中国弁護士 中国弁理士 陳 濤
北京魏啓学法律事務所
北京魏啓学法律事務所
I. はじめに
2019年12月10日、中国最高裁判所の知的財産法廷は、上訴人である深セン市吉祥騰達科技有限公司(以下、「騰達社」という。)と、被上訴人である深セン敦駿科技有限公司(以下、「敦駿社」という。)、原審の被告である済南歴下弘康電子製品販売店、済南歴下昊威電子製品販売店との特許侵害紛争事件(以下、「本件」という。)について、イ号製品の製造、販売の申出、販売を行った騰達社の行為は、敦駿社の「ネットワーク事業者のポータルサイトに簡単にアクセスする方法」を名称とした第02123502.3号特許を侵害したと認定する旨の判決1を言い渡した。本件は、2019年の中国最高裁判所の知的財産事件年度報告書に選ばれた。本件は複数の主体が関与する方法特許に関するものである。このような方法特許の場合、どのように保護するかについて、司法実務では様々な扱い方があり、統一した妥当な侵害判定ルールが欠如していた。中国最高裁判所は本件において、「かけがえのない実質的役割」をポイントとする裁判ルールを確立した。本稿において、本件の事実に基づき、現在の司法実務における「複数の主体が関与する方法特許」に関する侵害判定の手法を整理するとともに、「かけがえのない実質的役割」という裁判ルールを解読してみる。
II.事件の概要
特許権者である敦駿社は、本件において、本件特許の請求項1、2に基づき権利を主張した。請求項1は下記のようなものである。
【請求項1】
次の処理手順を含むことを特徴とする、ネットワーク事業者のポータルサイトに簡単にアクセスする方法:
A.アクセスサーバーのベースレイヤハードウェアは、ポータルサービスユーザーデバイスの認証前の最初のアップリンクHTTPデータパケットを「仮想Webサーバー」に直接送信する;当該「仮想Webサーバー」機能は、アクセスサーバーのトップレイヤソフトウェアに接続された「仮想Webサーバー」モジュールによって実現される;
B.「仮想Webサーバー」は、ユーザーがアクセスするウェブサイトとして仮想化され、ポータルサービスユーザーデバイスとのTCP接続を確立し、「仮想Webサーバー」は、アクセスサーバーのベースレイヤハードウェアにリダイレクト情報を含むデータパケットを返し、さらに、アクセスサーバーのベースレイヤハードウェアは、通常の転送プロセスに従って、実際のポータルサイトPortal-Serverにリダイレクトされたデータパケットをポータルサービスユーザーデバイスに送信する;
C.リダイレクトされたデータパケットを受信した後、ポータルサービスユーザーデバイスのブラウザーは、実際のポータルサイトPortal-Serverへのアクセスを自動的に開始する。
請求項1の発明は、ステップA、Bがアクセスサーバー(例えば、ルーター)により実行され、ステップCがエンドユーザーの所有したユーザー機器により実行される、いわゆる「複数の主体が関与する方法」である。
敦駿社は一審において、騰達社、弘康販売店、昊威販売店が、敦駿社の本件特許を侵害した製品の製造、販売及び販売の申出を直ちに停止し、在庫及び金型を廃棄することを求めた。
一審裁判所は、調査した上で、「ユーザーは、イ号製品であるルーターを用いて、ネットワーク事業者のポータルサイトにアクセスすると、本件特許の請求項1の発明をすべて再現することとなる。そのため、原告の許諾なしに、イ号製品であるルーターの製造、販売、販売の申出を行った騰達社は、本件特許への侵害となり、侵害停止、損害賠償の責任を負わなければならない」と判断した。
二審裁判所、つまり中国最高裁判所の知的財産法廷は、審理した結果、「電気通信分野の方法に係る特許侵害の判断は、特許権者の法的権利が実質的に保護されることを確保し、業界の持続可能な革新及び公正な競争を実現させるために、分野の特徴を十分に考慮し、この分野の革新と発展の法則を十分に尊重すべきである。被告の侵害者が業として、特許方法の実質的な部分をイ号製品に組み込み、このような行為または行為の結果は、特許クレームの構成要件をすべて充足するには、かけがえのない実質的な役割を果たし、つまり、エンドユーザーがイ号製品を通常に使用するだけで、特許方法のプロセスを自然に再現できる場合、被疑侵害者が当該特許方法を実施し、特許権者の権利を侵害したと判断できる。したがって、本件において、イ号製品の製造、販売の申出、販売を行った騰達社は、特許侵害となり、侵害停止、損害賠償の民事責任を負わなければならない。侵害が成立すると認定し、騰達社が本件ルーター製品の製造、販売の申出、販売を直ちに停止すると命令した原審判決は、本件特許方法の実質的な部分が組み込まれた3機種の本件ルーター製品の製造、販売の申出、販売の差止めを意図するものであり、法律の適用及び民事責任の負担方法に関する判断が相当である。」と判示した。
III.事件の解析
特許権は法定の権利であり、その発生は法定の審査手続きを経る必要があり、権利の効力は法律によって明確に定められている。そのため、通常、特許権への侵害となる行為は、特許法に明記されている行為、すなわち、中国特許法第11条に網羅的に例示されたいくつかの行為のみであるとされている。具体的には、物の特許の場合、特許法に別段に定めがない限り、いかなる機関・組織又は個人も特許権者の許諾を得ずに、業としてその特許製品の製造、使用、販売の申出、販売、輸入をしてはならない。方法の特許の場合、特許法に別段に定めがない限り、いかなる機関・組織又は個人も特許権者の許諾を得ずに、業としてその特許方法の使用、及びその特許方法により直接得られた製品の使用、販売の申出、販売、輸入をしてはならない。
