北京魏啓学法律事務所
中国弁護士 姚 敏
 
商標のデザインは商標登録出願及び使用の第一歩であり、商標の文字は内容と形式から感情を伝え、気持ちを表す役割を果たしている。文字商標にとって、デザインする時点からフォントの選定を考える必要があり、公知・公用のフォントである宋体、楷書体、ゴシック体などもあれば、例えば洒脱、古風で飾り気がなかったり、現代的であったり、萌え文字などであったりする様々なスタイルの特定のフォントもある。フォントに特定のスタイルが要求される場合、公知・公用の宋体、楷書体、ゴシック体などでは表現できないこともあり、特殊なデザインのフォントを使用することを考慮する必要がある。しかし、多くの特殊なデザインのフォントは、宋体、楷書体、ゴシック体などのフォントのように自由に使用できないことがあり、許諾を得ずに商標に特殊なデザインのフォントを使用すると、商標権者は法的リスク及び経済的な損失に直面することになる。本稿ではフォントに関する権利を分析、検討した上で、フォント侵害の商標登録出願及び使用における法的リスクをまとめるとともに、商標使用者に権利侵害を回避する方法について提案するものである。

その内容が皆様の実務に少しでもお役に立てば幸いである。
 
1.フォントに存在し得る権利-文字の美術著作物の著作権、フォントライブラリソフトのコンピュータソフトウェア著作権
 
 市場で提供されているコンピュータのフォント製品には、主に文字とフォントライブラリソフトの2つの形式がある。文字とは、あるフォントの一つ一つの単独の漢字のことであり、フォントライブラリソフトとは、ソフトの形式で示されるあるフォントの転用できるすべての文字の集合のことである。フォントについて現在、主に以下の2つの権利が存在すると考えられている。即ち、独創性と審美的な意義を有するフォントの文字は、美術著作物に属し、権利者はその文字の著作権を有する。一方、フォントライブラリソフトについて、権利者はそのフォントライブラリソフトのコンピュータソフトウェア著作権を有する。現在、司法分野において、文字の美術著作物に保護を与えるか否か、及びその判断方法については、基本的に認識が一致している。つまり、漢字は、固有の字画、構成などの特徴によって制限されており、フォントを創作、デザインする際に、既存の他のフォントと比べて、その字画特徴に弁別的特徴の独創性を持たせることが難しい。したがって、フォントライブラリにおける文字が独立した美術著作物として認められるか否かを判断する際に、具体的な問題を分析することが必要である。まず、デザイン文字を創作する法則に従い、漢字の字画特徴、画数、構造などの特徴に基づいて考慮すべきである。次に、文字で体現される芸術スタイル、特徴を公知分野の宋体、倣宋体、ゴシック体などの他のデザインフォントと比べて、原告が権利を主張している文字は明らかな特徴、又は一定の創作性を有しているか否かを判断すべきである。

(2014)寧鉄知民初字第101号民事判決書において、南京鉄道運輸法院は、本件に係る「佰」、「斯」、「徳」、「利」という4字の字画特徴を公知分野における他のデザインフォントと比べて、個性的な特徴を持ち、一定の独創性を体現して、独立した美術著作物を構成できると認定した。

また、(2014)三中民(知)初字第09233号民事判決書において、北京市第三中級人民法院は以下のように判示した。本件に係る「自」「然」「之」「子」を含む方正平和体は、北大方正公司の伝統的な隷書体に基づき、筆記者とデザイナーがフォントの1文字ごとに字形のレイアウトデザインを施し、デジタル化技術の修正と調整など行うことにより、創作したフォントライブラリである。フォントライブラリにおける1文字、1文字は伝統的な隷書体とも、既存の他のフォントとも異なる独特の芸術的なデザインスタイルを現している。即ち、筆遣いと線が蔵頭護尾(筆縫の中心が常に筆画の中心を通る筆法)であり、中鋒が堅固であり、構成が厳格であり、スタイルが古風且つ素朴で、筆力が力強く、書体が凝縮され、端正に洗練されており、1文字ごとの字形デザインにデザイナーの美学思想が融合されることにより、美学的な価値観と選択を体現したデザイナーの知力活動の創作成果となっている。したがって、「自」、「然」、「之」、「子」を含む方正平和体の文字は著作権法が規定する著作物としての独創性要件に満たしている。ある程度の美感を有し、著作権法が規定する美術著作物に属する「自」、「然」、「之」、「子」を含む方正平和体の文字は、著作権により保護されるべきである。

