北京魏啓学法律事務所
 
はじめに   
 
中国は、いわゆる専利(発明・実用新案・意匠とも含む)の出願大国であると同時に、紛争大国でもある。中国全国各地の法院が受理した専利民事紛争事件は2015年、11607件に達した。そのうち、発明特許、実用新案及び意匠に係る事件がそれぞれ何件であったかについては、明確な統計データはないものの、今までに公開された判決書によれば、意匠権侵害紛争が専利権侵害紛争の60%近くに達している。意匠権侵害紛争の件数が多くなっているのは、主に中国の大部分の中小企業がまだ自主的な研究・開発の実力を有せず、模倣段階にとどまっているからである。物品意匠の場合、それに必要な技術的難度がさほど高くないので、必然的に皆が先を争って模倣する対象になっている。同一又は類似の意匠物品は、需要者に製品の性能も大差ないとみなされているので、意匠の模倣によって権利者にもたらされる損失について、決して軽視すべきではない。意匠権を取得した場合、積極的に権利行使をすることにより、模倣を抑制することが得策である。
 
意匠権の権利行使において、その権利の有効性の問題と権利侵害判定問題は、最も重要なものであり、この2つの問題をめぐって、慣用手法、機能的なデザイン、公知意匠の抗弁と相違点、及び類否判断は、往々にしてその論争のポイントとなっている。本稿では、弊所がこれまでに代理した意匠権侵害紛争事件について紹介するとともに、現在司法実務において注目を集めている問題に対する判定現状と留意点についての分析を行なうものとする。読者の皆さんに少しでも参考となれば幸いである。
 
1.事件経緯の概要
 
株式会社MTG(以下「MTG社」という)は、ビューティーとウェルネス製品の製造・販売に従事している日本の著名メーカーで、同社製品であるReFaシリーズの美顔ローラーは、全世界で人気を博しており、「小顔神器」と称されている。当該人気製品は、瞬く間に模倣業者の絶好の模倣対象となり、特に製品の外観を模倣した製品は、ビューティ製品市場に続々と出現するようになった。
 
   
 
MTG社は、自社の合法的な権利と需要者の利益を守るために、権利侵害品に対する法的行動を行なうことを決定した。弊所は2015年、MTG社より依頼を受け、ReFaシリーズにおけるReFa EXE for men製品の模倣品を製造している広東省のあるメーカーに対して、当該製品の意匠権に基づき、現地の知識産権局に差止請求を提出した。
 
現地の知識産権局は2015年4月、弊所の請求に応じて、被疑侵害者である広東省のメーカーに対して実地調査を行ない、工場内で2種類の形状の被疑侵害物品(下図を参照のこと)を発見したが、2種類とも大量の完成品と半製品の在庫があることを確認することができた。
 
 
その後、現地の知識産権局が行った当該事件に対する口頭審理において、被疑侵害者は、抗弁理由として、両者の非類似を主張した。現地の知識産権局は2015年10月、「MTG社の特許製品と一致する被疑侵害物品1は、MTG社の意匠権の権利範囲に入り、部分的に差異点がある被疑侵害物品2については、被疑侵害物品と本件意匠との間に2つの相違点があり、かつ、美顔ローラーが持ち手と2つの球状のローラーから構成されることは慣用手法である。両者は、全体の視覚的効果において実質的な差異が存在し、類似ではない。」と認定する行政決定を下した。
 
弊所は、非類似と認定した行政決定を不服として、広州知識産権法院に行政訴訟を提起した。当該事件の一審において、弊所は、「美顔ローラーが持ち手と2つの球状のローラーから構成されることは慣用手法であると認定した行政決定にはその根拠に欠ける。本件意匠と被疑侵害物品の共通点は、公知意匠の構成と識別するためのものであり、全体の視覚的効果に顕著な影響力を有するのに対して、その相違点は微細で見落とされやすく、両者の全体の視覚的効果には実質的な差異がないので、類似意匠として認めるべきである。」と主張した。
 
被告である現地の知識産権局は、「両者の共通点は慣用手法である」と相変わらず主張すると同時に、「美顔ローラーの持ち手及びローラーは機能的なデザインである」という主張を提出した。被疑侵害者は、行政訴訟の第三者として、先行専利公報3件を公知意匠と慣用手法に係る証拠として提出したが、当該先行専利公報3件は、正にMTG社のReFaシリーズにおける他の2種類の製品であった。
 
広州知識財産権法院は2016年6月、本件意匠と被疑侵害物品との類似を認定し、係争行政決定を取消す一審判決を言い渡した。現地の知識産権局と被疑侵害者は、一審判決を不服として、上訴を提起した。
 
広東省高等法院は、法により当該事件に対する開廷審理を行ない、本事件の争点について、次のとおりまとめた。
 
①上訴人の主張した慣用手法は成立するか否か。
 
②上訴人の主張した機能的なデザインは成立するか否か。
 
③上訴人の主張した公知意匠の抗弁は成立するか否か。
 
④本件意匠と被疑侵害物品は類似するか否か。この前、広東省高級人民法院は、本事件の二審判決を言い渡し、現地の知識産権局と被疑侵害者が提起した上訴を棄却し、一審判決を維持した。
 