通説では、製造方法の特許のみ製品にも効力が及び、作業方法や使用方法では、効力が製品に及ばないとされている。本件特許の方法は作業方法であり、操作方法や行為手順を保護するものであるため、特許権者は、他人が許諾なしにこの方法を使用するという実施行為に対する差止め請求権しか有しない。
以下には、本件のイ号製品であるルーターの設計・開発から最終使用までの各段階を検討し、これまでの侵害判定方針に基づいて、各段階において本件方法特許を侵害する行為があるかを考察して、被疑侵害者である騰達社の侵害責任を判断する。
イ号製品であるルーターの設計・開発から最終使用までの過程には、①本件ルーターの設計・開発、②本件ルーターの生産・製造、③本件ルーターの販売の申出、販売、④エンドユーザーにより使用されるユーザー機器の本件ルーターを介するインターネット接続認証という4つの段階がある。
1.設計・開発について
設計・開発の段階において、一般には、製品の性能テストを行う必要がある。したがって、裁判所は通常、被疑侵害者がこの段階において、特許方法の各ステップをすべて実施したと推定することにより、被疑侵害者が方法特許権を直接侵害したと判断する。これは現在、複数の主体が関与する方法特許について裁判所がよく採用する判断手法である。
代表例としては、西安西電捷通無線網絡通信股分有限公司(以下、「西電捷通」という。)がソニー移動通信製品(中国)有限公司(以下、「ソニー中国」という。)を提訴した特許侵害事件2,3(以下、「ソニーWAPI事件」という。)が挙げられる。同事件において、請求項1は典型的に複数の実行主体を含む方法クレームであり、WAPI規格に係る標準必須特許である。請求項1の方法では、移動端末、無線アクセスポイント及び認証サーバという3つの実行主体が関与し、各主体はいずれも複数のステップを実行し、しかも各ステップはいずれも発明の実施には不可欠である。被告のソニー中国はスマートホン、即ち移動端末を製造し、ユーザーに販売した。ユーザーは、スマートホンを用いてWAPI機能により無線LANにアクセスすると、スマートホン、無線アクセスポイント及び認証サーバーという3つの主体が共同で当該特許のすべてのステップを実施することとなる。
ソニーWAPI事件において、一審裁判所と二審裁判所とも、被告のソニー中国が設計・開発段階のテストにおいて、本件特許の発明を完全に実施し、直接侵害となったと判断した。
しかし、筆者としては、複数の主体が関与する方法特許について、このように設計・開発におけるテスト行為を直接侵害として認定する判断手法には様々な欠点があると考えている。理由は以下のとおりである。
①被疑侵害者は設計・開発段階において、中国で特許方法に係るテストを行ったとは限らない。被疑侵害者は中国以外でテストを行ったり、外国の会社にテストを依頼したりすることができる。被疑侵害者は、中国において特許方法に係るテストを行っていないことを立証できれば、テスト行為による侵害の認定を防止でき、かかる特許の権利行使を回避できる。
②テスト行為が直接侵害に該当することのみ認定する場合、損害賠償の算定において、テスト行為による利益、又はテスト行為に起因する特許権者の損害に基づいて賠償額を算定すべきである。最終的なイ号製品の販売数は、テスト行為と直接の因果関係がないため、損害賠償を算定するための根拠として利用すべきではない。この場合、取得できる合理的な賠償額はかなり限定的となり、被疑侵害者の製造、販売行為による特許権者の損害を補うには不十分である。ソニーWAPI事件において、二審判決では、ソニー中国の開発段階におけるテスト行為のみが侵害行為として認定されたものの、賠償額の算定については、一審判決におけるスマートホンの販売数に基づいて算定された賠償額がそのまま認められた。このような判断は、法的根拠に欠くと思われる。
したがって、テスト行為から特許侵害の成立を認めることは本末転倒である。中国最高裁が本件において判示したように、被疑侵害者がイ号製品のテストにおいて特許方法を実施し、侵害となったとする認定のみでは、特許権者の利益を保護するには不十分である。なぜなら、このテスト行為は、被疑侵害者の不正な利益の所在や直接的な原因ではなく、また、法律によりテスト行為を差し止めることによって、特許方法へのより大規模な侵害を防ぐこともできないからである。
2.生産・製造について
ルーターの製造において、騰達社は特許方法の実質的な部分を製品に組み込んだが、特許方法のステップを現実には実施していない。司法実務において、特許方法の使用とは、クレームに記載された方法発明の各ステップがすべて実施されたことをいう4。また、いわゆる「使用」とは、方法特許の一連のステップを実行することにより、この行為過程を完成させ、所望の行為効果を得ることを意味するという見方もある5。特許方法の実質的な部分をイ号製品に組み入れることは、特許方法を実施する機能をイ号製品に付与することにすぎないので、この過程においては特許方法の各ステップが現実に実施されたとは限らない。したがって、実務における上述の見方からすれば、騰達社は本件ルーターの製造においては本件特許方法を使用していないと考えられる。
