中国弁護士 商標弁理士 王 艶
北京魏啓学法律事務所
北京魏啓学法律事務所
はじめに
商標の使用は、商標法体系における核心的な概念であり、商標権の取得、維持及び権利侵害判断に直接関わるもので、企業のブランド戦略において極めて重要な意義を有している。近年の商標法改正の動向を見ると、商標の使用を重視する傾向が一層強まっていることが明らかである。例えば、2019年改正の『商標法』第4条には、「商標の登録出願は使用に基づかなければならず、使用を目的としない悪意による商標登録出願は拒絶される。」と明確に規定されている。また、『商標法(改訂草案)』(意見募集稿)には、「商標の使用許諾義務」や「商標使用状況の説明」といった制度が新設され、商標の使用義務が一段と強化されている。このように、商標の使用が商標法の実務においてますます重要な役割を果たすようになっていることが分かる。本稿は、現行の法律規定及び関連事例を踏まえ、商標の使用が商標の権利付与・権利確定及び侵害抗弁において果たす具体的な役割について考察し、商標法の実務に有益な参考を提供するものである。
1.商標の使用とは
商標の使用の役割を検討する前に、まず「商標の使用」とは何を意味するのかを明確にしておく必要がある。『商標法』第48条は、「商標の使用」について、「商品、商品包装又は容器及び商品取引文書、又は宣伝広告、展覧及びその他の商業活動において商標を使用し、商品の出所を識別する行為のことを言う。」と定義している。この定義から明らかなように、商標の核心的な機能は、商品又は役務の提供者を識別することである。例えば、ある商標の使用行為が、商標と商品又は役務の提供者との間に関連性を形成できない場合、その行為は、法的意味における商標の使用とは認められない。さらに、商標の使用は、商標権を維持するために象徴的に行われることではなく、真実かつ善意の商業目的に基づくものでなければならず、その使用行為には連続性と安定性が求められる。使用の形態としては、商標を商品やその包装や容器に直接付すほか、契約書や請求書などの取引文書における表示、広告宣伝、メディア活動及び展示会などのマーケティングやプロモーションの場面における使用も含まれる。
また、第35類役務における商標の使用行為は、特に強調しなければならない。第35類には、広告、マーケティング、商業管理など、企業の経営と密接に関連する役務が含まれている。しかしながら、広告や販売促進などの活動において商標を使用することが、第35類における商標の使用に直ちに該当するわけではないことは、多くの商標出願人に誤解されている。実際に、企業が自社商品を販売するか、又は自社商品を販売するために広告宣伝を行うか、又は事業活動の展開や自社の経営管理を強化するために日常的な企業管理や商業分析などを行う場合に商標を使用したとしても、これらの行為は、第35類役務における商標の使用行為には該当しない。第35類役務の特徴は、「権利者自身の業務上の需要のために行われる行為ではなく、他人のために供される役務」である点にある。たとえば、企業が自社商品のプロモーション過程で、自社商品の商標を広告宣伝に用いた場合、当該商標によって形成された「商品提供者」との対応関係は、「広告役務の提供者」との対応関係ではない。したがって、このような使用行為は、広告役務(第35類)における商標の使用行為には該当しない。
2.商標の使用が商標の権利付与・権利確定において果たす役割
商標の権利付与・権利確定段階において、「商標の使用」は商標専用権を取得するための重要な基礎になっている。固有の識別力を欠く標章であっても、使用によって「後天的な」識別力を獲得しさえすれば、登録要件を満たすことができる。一方、すでに登録された商標は、継続的な使用によってその知名度が高まることで、より広範な保護範囲が認められることがある。また、未登録商標であっても、実際に使用されていれば、一定の条件下で『商標法』に基づく保護を受けることができる。このように、商標の使用は、商標の権利付与・権利確定の体系において極めて重要な役割を果たしている。続いて、『商標法』第11条、第13条、第15条及び第32条と結びつけて、商標の使用が商標の権利付与・権利確定において果たす役割について、詳しく分析する。
(1)「登録できない」から「登録できる」へ
『商標法』第11条第1項には、識別力を欠く標章は商標として登録できないと、明確に規定されている。識別力は、商標が登録されるための必須条件の一つであり、多くの標章は、商標としての固有の識別力を最初から有しないため、生産者・経営者を識別する機能を十分に果たせない。しかし、商標の識別力は一定不変のものではなく、変化し得るものである。もともと識別力を欠く標章であっても、永久に登録できないというわけではなく、逆に、すでに登録された商標であっても、その識別力が永久に維持できるとは限らないのである。そして、商標の実際の使用こそが、その識別力に変化をもたらす主要な原因なのである。『商標法』第11条第2項には、「前項に掲げる標章が、使用によって識別力を有し、かつ容易に識別可能なものとなった場合には、商標として登録することができる。」と規定されている。このことから、商標の識別力は、使用によって後天的に獲得されるものであることが分かる。
商標実務において、商標出願時に「識別力を欠く」という理由で拒絶査定された場合、出願人は不服審判を請求し、かつ大量の商標の使用証拠を提出することで、当該商標が使用によって商品の出所を識別できる識別力を獲得したことを立証して、拒絶理由を克服することができる。実務経験によれば、このような案件においては、使用証拠に対する要求レベルが非常に高く、通常は馳名商標の立証レベルに匹敵するとみなされている。たとえば、テンセントの音声商標「嘀嘀嘀嘀嘀嘀」(音訳:didididididi)に係る拒絶査定不服審判事件1において、テンセントは大量の証拠資料を提出することで、QQソフトが極めて広範なユーザー層を有し、関連公衆において非常に高い知名度を有しているという事実を証明した。これらの証拠資料には、同社の数年来の年次報告書、中国国家図書館における検索文献、専門コンサルティング会社が発表した『中国インスタントメッセージ研究報告書』などの業界レポート、商標「QQ」が複数回馳名商標に認定された記録、QQソフトが「単一のインスタントメッセージプラットフォーム上における最多オンラインユーザー数」のギネス世界記録を達成した証明書及び関連報道などが含まれた。本件係争音声商標は、QQソフトで新しいメッセージを受信した時のデフォルト通知音であり、QQソフトの利用者は、当該通知音に必ず接することになるため、QQソフトの知名度は、当該通知音の知名度にもある程度直接反映されていると言える。当該音声商標が単一の音声要素「嘀」のみで構成されていることで、関連公衆は通常容易に商品又は役務の出所を識別する標章として認識できないため、『商標法』第11条第1項第3号に規定の「識別力を欠く標章」に該当すると認定されたが、テンセントが長年にわたり継続的に使用してきたことで、当該音声商標はすでに役務の出所を識別する役割を備えるようになっており、『商標法』第11条第2項の規定に基づき、登録を認めるべきだと判断された。
