中国弁護士 姚 敏 
中国弁護士 陳 傑
北京魏啓学法律事務所
 
商標権者が商標権侵害訴訟を提起するか否かを決定するにしても、当事者双方が和解するか、又は上訴するかを決定するにしても、損害賠償額の算定は重要な考慮要素になっている。本稿では、商標権侵害訴訟における当事者がおおむね関心を寄せている損害賠償に関する問題を体系的に整理した上で、筆者の実務経験を踏まえて訴訟における立証方法についても紹介する。参考になれば幸いである。

1.算定方法の選択

中国の現行「商標法」(2019年施行の商標法)には、4種類の商標権による損害賠償額の算定方法が規定されており、且つこれらの4種類の算定方法には適用順位がある。まず権利者の実際の損失に基づいて確定するが、実際の損失の確定が難しい場合、権利侵害者が権利侵害によって得た利益により確定することができる。さらに、権利者の損失又は権利侵害者が権利侵害によって得た利益とも確定が難しい場合、ライセンス料の合理的倍数を参照して合理的に確定する。上記3つの方法のいずれによっても賠償額が確定できない場合、人民法院は権利侵害行為の情状により500万元以下の賠償額を判決する。

『最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈』(2020年改正)(以下「商標民事司法解釈」という)の第13条には、「人民法院は、商標法第63条第1項の規定に基づき権利侵害者の賠償責任を確定する際、権利者が自ら選択した算定方法に基づき賠償額を算定することができる。」と規定されている。すなわち、損害賠償額の算定方法について権利者に自主的な選択権が与えられているのである。

したがって、司法実務において、法院は通常、賠償額の算定方法の順序について要求を出さず、原告が選択した方法に法的及び事実上の根拠があるか否か、合理的か否かを直接考慮している。すなわち、商標権侵害案件において、権利者は、事件の具体的な状況に応じて、商標法に規定されている4種類の算定方法の中から最適なものを選択できるのである。

2.法定賠償

詹映1が2012年から2015年までの間に中国の人民法院が審理した3085件の商標権侵害案件を実証分析したところ、その99.6%の案件に法定賠償が適用されていた。曹新明2が2011年から2016年までの間の9057件の判例サンプルを分析したところ、その95.68%を占める8666件に法定賠償が適用され、そのうち商標権サンプルは1206件で、法定賠償基準が適用された判例は、全体の93.37%を占める1126件に達した。また、胡海容と王世港3は、北京知的財産権法院が2015年から2019年までに判決を下した商標権侵害案件290件について分析したところ、法定賠償が適用された案件は全体の98.3%を占める285件に及んだ。さらに、呉凡文と呂松4が2015年から2024年までの間の商標権侵害の典型的事例200件を分析したところ、そのうち、156件(78%)にも法定賠償が適用されていた。

上述のデータは、商標権侵害分野における法定賠償の一般的な適用をダイレクトに示しており、実際には、他の種類の知的財産権侵害案件も同様の状況である。

また、商標法に規定されている法定賠償の上限は500万元であるが、実務に適用されている法定賠償の判決賠償額は通常そこまで高くはなく、大体が50万元以内、ひいては10万元以下の場合もある。

このような状況になった主な原因は、権利者が実際の損失又は権利侵害によって得た利益を立証するのが比較的難しく、参照することができる使用許諾の状況もないからである。立証の難しさと賠償額の低さも、長年にわたり知的財産権侵害案件の問題点として指摘されてきた。近年、これらの問題を解決するため、立法においても司法実務においても、いくつかの相応する対策が取られている。例えば、商標法第63条第2項に規定されている「権利侵害行為に係る帳簿、資料の提出を命じることができる」制度の導入などが挙げられる。

商標民事司法解釈によると、人民法院は法定賠償を適用して賠償額を確定する際、権利侵害行為の性質、期間、結果、権利侵害者の主観的過失の程度、商標の名声及び権利侵害行為を制止するための合理的な支出などの要素を考慮して総合的に確定しなければならない。したがって、法定賠償の算定方法を採用する場合でも、権利者は、立証を怠ってはならず、可能な限り上述した要素の状況を立証することで、より高額な賠償を得ることができる。

また、司法実務では、権利者の実際の損失又は権利侵害者が得た利益が法定賠償の上限を明らかに上回っていることを証明できる証拠がある場合、法院は法定上限を超えて賠償額を合理的に確定することができる。但し、このような裁量的賠償は法定賠償に該当せず、権利者の実際の損失又は権利侵害者が得た利益に対する概括的な計算だと一般的に見なされている。例えば、シーメンス株式会社らが寧波奇帥電器有限公司らを訴えた商標権及び不正競争紛争案件(一審案件番号:(2019)蘇民初2号、二審案件番号:(2022)最高法民終312号)において、原告は、被告が権利侵害行為によって得た利益を賠償額算定の根拠として、1億元の賠償額を主張した。法院は、審理を経て、被告が権利侵害によって得た利益を立証する証拠は不十分であるものの、被告が権利侵害によって得た利益は法定賠償の上限を明らかに上回っていると認定して、案件の具体的状況を総合的に考慮して、法定賠償の上限を超えた賠償額を確定した。また、被告が関連財務証拠の提出を拒否している状況において、裁量的に賠償額を確定し、原告の賠償請求を全額支持した。