例えば、ソニーWAPI事件において、一審裁判所はソニー中国がイ号スマートホンの生産・製造、出荷検査などの段階においてWAPI機能測定を行い、本件特許を実施したと推定したが、二審裁判所は原審判決の認定を採用しておらず、「現時点の証拠では、ソニー中国が生産・製造、出荷検査の段階において本件特許を実施したことは証明できない」とした。
さらに別の代表的な事例としては、格力社が美的社を提訴したエアコン特許侵害事件6が挙げられる。この事件において、主張された特許はエアコンをカスタムカーブに従って稼働させる制御方法であり、そのカスタムカーブはユーザーがエアコンの実際の使用において設定するものである。一審裁判所は、美的社製イ号エアコンの「快眠モード3」が、かかる特許の請求項2の構成要件をすべて充足していると判断した上で、「格力社の許諾を得ずに、業としてイ号エアコンにおいて本件特許方法を使用した美的社が、本件特許方法の使用を直ちに停止し、イ号エアコンの販売、販売の申出を直ちに停止しなければならない」と判決した。美的社は、方法特許に係る侵害行為としては、①特許方法の使用、②当該特許方法により直接得られた製品の使用、販売の申出、販売、輸入という2つのパターンしかないと主張して上訴した。具体的には、「本件特許は、エアコンの製造方法ではなく、エアコンの使用方法であるため、製品は直接得られない。そのため、この特許権の効力は製品に及ばない。美的社は本件特許の方法を使用しておらず、当該特許方法により直接得られた製品の使用、販売の申出、販売、輸入も行っていない。エアコンのユーザーのみ、本件特許を使用することがある。美的社は使用者ではない。」という旨の主張であった。
二審裁判所である広東省高等裁判所は、「快眠モード3の機能を持つエアコンを製造する行為は、本件特許の方法を使用する行為を含む。快眠モード3は、エアコンをカスタムカーブに従って稼働させる制御方法である。美的社が製造したエアコンにおいて、この機能を実現するには、これに対応する配置や設定により、カスタムカーブに従って稼働する条件をエアコンに具備させることが必要となるため、エアコンをカスタムカーブに従って稼働させる制御方法の使用は避けられない。したがって、美的社は使用者である。美的社が格力社の方法特許の使用を停止する旨の原審判決は、快眠モード3の機能を持つエアコンの製造行為への差止めを含む。」と判示した。
しかし、「これに対応する配置や設定により、カスタムカーブに従って稼働する条件をエアコンに具備させる」ことは、カスタムカーブに従って稼働する機能をエアコンに付与することとなり、すなわち、特許方法を実施する機能をエアコンに付与することとなるが、この機能が生産・製造時において確実に機能して所望の効果を達成したのかということは疑問である。かかるエアコン機能を実際に実行させて効果を発揮させるのは、被疑侵害者ではなく、ユーザーである。被疑侵害者が生産・製造時において配置・設定をすることでイ号製品に特許方法を実施する機能を付与したことのみを根拠に、被疑侵害者がこの過程において特許方法を必ず使用したと推定することは、理由が不十分であり、説得力に欠く。
3.販売の申出、販売について
「販売の申出」とは、広告、店舗のショーウインドーにおける陳列、展示会における展示等を通じて商品販売の意思表示を行うことをいう7。販売の申出の行為において本件特許方法を実施することは当然不可能である。したがって、ルーターの販売の申出行為から、騰達社が本件方法特許権を侵害したと判断することはできない。
「販売」とは、売買の当事者間で行われる取引行為をいい、すなわち、販売者が売買対象物の所有権を購入者に移転し、購入者が売買対象物の代金を販売者に支払うことをいう8。本件において、イ号製品であるルーターを販売する行為は、特許方法の現実な実施につながるものではない。したがって、ルーターの販売行為からも、騰達社が本件方法特許権を侵害したと判断することはできない。
一方、ユーザーにルーターを販売する行為は、特許間接侵害として認定される可能性がある。特許の間接侵害制度により、複数の主体が関与する方法特許を保護することも、司法実務におけるトライアルの一つである。
特許の間接侵害については、中国特許法には専用の条文はない。「特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈(二)」には、下記のように特許間接侵害の2つのパターンが定められている。
「かかる製品が、特許の実施のために専用の材料、機器、部品、中間物などであることを知りながら、特許権者の許諾を得ずに、当該製品を業として他者に供給して他者が特許権侵害行為を実施し、権利者は当該供給者の行為が権利侵害責任法第9条に掲げる侵害幇助行為に該当すると主張する場合、裁判所はその主張を認めなければならない。
かかる製品、方法に特許権が付与されたことを知りながら、業として他者を積極的に誘導して他者が特許権侵害行為を実施し、権利者は当該誘導者の行為が権利侵害責任法第9条に掲げる侵害教唆行為に該当すると主張する場合、裁判所はその主張を認めなければならない。」
特許直接侵害に比較して言えば、上記2つの侵害行為の行為者は特許発明を完全には実施していないが、特許権者への侵害も大きいものである。学術界では、上記司法解釈に掲げる上記2つの侵害行為が特許間接侵害と呼ばれる。なお、上記司法解釈では、上記2つの特許間接侵害行為が、侵害責任法第8条に掲げる侵害行為の共同実施ではなく、侵害責任法第9条に掲げる侵害幇助や侵害教唆に該当するとされている。