本件において、裁判所は、使用によって識別力を獲得した商標の審査に対して、「商品・役務の項目の特定化」の原則に従うべきであることをさらに明確にした。すなわち、使用による識別力の獲得を判断する過程において、一般化判断や部分的なことから全体を判断してはならないことを明確にした。テンセントの音声商標「嘀嘀嘀嘀嘀嘀」は、インスタントメッセージソフトウェアにおいて長期間にわたり使用されてきたことで、識別力を備えるようになった。当該音声商標の指定役務のうち、「情報伝達、オンラインフォーラムの提供、コンピュータによる情報・画像の伝送、インターネットチャットルームの提供、デジタルファイルの転送、オンライングリーティングカードの送信、Eメール」などは、いずれもインスタントメッセージソフトウェアと密接に関連しており、そのソフトウェアプラットフォーム上で提供される役務に該当するので、これらの指定役務において、当該音声商標は識別力を有していると認定できる。しかしながら、当該音声商標は指定された「テレビ放送、通信社、電話会議サービス」という3つの役務において使用されておらず、当該3つの役務においても識別力を有すると認定する場合、使用によって識別力を獲得したという事実と一致せず、出願商標を不当に出願登録したということになりかねない。このことから、商標の識別力の獲得は、使用によって初めて成立するものであり、登録が認められる指定商品又は役務の範囲も、実際に使用されている商品又は役務に限定されるべきである。ある商品に大量に使用され、識別力を獲得したとしても、必ずしも当該識別力がその商品にまで及ぶわけではない。
(2)「区分を超えた保護」の基礎
『商標法』第13条第3項の規定によれば、中国で登録された馳名商標は、非類似の商品においても区分を超えた保護が受けられる。通常、商標権の保護は、その指定商品・役務と類似の範囲に限定されているが、商標が馳名商標に認定された場合、その保護範囲は大幅に広がり、保護の強さも実質的に高くなる。このような馳名商標の認定において、商標の実際の使用は、必要不可欠な前提条件になる。商標が「馳名商標」になるのは、そのデザインの巧妙さや登録の事実によるものではなく、市場における長期間で広範囲かつ大規模な使用によって、知名度が絶えず高められてきた結果である。その継続的な使用により、商標は本来の区分を超え、広く一般消費者に認識されるブランドになるのである。
馳名商標の認定には、複雑かつ厳格な法的手続きが要求され、十分かつ有力な証拠を提出することがポイントとなる。馳名商標としての保護を主張する案件では、商標の継続使用期間、使用範囲、使用程度について非常に高いレベルの立証が要求される。通常、出願人は、多くの側面から立証をしなければならず、具体的には、商標の継続使用期間、市場における信用、広告宣伝のリーチ、消費者の認知度などが含まれる。また、具体的な証拠の形式としては、販売契約書、領収書、広告運用のデータなど従来からの証拠資料に加え、業界レポート、市場調査のデータ、受賞歴及びメディア報道などの補助的な証明資料も含まれる。特に重要なのは、証拠が十分な時間的幅と地域的カバレッジを備えていることで、当該商標が長期的かつ広範な地域で継続的に使用され、かつすでに顕著な影響力を有していることを証明することである。つまり、証拠の質と完全性は、認定結果に直接的な影響を及ぼすのである。『商標審査及び審理基準』は、中国ですでに登録された商標を馳名商標として認定する請求に際して、「当該商標の登録期間が3年間を下回らないか、又は継続使用時間が5年間を下回らないことを証明する証拠資料を提出しなければならない。当事者が提出した域外の証拠資料は、当該商標が中国の関連公衆に知られていることを裏付けられるものでなければならない。」と明確に規定している。したがって、企業が馳名商標の認定を請求する際には、関連証拠資料をあらかじめ体系的に整理し、全面的でかつ説得力のある形で準備することによって、審査機関による厳しい要求に対応できるようにしておかなければならない。
また、魔知輪(home.mozlen.com)の下記表の統計データ(2025年9月22日までに)によれば、近年の馳名商標認定に関する異議申立て事件において、対象商標がこれまでに馳名商標として認定された記録がある場合、馳名商標に再度認定される可能性がより高いことが確認できる。たとえば、第77228728号商標「昱白潔碧柔」に係る異議申立て事件2、第75672461号商標「SK-IK」に係る異議申立て事件3、第77404972号商標「NSKA」に係る異議申立て事件4において、以前に馳名商標に認定された花王株式会社の商標「碧柔」、P&G社の商標「

(3)「悪意による先取り登録」への対策
現行『商標法』は、登録商標専用権の保護を中核としているが、特定の条件下では、不正競争を防止し、市場の公正な秩序及び誠実信用の原則を維持する観点から、未登録商標に対してもある程度の保護を認めている。未登録商標については、すでに使用されていることが保護を受けるための重要な前提条件となる。ここでは、『商標法』第15条及び第32条と結び付けて、具体的に考察を進める。
① 商標法第15条
第15条の規定によれば、代理関係、代表関係又はその他の契約、業務往来関係があることにより、他人の商標の存在を明らかに知っている者がその商標を先取り出願することが禁止されている。その立法趣旨は、誠実信用の原則に基づき、特別な関係にある者による悪意の先取り出願行為を抑制することにある。
同条第1項では、「授権されていない代理人又は代表者が自らの名義により被代理人又は被代表者の商標について登録し、被代理人又は被代表者が異議を申し立てた場合には、その登録を拒絶し、かつその使用を禁止する。」と規定されている。文言上、当該規定では、被代理人又は被代表者の商標がすでに使用されていることは、明確に要求されていない。では、この規定は、使用の有無にかかわらず保護が受けられることを意味しているのであろうか。『商標審査及び審理基準』によれば、被代理人の商標には「契約又は授権委託書に明記されている被代理人の商標」に加え、「代理関係がすでに確定している時点で、被代理人がその代理販売される商品・役務においてすでに先に使用している商標は、被代理人の商標とみなされる」も含まれ、被代表者の商標には、「被代表者がすでに先に使用している商標と法により被代表者に帰属するその他の商標」も含まれる。したがって、当事者間に約定がない場合、ある標章が被代理人又は被代表者の商標に該当するか否かを判断する際に、「先使用」の有無が重要な考慮要素となる。先使用の証明は、当該標章が被代理人又は被代表者の商標であるか否かを判断する上で重要な根拠となる。