3.権利侵害によって得た利益

上述した研究者による中国各地における200件の商標権侵害の典型的事例の研究において、その15.5%を占める31件に権利侵害者が権利侵害によって得た利益の算定方法が適用されていた。この比率は法定賠償に比べて著しく低いものの、実際の損失の適用率0.5%やライセンス料の合理的倍数の適用率1.5%よりも明らかに高くなっていた。したがって、相対的に言って、権利侵害によって得た利益に基づく損害賠償額の算定は、司法実務において権利者が立証できる可能性が高い方法であると言える。

商標民事司法解釈によると、権利侵害者が侵害行為によって得た利益は、「権利侵害商品の販売量」×「権利侵害商品の単位当たりの利益の額」で算定できる。当該商品の単位当たりの利益を明らかにできない場合、登録商標商品の単位当たりの利益に基づき算定できる。当該利益とは通常、被告が権利侵害によって得た営業利益のことを言うが、被告が専ら権利侵害を業とする場合、その販売利益によって算定できる。

司法実務において、権利侵害者が権利侵害行為によって得た利益の算定方法を適用するのが難しいのは、主に販売量の立証が容易でないからである。主に電子商取引プラットフォームにおいて権利侵害品がネット販売されている場合、電子商取引プラットフォーム上に表示されている製品の販売量、総販売量又はユーザークチコミの総数などのデータはいずれも、製品販売量の重要な参考資料となる。しかし、オフライン販売の商品については、販売量の立証はさほど容易なことではない。関連販売量を集計している特殊な業種、例えば自動車、オートバイなど、又はその関連部品については、業界団体又は統計年鑑に公表されている数量を参照することもできるが、このような業界団体又は年鑑の統計がなければ、権利者は権利侵害者が自ら対外的に宣伝している販売規模に基づいて販売量を主張せざるを得ない。このとき、「やらせレビュー」や「誇大広告」がある場合の販売量の確定方法が問題となってくる。現在の司法実務において、権利侵害者が実際の販売量を証明する証拠を提出できない場合、その宣伝した販売量に基づいて認定できるというのが主流の観点になっている。権利侵害者が行った誇大宣伝などによって、その強い企業実力を誇張して宣伝することで、市場競争において優位に立ち、利益を獲得しているので、権利侵害者もその誇大宣伝した販売における権利侵害責任を負わなければならないのである。

例えば、小米科技有限責任公司らが中山奔騰電器有限公司を訴えた商標権侵害紛争案件(一審案件番号:(2018)蘇01民初3207号、二審案件番号:(2019)蘇民終1316号)において、原告は被告のネットショップにおける被疑侵害品のコメント数に基づき、その販売量を推計した。法院は、コメント数を販売量の参考の根拠にすることは、合理性があると認定して、原告の主張を採用した。

一方、商品の単位当たりの利益の確定について、販売利益と営業利益のどちらを適用すべきか、業界の利益率を参照するのは合理的であるか否か、登録商標商品の単位当たりの利益を適用することが合理的か否かなどについては、様々な議論がある。

例えば、OPPLE Lighting Co.,Ltd.が梁娟梅を訴えた案件(一審案件番号:(2021)粵15民初219号、二審案件番号:(2022)粵民終139号)において、原告は複数の上場企業の数年間の財務分析を提出して、照明メーカーのこの5年間の主要な業務利益率が13.02%~36.92%であることを証明し、その中間値24%の利益率を基に被告が権利侵害によって得た利益を算定することを主張した。被告はこれを認めず、一、二審の法院はいずれも、上場企業の企業性質、経営規模、経営コスト、収益能力などはタオバオ販売業者である被告と比較的大きな差異があると認定したため、上記企業の主要業務利益率は本件の権利侵害品の利益率と比較可能性がないとし、法院はその関連性を認めなかった。

4.権利者の実際の損失

権利者の実際の損失については、商標民事司法解释によれば、権利侵害によって受けた損失は、「権利侵害により生じた権利者の商品の販売減少量、又は権利侵害商品の販売量」×「当該登録商標商品の単位当たりの利益」で算定することができる。

実務において、権利者の商品の販売減少量によって損失を算定するケースは非常に稀である。権利侵害行為が権利者に実際の損失をもたらしたとしても、市場全体の需要の拡大によって、権利者の商品販売量は減少していないこともある。また、仮に権利者が商品販売量の減少数を証明する証拠を提出できたとしても、当該販売量の減少が権利侵害行為によるものであることを証明することは困難である。販売量に影響を及ぼす原因は、市場の低迷や競争製品など多方面にわたると考えられ、且つ権利侵害行為の影響の程度を数量化するのは容易なことではない。したがって、権利者がこのような方法で賠償額を算定することを選択したとしても、権利侵害品の市場における販売総数に基づいて算定することが多くなっている。