したがって、当該事件に及んでいる前述の4つの争点は、意匠権侵害紛争において正に注視されている問題であるといえる。
 
2.慣用手法について
 
1)本事件における慣用手法の認定
 
本事件の行政処分段階において、事実上、慣用手法に係る主張と証拠は、被疑侵害者が提出したものではなく、現地の知識産権局が行政決定において、「美顔ローラーが持ち手と2つの球状のローラーから構成されることは慣用手法である。」と言及したものである。
 
弊所は、行政訴訟を提起した際、当該主張について十分な反論を行ない、慣用手法の公知の程度に対する要求について、製品名称が提示された時、直ちに想到できるような高い程度に達しているべきであり、係争行政決定における認定には事実的根拠がに欠けることを強調した。それと同時に、本件意匠の評価報告書に基づき、検索により入手した評価報告書における10件の公知意匠を通じて、美顔ローラーが持ち手と2つの球状ののローラーによって必ずしも構成されているわけでないのは明らかで、特にローラーの形状において、大部分の公知意匠に採用されているのは円形又は半球形で、ローラーの個数はそれぞれ1個又は4個で一様でないと指摘した。また、当該評価報告書では、更に本件意匠と同一又は実質的に同一であるその他の意匠が検索されなかったことを明確に指摘した。したがって、美顔ローラーが持ち手と2つの球状のローラーから構成され、ひいては公知意匠として公開されてなく、慣用手法と称することもできないことを説明した。
 
一審判決も弊所の観点を支持し、次のとおり評価している。美顔ローラー類の製品に言及する際、持ち手部分とローラー等の構造を容易に想到できるものの、本事件の意匠におけるY字形及び球状のローラーのデザインを直ちに想到しかねることは明らかである。
 
現地の知識産権局と被疑侵害者は、上訴を提起した際、小さな問題ばかりに固執し、重大な問題は回避するとやりかたで、美顔ローラーの販売市場を見ると、「持ち手及びローラー」という構造は、一般需要者が製品名称から直ちに相応のデザインを想到することができ、持ち手とローラーの形状及び数量等については言及しなかった。そして、機能的なデザインの主張との混同をもたらし、持ち手とローラーは機能に限定されたデザインとして、同類製品の慣用手法であると主張したものの、当該主張には明らかに根拠に欠けていたため、二審法院に採用されなかった。
 
2)慣用手法の認定が権利侵害判定にもたらす影響
 
本事件において、現地の知識産権局は、その行政決定の本件意匠と被疑侵害物品との類否判断において、「美顔ローラーが持ち手と2つの球状のローラーから構成されることは慣用手法である」と明確に提出した。すなわち、本件意匠と被疑侵害物品との共通点が慣用手法であると認定した。当該内容も、現地の知識産権局が「本件意匠と被疑侵害物品は非類似である」という結論を出した1つの重要な理由となっている。
 
2010年1月1日から施行された「専利権侵害紛争事件の審理における法律応用の若干の問題に関する最高人民法院の解釈」第11条2項では、「次のような場合は通常、意匠全体の視覚的効果に対してより大きな影響を与える。①その他の部位に対して、物品の正常使用時に、容易に直接観察される部分、②登録意匠におけるその他の構成に対し、登録意匠が公知意匠と識別できる構成」と規定している。
 
当該司法解釈では、慣用手法について明確に言及していないものの、公知意匠の構成が全体の視覚的効果に与える影響力は比較的小さく、逆に公知意匠における慣用手法は、より高い公知の程度を有するデザインであり、全体の視覚的効果にもたらす影響力もより小さいことが明らかである。
 
審査指南第4部分第5章第6節においても、「製品におけるあるデザインが当該類の製品の慣用手法(例えばプルトップ缶製品の円柱形状のデザイン)であることが証明されたとき、その他のデザインの変化は通常、全体の視覚的効果に対してより顕著な影響を与えることになる。」と明確に規定している。
 
このことから、権利侵害手続又は無効審判手続にかかわらず、2つの意匠の比較を行うとき、慣用手法は、全体の視覚的効果に対して顕著な影響を与えないものと認められる。したがって、ある構成が慣用手法であるか否かは、類否判断の結論にある程度影響を与える。
 
3)慣用手法の定義と証明について
 
2010年版審査指南には、「公知意匠の中で一般需要者に熟知され、製品名称に言及しさえすれば、直ちに想到できる相応のデザインこそ、慣用手法と称することができる。」と明確に規定している。例えば、包装箱に言及した場合、直方体と立方体の形状を直ちに想到でき、タイヤに言及した場合、直ちに円形を想到できる。したがって、公知の程度に対する慣用手法の要求は非常に高く、公知意匠より遥かに厳しいといえる。
 
このように高い公知の程度がある以上、更に証明する必要があるか否かについては、さまざまな意見がある。一部の者は、慣用手法については証明する必要もなければ、証明すべきでもないと主張している。すなわち、慣用手法は、当業界において、一般的に知られ、公認されたものであるので、「証明」が必要である場合、それは慣用手法ではないということになる。また、一部の者は、審査指南における関連規定に、「証明された」という言葉が使用されているので、当該規定に基づいて証明すべきであると主張している。
 
ある程度一致している観点は、日用品の慣用手法、例えば、プルトップ缶の円柱形状、包装箱の立方体の形状等について、通常証明する必要がないという主張である。専門類の製品の意匠の慣用手法は、証拠により証明することができる。
 