同条第2項は、「先使用」を適用要件の一つとして明確に規定している。すなわち、当事者は、「前項に定めた状況以外の契約、業務往来関係又はその他の関係」を立証するだけでなく、同時に当該他人の商標がすでに「先使用」されていることを立証しなければならない。ここでいう「先使用」の範囲は広く、実際に販売されている商品や提供されている役務における商標の使用だけでなく、商標の広告宣伝活動及び先使用者が商標を付した商品・役務を市場に投入するために行った実際の準備活動も含まれる。また、先使用者は、商標の使用によってすでに一定の影響力を有していることまで立証する必要はなく、単に商標が使用されていることを証明するだけでよい。言い換えれば、同条における「先使用」に対する要求は低く、特定の関係により先使用商標の存在を明らかに知っていながら、先取り出願人が回避行動を取らなかったことを証明できれば、立証要件を満たすことができるのである。例えば、第43153036号商標「豪使HEUSCHLAA CHEN H193588 MADE IN XTNHONG及び図」に係る無効審判事件5では、裁判所は審理を経て、本件証拠により、「被疑侵害商標の出願日前に、出願人はすでに羊毛刈り用のスパイラルナイフなどの商品に標章『HEUSCH AACHEN及び図』を使用していた。しかし、被出願人(被疑侵害商標の登録人)は長期にわたり、出願人の刃物類を販売しており、その法定代表者も複数回にわたってWeChatを通じて出願人に製品を注文し、WeChatでのやり取りで出願人が刃物類に標章『HEUSCH AACHEN及び図』を実際に使用していることを知っていた。」ことを証明できた。このような状況下で、被出願人は回避行動を取らずに被疑侵害商標を出願したため、『商標法』第15条第2項の違反に該当する。さらに、本件は、WeChatのチャット記録などの新型電子証拠が、現在の訴訟活動において重要な要素になっていることを明らかにしている。実名認証や情報技術の活用により、このような証拠は場合によっては、争点事実の認定に直接影響を与え、裁判官に主要な証拠として採用されることもある。
② 商標法第32条
第32条は、現行の商標法体系において未登録商標を保護するための核心条項の一つである。同条の規定によれば、他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならないとされている。ここで言う「使用」とは、法律上保護される先行権益を直接作るものである。本条の適用にあたっては、他人の商標が先に使用され、かつ一定の影響力を有していることを立証する必要がある。つまり、使用は、適用の前提条件の一つである。第15条と比較すると、本条における使用に対する要求はより高く、一定の影響力を有していることを立証しなければならない。商標が使用され、かつ一定の影響力を有していることが証明されれば、先取り出願人は当該商標を知っていたと推定され、悪意による先取り出願があったとみなされる。
また、商標は地域性を有するため、ここで言う先使用とは、中国大陸における実際の使用のことを言うことに注意しなければならない。例えば、第6747812号商標「BEARINGTON COLLECTION」に係る異議申立て事件6において、裁判所は、異議申立て人のジェティ社が提出した委任状、貨物輸送委託書、梱包明細書、製品検査報告書はいずれも自社作成の証拠であり、税関の通関書類などの第三者による証拠に裏付けられていない限り、その証明力には限りがあると判断した。また、仮にこれらの証拠の真実性が認められたとしても、ジェティ社が商標「BEARINGTON COLLECTION」を付した商品をアメリカに輸出したという事実を示すことができるだけで、当該商標の中国大陸における知名度を証明するものではない。したがって、本件係争商標の出願は、「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない」という規定に該当しない。また、第18572454号商標「茶の魔手 Chade mo shou」に係る無効審判事件7では、裁判所は、その他の国や地域における使用行為は、中国大陸において得られる関連法律の保護の事実的根拠にはならないと判断した。無効審判請求人が提出した証拠は、台湾地域における「茶の魔手」商標の使用証拠のみで、中国大陸における使用証拠は提出していなかった。台湾地域と中国大陸は異なる法域に属するため、係争商標の登録は、「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない」という状況に該当しないとみなされた。さらに、第5172626号商標「StAPLe」に係る無効審判事件8では、裁判所は、商標権の権利範囲、保護内容及び保護期間は、地域によって制限されると認定した。すなわち、中国国内における商標の実際の使用とは、実際の経営活動において商標を商業的使用した事実が中国国内で行われることを意味し、つまり中国大陸における使用のことを言う。
以上の分析から、「使用」とは、先取り出願人の主観的悪意と権利者の先行権益を証明する重要なポイントになるという結論に導くことができる。未登録商標については、通常、異議申立てや無効審判などの後続救済手続きによらなければ、保護を求められない。法律によって与えられる保護は、限定的かつ受動的であり、個別案件ごとの判断によらなければならない。したがって、企業にとっては、商標を適時に登録出願することが、最も強力な法的保護を獲得し、潜在的な法的リスクを回避するための最も根本的かつ最も有効な手段であると言える。未登録商標の保護は、必要な補充的救済手段として位置づけられるべきであり、権利構築の第一の選択肢としてみなされるべきではない。
3.商標権侵害抗弁における商標使用の役割
商標の使用は、商標権侵害が成立するか否かを判断する前提条件である。すなわち、被疑侵害行為が「商標的使用」に該当するか否かの判断は、商標権侵害事件の審理におけるファーストステップであり、論理的な出発点でもある。被疑侵害行為が商標的使用であると認定されたら、さらにその具体的な使用方法、使用規模、使用の背景、主観的な使用意図などを総合的に考慮し、「混同を引き起こす可能性」を基準として、最終的に侵害が成立するか否かを判断する。権利侵害抗弁の過程においても、商標の使用は、同様に重要な役割を果たす。以下に、『商標法』第59条及び第64条を踏まえ、商標の使用の権利侵害抗弁における具体的な役割について論じる。