さらに、(2010)民三終字第6号民事判決書において、最高人民法院は以下のように判示した。係争方正蘭亭フォントライブラリのフォント(フォントライブラリ)にはいずれも関連する特定の数字関数が使用され、常用の5,000余り以上の漢字のフォントの輪郭外形が描写され、且つ相応する制御コマンド及び関連フォントの字形が適切に細かく調整されている。したがって、フォント(フォントライブラリ)はいずれも上記コマンド及び関連データにより構成されたものであり、線、色彩、又はその他の方式で構成された審美的な意義のある平面、又は立体的な造形芸術作品ではないため、著作権法が規定する美術著作物に属さない。しかし、被上訴人(一審被告)が、北大方正公司が著作権を有する係争蘭亭フォントライブラリをそのゲームクライアントに装備させ、且つ販売した行為は、北大方正公司の係争フォントライブラリのコンピュータソフトウェアの複写権、発行権及び報酬獲得権を侵害し、インターネットを経由して当該クライアントをゲームユーザーに提供した行為は、北大方正公司の係争フォントライブラリのコンピュータソフトウェアの情報ネットワーク伝播権を侵害している。
 
2.許諾を得ずに非公有分野のフォントを使用することによる商標登録出願及び使用における法的リスク

1)商標登録出願及び登録手続きにおける法的リスク
 
商標法第32条に、「商標登録出願は、他人の先行権利を侵害してはならない。他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で出願してはならない。」と規定している。商標局の審査官は、商標の出願と登録の段階において、商標に使用されているフォントが第三者のフォント権利を侵害しているか否かを通常自発的には審査しない。たとえフォント侵害があったとしても、第三者の特定の権利を侵害する行為は商標法に規定している相対的な理由であるため、権利者が権利を主張することにより、商標法の関連規定に基づき、中国国家知識産権局に異議を申し立てるか、又は無効審判を請求しなければならない。
 
内蒙古蒙歌爾実業有限公司は2010年8月6日に第29類「牛肉」などを指定商品として第8552567号商標「蒙歌爾」(以下、「係争商標」という)を登録出願し、2011年11月21日に係争商標は登録査定された。2012年8月28日、葉根友(中国の著名な書家であり、葉根友毛筆特色フォントの著作権者である)は、係争商標が自身の毛筆特色フォントの先行著作権を侵害していると主張して、商標審判委員会に係争商標の無効審判を請求した。商標審判委員会は審理を経て、係争商標の登録査定を維持したが、葉根友はそれを不服として、北京知識産権法院に行政訴訟を提起した。北京知識産権法院は審理を経て、以下のように判示した。原告である葉根友は、「葉根友毛筆特色フォント」フォントライブラリにおける「蒙」、「歌」、「爾」という3つの漢字について、公知・公用の漢字フォントと比べて、何らかの独創性と美観を有することで、著作権法に規定している美術著作物に属することを証明するか、又は説明することができる証拠を提出していない。そのため、被告である内蒙古蒙歌爾実業有限公司は、原告が「蒙」、「歌」、「爾」という3つの漢字に対し正当な著作権を有することを既存の証拠では十分に証明できないと主張した。原告がフォントライブラリをフリーソフトウェアの方式で公衆に使用させるフォントライブラリ出力の文字を発表してから、公衆の使用行為が侵害行為に該当すると主張したことは、信義誠実の原則に違反している。上記に鑑み、係争商標が原告の先行著作権の侵害に該当するという原告の主張は認めない。

当該事件において、法院は、原告の挙証が不十分であり、且つフォントがフリーソフトウェアとして発表されたなどという理由で原告の先行著作権を認めなかったものの、当該無効審判事件及びその後の行政訴訟事件が受理されたことから、フォント著作権者は商標法の関連規定によって、その享有する先行著作権に基づき、公告、又は登録された商標に対し異議申立、無効審判を請求できたことが分かる。