通常、業界内で極めて高い知名度を有する教科書、標準等は慣用手法の証拠となる。大量の専利文献と公知意匠も慣用手法の証拠となる。しかし、本事件のように、わずか数編の専利文献のみでは、あるデザインが慣用手法であることを証明することができない。
 
しかも、通常、すでに証拠が提出された慣用手法の認定において、証拠に示された写真は、証明が必要な対象と類似ではなく、完全に同一でなければならないことが要求されていることに注意しなければならない。
 
3.機能的なデザインについて
 
1)本事件の場合
 
本事件の行政処分段階において、被疑侵害者は、機能的なデザインに係る如何なる主張も証拠も提出していない。ただし、行政訴訟の一審段階において、現地の知識産権局は、答弁書と開廷審理において、いずれも美顔ローラー類製品が物理的特性や技術的機能の制約を受けて、持ち手及び球状のローラーの意匠上の構造に突破口が少ないことを強調した。被疑侵害者もこの主張に伴い、本件意匠の持ち手及び球状のローラーという構成は、いずれも製品の相応機能を実現するために配置されたもので、如何なる美感ももたらさない非装飾的な内容であると主張した。
 
これに対して、弊所は、機能を有しさえすれば、機能的なデザインであるいうことではなく、機能的なデザインは、製品が実現しようとする特定の機能により唯一決定されるべきであり、美学的な要素を考慮すべきではないことを強調する一方、、本件意匠の評価報告書に基づき、公知意匠の状況では実用的な機能を満たす当該類の製品において、多くの選択可能な合理的な手段があることを十分に説明できると指摘した。
 
弊所は、一審判決において、相手側の主張に対して明確に否定し、「美顔ローラーが美容類の製品として、そのデザインは、マッサージ、持ちやすさ等の機能を考慮していることはその通りであるが、前述の機能を満たす状況下で、持ち手及びローラーのデザインには、その全体的な造型、両者の連結方法、両者の表面の模様、ローラーの数量等においては、比較的大きなデザイン空間があり、その実用的な機能によって、唯一決定されるわけではない。」と指摘した。したがって、持ち手及びローラーの造型は、かかる製品の重要なデザインとして、意匠の全体の視覚的効果に対して顕著な影響を及ぼすのに十分である。
 
現地の知識産権局と被疑侵害者は、上訴の提起時に、機能的なデザインに係る観点を依然として強調していたものの、有力な新たな根拠を提出できなかったので、同様に二審法院に認めらなかった。
 
2)権利侵害判定に対する機能的なデザインの影響
 
意匠権は工業的応用に適しているべきであり、その機能は、工業製品のデザインの前提となることは当たり前で、製品の機能は製品の構成を制限するものであり、製品のデザインと機能を完全に切り離すことは困難である。通常、如何なる製品の意匠でも機能的な要素と美学的な要素という2つの基本的な要素を考慮すべきで、かつ、まず優先的にその機能を実現させてから、視覚上の美感を実現すべきである。したがって、通常製品の構成の機能性や装飾性とは相対的にいうもので、特定の機能によって唯一決定されるデザインは、少数の特殊状況においてのみ存在しているので、意匠には少なくとも機能的な構成、装飾的な構成及び機能性と装飾性を兼ね備えた構成があるといえる。製品のデザインがある種類の機能に基づくものであるとして、それが意匠の全体的な視覚に及ぼす影響を否定してはならない。通常、機能的な構成は、意匠全体の視覚的効果に対して顕著な影響を与えず、機能性と装飾性を兼ね備えた構成が全体の視覚的効果に及ぼす影響については、その装飾性の程度を考慮すべきであり、装飾性が強ければ強いほど、全体の視覚的効果に及ぼす影響が大きくなり、装飾性が小さくなればなるほど、反対にその影響も小さくなるわけである。
 
2010年1月1日から施行された「専利権侵害紛争事件の審理における法律応用の若干の問題に関する最高人民法院の解釈」第11条第1項では、「意匠の同一又は類似の認定にあたって、法院は、登録意匠、被疑侵害意匠の構成に基づき、意匠全体の視覚的効果を以って総合的に判断しなければならない。主に技術的な機能により決定される構成、及び全体の視覚的効果に影響を与えない物品の材料や内部構造等の特徴については考慮すべきではない。」と規定している。
 
しかも、「審査指南」第4部分第5章第6節においても、「物品の機能により唯一に限定された特定形状は通常、全体の視覚的効果に対して顕著な影響を与えない。例えば、自動車タイヤの円形の形状は、機能により唯一限定されたもので、そのトレッドパターンは、全体の視覚的効果に対してより顕著な影響を与えることになる。」と明確に規定している。
 
前述の司法解釈と審査指南の規定では、機能的なデザインは、全体の視覚的効果に対して影響を与えないと明確にしている。したがって、意匠の類否判断において、両者の主な共通点が機能的なデザインであると同時に、機能的なデザインではない相違点が存在する場合、両者が類似しない可能性が比較的大きい。反対に、両者の主な相違点が機能的なデザインである場合、両者の類似が成立する可能性は比較的大きくなる。
 