上記司法解釈によれば、侵害幇助は、「専用品であることを知りながら他者に供給した」こと及び「他者が当該専用品を用いて特許権侵害行為を実施した」ことを構成要件とし、侵害教唆は、「特許権の存在を知りながら他者を積極的に誘導した」こと及び「他者が特許権侵害行為を実施した」ことを構成要件とする。また、上述した規定からすれば、特許間接侵害行為の成立は、直接侵害行為の成立を前提とするものである。
しかし、司法実務において、特許権者の利益をより良く保護するために、特別な事情については、特許間接侵害が直接侵害行為を前提とすることは必ずしも求められない。
例えば、北京高等裁判所が2017年に発表した「特許侵害判定指南(2017)」第119条、130条には以下の記載がある。
「第119条 行為者は、かかる製品が、対象特許の発明を実施するために専用の材料、中間物、部品又は機器などの専用品であることを知りながら、特許権者の許諾を得ずに、当該専用品を業として他者に供給し、他者が特許権侵害行為を実施した場合、行為者の当該専用品の供給行為は本指南第118条に規定する他者の特許権侵害の実施に対する幇助行為に該当する。ただし、当該他者が本指南第130条又は特許法第六十九条第(三)、(四)、(五)号に規定する事情に該当する場合、当該行為者が民事責任を負担する。」との記載がある。
「第130条 業としない私的利用等のための他者特許の実施は、特許権侵害にならない。」
ソニーWAPI事件において、一審裁判所は、「通常、間接侵害行為は直接侵害行為の存在を前提とする。しかし、これは、特許権者は別の主体が直接侵害行為を実際に実施したことを証明しなければならないことを意味していない。特許権者は、イ号製品のユーザーが製品の設計形態どおりに製品を使用すれば、特許の構成要件をすべて充足することさえ証明すればよい。ユーザーが侵害責任を負担するかしないかは、間接侵害行為の成立とは無関係である。」と判示した。この点について、二審裁判所も一審裁判所の判断を採用し、「直接実施行為が特許侵害にならない場合、「間接侵害」行為者に民事責任を負担させないと、多くの通信、ソフトウェアの使用方法特許は、法律による有効・十分な保護が得られず、技術革新への奨励及び権利者の適法な利益への保護を図る上で不利となる。」と判示した。また、二審裁判所は、「直接実施者が特許侵害にならず、間接侵害行為者が民事責任を負担する」という例外の適用条件を詳細に説示した。
2018年7月に開催された第4回全国知的財産裁判活動会議において、中国最高裁判所の陶凱元副所長は、「特許分野における侵害幇助は、被幇助者が侵害専用品を用いて、特許クレームの構成要件をすべて充足する行為を実施したことを条件とするが、被幇助者の行為が法律上の直接侵害行為に該当することは求められず、幇助者と被幇助者とを共同被告とすることも求められない。」と述べた。この方針によれば、特許間接侵害の成立は、直接侵害行為の成立を条件とせず、被幇助者が侵害専用品を用いて実施した行為が、特許クレームの構成要件をすべて充足することを条件とする。このように、特許間接侵害は、特許直接侵害に従属するものではないと言えるようになった。
本件において、騰達社はユーザーにルーターを提供した。ユーザー自身は業としてルーターを使用するわけではないため、ユーザーの行為は特許侵害行為ではない。特許間接侵害が特許直接侵害の成立を前提とするというルールを厳しく適用すると、騰達社の販売行為は当然、間接侵害にならない。しかし、上記方針によれば、ユーザーの行為が法律上の直接侵害行為に該当するかを考える必要はない。本件において、イ号製品であるルーターは、Web認証のオンモードにおいて、ユーザーがネット接続認証を行うと、本件特許クレームの構成要件をすべて充足することとなる。しかし、騰達社の販売行為が特許間接侵害に該当するには、他の要件も満足する必要がある。
侵害幇助については、本件ルーターが専用品であるかを判断する必要がある。本件において、本件ルーターは本件特許のネット接続認証機能だけではなく、他のネット接続認証機能も備えるため、専用品であるとはいえない。
侵害教唆については、騰達社が「特許侵害になると知りながら、それを実施するようにユーザーを誘導した」かについて判断する必要がある。本件において、騰達社は確かに商品の販売時に、Web認証機能を宣伝したので、このような行為の実施を誘導したと考えられるが、この行為が特許侵害になると騰達社が知っていることを示す証拠はない。
本件において、原告は騰達社の販売行為が特許間接侵害になるとは主張しなかった。間接侵害を主張するには証明すべき事項がより多く、特許権者の権利行使がより難しいからではないかと思われる。
また、ソニーWAPI事件において、二審裁判所は、複数の主体が関与する方法について、「直接実施者が存在しないことを背景に、その要素の一つだけ供給した者が侵害幇助に該当すると認定すると、上記侵害幇助の要件を満足せず、また、権利者への保護を過度に拡大し、社会公衆の利益を不当に損なうこととなる。」と指摘した。このような見方により、複数の主体が関与する方法の特許権者が間接侵害を主張することで権利行使することはより一層難しくなる。
4.エンドユーザーのユーザー機器のネット接続認証について
エンドユーザーがユーザー機器を用いて本件ルーターを介してネット接続認証を行うと、本件特許の請求項1の発明が完全に実施される。ここで、ステップA及びステップBは本件ルーターにより実行され、ステップCは、ユーザーが所有するユーザー機器(例えば、パソコン、スマートホン等)により実行される。ユーザー機器は、エンドユーザーがその実体を所有して支配するが、本件ルーターの所有・支配者については以下のパターンがあり得る。