しかし、前述のように、権利侵害商品の市場における販売総数について、通常、権利者が立証するのは、困難である。また、権利侵害商品の販売量に登録商標商品の単位当たりの利益を乗じた積に基づき損失を計算する法的根拠は、権利侵害品が権利商品を代替したことにあり、権利侵害商品の販売量が権利商品の販売量の減少数に等しいことが考えられる。しかし、市場に多くの競合製品が存在するか、又は権利侵害商品と権利商品との価格に比較的大きな差がある場合、このような算定方法は不公平であるため、法院は通常このような状況ではこのような算定方法を認めることはない。

権利者の製品の合理的な利益については、関連証拠は通常権利者が保有しているため、権利者が提出しようとすれば、当該利益を確定することは難しいことではない。しかし、権利者が具体的な証拠を示さずに数字だけを提示した場合、この主張は認められにくい。通常、権利者は関連商品の財務諸表を提出し、専門の監査機関が製品の合理的な利益を監査して正しい結論を出さなければならない。しかし、これらの情報は権利者の営業秘密に関連するため、権利者は公開を望まないことが多い。

上述したような理由から、司法実務では権利者の実際の損失により損害賠償額を算定する案件は極めて少なくなっている。前述の200件の典型事例についての研究では、法院が権利者の実際の損失による算定方法で損害賠償額を確定したのは、巴洛克木業(中山)有限公司が浙江生活家巴洛克地板有限公司事件らを訴えた案件(一審案件番号:(2016)蘇05民初41号、二審案件番号:(2017)蘇民終1297号)だけであった。ただし、当該案件は非常に特殊なケースで、被告が元々原告のOEMの受託企業であり、原告製品よりも安い価格で私的に原告の販売代理店に出荷していたため、原告は被告の低価格販売に対応するため強力な値下げ措置を講じたことで、売上高が減少していた。また、権利者が十分な証拠を提出したことで、法院は、被疑権利侵害行為以外に権利者の販売量に重大な損害をもたらすその他の重大な要因があることを証明する証拠がないと判断できる十分な理由を有した。

5.ライセンス料の合理的倍数

ライセンス料の合理的倍数について、商標民事司法解釈には、より詳細な適用基準は記載されていない。現在の司法実務では、権利者は、権利侵害行為が発生する前に商標使用許諾の実績があり、且つ許諾内容が参照できることを立証しなければならない。

例えば、『北京市高級人民法院による知的財産権侵害及び不正競争案件における損害賠償の確定に関する指導的意見及び法定賠償の裁判基準(2020年)』には、「ライセンス料を参照して賠償額を確定する場合、一般的に比較できる合理的なライセンス料を下回らないものとする。合理的なライセンス料を認定するに当たって、以下の要素を総合的に考慮することができる。(1)ライセンス契約が実際に履行されているか、(2)ライセンス契約が届け出られているか、(3)使用許諾された権利、方式、範囲、期間などの要素と被疑行為との間に比較可能性があるか、(4)ライセンス料が通常の商用ライセンス料であって、訴訟、買収、破産、清算などの外部要因の影響を受けていないか、(5)ライセンサーとライセンシーとの間に親族関係、投資又は関連会社などの利害関係があるか。」と規定されている。

ライセンス料の合理的倍数という方法の適用には、参照可能なライセンスの実施を立証することが難しいという問題がある。例えば、北京同仁堂股份有限公司が黄衛東を訴えた案件(一審案件番号:(2016)粵0104民初1506号)において、原告の北京同仁堂股份有限公司は、同仁堂(集団)公司と締結したライセンス契約を参照して本件の商標権侵害の損害賠償額を確定することを主張したが、原告と同仁堂(集団)公司との間のライセンス契約は9つの商標と30種類の薬品に関わっているのに対して、本件は1つの商標と1種類の薬品にしか関わっていないので、ライセンス料を参照して賠償額を算定することはできないと、法院は判断した。

6.まとめ

紙数に制限があったため、本稿では商標権侵害損害賠償の算定方法の一部のみを簡単に紹介した。商標の被疑侵害製品に対する寄与率、合理的支出、当事者が合意した賠償額、懲罰的賠償等の問題にはまだ言及していないし、それぞれの算定方法に関する具体的な問題点や留意点についても、まだ紹介できていない。

自らの合法的権益を最大限に保護するため、権利者は可能な限り全方位的に立証し、算定方法を積極的に模索することで、より適切な賠償額を請求すべきである。これらの算定方法が採用されなくても、権利侵害によって受けた損失及び得た利益の証拠は、裁判所が法定賠償を適用して損害賠償額を確定する際に考慮されるべきである。