かかる観点については、司法解釈と審査指南の何れにも明文規定されているので、司法実務において、それに関する反対意見はない。異議は、あるデザインが機能的なデザインであるか否かに起因して起こっている。
 
3)機能的なデザインに関する定義と判断基準
 
機能的なデザインに関する定義と判断基準について、法律には明文化されていない。これまで相当長い期間において、機能的な構成に関する判断基準は、当該構成が機能的又は技術的な要件の制限により、その選択性を有しないということにあった。すなわち、ある構成が、当該機能を実現するための唯一の手段又は限定された手段であるか否かという観点から、機能的なデザインであるかどうかを判断することである。同一機能を実現するためのその他の手段がある場合、通常、機能的なデザインではないと認定する。かかる判断基準は、理解しやすく、挙証にも便利である。
 
ここ数年間、最高人民法院は、洛陽晨諾電気有限公司と天津威科真空開関有限公司、張春江、天津市智合電器有限公司との間の意匠権侵害紛争事件((2014)民提字第193号)、張迪軍と国家知識産権局専利復審委員会、慈渓市鑫隆電子有限公司との間の意匠権無効審判に係る行政事件((2012)行提字第14号)、グローエ社と浙江健龍衛浴有限公司との間の意匠権侵害紛争再審事件((2015)民提字第23号)等の諸事件の判決書において、「機能的な構成に対する判断基準は、当該構成が機能的又は技術的な要件に制限されて、その選択の可能性がなくなっているか否かにあるのではなく、一般需要者からみて当該構成が特定の機能のみで決定されているか否かにあるのであり、当該構成の美感の有無については考慮する必要がないことにある。」と指摘している。
 
一般需要者が当該構成の美感の有無を考慮するか否かについては、ある程度主観的な問題となっている。例えば、前述グローエ社と浙江健龍衛浴有限公司との間の意匠権侵害紛争事件において、係争意匠「ハンディシャワーノズル」の押しボタンが機能的なデザインであるか否かについて、二審法院と最高人民法院の判断は、全く異なっていた。
 
二審法院は、「押しボタンにはもちろん様々な形状のデザインがあるが、 それを取っ手に設置することは、依然として主に機能的なデザ
 
インに基づくもので、製品の全体の視覚的な効果には顕著な影響を与えない。」と判示した。
それに対して、最高人民法院は、「押しボタンの機能は、水流スイッチをコントロールすることであり、押しボタンを設置するか否かは、シャワーノズル製品において、水流スイッチのコントロール機能を実現するために設置が必要であるか否かにより決定することであるが、、シャワーノズルの取っ手の位置に押しボタンを設置した場合、当該押しボタンの形状は、様々なデザインを有することができる。一般需要者は、シャワーノズルの取っ手に設置された押しボタンに触れたとき、自然にその装飾性に注目することになり、当該押しボタンのデザインの美観の有無を考慮し、当該押しボタンが水流スイッチに対するコントロール機能を実現できるか否かのみ考慮するのではない。」と判示した。
 
したがって、最高人民法院は、「機能的な構成に関する判断基準は、一般需要者が当該構成の美観について考慮するか否かにあるものの、客観的な判断方法では、依然として機能の実現に当たり、比較的多くの選択可能な手段があるか否かについて考慮することである。」と明確に指摘した。ある機能の実現に当たり、比較的多くの選択可能な手段が存在するとき、最終的に選定される機能を実現するための手段が美学を考慮するのは当然のことである。同じ理由から、選択可能な機能を実現するための手段がなかった場合、当該デザインは、機能の実現のために、美感について考慮する余地がなかったことが明らかである。
 
4)機能的なデザインを主張する際の留意点
 
前述のとおり、実際にある機能を実現するのに選択可能な手段があるか否かは、ある構成が機能的なデザインであるか否かを判断するための客観的な方法である。したがって、機能的なデザインを主張するとき、同類製品にてある機能を実現するための限られた手段しかなかったことを出発点として、関連挙証を行うことができる。また、機能的なデザインを否定するときは、同類製品にてある機能を実現するための多くの選択可能な手段があることから始めることができる。
 
日用品の場合、同一の機能を実現するためのさまざまな手段があるか否かについて、実際に日常生活における経験から容易に知ることができるが、日常生活の中で常に見られない工業設備等の製品に係る意匠の場合、さまざまななデザインが存在することについて挙証することは一層重要となる。当該意匠権の評価報告書又は数多くの同類製品を掲載した業界雑誌等は、いずれも有力な証拠になることができる。
 
4.公知意匠の抗弁について
 
1)本事件の場合
 
本事件において、被疑侵害者は、行政段階に公知意匠の抗弁を提出しておらず、公知意匠に係る如何なる証拠も提出していない。また、現地の知識産権局も係争行政決定において、公知意匠に係る如何なる問題も論評していない。その後、被疑侵害者は、一審の開廷審理において、暫定的に先行意匠権3件の検索結果を提出したが、当該証拠を慣用手法の証明とするか、それとも公知意匠の抗弁の証明とするか否かについては、被疑侵害者は具体的に明らかにしなかった。
 