(1)正当な使用の抗弁
『商標法』第59条第1項は、「登録商標に本商品の通用名称、又は商品の内容又は特徴を表す文字・図形・地名などの記述的要素を含むものがある場合には、登録商標の商標権者は他人の正当な使用を禁止する権利を有しない。」と規定している。当該規定は、本来共有分野に属する記述的語彙を商標権者が独占的に使用することを防ぎ、他の事業者が商品・役務の特徴を正確に記述することを防ぐことにある。また、第2項では、「立体標章にその商品自体の性質により生じた形状、技術的効果を得るための不可欠な商品形状、又はその商品に本質的な価値を備えさせるための形状がある場合には、登録商標の商標権者は他人の正当な使用を禁止する権利を有しない。」と規定している。つまり、立体商標が機能性を有する場合、商標権によって永久に保護されるべきではないことを明らかにしている。
実際は、記述的語彙は通常、固有の識別力を欠くため、そもそも商標として登録できず、機能性を有する立体商標も同様である。しかし、実務において、本来識別力を欠く商標が長期的な使用によって識別力を獲得し、登録が認められるケースや、他の識別力を有する要素と組み合わせられることによって、商標全体としての識別力を有すると判断され、登録が認められるケースも存在する。商標権侵害紛争において、このような登録商標について、被疑侵害行為が商品・役務の出所を識別するための「商標的使用」ではなく、商品そのものの特性を説明するための「記述的使用」である場合、当該行為は「正当性」を有するとされ、法によって権利侵害の範囲から除外される。
このような事件において、商標の使用方式(際立った使用か否か、その標章が「第一の意味」、すなわち記述的意味で使用されているか否か)、主観的な意図(ただ乗りしようとする意図があるか否か、合理的かつ善意の使用であるか否か)、業界慣行(このような使用方式が一般的であるか否か、必要であるか否か)などが、侵害の有無を判断する上で重要な考慮要素となる。例えば、商標「全波段」ラッシュガードに係る商標権侵害紛争事件9では、被告は原告の登録商標「全波段」を含む「全波段防晒」という文字を使用していたが、証拠によれば、原告の商標「全波段」が登録出願される前から、多くの日焼け止め製品の事業者、消費者、マーケティング担当者、研究者等がすでに「全波段防晒」を商品機能の表現する語彙として、約20年間にわたり現在まで継続使用していた。また、本件において、原告も「全波段防晒」をラッシュガードの機能を説明する語彙として使用していた。一方、被告による「全波段防晒」の使用において、「全波段」という三文字は際立っておらず、その語彙の下で「全波段防晒」の意味を説明し、製品包装にも自社の保有商標を明示していた。したがって、裁判所は、関連公衆が「全波段防晒」を商品の日焼け止め機能として理解しており、商品を識別する出所とは結びつかず、混同を引き起こさず、被告の使用は商品の機能を表現、説明する範囲を超えておらず、原告の商標「全波段」の商業的信用にただ乗りするものではないとして、商標権侵害は成立しないと認定した。また、商標「大富翁(ボードゲーム、モノポリーの中国語名)」に係る商標権侵害紛争事件10では、まず、本件証拠から「大富翁」がボードゲーム商品の通用名称であるか、又は指定商品の機能・用途などの特徴のみを直接表現しているのかを十分に証明できない。次に、被告は、標章「大富翁」を使用した際、「大富翁」本来の記述的意味を利用して製品特性を説明したわけではないため、商標的使用に該当する。さらに、原告は被告の登録商標「賽和大富翁」に対して無効審判11を請求しており、国家知識産権局は係争商標と原告の商標「大富翁」が同一又は類似商品における類似商標に該当するとして係争商標を無効とした。このことから、被告は原告及びその商標「大富翁」を知っていたはずであり、製品リンクの命名方法からも商標「大富翁」の知名度にただ乗りしようとする意図が見られ、主観的には善意の使用とは言えない。これらの事実から、裁判所は、被告の使用行為は権利侵害に該当すると判断した。
(2)先使用の抗弁
『商標法』第59条第3項は、先に使用され、かつ一定の影響力を有する商標は、元の使用範囲で継続的に使用でき、商標権者は、当該商標の使用を禁止する権利を有しないことを明確に規定している。中国における商標権の取得は、登録主義であるが、実務において、実際にすでに使用されている未登録商標が多数存在している。本条の規定は、商標登録制度下で「先使用」に対する保護を再度明確にするものである。商標の本質的機能は、商品の出所を識別することであり、先使用者は実際の経営活動を通じて商業的信用を蓄積しているが、このような「事実上の権利」も、法律によって保護されるべきである。
ここで言う先使用の抗弁の成立には、以下の3つの要件を満たさなければならない。①商標使用者が、商標登録出願前から商標を使用し、かつ一定の影響力を有していること。②使用されている商標と登録商標が、同一又は類似商品における同一又は類似の商標であること。③商標使用者による使用が、元の使用範囲を超えていないこと。
ここで、先使用者による使用は、商標登録人による出願日よりも早いだけでなく、商標登録出願人自身が当該商標を使用し始めた時点よりも早くなければならないことに特に注意しなければならない。例えば、商標「老百姓大薬房」に係る権利侵害紛争事件12では、裁判所は、「先使用が商標出願日より早かったとしても、商標登録出願人の実際の使用開始より遅く、かつ先使用者が『明らかに知っている』又は『知っているはず』であることを証明できる場合、先使用の抗弁を認めてはいけない。」とはっきりと指摘した。また、当該事件では、先使用は善意に基づくものでなければならないことも指摘された。これは、北京知財裁判所が審理した商標権侵害紛争事件13(判決番号:(2019)京73民終1106号)の違法な使用は、保護を受けられず、先使用の抗弁が成立しないという観点と一致していた。実際に、先使用の抗弁制度の目的は、誠実に事業を営む企業が先使用に基づく合法的権益を保護することにある。たとえば、商標「双飛人」に係る商標権侵害及び不正競争紛争事件14では、被告商品は、事前の広告宣伝により一定の影響力を有しており、原告は被告商品の存在を明らかに知っていながら、被告商品の包装と類似する商標を、悪意を持って登録出願することで、権利行使していた。これに対して、最高裁判所は、被疑侵害行為は、『商標法』第59条第3項に規定の状況に該当し、商標権者は先使用者による元の使用範囲における使用を禁止する権利を有しない認定した。このことから、裁判所は、先使用の抗弁を判断する際、後願商標の登録出願が善意に基づくものであったか否かも考慮する必要があることが分かる。
