北京魏啓学法律事務所
 
本判例は、意匠権侵害訴訟における公知意匠の抗弁の適用に係り、再審の段階で逆転勝訴した事件である。本事件において、最高裁は、公知意匠の抗弁の判断方法などに関して、最新の考え方を表明しているので、参考にしていただければ、幸いである。
 
基本情報:
意匠権者(一審原告、二審上訴人、再審申請者):株式会社ブリヂストン(以下、「ブリヂストン社」という)
 
被疑侵害者(一審被告、二審被上訴人、再審被申請者):浙江杭廷頓公牛ゴム有限公司(以下、「公牛社」という)、北京邦立信輪胎有限公司
 
一審:北京第二中等裁判所 (2007)二中民初字第391号
二審:北京高等裁判所 (2007)高民終字第1552号
再審:最高裁判所 (2010)民提字第189号
 
事件経緯:
ブリヂストン社は、タイヤに関する意匠権(以下、「本件意匠」という)を有していた。公牛社が製造したタイヤが本件意匠と酷似することを発見したので、2006年に北京第二中等裁判所に意匠権侵害訴訟を提起した。
 
訴訟において、公牛社は、公知意匠の抗弁を主張した。一審裁判所は、審理した結果、公知意匠の抗弁が成立するので、意匠権侵害とならないと判断し、ブリヂストン社の訴訟請求を棄却した。
 
ブリヂストン社は、これを不服とし、北京高等裁判所に上訴したが、高等裁判所は、審理を経て、一審判決を維持した。
ブリヂストン社は、二審判決を不服とし、最高裁に再審を申請した。最高裁は、公聴を行った結果、原審判決における法律適用には誤りがあるので再審を行うと言い渡し、審理の結果、一審判決、二審判決を取り消し、一審被告はタイヤの製造・販売を停止し、タイヤの金型と在庫を廃棄し、販売店から在庫を回収・廃棄し、一審原告(ブリヂストン社)に損害賠償金を支払えという最終判決を言い渡した。
 
事件の争点:
1、意匠権侵害判断における、公知意匠の抗弁の審査と判断方法
2、イ号製品は本件意匠の保護範囲に入るか否か
3、侵害民事責任の負担
 
裁判所の判断:
 
一審裁判所:
 
(1)被告は公知意匠の抗弁を主張し、かつ、公知意匠の証拠を提出した。公知意匠の抗弁を適用する際には、イ号製品と公知意匠のみを対比し、同一または類似であるかどうかを判断すれば十分である。
 
(2)イ号製品は、本件意匠と類似するが、全体観察すれば、公知意匠とも類似する。
 
したがって、被告による公知意匠の抗弁が成立するので、意匠権侵害とならない。
 
二審裁判所:
意匠が同一または類似であるかどうかを判断する際には、一般消費者の知識レベルと認知能力に基づき判断すべきである。イ号製品と公知意匠を全体から比較すれば類似する。ブリヂストン社が主張した相違点は、全体的な視覚効果に顕著な影響を与えないので、イ号製品と公知意匠は類似する。
 
したがって、ブリヂストン社の上訴理由は成立しない。
 
最高裁判所:
 
(1)被疑侵害者による公知意匠の抗弁が成立するかどうかを判断する際には、まずイ号製品と公知意匠と対比し、同一または実質的相違点があるかどうかを確認すべきである。イ号製品と公知意匠が同一であれば、公知意匠の抗弁が成立する。同一でない場合、さらに、両者は実質的相違点があるかどうか、あるいは、類似であるかどうかを判断すべきである。類似であるかどうかを判断する際には、ただイ号製品と公知意匠についてのみ対比しただけでは、両者間の相違点及び当該相違点が両者の全体的な視覚効果に与える影響を無視するおそれがあり、これにより誤った判断をもたらし、イ号製品の意匠と公知意匠及び意匠権の三者が何れも類似するという状況が生じる。したがって、イ号製品と公知意匠が同一でない場合には、意匠権侵害について正確な結論を出すために、公知意匠を基準として、イ号製品の意匠と公知意匠と意匠権の三者についてそれぞれ対比したうえで、総合的に判断すべきである。その過程において、イ号製品と公知意匠の相違点と類似点及び全体的な視覚効果に与える影響を注意すべきであるばかりではなく、本件意匠と公知意匠の相違点及び全体的な視覚効果に与える影響にも注意すべきであり、イ号製品の意匠が意匠権と公知意匠の相違点を利用したか否かを考慮したうえ、イ号製品の意匠と公知意匠に実質的相違点が存在するか否かについて判断すべきである。