弊所は、当該先行意匠権3件では、慣用手法の証拠として十分でないと反論し、「当該証拠が行政段階ににおいて提出されなかったこと、すなわち、当該意匠権3件の検索結果は、現地の知識産権局が下した係争行政決定の根拠にはならない。」と主張した。公知意匠の抗弁に係る主張及び専利検索に係る証拠は、本事件の審理範囲ではない。しかも、弊所も当該先行専利公報3件と本件意匠との相違点を説明し、「下図に示した通り、公知意匠、本件意匠と被疑侵害物品を比較して、本件意匠と公知意匠との持ち手の形状、ローラーの模様及びローラーと持ち手との位置関係に明らかな相違点があることが分かる。」と強調した。かかる相違点は、被疑侵害物品と本件意匠との間の共通点、すなわち、被疑侵害物品における大部分の相違点を利用しているので、公知意匠の抗弁は成立しない。
 
 
                               本件意匠                                                                       被疑侵害物品
 
一審判決において、当該3件の証拠及び公知意匠の抗弁に対する論評がされたのは、弊所の主張を支持してくれたからであり、当該3件の証拠と公知意匠の抗弁理由は、いずれも行政段階に提出されていなかったので、行政訴訟の審理範囲に入るべきではない。
 
二審の開廷審理において、現地の知識産権局は、公知意匠の抗弁を上訴の最も重要な内容として主張して、公共分野のデザインは独占されてはならず、かつ、公共の利益等を損なってはならないことを繰り返し強調した。現地の知識産権局がどのように考えていたかについては知りようもないが、当該主張は、行政決定範囲と行政訴訟の審理範囲を明らかに超えており、かつ、実際にその行政決定の結論に相反している。すなわち、現地の知識産権局が、公知意匠の抗弁が成立すると認めた場合、被疑侵害物品と公知意匠との類似を認定することを意味するが、その行政決定の結論は、被疑侵害物品と本件意匠との非類似を認定したものであった。しかし、実際に三者を比較すると、被疑侵害物品と本件意匠との間の類似度は、公知意匠との類似度を遥かに超えており、被疑侵害物品と本件意匠との主な相違点は、同様に公知意匠との相違点となっている。公知意匠の抗弁が成立すべきであるという主張及び本件意匠と被疑侵害物品との非類似であるという主張は、明らかに自己矛盾するものであった。結局、当該主張も二審法院に認められなかった。
 
2)意匠権侵害紛争における公知意匠の抗弁
 
「専利法」第2条第4款では、意匠に対して、「意匠とは、製品の形状、模様又はその組合わせ及び色彩と形状、模様の組合せについて出された、美感に富み、工業的応用に適した新しいデザインのことをいう。」と定義している。当該定義から、意匠権制度の立法目的は、美感を有する革新的な工業デザインにあり、1件の意匠が公知意匠とは異なる識別可能性の独創的なデザインを有してこそ、意匠権が付与されるということが分かる。
 
しかし、中国の意匠権制度では無審査制度(実体審査なし)が実施されている。すなわち、実際に公知意匠に該当する意匠権の出願に対しても、その権利が付与されるわけである。かかる意匠権の権利行使が許された場合、公共利益を間違いなく損なうことになる。中国の意匠権侵害紛争において、権利無効の抗弁による理由が認められていないので、公衆は、無効審判手続を通じて、かかる意匠権無効を請求することしかできないが、無効審判手続においては時間と労力を費やさざるを得なくなっている。各当事者の利益のバランスを保つために、意匠権侵害紛争において、公知意匠の抗弁は、よく採用される抗弁手段となっている。
 
2008年の第3回改正を経た「専利法」第62条では、公知意匠の抗弁の内容について、「専利権侵害紛争において、被疑侵害者が、自ら実施した技術又は意匠が公知技術又は公知意匠であることを証明できる場合、専利権侵害にならない。」と初めて明文化された。しかし、それ以前も、公知意匠の抗弁は、司法実務上でも広範に認められていた。
 
2010年1月1日より施行された「専利権侵害紛争事件の審理における法律応用の若干の問題に関する最高人民法院の解釈」第14条では、公知意匠の抗弁について「被疑侵害意匠がある公知意匠と同一する又は実質的な相違がない場合、法院は、被疑侵害者の実施した意匠が『専利法』第62条に規定する公知意匠であると認定すべきである。」とさらに規定している。
 
3)公知意匠の抗弁の適用原則
 
司法実務において、認められた公知意匠の抗弁に係る多くの事例があるものの、その適用原則と判断手順は、2009年以前はさほど明確ではなく、各地の法院のやり方も随分異なっていた。その際、公知意匠、本件意匠と被疑侵害物品の三者の関係についてどのように考慮するかという問題が最大の争点になっていた。前述の司法解釈の公布及び最高人民法院による一連の典型的事例が公表されるにつれて、公知意匠の抗弁の適用原則は、すでに基本的に明確にされている。
 