一方、「一定の影響力」については、北京高等裁判所が発表した『昨今の知的財産権に係る裁判において注意すべき若干の法律問題』において、知名度の高さについて過度に要求すべきではなく、先使用者による商標の使用が真実であり、かつその商標が使用によって使用地域内で識別機能の役割を果たしていれば、「一定の影響力」を有するという要求を満たしていると明記されている。
「元の使用範囲」に関しては、現時点で、司法上の明確な定義はないが、使用地域の範囲、使用方法、使用主体又は使用規模が元の使用範囲を超えた場合の判断基準は、比較的曖昧である。たとえば、商標「理想空間」に係る商標権侵害紛争事件15や華聯スーパーの商標権侵害紛争事件16において、最高裁判所は「元の使用範囲を認定する際に、商標使用の地域範囲及び具体的な使用方式に重点を置くべきである。」と指摘している。具体的には、先使用者が実店舗を通じて商品販売又は役務提供を行って、商標登録出願人が商標を出願するか又は使用した後に、先使用者が既存の実店舗の影響の範囲外の地域に新規店舗を開設したり、インターネットなどの新たな販売ルートを通じて商品販売又は役務提供を行ったりした場合、普通元の使用範囲を超えたと認定されるべきである。実務において、具体的な事件の状況に応じて様々な角度から解釈されることが多く、結論が変わる場合もあり得る。それに対して、現象にとらわれず本質を見極めることが重要であり、先使用者が商標使用によって蓄積した商業的信用が及ぶ範囲を、核心的な判断基準とすべきである。
(3)損害賠償責任の免除
『商標法』第64条第1項は、「登録商標の商標権者が賠償を要求した場合、被疑侵害者は、登録商標の商標権者が登録商標を使用していないと抗弁することができる。」と規定している。例えば、登録商標の商標権者が過去3年間に当該登録商標を使用していなかった場合、被疑侵害者は賠償責任を負う必要はない。
前述した「正当な使用の抗弁」と「先使用の抗弁」における「使用」は、いずれも被疑侵害者による使用のことを言うのに対し、ここで言う「使用」は原告側(すなわち、商標登録人)による使用のことを言う。実務において、実際の使用を目的としない商標を登録して、その後高額譲渡又は悪意の訴訟によって、賠償金を得ようとするケースも存在する。しかし、商標法制度の根本的な目的は、商標の識別機能を保護し、消費者の混同を防止するとともに、使用を通じて蓄積された商標登録権者の商業的信用を保護することにある。長期間使用されていない登録商標は、法的に商標専用権を有しているものの、関連公衆に認知されていないため、市場知名度をほとんど有しておらず、市場における真の評価や商業的価値は形成されない。このような登録商標が、権利基礎として侵害訴訟で用いられる場合、その主張力が弱く、権利維持の効果も大きく損なわれることが多くなる。
『商標法』第64条第1項は、「商標の使用」を登録後の法的義務からさらに一歩進め、侵害訴訟における損害賠償責任の判断における重要な事実要件として位置づけている。この規定は、真実の使用意図や使用行為を伴わない商標権者が、訴訟によって不当な利益を得ることを効果的に阻止し、市場の公正競争秩序を維持する役割を果たす。被疑侵害者にとっては、悪意の訴訟に対抗し、権利濫用を制限する「口実」にはなるが、商標権者にとっては、商標を実際の商業活動に投入しなければ、権利が権利維持の重要な時に「効力を失ってしまう」可能性があることを警告する「警鐘」となっている。
ただし、この条項に基づく抗弁は、あくまで被疑侵害者の損害賠償責任を免除することにとどまり、侵害行為そのものの成立判断には影響しないことに注意しなければならない。したがって、裁判所が侵害成立を認定した場合、被疑侵害者は、侵害行為の差止めや影響の除去などの法的責任を引き続き負わなければならない。
まとめ
本稿では、現行『商標法』の関連規定及び典型的事例を踏まえ、「商標の使用」が商標の権利付与・権利確定及び侵害抗弁に果たす核心的な役割について、体系的に整理・分析した。そこから、商標は、商品・役務の出所を識別する商業標章であり、その核心的価値は実際の使用にあり、「商標の使用」は、商標法の理論と実務を貫く生命線であるという結論を得ることができた。商標法体系が絶えず最適化・整備される中で、従来の「登録重視・使用軽視」という観念は根本的に転換され、商標使用の制度における基盤的地位はますます明らかになり、今後より一層強化されることが予測される。
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参考文献:
1. 北京市高等裁判所(2018)京行終3673号判决
2. 第77228728号商標「昱白潔碧柔」に関する不登録決定
3. 第75672461号商標「SK-IKI」に関する不登録決定
4. 第77404972号商標「NSKA」に関する不登録決定
5. 最高裁判所(2024)最高法行申6775号行政裁定書
6. 北京市高等裁判所(2017)京行終491号判决
7. 北京市高等裁判所(2019)京行終4875号判决
8. 最高裁判所(2023)最高法行申2567号行政裁定書
9. 上海知財裁判所(2023)沪73民終285号判决
10. 浙江省寧波市中等裁判所 (2025)浙02民終1584号判决
11. 第25576999号商標「賽和大富翁」に関する無効審判裁定書
12. 最高裁判所(2024)最高法民再218号判决
13. 北京知財裁判所(2019)京73民終1106号
14. 最高裁判所(2020)最高法民再23号判决
15. 最高裁判所(2018)最高法民再43号判决
16. 最高裁判所(2021)最高法民再3号判决
現行『商標法』は、登録商標専用権の保護を中核としているが、特定の条件下では、不正競争を防止し、市場の公正な秩序及び誠実信用の原則を維持する観点から、未登録商標に対してもある程度の保護を認めている。未登録商標については、すでに使用されていることが保護を受けるための重要な前提条件となる。ここでは、『商標法』第15条及び第32条と結び付けて、具体的に考察を進める。
① 商標法第15条
第15条の規定によれば、代理関係、代表関係又はその他の契約、業務往来関係があることにより、他人の商標の存在を明らかに知っている者がその商標を先取り出願することが禁止されている。その立法趣旨は、誠実信用の原則に基づき、特別な関係にある者による悪意の先取り出願行為を抑制することにある。