(パターン①)エンドユーザーがルーターを所有して支配する。このパターンが非常に多くみられる。例えば、エンドユーザーはルーターを購入して自宅に設置し、このルーターを用いて無線LANを構築し、インターネットに接続する。
(パターン②)パブリックネットワークのサービスを提供する事業者がルーターを所有して支配する。このパターンも非常に多くみられる。例えば、空港、鉄道駅、レストラン、ショッピングモールなどにルーターを設置してパブリックネットワークのサービスを提供する。
エンドユーザーのネット接続認証において、騰達社が侵害責任を負担すべきか、どのような法的根拠に基づいて侵害責任を負担するかを検討するには、まず、上記2パターンにおける特許方法の各ステップの実施主体を確認する必要がある。発明の観点からすると、ステップA及びステップBは本件ルーターにより実行され、ステップCはエンドユーザーのユーザー機器により実行されるが、特許法の観点での使用者又は実施者は当然、ルーターやユーザー機器ではない。
中国特許法第11条によれば、特許方法を実施し、民事責任を負担するのは、機関・組織又は個人にほかならない。誰が特許方法を実施したのかということについて、答えは一目瞭然のように見える。例えば、A社が生産・製造において特許方法Xにより生産性を改善した場合、特許方法Xの実施者は当然A社である。しかし、場合によっては、特許方法の実施者はさほど明確ではなく、理解が分かれることもある。
例えば、ソニーWAPI事件において、請求項1の方法クレームを完全に実施するには、移動端末、アクセスポイント及び認証サーバーという3つの協働が必要である。ユーザーが移動端末を用いてWAPI機能により無線LANにアクセスすると、移動端末、アクセスポイント及び認証サーバーの三者が共同で特許方法のすべてのステップを実施することとなる。そうすると、この場合には、誰がこの特許方法の実施者であるのか?例えば、ユーザーがWAPI機能を通じて無線LANにアクセスするため、ユーザーを、本件特許を完全に実施した実施者として認定すべきであるか?また、認証サーバーを所有する事業者が、認証サーバーを通じて認証サービスを提供しているため、特許方法において認証サーバーにより実行されるステップの実施者は、認証サービスを提供する事業者であるか?さらに、認証サーバーにおける認証プロセスは、認証サーバーのメーカーにより設定されるものであり、認証サーバーの認証プロセスがどのように実行されるかは、認証サーバーのメーカーにより決定されるものであることから、特許方法において認証サーバーにより実行されるステップの実施者は、認証サーバーのメーカーであるか?
本件において、ステップCについては、実施者がエンドユーザーであることについて議論がないと思われる。しかし、ステップA及びステップBについては、実施者が誰なのかについて、司法実務において様々な見方がある。
(見方Ⅰ)ステップAとステップBの実施者はユーザーである。
ソニーWAPI事件において、一審裁判所はこの見方を採用した。同事件において、一審裁判所は、「通常、間接侵害行為は直接侵害行為の存在を前提とする。しかし、これは、特許権者は別の主体が直接侵害行為を実際に実施したことを証明しなければならないことを意味していない。特許権者は、イ号製品のユーザーが製品の設計形態どおりに製品を使用すれば、特許の構成要件をすべて充足することさえ証明すればよい。ユーザーが侵害責任を負担するかしないかは、間接侵害行為の成立とは無関係である。このように解釈する理由は、使用方法特許では、請求項に規定する構成要件をすべて充足する主体がユーザーである場合が多い。一方、ユーザーは業としてこれを使用するわけではないため、特許侵害にならない。このような場合には、「間接侵害行為は直接侵害行為の存在を前提とする」という基準を機械的に適用すると、ユーザーに関わる使用方法特許は、法律により保護されなくなってしまい、このような使用方法にも特許を付与する特許制度の趣旨に反することとなる。」「被告は、イ号製品にWAPI機能モジュールセットが内蔵されていること、このセットが本件特許を実施するための専用装置であることを知りながら、西電捷通の許諾を得ずに生産経営のためにこの製品を他者に供給して本件特許を実施させる行為は、侵害幇助行為に該当する」と判示した。
上述した判決文からすれば、一審裁判所は、「本件特許方法を完全に実施したユーザーの行為は特許侵害にならないが、ユーザーに専用品を供給したソニー中国が侵害責任を負担しなければならない」という考えであった。
仮に、ユーザーが業として特許方法を実施したとすると、この見方Ⅰで判断する場合、ユーザーは、WAPI機能を利用して無線LANに接続することで特許方法の完全な実施を引き起こす行為が直接侵害になり、侵害停止及び損害賠償を含む侵害責任を負担することとなる。しかし、ユーザーが所有・支配するものは移動端末のみであり、アクセスサーバー及び認証サーバーは他の主体により所有・支配される。アクセスサーバー及び認証サーバーにより実行されるステップから生じる民事責任を、別の主体であるユーザーに負担させることは、法律及び事実上の根拠に欠ける。