まず、公知意匠の抗弁の主張において、完璧な公知意匠と被疑侵害物品とを比較すべきで、複数の公知意匠を組合わせて比較してはならないことである。
 
次に、公知意匠と被疑侵害物品が同一又は実質的に類似であるか否かを比較することが必要なことである。弊所が代理していた(2010)民提字第189号(2010年50大典型的事例)再審事件において、最高人民法院は、被疑侵害物品と公知意匠が同一ではない状況下で、意匠権侵害判定に対する正確な結論を保証するために、公知意匠をその座標とし、被疑侵害物品の意匠、公知意匠と当該事件の意匠の三者についてそれぞれ比較の上、総合的な判断をすべきであると判示した。当該過程において、被疑侵害物品と公知意匠との間の共通点や相違点及び全体の視覚的効果に対する影響に注意を払うべきで、かつ、意匠と公知意匠との間の相違点及びそれが全体の視覚的効果にもたらす影響力にも注意を払うべきである。しかも、被疑侵害物品と公知意匠との間の相違点を利用することにより、意匠との実質的な差異のない全体の視覚的効果をもたらしているか否かについて特別な注意を払うべきである。被疑侵害物品が全部又は大部分の相違点を利用している場合、通常、公知意匠の抗弁は成立しない。
 
すなわち、公知意匠と被疑侵害物品が完全に同一である場合、本件意匠の状況を考慮する必要もなく、公知意匠の抗弁が直接成立し、権利侵害でないと判定することができる。しかし、公知意匠と被疑侵害物品が完全には同一ではない場合、本件意匠、公知意匠と被疑侵害物品との三者をそれぞれ比較し、被疑侵害物品において本件意匠、公知意匠との相違点が利用されているか否かを考察する必要がある。
 
4)公知意匠の抗弁の主張における留意点
 
公知意匠の抗弁を主張するときは、まず、要件に適った公知意匠の証拠を提出する、すなわち、公開日が本件意匠の出願日より前の有効な証拠を挙げる必要がある。出願日が本件意匠の出願日より前で、公開日が本件意匠の出願日より後の抵触出願の場合、公知意匠の抗弁の主張の参考にすることはできるものの、その適用基準はより厳しくなり、通常、同一の場合しか適用されない。
 
先行専利公報又は公開出版物等の公開証拠も含まれる。これらの証拠は、その公開期日が明確で、公開内容も比較的明らかなので、公知意匠の証拠として最適である。しかし、先行専利公報又は公開出版物がない場合、公開された先行使用証拠を用いる必要があるものの、かかる証拠の使用期日を確認することは難しいので、実務上、さまざまな大きな障害に直面したとしても、それによって必ずしも利用できないと断定するわけではない。かかる証拠に対する証明を行うとき、その公開性、公開期日と公開内容について十分に証明することが必要となる。例えば、董健飛と呉樹祥との間の意匠権無効審判に係る関連行政紛争再審請求事件(2015)知行字第61号において、専利復審委員会は、「出願日前の第三者のプラットフォームに掲載されていた公知意匠に係る写真について、ネットワーク情報が改ざんされやすく、示されていた公表期日が真実の公開期日であることを証明できない。」と認定した。しかし、行政訴訟において、法院は、「公証書の形式により固定されたインターネットサイトのウェブページの公表期日の真実性と証明力について、審査判断するとき、公証書の作成過程、ウェブページ及びその公表期日の形成過程、当該ウェブページを管理するためのウェブサイトの資質と信用状況、経営管理状況、採用した技術的手段等を含む関連要素及びその他の証拠とを結びつけて、要証事実の存在を証明することができる。」と認定した。また、相手側の当事者による質疑は、証拠の証明力を弱めることもあるので、要証事実が存在すると認定すべきである。当該事件は、無効審判手続における無効証拠認定の関連事例であるが、権利侵害訴訟において、公知意匠の抗弁を主張する際に、公知意匠の証明には同一の問題が存在するので、公証等の制度を十分に利用することにより、証拠の真実性等に対する証明を行うことが必要である。
 
また、公開された先行使用証拠の証明が困難であることに鑑み、事先に公開販売、公開出展等に係る事実に対して公証を行うのも得策である。例えば、展示会において、出展されたサンプルに対して全方位からの撮影(小型サンプルの場合、封印・保存も可能)を行い、販売店の出展商品に対して全方位から撮影を行ったり、販売商品の情報と写真をインターネットにアップロードし、ネットワーク情報に対する公証を行ったりすることは、いずれも選択可能な方法である。
 
5.類似判断について
 
1)本事件の場合
 
本事件の4つの争点において、前の3つの争点は、実際にはいずれも第4番目の争点に概括することができる。
 
現地の知識産権局と被疑侵害者は、被疑侵害物品と本件意匠との非類似を主張したが、その主な理由は、両者間の相違点が全体の視覚的効果に対してより大きな影響力を有することで、その共通点が慣用手法、機能的なデザインであり、全体の視覚的効果に対して影響力を有しないということであった。
 
しかし、弊所は、「被疑侵害物品と本件意匠における共通点は多いが、その相違点は少なく、かつ、その共通点のいずれも本件意匠が公知意匠と識別される特徴的な部分で、当該相違点は全体の視覚的効果に顕著な影響を及ぼさない。」と主張した。
 
 
上記の比較図によれば、両者の間には少なくとも次のような共通点がある。
 
①全体の形状及び構造が同一で、いずれも持ち手とマッサージローラーから構成され、持ち手全体の形状がいずれも横向きの「Y」字形に類似し、持ち手とローラーとの連結方法と位置は同一で、いずれも持ち手の前端下部の左右両側にそれぞれ1つの球状のマッサージローラーがあること。
 
②マッサージローラーの形状と模様が同一で、いずれも円球形で、球面にはいずれにも均一に分布された六角形の模様があり、六角形の模様は相互連結することで菱形の模様になっていること。
 