「商標法」の規定によれば、既に登録された商標に対して、商標登録日から5年以内に、先行権利者又は利害関係者は商標審判委員会に当該登録商標の無効審判を請求でき、悪意のある冒認出願に対しては、馳名商標権者は5年間の時間的制限の適用除外である。しかし、先行著作権者は著作権に基づき、ある登録商標に対して無効審判を請求する場合、商標登録日から5年以内に請求しなければならない。さもなければ、先行著作権者は当該登録商標を無効にする機会を逸してしまうことになる。
 
2)他人のフォント著作権を侵害する商標を使用する法的リスク
 
被告である藍亨公司(Lanhengbeer社)は第4456820号商標「佰斯徳利」(以下、「係争商標」という)の商標権を譲渡され獲得した。係争商標は2005年1月10日に登録出願され、2007年8月14日に登録査定された。藍亨公司は「ビール」などを指定商品として係争商標を実際に使用している。2014年、原告である方正公司は被告による係争商標の使用行為は、原告の美術著作物の著作権の侵害に該当すると主張し、法院に訴訟を提起した。原告が提訴した時、係争商標は既に登録されてから5年が経過していた。南京鉄道運輸法院は、(2014)寧鉄知民初字第101号民事判決書において、以下のように判示した。被告の係争商標に使用されている「佰斯徳利」という4文字は、原告が有する美術著作物の著作権を侵害している。しかし、藍亨公司が使用している係争商標は譲渡されたものであり、且つ係争商標は登録査定されてから既に7年が経過し、この7年間の間、係争商標はずっと酒類商品に使用され、且つ一定の市場影響力を有していた。既存の証拠は、被告が係争商標の取得、使用を善意で行い、且つ過失がなく、法律が規定する正当な手続きに合致することを証明できる。原告は当該登録商標を取消す権利をすでに喪失している。原告が享有し、且つ主張しているのは美術著作物の著作権であり、被告は係争登録商標の専用権を有している。両者が享有する権利は種類、属性なども異なり、共存できる。以上の要因に鑑み、被告に係争の「佰斯徳利」という4つの粗倩体文字の使用停止を求める原告の主張にを、法院は認めない。原告は被告が係争文字の使用停止を要求できないが、収益を獲得する原告の権利には影響されない。法院は最終的に、被告に対して原告への3万元の賠償金の支払いを命じた。

当該事件に係る実際に使用されていた商標は登録から5年が経過した商標であったが、登録せずに直接使用されるか、又は登録されてから5年が経過していない商標などにとって、法院は権利侵害であると認定した場合、事件の状況に基づき賠償金額を総合的に考慮した上で、権利侵害者に商標の使用を停止させるか否かを通常判断している。登録された商標について、著作権者は中国国家知識産権局にその商標の無効審判を請求する必要がある。
 
3.権利侵害を回避するための提案

1)商標のフォント、スタイルに特殊な要求がなければ、例えば宋体、楷書体、ゴシック体などの公有分野のフォントを使用することを提案する。

2)商標のフォント、スタイルに特殊な要求がある場合、現在、インターネット上でフリーでダウンロード、無償使用できるフォントは大量に提供されている。しかしながら、ダウンロード及び使用の際、フォントの権利者よりフォントの使用方式などに明確な制限がないか、自分自身の使用方式が無償使用の条件に合致するか否かなどを注意深く確認し、理解しなければならない。

3)商標のフォント、スタイルに特殊な要求がある場合、使用したフォントが無償ルートから獲得できないと確定できる場合、可能性のある法的リスクを回避し、実際の経営活動に悪い影響を及ぼさないように、関連フォントの権利者と連絡し、フォントの使用について有償使用の契約を締結することを提案する。
 
参考資料:
1.(2014)寧鉄知民初字第101号民事判決書
2.(2014)三中民(知)初字第09233号民事判決書
3.(2010)民三終字第6号民事判決書
4.(2015)京知行初字第538号行政判決書
5.第4456820号商標 (中国商標網)
6.第8552567 号商標“”(中国商標網)
7.「自然之子」 (インターネット画像)