上記見方Ⅰは実質上、特許方法の実施を引き起こす者を方法の実施者として認定する考えである。通信技術、IoT分野における複数の主体が関与する方法特許の発明の場合、単一の「引き起こす者」が通常存在するため、この見方Ⅰで方法の実施者を認定すると、複数の主体が関与する方法特許のほとんどは侵害判定の困難がなくなる。しかしながら、上述のとおり、この見方Ⅰでは、方法の実施を引き起こす者は、その行為に相応しくない過大な侵害責任を負担してしまうため、罰は不適切であり、公正の原則に反することとなる。
(見方Ⅱ)ステップA、Bの実施者はルーターの実際の支配者である。
ソニーWAPI事件において、二審裁判所は、一審裁判所の見方を採用しておらず、 「本件特許は典型的に『複数の主体が発明の実施に関与する』方法特許であり、この発明は実施時に複数の主体の関与が必要で、複数の主体が共同又は相互に動作してこそ初めて完全に実施できる特許発明である。本件において、ソニー中国社は、AP及びASの装置を供給しておらず、WAPI機能モジュールを内蔵した移動端末のみ供給している。移動端末MT、無線アクセスポイントAP及び認証サーバASは、三者対等セキュリティアーキテクチャであり、移動端末MT、無線アクセスポイントAP及び認証サーバASの相互のやり取りがないと、本件特許は実施できない。したがって、本件において、個人ユーザーを含むいずれの実施者も、独自で本件特許を完全に実施することができない。また、単一の行為者が他の行為者の実施行為を指導・支配したり、複数の行為者が共同で協力し合って本件特許を実施したりするような事情もない。」と判断した。
二審裁判所は、特許方法における各ステップの実施者を確認していないが、個人ユーザーが特許方法を完全に実施していないと明確に認定した。つまり、個人ユーザーは、移動端末の実際の支配者として、特許方法における移動端に対応するステップの実施者である。
(見方Ⅲ)ステップA、Bの実施者はルーターのメーカー、つまり騰達社である。
握奇vs恒宝のUKey特許侵害事件9において、一審裁判所は同じような見方であった。この事件において、主張された特許の請求項1は物理的認証方法であり、ユーザーがイ号製品を用いて口座振込などを行う場合、イ号製品はかかる特許の物理的認証方法を実行する。一審裁判所は、「被告の恒宝社が中国特許法第11条に掲げる他人の特許方法の使用に該当するかについて、以下のとおり判断する。請求項1における「操作コマンドと物理認証方式の対応関係を設定する」という構成要件に関して、電子装置の製造者が事前に対応関係の設定を行ったと考えられる。・・・上記発明は、電子装置の製造者が銀行システムと事前に合意したプロトコル及びこれに基づいて確立した通信インタフェースにより、電子装置の機能を参照して予め行われるシステムの設定に関するものである。ユーザーがいくつかのステップに関与するが、それは電子装置の製造者により予め設定された操作手順に基づく関与であり、ユーザーにはバックグラウンドのプログラムへの関与や変更は不可能である。このように、この電子装置の製造者がこの認証方法に関する発明の実施者であることは明らかである。」と判示した。
この見方Ⅲは、技術のソースから特許方法の実施者を判断する考えである。この見方を本件に適用すると、ルーターはエンドユーザーの支配下で、かかる方法を実行するが、そのソースはメーカーの設計・設定にあり、エンドユーザーはトリガーの役割をするだけである。つまり、ルーターが特許方法を実行する根本的な原因は、メーカーである騰達社の生産・製造行為にある。この見方Ⅲでは、製造者の侵害責任を問うことにより、特許権者の利益を根本的に保護することができるように見える。しかし、筆者としては、このような見方においても、様々な欠点があると思う。
(1)ルーターはメーカーから販売されると、物権が変わる。上記パターン①において、ルーターはユーザーが実際に所有して使用し、ユーザーはルーターの完全な物権である所有権を有する。上記パターン②において、パブリックネットワークのサービスを提供する事業者は、完全な物権である所有権を有する。パターン①にせよ、パターン②にせよ、ルーターが特許方法のステップA、Bを実行するかは、実際の所有者自身のニーズによるものである。パターン①において、ユーザーが端末装置を用いてインターネットに接続するために、ネット接続認証を行う必要があるため、ルーターによるステップA、Bの実行が発生する。パターン②において、パブリックネットワークのサービスを提供する事業者は、自分自身のビジネス利益のために、インターネット接続のための認証サービスを提供することで、利用者がインターネットに接続すると、ルーターはステップA、Bを自動的に実行する。メーカーである騰達社は、ルーターの販売により、かかる機能を実現するツールを所有・支配者に提供するが、このツールを用いてかかる機能を実現させるかについては、メーカーとは関係がなく、所有・支配者次第である。
したがって、本件特許方法のステップA、Bの実行による侵害責任をルーターの所有・支配者に負担させることは当たり前である。また、騰達社がこのような場合におけるステップA、Bの実施者であると認定しても、騰達社としては特許方法の実施をコントロールできないので、騰達社に侵害停止の責任を負担させることは現実には不可能である。
(2)上記見方Ⅲは、複数の主体が関与する方法特許の保護に関して新たなアイデアを示したが、新たな問題の導入も避けられない。この見方Ⅲを他の場面に適用すると、不合理なところが多くある。