③持ち手部分の全体構造と形状は同一で、いずれも両端が太く、中間部分が細く、持ち手の上部中央部分にはいずれにも凹状の透明デザイン部があり、持ち手の両端のいずれも下向きの湾曲状を呈していること。
 
すなわち、両者は、全体の形状と部分の構成、及び部品となる持ち手とマッサージローラーの形状とその数量、さらにマッサージローラーと持ち手の位置関係等がいずれも同一である。本件意匠の評価報告書を結び付けると、かかる共通点は、正に本件意匠が公知意匠と識別される構成である。つまり、本事件の被疑侵害物品は、主に本件意匠と公知意匠との相違点を利用しているので、本件意匠との実質的に差異のない全体の視覚的効果をもたらしている。
 
両者の相違点からみれば、現地の知識産権局は、係争行政決定において、両者の間には、①被疑侵害物品の持ち手の左端がハート形に類似しているのに対して、本件意匠の持ち手の左端は扇形に類似している、②被疑侵害物品の持ち手の左端中央部に楕円形の環状構造があり、その環状構造には透明な楕円形の凹面がはめ込まれているのに対して、本件意匠の持ち手の左端中央部には丸角三角形の環状構造があり、その環状構造には透明な丸角三角形の曲面があるという相違点があると認定した。
 
それに対して、弊所は、「まず、相違点①の持ち手の前端のデザインについて、被疑侵害物品の持ち手の前端の中央部にあるくぼみ程度はさほど大きくなく、持ち手全体としてみてみると、その中間部分が細く、前端が太い扇形が広がったデザインであり、本件意匠の持ち手の前端のデザインと全体の視覚的効果との差異はさほど大きくない。また、相違点②の持ち手の前端中央部にある環状凹状部分について、被疑侵害物品と本件意匠では、いずれも当該環状構造及び全体の物品の色と相互に識別される透明デザインの凹状の形状を呈しており、その大きさ及び持ち手上部に占めるその比率は極めて類似し、かつ、被疑侵害物品の当該部分の楕円形と本件意匠の当該部分の丸角三角形という2種類の形状自体の相違点はさほど大きくなく、一般需要者に容易に気づかれることはない。したがって、被疑侵害物品と本件意匠との間の相違点は細微な差異に過ぎない。六面図を対照してみれば、4つの視覚的な角度からは全く当該2つの相違点を見つけることができないので、かかる相違点は、全体の視覚的効果に対して顕著な影響を及ぼさない。」と主張した。
 
一審法院と二審法院は、いずれも弊所の観点を認めた上、「被疑侵害物品と本件意匠との相違点が全体の視覚的効果にもたらす影響は、局部的で細微なもので、美顔ローラーのような製品にとって、マッサージローラー、持ち手等の部分は、いずれも一般需要者から注目されやすい部分で、両者の全体形状及び構造は同一で、ローラー及び持ち手の形状、特にローラーと持ち手との連結されている位置及びローラー上の模様等のデザインのいずれも同一である。したがって、一般需要者の知識レベルと認知能力による判断によれば、両者の相違点は、被疑侵害物品と本件意匠を識別することができず、被疑侵害物品と本件意匠との全体の視覚的効果において、実質的な差異が存在するとは認められにくいので、両者の類似を認定しなければならない。」と判示した。
 
2)意匠の類否判断における原則と留意点について
 
中国の意匠の類否判断には、その原則は「全体的な観察、総合的な判断」というものである。しかし、本田技研工業株式会社のSUV意匠無効審判事件を契機にして、公知意匠と識別される相違点が視覚的効果にもたらす影響がより著しいという観点は、最高人民法院により複数の事例において繰り返し強調されており、さらに「専利権侵害紛争事件の審理における法律応用の若干の問題に関する最高人民法院の解釈」第11条においては、当該観点が司法解釈という方法を通じて明確にされている。
 
したがって、中国意匠制度において、「要部」という概念は取消されているものの、本件意匠が公知意匠と識別される構成は、全体の視覚的効果に対してより顕著な影響を与えるので、実際には意匠の「要部」をすでに形成しているともいえる。「全体的な観察、総合的な判断」という前提において、当該「要部」を明確にし、かつ、比較することは、司法実務において、意匠の類否判断を行う際の最も重要なことである。
 
しかも、前述した慣用手法、機能的なデザインに対する認定も、「要部」に対する認定に影響を与えている。しかし、実務上、慣用手法と機能的なデザインが存在することは、さほど多くないことに鑑み、公知意匠と識別される構成は、大部分の事件において重点的に考慮すべきものとなっている。
 
3)相違点に対する認定と挙証
 
相違点に対する認定について、最高人民法院は、(2015)民申字第633号の中で、公知意匠と係争意匠及び被疑侵害意匠に対して、それぞれ比較することを明確に提出し、かつ、公知意匠と比べた係争意匠における相違点をまとめた。その判断手順と論理的な手順は、次のとおりである。
 
①相違点は、係争意匠における独創的な部分で、係争意匠と公知意匠とを識別させ、かつ、全体の視覚的効果に対する判断に効果的に影響を与えることができる。したがって、まず、係争意匠と公知意匠とを比較して、相違点の所在を明確にしなければならない。
 