同条第1項では、「授権されていない代理人又は代表者が自らの名義により被代理人又は被代表者の商標について登録し、被代理人又は被代表者が異議を申し立てた場合には、その登録を拒絶し、かつその使用を禁止する。」と規定されている。文言上、当該規定では、被代理人又は被代表者の商標がすでに使用されていることは、明確に要求されていない。では、この規定は、使用の有無にかかわらず保護が受けられることを意味しているのであろうか。『商標審査及び審理基準』によれば、被代理人の商標には「契約又は授権委託書に明記されている被代理人の商標」に加え、「代理関係がすでに確定している時点で、被代理人がその代理販売される商品・役務においてすでに先に使用している商標は、被代理人の商標とみなされる」も含まれ、被代表者の商標には、「被代表者がすでに先に使用している商標と法により被代表者に帰属するその他の商標」も含まれる。したがって、当事者間に約定がない場合、ある標章が被代理人又は被代表者の商標に該当するか否かを判断する際に、「先使用」の有無が重要な考慮要素となる。先使用の証明は、当該標章が被代理人又は被代表者の商標であるか否かを判断する上で重要な根拠となる。
同条第2項は、「先使用」を適用要件の一つとして明確に規定している。すなわち、当事者は、「前項に定めた状況以外の契約、業務往来関係又はその他の関係」を立証するだけでなく、同時に当該他人の商標がすでに「先使用」されていることを立証しなければならない。ここでいう「先使用」の範囲は広く、実際に販売されている商品や提供されている役務における商標の使用だけでなく、商標の広告宣伝活動及び先使用者が商標を付した商品・役務を市場に投入するために行った実際の準備活動も含まれる。また、先使用者は、商標の使用によってすでに一定の影響力を有していることまで立証する必要はなく、単に商標が使用されていることを証明するだけでよい。言い換えれば、同条における「先使用」に対する要求は低く、特定の関係により先使用商標の存在を明らかに知っていながら、先取り出願人が回避行動を取らなかったことを証明できれば、立証要件を満たすことができるのである。例えば、第43153036号商標「豪使HEUSCHLAA CHEN H193588 MADE IN XTNHONG及び図」に係る無効審判事件5では、裁判所は審理を経て、本件証拠により、「被疑侵害商標の出願日前に、出願人はすでに羊毛刈り用のスパイラルナイフなどの商品に標章『HEUSCH AACHEN及び図』を使用していた。しかし、被出願人(被疑侵害商標の登録人)は長期にわたり、出願人の刃物類を販売しており、その法定代表者も複数回にわたってWeChatを通じて出願人に製品を注文し、WeChatでのやり取りで出願人が刃物類に標章『HEUSCH AACHEN及び図』を実際に使用していることを知っていた。」ことを証明できた。このような状況下で、被出願人は回避行動を取らずに被疑侵害商標を出願したため、『商標法』第15条第2項の違反に該当する。さらに、本件は、WeChatのチャット記録などの新型電子証拠が、現在の訴訟活動において重要な要素になっていることを明らかにしている。実名認証や情報技術の活用により、このような証拠は場合によっては、争点事実の認定に直接影響を与え、裁判官に主要な証拠として採用されることもある。
② 商標法第32条
第32条は、現行の商標法体系において未登録商標を保護するための核心条項の一つである。同条の規定によれば、他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならないとされている。ここで言う「使用」とは、法律上保護される先行権益を直接作るものである。本条の適用にあたっては、他人の商標が先に使用され、かつ一定の影響力を有していることを立証する必要がある。つまり、使用は、適用の前提条件の一つである。第15条と比較すると、本条における使用に対する要求はより高く、一定の影響力を有していることを立証しなければならない。商標が使用され、かつ一定の影響力を有していることが証明されれば、先取り出願人は当該商標を知っていたと推定され、悪意による先取り出願があったとみなされる。
また、商標は地域性を有するため、ここで言う先使用とは、中国大陸における実際の使用のことを言うことに注意しなければならない。例えば、第6747812号商標「BEARINGTON COLLECTION」に係る異議申立て事件6において、裁判所は、異議申立て人のジェティ社が提出した委任状、貨物輸送委託書、梱包明細書、製品検査報告書はいずれも自社作成の証拠であり、税関の通関書類などの第三者による証拠に裏付けられていない限り、その証明力には限りがあると判断した。また、仮にこれらの証拠の真実性が認められたとしても、ジェティ社が商標「BEARINGTON COLLECTION」を付した商品をアメリカに輸出したという事実を示すことができるだけで、当該商標の中国大陸における知名度を証明するものではない。したがって、本件係争商標の出願は、「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない」という規定に該当しない。また、第18572454号商標「茶の魔手 Chade mo shou」に係る無効審判事件7では、裁判所は、その他の国や地域における使用行為は、中国大陸において得られる関連法律の保護の事実的根拠にはならないと判断した。無効審判請求人が提出した証拠は、台湾地域における「茶の魔手」商標の使用証拠のみで、中国大陸における使用証拠は提出していなかった。台湾地域と中国大陸は異なる法域に属するため、係争商標の登録は、「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない」という状況に該当しないとみなされた。さらに、第5172626号商標「StAPLe」に係る無効審判事件8では、裁判所は、商標権の権利範囲、保護内容及び保護期間は、地域によって制限されると認定した。すなわち、中国国内における商標の実際の使用とは、実際の経営活動において商標を商業的使用した事実が中国国内で行われることを意味し、つまり中国大陸における使用のことを言う。
以上の分析から、「使用」とは、先取り出願人の主観的悪意と権利者の先行権益を証明する重要なポイントになるという結論に導くことができる。未登録商標については、通常、異議申立てや無効審判などの後続救済手続きによらなければ、保護を求められない。法律によって与えられる保護は、限定的かつ受動的であり、個別案件ごとの判断によらなければならない。したがって、企業にとっては、商標を適時に登録出願することが、最も強力な法的保護を獲得し、潜在的な法的リスクを回避するための最も根本的かつ最も有効な手段であると言える。未登録商標の保護は、必要な補充的救済手段として位置づけられるべきであり、権利構築の第一の選択肢としてみなされるべきではない。