例えば、使用方法に関する特許の場合、仮に、購入者がメーカーから、この使用方法を実行する機能を有する機器を購入し、この機器を用いて当該使用方法を実施することにより、工業プロセスを制御して生産性を高め、ビジネス利益を多く取得したとする。この場合、購入者は業として特許方法を完全に実施したので、特許侵害になったことは明らかである。しかし、上記見方Ⅲのように技術のソースから出発して特許方法の実施者を探すと、購入者が業として特許方法を使用する行為の実施者は、機器のメーカーとなり、この行為により生じる特許侵害責任は機器のメーカーが負担することとなる。これは現実的ではない。機器のメーカーは、購入者における特許方法の使用を阻止することができない。また、購入者における特許方法の使用による利益又は特許権者の損害に基づいて、特許権者への損害賠償をメーカーに命令することも、不公正である。
そして、上記見方Ⅲを特許製品の使用場面に適用するときにも、同様の問題がある。購入者が業として特許製品を使用する行為について、上記見方Ⅲにより、技術のソースである製品メーカーを特許製品の使用者として認定すると、当然不合理になる。
以上の検討より、本件方法特許のステップA、Bの実施者について、筆者としては、ルーターの実際の所有・支配者がステップA、Bの実施者であるという上記見方Ⅱに賛成である。このような認識に基づいて、上記パターン①及びパターン②における侵害判定をさらに考察していこう。
パターン①において、エンドユーザーは、ユーザー機器とルーターの両方を所有・支配するため、特許方法のすべてのステップはエンドユーザーにより完全に実施された。しかし、エンドユーザーは通常、業として実施するわけではないため、特許法上の侵害行為にはならない。また、上述のとおり、騰達社がエンドユーザーにルーターを販売する行為は、侵害幇助及び侵害教唆の構成要件を満足しないので、騰達社は特許間接侵害にならない。したがって、このパターン①において、騰達社が侵害になるとは判断できない。
パターン②において、エンドユーザーはユーザー機器を所有・支配し、パブリックネットワークのサービスを提供する事業者はルーターを所有・支配する。そのため、パブリックネットワークのサービスを提供する事業者は、ステップA、Bの実施者であり、エンドユーザーはステップCの実施者である。このパターンにおいて特許侵害があるかを考察するためには、中国侵害責任法第8条(「二人以上が共同で侵害行為を実施し、他人の損害を起こした場合、連帯責任を負わなければならない」)に規定する共同侵害の適用を検討してみることが考えられる。
共同侵害の本質について、いくつかの学説がある。①共同加害者間の意思の連絡、つまり共同の故意を条件とする意思連絡説、②共同侵害行為の本質的特徴が、複数の行為者が損害結果について共同の過失を有するとする説であり、共同の故意と、共同の過失との両方を含む共同過失説、③共同加害者の連帯責任負担の基礎が共同行為であり、共同加害結果の発生が常に共同加害行為と緊密な関係を有するとする共同行為説、④各侵害行為により引き起こされる結果には客観的な関連性・共同性さえあれば、共同侵害行為として認定でき、各行為者間の意思の連絡が条件ではないとする関連共同説である。①及び②は、共同侵害行為の本質が主観的要件にあるとし、③及び④は共同侵害行為の本質が客観的要件にあるとしている。中国の侵害法学説では、共同侵害行為の本質について、主観説が主流である10。
特許に関しては、共同侵害の成立要件について、共同侵害者間の主観的意思の連絡又は共同過失を条件とする共同過失説が主流である。例えば、「電磁弁」事件11において、中国最高裁判所は、侵害責任法第8条に掲げる共同侵害は、①加害者が二人以上であり、②各加害者が主観的な共同意思を有し、③各加害者同士の行為には客観的な相互利用、協力又は支援があり、④各加害者の行為による損害の結果が共同意思の範囲内であるという要件を備えるものと指摘した。また、北京市高等裁判所も、「二人以上が特許侵害行為を共謀で実施したり、役割分担して実施したりした場合、共同侵害となる」という同様の見方を示した。
上記パターン②において、エンドユーザーはユーザー機器を用いてインターネットに接続したいと思っているだけであり、パブリックネットワークのサービスを提供する事業者との主観的な意思連絡又は共同過失はないため、特許共同侵害の構成要件は満足されていない。したがって、パターン②では、エンドユーザーのユーザー機器のネット接続時に発生する特許方法の完全な実施において、特許共同侵害はない。このように、騰達社が特許侵害になると認定することも当然不可能である。
IV.「かけがえのない実質的な役割」という裁判ルールについて
イ号製品であるルーターの設計・開発から最終使用までの各段階を以上のとおり検討した結果、これまでの裁判方針では、被疑侵害者である騰達社の設計・開発におけるテスト行為のみが特許侵害となり得ると分かった。しかし、上述のとおり、これは本末転倒な扱いであり、特許権者の利益を守るには不十分である。
本件において、中国最高裁は、特許権者の利益を確実かつ合理的に保護するために、従来の裁判方針を採用せず、「被告の侵害者が業として、特許方法の実質的な部分をイ号製品に組み込み、このような行為または行為の結果は、特許クレームの構成要件をすべて充足するには、かけがえのない実質的な役割を果たし、つまり、エンドユーザーがイ号製品を通常に使用するだけで、特許方法のプロセスを自然に再現できる場合、被疑侵害者が当該特許方法を実施し、特許権者の権利を侵害したと判断できる。」と判示して、「かけがえのない実質的な役割」という新しい裁判ルールを示した。