②被疑侵害物品には複数の相違点があり、かつ、当該相違点が全体の視覚的効果に対して顕著な影響を及ぼしているので、被疑侵害物品と公知意匠との間には実質的な差異が存在し、公知意匠の抗弁は成立しない。反対に、被疑侵害物品において、権利付与された意匠が公知意匠と識別される全部の構成が含まれていない場合、通常、被疑侵害物品と権利付与された意匠との非類似を断定することができる。
当該事件では、相違点が意匠の類似性の比較に対して与える影響は極めて大きく、さらに被疑侵害物品が全ての相違点を有してこそ、類似が認定されることが明確にされた。当該観点は、被疑侵害者が他人の意匠を剽窃する場合、いずれかの相違点を回避することにより、権利の保護範囲を避けることができることになる。その結果、被疑侵害者に剽窃しても侵害にならないような逃げ道を提供することになり、権利者の合法的な権益に対する保護、及びイノベーションに対する奨励にも不利なので、多くの人に懸念されることとなった。
 
権利者にとって、自己の合法的な権益に対する保護を一層強化するために、1件の独創的なデザインに複数の公知意匠と識別される構成が含まれているとき、、関連意匠を出願するか、又は複数の意匠を出願することを通じて、それぞれの構成に対して、複数の意匠権による保護を行うことを考慮することも1つの策であると思われる。
 
相違点の証明について、通常、権利者は、その構成を意匠の簡単な説明の中に記載することもできるし、権利付与・権利確認又は権利侵害手続のにおいて構成に対するそれなりの陳述をすることもできる。実務上、これらの二種類の状況は、よく見られるものである。最高人民法院も前述の判決において、「意匠権者は、自ら主張する構成に対して証明しなければならない。それと同時に、構成が往々にして公知意匠との識別によって体現され、かつ、それが固定された概念でないことに鑑み、くつがえされる可能性がある。第三者により異議が申立てられ、十分な反証が提供された情状下で、構成の確定には、ある程度変化する可能性がある。」と当該内容についてさらに明確にしている。
 
4)一般需要者による認定
 
意匠の判断主体は一般需要者で、一般需要者による認定が類否判断に間違えなく影響を与えている。
 
一般需要者の定義について、審査指南改正前には比較的大きい論争がなされたことがあったが、2006年版審査指南第4部分第5章第4節においては、一般需要者について、すでに明確に規定している。
 
(1)係争意匠の出願日の前に同一種類又は類似種類の物品の意匠及びその常用のデザイン手法に対して、常識的な認識を持っている。例えば、自動車の場合、一般需要者は、市販されている自動車や、マスコミでよく見かけるような自動車広告において開示された情報等に対して、ある一定の認識を持っているものでなければならない。
 
(2)意匠に係る物品間の形状、模様及び色彩などの相違点に対して、ある程度の識別力を有しているが、製品の形状、模様及び色彩の細微な変化までは注意が行き届かない。
 
一般需要者のこれらの特徴は、実際に次のような2つのシグナルを出している。まず、一般需要者が公知意匠の状況に対して、常識的な認識を有していることである。すなわち、一般需要者は、相違点に対して注意を払うことができるが、かかる状況は相違点の全体の視覚的効果に対する影響を強調していることである。次に、視覚的効果に影響を与えない相違点は細微な変化であるべきで、さもなければ一般需要者から注目を集めてしなうことになることである。
 
本事件の二審の審理において、現地の知識産権局と被疑侵害者は、本件意匠製品の一般需要者が女性であるので、その相違点が容易に発見されやすいという主張を提出しようとした。弊所は、当該主張に対して、一般需要者が製品の使用者であるわけではないと主張する一方で、女性が一層容易に本事件の相違点に注意を払うことを説明できる証拠もなければ、合理的な理由もないと反論した。逆に、一般需要者は、公知意匠状況に対して常識的な認識を有している人群で、本事件の被疑侵害意匠と本件意匠との間の共通点が相違点であることに、容易に注意を払えるはずである。 
 
実務上、一般需要者の観点についての証明を行う場合、証明する観点が一般需要者に起因しているか否かに留意すべきである。例えば、(2014)民3終字第8号において、最高人民法院は、一般需要者とは法律上の仮想概念で、一般需要者が有する「常識的な認識」と一般カーマニアとは一致しないと認定し、本田技研工業株式会社が陳述したメディア報道内容を採用しなかった。
 
おわりに
 
意匠権侵害紛争の処分は、容易なようで実はそうでもない。最高人民法院が毎年公表している「知的財産権司法保護10大事例」、「50大典型的事例」と「最高人民法院知的財産権審判年度報告」のいずれにおいても複数の意匠権侵害紛争事例が選出されているが、その比率は発明特許権侵害又は実用新案権侵害紛争よりはるかに多くなっている。これは、意匠権侵害紛争の件数自体が発明又は実用新案より多いということにも起因しているが、意匠権侵害紛争への対応においては、豊富でかつ複雑な法律問題が含まれているからである。
 
したがって、意匠権を行使する際に、軽々しく扱ってはならず、単純で直観的に勝手に取扱ってはならないので、最善の権利保護の効果を得るためには、やはり意匠権紛争に係る豊富な経験を身に付けた弁護士に依頼することで、権利保護を図ることが得策であると思われる。