何なる証拠も提出しなかったため、その主張を裁判所に認めてもらえなかった。本事件において、金稲社はECプラットフォームにおいてクレーム、告発、訴訟などの方法で行った模倣品対策の関連証拠を提出すると共に、ECプラットフォームの直営店及び主な代理店のバックグラウンドデータを取り寄せ、プラットフォームを運営するコストが大きく、被疑侵害品1台あたりの利益が低いなどを強調した。

そのため、一審裁判所は開廷審理の他に、別に関連データに対する検証を一日かけて行った。当事者双方は相手の統計データに対し、証拠調べを十分に行い、最終的に金稲社の直営店が小売で販売した台数と平均販売価格などを確定した。また、当事者双方が卸売による被疑侵害品の販売台数については依然として異なる意見を持っていたため、卸売による被疑侵害品1台あたりの利益及び小売におけるコストなどについて、それぞれ立証して、主張の合理性を説明した。

弊所が証拠に基づき算出した珠海金稲社と中山金稲社が侵害により得た利益は、1,023万元に達した。この金額は被疑侵害品が京東、アリババ、タオバオなどのプラットフォームにおける評価件数、販売台数及び3被告が提出した証拠に示されたコストに基づいて算出したものである。算出に使用した全てのデータはいずれも出所と関連証拠によって支持され、事実・根拠も十分であった。一審裁判所も、弊所が算出した被疑侵害品の利潤率は、同業界の通常の利潤率より低いと判断し、弊所が主張した計算方法及び算出結果の合理性を認めてくれた。

.専利の貢献度

前事件において、裁判所は専利の貢献度に明確に言及しなかったが、本事件において、裁判所は、本件意匠の貢献度が賠償額を判断する要素の一つであることを明確にし、製品の製造による利益と販売による利益は当然、侵害により得た利益と同等ではなく、侵害により得た利益を判断する際に、専利の貢献度を考慮すべきであることを指摘した。

司法実務において、通常、意匠の貢献度が発明特許、実用新案の貢献度より低いとされているが、製品の種類と実際の状況も考慮することが必要である。例えば、弊所が強調したように、本事件に係るスチーマーの消費者は主に美容に関心の高い女性であり、製品を選択する際に製品の外観の美感に重きを置く。そのため、本件意匠は製品利益に対する貢献度が明らかに高いと言える。一審裁判所は、本件意匠に係る物品の技術含有量が高くないものの、ブランドの知名度、外観の美感、販売価格などの要素が消費者に購買意欲に影響を及ぼしていることを認めたが、本件意匠の貢献度の具体的な数字は明らかにしなかった。

また、弊所は二審において、(2019)最高法知民終147号事件における最高人民法院の意見に基づき、専利権者が、被疑侵害者の侵害により得た利益で損害賠償額を算出すべきであると主張し、かつ侵害規模の事実に対して初歩的な立証をしたが、被疑侵害者が正当な理由なく、侵害規模の事実に関連する証拠材料を提出することを拒絶し、侵害により得た利益を算出する基礎事実を正確に確定できなかった場合、被疑侵害者からの専利が侵害により得た利益に対する貢献度を考慮すべきであるとの抗弁主張を考慮すべきではないことを強調した。

二審裁判所は、侵害により得た利益又は貢献度について詳しく陳述しなかったが、一審裁判所がパナソニック社の主張した算出方法を参考にして、貢献度と主観的な悪意などを総合的に考慮し、自由裁量で法定賠償上限以上の賠償額を確定したのは妥当であると判断した。

3.主観的な悪意と繰り返し侵害

本事件で主張した侵害行為は2015年1月から2018年8月(2015年1月以前の侵害行為がすでに前事件で主張された)に実施され、侵害行為が発生した時、懲罰的賠償制度に関する規定は2013年の旧商標法のみに規定され、民法典もまだ施行されていなかった。したがって、当時、専利権侵害に関する懲罰的賠償制度はまだ導入されていなかった。ただし、悪意による侵害、繰り返し侵害に対して、懲罰を強化すべきことは複数の司法文書において強調されていた。例えば、『最高人民法院による国家知的財産戦略の徹底実施における若干問題に関する意見』第5条には、「特に損害賠償が権利侵害制裁と権利救済における役割を発揮し、全面的な賠償原則を堅持し、法律に基づき賠償力を強化し、悪意による侵害、繰り返し侵害、侵害の規模化などの深刻な侵害行為の賠償責任を強め、権利者が十分な損害賠償を獲得することを確保し、当事者の合法的権益の実現を確実に保障するよう努力する」と強調している。

したがって、本事件において、金稲社は、前事件の訴訟過程において製造、販売を継続し、ひいては侵害が成立した前事件の判決の発効後に、侵害行為の差止めについての判決を無視して、侵害行為を継続し、かつ製造規模を拡大した。さらに、金稲社は、2017年にパナソニック社が提訴した後に、裁判所が数回の調停を行い、当時の裁判官補が侵害リスクを説明した後も、「独身の日」などの販促イベンドのチャンスを放棄したくなく、製造、販売を継続していた。弊所は、金稲社のこのような主観的な悪意と繰り返し侵害を、裁判所に対して強調した。また、弊所は、前事件を分析する業界内の論文を証拠として提出し、発効された判決の執行を拒絶した金稲社の行為が業界で広く注目され、良くない社会的な影響がもたらされ、発効された判決の公信力に直接影響を及ぼしたことも、強調した。

一審裁判所は判決において、「金稲社の行為から、その侵害行為を差止める主観的な意思がないことが明らかである。侵害行為の差止めに関する客観的な事実もない。侵害行為を継続した金稲社の行為は悪意による侵害と繰り返し侵害に該当し、金稲社は高い賠償額を支払う法的責任を負わなければならない」とはっきりと判示した。

結び

近年来、中国の裁判所は知的財産に対する保護の強化及びその成果は明白である。法定賠償額の上限と下限の引き上げから懲罰的賠償制度の導入まで見れば、本事件のような繰り返し侵害事件の侵害者は必ず大きな代価を払うと信じられる。権利者も自身の権利が保護されることに自信を持つことができる。だたし、高額の賠償額には源流のない川ではない。権利者にとって、積極的な権利行使及び合理的な立証を行うことが必要不可欠である。