3.商標権侵害抗弁における商標使用の役割
商標の使用は、商標権侵害が成立するか否かを判断する前提条件である。すなわち、被疑侵害行為が「商標的使用」に該当するか否かの判断は、商標権侵害事件の審理におけるファーストステップであり、論理的な出発点でもある。被疑侵害行為が商標的使用であると認定されたら、さらにその具体的な使用方法、使用規模、使用の背景、主観的な使用意図などを総合的に考慮し、「混同を引き起こす可能性」を基準として、最終的に侵害が成立するか否かを判断する。権利侵害抗弁の過程においても、商標の使用は、同様に重要な役割を果たす。以下に、『商標法』第59条及び第64条を踏まえ、商標の使用の権利侵害抗弁における具体的な役割について論じる。
(1)正当な使用の抗弁
『商標法』第59条第1項は、「登録商標に本商品の通用名称、又は商品の内容又は特徴を表す文字・図形・地名などの記述的要素を含むものがある場合には、登録商標の商標権者は他人の正当な使用を禁止する権利を有しない。」と規定している。当該規定は、本来共有分野に属する記述的語彙を商標権者が独占的に使用することを防ぎ、他の事業者が商品・役務の特徴を正確に記述することを防ぐことにある。また、第2項では、「立体標章にその商品自体の性質により生じた形状、技術的効果を得るための不可欠な商品形状、又はその商品に本質的な価値を備えさせるための形状がある場合には、登録商標の商標権者は他人の正当な使用を禁止する権利を有しない。」と規定している。つまり、立体商標が機能性を有する場合、商標権によって永久に保護されるべきではないことを明らかにしている。
実際は、記述的語彙は通常、固有の識別力を欠くため、そもそも商標として登録できず、機能性を有する立体商標も同様である。しかし、実務において、本来識別力を欠く商標が長期的な使用によって識別力を獲得し、登録が認められるケースや、他の識別力を有する要素と組み合わせられることによって、商標全体としての識別力を有すると判断され、登録が認められるケースも存在する。商標権侵害紛争において、このような登録商標について、被疑侵害行為が商品・役務の出所を識別するための「商標的使用」ではなく、商品そのものの特性を説明するための「記述的使用」である場合、当該行為は「正当性」を有するとされ、法によって権利侵害の範囲から除外される。
このような事件において、商標の使用方式(際立った使用か否か、その標章が「第一の意味」、すなわち記述的意味で使用されているか否か)、主観的な意図(ただ乗りしようとする意図があるか否か、合理的かつ善意の使用であるか否か)、業界慣行(このような使用方式が一般的であるか否か、必要であるか否か)などが、侵害の有無を判断する上で重要な考慮要素となる。例えば、商標「全波段」ラッシュガードに係る商標権侵害紛争事件9では、被告は原告の登録商標「全波段」を含む「全波段防晒」という文字を使用していたが、証拠によれば、原告の商標「全波段」が登録出願される前から、多くの日焼け止め製品の事業者、消費者、マーケティング担当者、研究者等がすでに「全波段防晒」を商品機能の表現する語彙として、約20年間にわたり現在まで継続使用していた。また、本件において、原告も「全波段防晒」をラッシュガードの機能を説明する語彙として使用していた。一方、被告による「全波段防晒」の使用において、「全波段」という三文字は際立っておらず、その語彙の下で「全波段防晒」の意味を説明し、製品包装にも自社の保有商標を明示していた。したがって、裁判所は、関連公衆が「全波段防晒」を商品の日焼け止め機能として理解しており、商品を識別する出所とは結びつかず、混同を引き起こさず、被告の使用は商品の機能を表現、説明する範囲を超えておらず、原告の商標「全波段」の商業的信用にただ乗りするものではないとして、商標権侵害は成立しないと認定した。また、商標「大富翁(ボードゲーム、モノポリーの中国語名)」に係る商標権侵害紛争事件10では、まず、本件証拠から「大富翁」がボードゲーム商品の通用名称であるか、又は指定商品の機能・用途などの特徴のみを直接表現しているのかを十分に証明できない。次に、被告は、標章「大富翁」を使用した際、「大富翁」本来の記述的意味を利用して製品特性を説明したわけではないため、商標的使用に該当する。さらに、原告は被告の登録商標「賽和大富翁」に対して無効審判11を請求しており、国家知識産権局は係争商標と原告の商標「大富翁」が同一又は類似商品における類似商標に該当するとして係争商標を無効とした。このことから、被告は原告及びその商標「大富翁」を知っていたはずであり、製品リンクの命名方法からも商標「大富翁」の知名度にただ乗りしようとする意図が見られ、主観的には善意の使用とは言えない。これらの事実から、裁判所は、被告の使用行為は権利侵害に該当すると判断した。
(2)先使用の抗弁
『商標法』第59条第3項は、先に使用され、かつ一定の影響力を有する商標は、元の使用範囲で継続的に使用でき、商標権者は、当該商標の使用を禁止する権利を有しないことを明確に規定している。中国における商標権の取得は、登録主義であるが、実務において、実際にすでに使用されている未登録商標が多数存在している。本条の規定は、商標登録制度下で「先使用」に対する保護を再度明確にするものである。商標の本質的機能は、商品の出所を識別することであり、先使用者は実際の経営活動を通じて商業的信用を蓄積しているが、このような「事実上の権利」も、法律によって保護されるべきである。
ここで言う先使用の抗弁の成立には、以下の3つの要件を満たさなければならない。①商標使用者が、商標登録出願前から商標を使用し、かつ一定の影響力を有していること。②使用されている商標と登録商標が、同一又は類似商品における同一又は類似の商標であること。③商標使用者による使用が、元の使用範囲を超えていないこと。