(2) 本件において、イ号製品と公知意匠とは同一ではない。イ号製品、本件意匠と公知意匠の三者の相違点からみれば、本件意匠と公知意匠との相違点は、視覚効果に対し、顕著な影響を与える。イ号製品は、この相違点を何れも利用しているので、この相違点は、同様にイ号製品と公知意匠との間の相違点を構成する。イ号製品と公知意匠との間の類似点と比べて、かかる相違点は、両者の全体的な視覚効果により顕著な影響を与えている。一般消費者の視覚から見れば、イ号製品は、公知意匠とは同一ではなく、実質的にも類似しない全体的な視覚効果を有する。
 
したがって、公知意匠の抗弁は成立せず、意匠権侵害となる。
 
コメント
 
公知意匠の抗弁については、第三回改正法において初めて規定されたものであるが、司法実務においては、それ以前にも認められた実例がある。しかし、その適用原則と判断方法については、明確な法律規定がないので、各裁判所によって判断方法は異なっていた。
 
一審裁判所と二審裁判所は、意匠権侵害訴訟において、被告が公知意匠の抗弁を主張する場合、イ号製品と公知意匠のみを対比すれば十分であり、イ号製品が公知意匠と同一または類似しない場合にのみ、初めてイ号製品と本件意匠を対比するという考え方を有していた。
裁判所の上記の考え方について、ブリヂストン社および訴訟代理人である弊所は、法律根拠がなく、かつ、立法趣旨と合致していないと考え、再審を請求し、最高裁は審理を行った。
 
最高裁は、本件の判例を通じて、正確な公知意匠の抗弁の適用原則の判断方法を各地方裁判所に伝えると考えられる。
 
最高裁の判決からみれば、最高裁は、イ号製品と公知意匠が同一ではない場合には、イ号製品と公知意匠のみの対比で、公知意匠の抗弁が成立するかどうかを判断するという方法を明確に否定した。最高裁の意見としては、意匠権侵害訴訟において、被疑侵害者が公知意匠の抗弁を主張した場合、次のステップで判断すべきである。
                         
ステップ1:公知意匠とイ号製品を対比し、同一であれば、公知意匠の抗弁が成立し、侵害は成立しない。
 
ステップ2:公知意匠とイ号製品を対比し、同一でない場合、公知意匠を基準とし、公知意匠、イ号製品と本件意匠の三者をそれぞれ対比する。イ号製品は、本件意匠と公知意匠との相違点を利用したか、全体的な視覚効果に対する影響などに基づき、イ号製品は、公知意匠と類似するかどうか、本件意匠と類似するかどうかを判断する。
 
最高裁の判断方法は、本件意匠の公知意匠に対する貢献を十分に考慮し、意匠権者の利益と公衆の利益のバランスを図るものであると考えられる。当該判断方法は、意匠制度および公知意匠の抗弁の立法趣旨と合致している。したがって、最高裁は、本件では公平な判決を言い渡した。しかし、当該判断方法は、三者を対比して、相違点と同一点の視覚効果への影響を総合的に考慮しなければならないので、裁判官に対して、高い判断レベルを要求することになった。今後の裁判実務において、地方の裁判所も正確に公知意匠の抗弁を適用することを期待したい。