このルールは以下の要件を含む。
(1)業として、
(2)特許方法の実質的な部分をイ号製品に組み込み、
(3)このような行為または行為の結果は、特許クレームの構成要件をすべて充足するには、かけがえのない実質的な役割を果たし、つまり、エンドユーザーがイ号製品を通常に使用するだけで、特許方法のプロセスを自然に再現できる。
上述した従来の「使用」行為に関する理解では、特許方法の実質的な部分の製品化は、特許方法の使用として認定される可能性はない。しかし、上記裁判ルールでは、上述した構成要件を満足すると、「特許方法の実質的な部分をイ号製品に組み込む」ことは、特許方法の直接的な使用となり、方法特許への直接侵害に該当する。
中国最高裁の上記裁判ルールは、現行法律の規定を打ち破って新たな特許侵害行為を定義するわけではなく、「オール・エレメント・ルール」に反するものでもなく、中国特許法第11条に規定する特許方法の使用行為に関する合理的な解釈である。本件において、被告の騰達社は、イ号ルーターの製造時に特許方法の実質的な部分を製品に組み込んだ。このような製品化行為は、特許方法の発明全体の実施につながり、方法発明全体の実施においてかけがえのない実質的な役割を果たすため、特許方法実施のための条件作りや幇助となる補助的行為ではなく、特許方法を使用する行為であり、直接侵害に該当する。
特許方法の実質的な部分の製品化行為は、ルーターの生産・製造において発生する。格力社vs美的社の特許侵害事件も、イ号製品の生産・製造から侵害行為の成立を認めたが、本件の裁判方針とは全く異なるものであった。本件において、中国最高裁は、上記要件を満足する特許方法の実質的な部分の製品化行為を、特許方法の使用行為として認定したのに対して、格力社vs美的社の特許侵害事件において、二審裁判所は、イ号製品の生産・製造時において発生する特許方法の製品化行為が必ず、特許方法の各ステップが生産・製造において実行されることをもたらすという考えであり、使用行為に関する理解が依然として実務での一般的な理解であった。
中国最高裁は、「オール・エレメント・ルール」を守りながら、「かけがえのない実質的な役割」というルールを独創的に判示した。これは、中国における複数の主体が関与する方法特許の侵害判定に関する新しいブレークスルーとなり、通信技術、IoT技術などの分野における特許保護を強化し、さらにこれらの分野における技術の進歩を促進する上で有効である。
上記裁判ルールを適用する場合、格力社vs美的社の特許侵害事件及び握奇vs恒宝の特許侵害事件では、被疑侵害者の生産・製造時の製品化行為は上記3要件を満足し、特許方法の使用に該当して直接侵害になると判断できる。一方、ソニーWAPI事件では、上記裁判ルールを適用して、ソニー中国が移動端末に係るステップを移動端末に組み込む行為が特許方法の使用に該当すると認定できるかについて、見方が分かれる可能性がある。上述のとおり、ソニーWAPI事件において、特許方法の完全な実施は、移動端末、アクセスサーバー及び認証サーバーという3つの協働が必要であり、いずれの一方により実行されるステップも発明の実施には不可欠である。この場合、ソニー中国が製品に組み込んだ移動端末に係るステップが特許方法の実質的な部分であると認定できるか、ソニー中国の行為又は行為の結果が、特許クレームの構成要件をすべて充足するにはかけがえのない実質的な役割を果たしたと判断できるかについて、確かに議論する余地がある。
したがって、中国最高裁が示した上記新しい裁判ルールが今後どのように適用されていくか、「特許方法の実質的な部分」、「かけがえのない実質的な役割」をどのように捉えるべきかについては、今後の司法実務から答えを探していこう。
V. 結びに
本稿では、ルーター特許侵害事件の事実を踏まえて、イ号製品であるルーターの設計・開発から最終使用までの各段階を考察し、「複数の主体が関与する方法」の特許侵害に関する裁判方針の現状を整理し、中国最高裁が判示した「かけがえのない実質的な役割」という裁判ルールを解読した。本稿の整理を通じて、読者の皆様に本件の侵害判定思想及び上記裁判ルールをより良く理解していただければと思う。また、この新しい裁判ルールについて、今後の司法実務における適用もウオッチングしていきたいと思う。
————————————————————————————————————————————————————————————————
1 中国最高裁判所「(2019)最高法知民終147号」民事判決書
2北京知的財産裁判所「(2015)京知民初字第1194号」民事判決書
3北京市高等裁判所「(2017)京民終454号」民事判決書
4北京市高等裁判所「特許侵害判定指南(2017)」
5曲桂芳、「作業方法の使用者について」、「中国発明と特許」、2014年第5期
6広東省高等裁判所「(2011)粤高法民三終字第326号」民事判決書
7「特許紛争事件の審理における法律適用の問題に関する最高裁判所の若干の規定(2015)」
8尹新天、「中国特許法詳解」、知識産権出版社、2011年3月第1版
9北京知的財産裁判所「(2015)京知民初字第441号」民事判決書
10楊立新、「侵害責任法」、法律出版社、第三版
11中国最高裁判所「(2018)最高法民再199号」民事判決書