ここで、先使用者による使用は、商標登録人による出願日よりも早いだけでなく、商標登録出願人自身が当該商標を使用し始めた時点よりも早くなければならないことに特に注意しなければならない。例えば、商標「老百姓大薬房」に係る権利侵害紛争事件12では、裁判所は、「先使用が商標出願日より早かったとしても、商標登録出願人の実際の使用開始より遅く、かつ先使用者が『明らかに知っている』又は『知っているはず』であることを証明できる場合、先使用の抗弁を認めてはいけない。」とはっきりと指摘した。また、当該事件では、先使用は善意に基づくものでなければならないことも指摘された。これは、北京知財裁判所が審理した商標権侵害紛争事件13(判決番号:(2019)京73民終1106号)の違法な使用は、保護を受けられず、先使用の抗弁が成立しないという観点と一致していた。実際に、先使用の抗弁制度の目的は、誠実に事業を営む企業が先使用に基づく合法的権益を保護することにある。たとえば、商標「双飛人」に係る商標権侵害及び不正競争紛争事件14では、被告商品は、事前の広告宣伝により一定の影響力を有しており、原告は被告商品の存在を明らかに知っていながら、被告商品の包装と類似する商標を、悪意を持って登録出願することで、権利行使していた。これに対して、最高裁判所は、被疑侵害行為は、『商標法』第59条第3項に規定の状況に該当し、商標権者は先使用者による元の使用範囲における使用を禁止する権利を有しない認定した。このことから、裁判所は、先使用の抗弁を判断する際、後願商標の登録出願が善意に基づくものであったか否かも考慮する必要があることが分かる。
一方、「一定の影響力」については、北京高等裁判所が発表した『昨今の知的財産権に係る裁判において注意すべき若干の法律問題』において、知名度の高さについて過度に要求すべきではなく、先使用者による商標の使用が真実であり、かつその商標が使用によって使用地域内で識別機能の役割を果たしていれば、「一定の影響力」を有するという要求を満たしていると明記されている。
「元の使用範囲」に関しては、現時点で、司法上の明確な定義はないが、使用地域の範囲、使用方法、使用主体又は使用規模が元の使用範囲を超えた場合の判断基準は、比較的曖昧である。たとえば、商標「理想空間」に係る商標権侵害紛争事件15や華聯スーパーの商標権侵害紛争事件16において、最高裁判所は「元の使用範囲を認定する際に、商標使用の地域範囲及び具体的な使用方式に重点を置くべきである。」と指摘している。具体的には、先使用者が実店舗を通じて商品販売又は役務提供を行って、商標登録出願人が商標を出願するか又は使用した後に、先使用者が既存の実店舗の影響の範囲外の地域に新規店舗を開設したり、インターネットなどの新たな販売ルートを通じて商品販売又は役務提供を行ったりした場合、普通元の使用範囲を超えたと認定されるべきである。実務において、具体的な事件の状況に応じて様々な角度から解釈されることが多く、結論が変わる場合もあり得る。それに対して、現象にとらわれず本質を見極めることが重要であり、先使用者が商標使用によって蓄積した商業的信用が及ぶ範囲を、核心的な判断基準とすべきである。
(3)損害賠償責任の免除
『商標法』第64条第1項は、「登録商標の商標権者が賠償を要求した場合、被疑侵害者は、登録商標の商標権者が登録商標を使用していないと抗弁することができる。」と規定している。例えば、登録商標の商標権者が過去3年間に当該登録商標を使用していなかった場合、被疑侵害者は賠償責任を負う必要はない。
前述した「正当な使用の抗弁」と「先使用の抗弁」における「使用」は、いずれも被疑侵害者による使用のことを言うのに対し、ここで言う「使用」は原告側(すなわち、商標登録人)による使用のことを言う。実務において、実際の使用を目的としない商標を登録して、その後高額譲渡又は悪意の訴訟によって、賠償金を得ようとするケースも存在する。しかし、商標法制度の根本的な目的は、商標の識別機能を保護し、消費者の混同を防止するとともに、使用を通じて蓄積された商標登録権者の商業的信用を保護することにある。長期間使用されていない登録商標は、法的に商標専用権を有しているものの、関連公衆に認知されていないため、市場知名度をほとんど有しておらず、市場における真の評価や商業的価値は形成されない。このような登録商標が、権利基礎として侵害訴訟で用いられる場合、その主張力が弱く、権利維持の効果も大きく損なわれることが多くなる。
『商標法』第64条第1項は、「商標の使用」を登録後の法的義務からさらに一歩進め、侵害訴訟における損害賠償責任の判断における重要な事実要件として位置づけている。この規定は、真実の使用意図や使用行為を伴わない商標権者が、訴訟によって不当な利益を得ることを効果的に阻止し、市場の公正競争秩序を維持する役割を果たす。被疑侵害者にとっては、悪意の訴訟に対抗し、権利濫用を制限する「口実」にはなるが、商標権者にとっては、商標を実際の商業活動に投入しなければ、権利が権利維持の重要な時に「効力を失ってしまう」可能性があることを警告する「警鐘」となっている。
ただし、この条項に基づく抗弁は、あくまで被疑侵害者の損害賠償責任を免除することにとどまり、侵害行為そのものの成立判断には影響しないことに注意しなければならない。したがって、裁判所が侵害成立を認定した場合、被疑侵害者は、侵害行為の差止めや影響の除去などの法的責任を引き続き負わなければならない。
まとめ
本稿では、現行『商標法』の関連規定及び典型的事例を踏まえ、「商標の使用」が商標の権利付与・権利確定及び侵害抗弁に果たす核心的な役割について、体系的に整理・分析した。そこから、商標は、商品・役務の出所を識別する商業標章であり、その核心的価値は実際の使用にあり、「商標の使用」は、商標法の理論と実務を貫く生命線であるという結論を得ることができた。商標法体系が絶えず最適化・整備される中で、従来の「登録重視・使用軽視」という観念は根本的に転換され、商標使用の制度における基盤的地位はますます明らかになり、今後より一層強化されることが予測される。
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参考文献:
1. 北京市高等裁判所(2018)京行終3673号判决
2. 第77228728号商標「昱白潔碧柔」に関する不登録決定
3. 第75672461号商標「SK-IKI」に関する不登録決定
4. 第77404972号商標「NSKA」に関する不登録決定
5. 最高裁判所(2024)最高法行申6775号行政裁定書
6. 北京市高等裁判所(2017)京行終491号判决
7. 北京市高等裁判所(2019)京行終4875号判决
8. 最高裁判所(2023)最高法行申2567号行政裁定書
9. 上海知財裁判所(2023)沪73民終285号判决
10. 浙江省寧波市中等裁判所 (2025)浙02民終1584号判决
11. 第25576999号商標「賽和大富翁」に関する無効審判裁定書
12. 最高裁判所(2024)最高法民再218号判决
13. 北京知財裁判所(2019)京73民終1106号
14. 最高裁判所(2020)最高法民再23号判决
15. 最高裁判所(2018)最高法民再43号判决
16. 最高裁判所(2021)最高法民再3号判决
