中国弁護士  王 艶

はじめに

商標の魂はその使用にあり、商標の使用方法は特に重要であり、規範化されていない使用又は不適切な使用は多くのリスクをもたらす。本稿では、具体的な例を参照しながら、現行商標法の下における登録商標の無断変更によるリスクについて簡単に整理してまとめる。

一、登録商標標識の変更範囲

登録商標の専用権は、登録済みの商標標識と指定商品に限られており、登録商標の使用は規範化しなければならない。しかし、実際に使用されている商標標識と登録済みの商標標識が完全に一致していない場合がある。では、「登録商標の無断変更」とは何だろうか。

「中国商標審査審理指南」には、「登録商標の無断変更とは、商標登録権者又は使用許諾を受けた者が登録商標を実際に使用する際に、当該商標を構成する文字、図形、アルファベット、数字、立体標章、色彩の組合せなどを無断で変更したことにより、元の登録商標の要部と顕著な特徴が変更されたことをいう。元の登録商標と比べて、変更後の標識は同一性がないと判断されるおそれがある。」と規定されている。また、「最高人民法院による商標の権利付与・権利確定に係わる行政事件審理における若干問題に関する規定」の第26条第2項によると、実際に使用される商標標識が登録済みの商標標識と僅かな相違があるが、その顕著な特徴が変わらなければ、登録商標の使用と見なすことができる。

このように、登録商標の使用に該当するか否かの判断は、その登録商標の顕著な特徴が変更されたか否かにかかっていることが分かる。登録商標の顕著な特徴が変更された場合、他人の商標権を侵害し、ひいては自分の登録商標が取消されるという不利な結果を招きかねない。

二、商標権侵害のリスク

「最高人民法院による登録商標、企業名称と先行権利が衝突する民事紛争事件の審理における若干問題に関する規定」の第1条第2項には、「原告が、他人が指定商品上に使用した登録商標とその先行登録商標が同一又は類似であることを理由として訴訟を提起する場合には、裁判所は民事訴訟法第124条第3項の規定に基づき、原告に対して関連行政主管機関に解決を申し立てるよう告知しなければならない。ただし、他人が指定商品の範囲を超え、又は顕著な特徴を変更、分解、組み合わせる等の方式で使用した登録商標と、その登録商標が同一又は類似であることを理由として、原告が訴訟を提起する場合には、裁判所はこれを受理しなければならない。」と規定されている。

出願商標の登録が許可された後、商標登録者は商標の専用権に基づき、当該登録商標を規範的に使用することができる。一般的に言えば、他人が当該使用した登録商標が先行登録商標と同一又は類似であることを理由として侵害訴訟を提起する場合、使用した登録商標が有効であれば、裁判所は商標権侵害に該当するか否かを直接判断せず、当事者に行政手続で解決するよう指示し、まず行政主管機関が登録商標の有効性を認定することになる。先行登録商標が著名商標である場合のみ、裁判所が直接受理して判決を下す可能性がある1。ただし、商標登録者による登録商標の使用が規範的ではなく、登録商標標識を無断で変更した場合、上記規定の但し書き部分に規定する例外に該当する可能性がある。変更後の商標標識が先行登録商標と混同されやすい場合、権利侵害になる可能性が高く、使用した商標が登録商標であると商標使用者が抗弁しても、その抗弁が支持されないことが多い。 
例えば、方太(FOTILE)の商標権侵害及び不正競争紛争事件2において、被告は第1555572号商標「」を登録したが、登録済みの商標形態に従って厳格に使用せずに、「方太」の文字を単独で又は目立つように使用したため、裁判所は、その使用は当該登録商標の特徴を変更し、関連公衆に方太公司と関係があると誤認させやすく、方太公司の商標権の権利範囲に入ったと判断した。

三、登録商標取消のリスク

中国「商標法」第49条によると、商標登録者が登録商標を使用する過程において、登録商標を無断で変更したとき、商標を管理する部門は期間を定めて是正を命じるが、期間が満了しても是正しない場合には、商標局はその登録商標を取消す。また、登録商標は正当な理由がなく継続して3年間使用していないとき、如何なる単位又は個人は、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる。

網易公司の第10908297号商標「」取消不服審判行政紛争事件3において、網易公司が提出した使用証拠に示した商標はいずれも「印像拍」、「印像派」である。裁判所は、これらの使用した商標と係争商標は、文字の構成、全体の視覚的効果、称呼などにおいて相違があり、同一性を有していないと判断した。網易公司が同時に「印像派」商標を登録したことを考慮すると、本件の証拠は、網易公司による他の商標の使用を証明できるが、係争商標の使用証拠と見なすことができないため、係争商標の登録は取り消されるべきである。このように、商標標識を変更して使用すると、登録商標の専用権の意味での使用に該当しない可能性があり、登録商標の取消につながるリスクがあることが分かる。

ただし、登録商標の3年不使用取消制度は懲罰的な措置ではなく、商標資源を活性化し、未使用の商標を整理することを目的とした立法であるため、商標権侵害事件と比べて、通常、商標の顕著な特徴を変更するか否かの判断基準は緩く、できるだけ既存の登録商標を維持する傾向が強い。商標の使用証拠が他の登録商標を明確的に指し示すものではない場合、分割または組み合わせなどの形式で登録商標を使用したとしても、商標の顕著な特徴が変更されていないと判断され、登録が維持される可能性がある。
例えば、第1495769号商標「  」取消事件4において、実際に使用された商標は、「匠人组合ARTISAN ASSOCIATION」及び別個に分割して使用されている係争商標の図形部分である。裁判所は、実際に使用されている商標標識と係争商標の間には一定の相違があったものの、係争商標の「匠人」、「ARTISAN」及び図形が含まれており、その顕著な特徴は変更されておらず、且つ第42類役務には、係争商標の登録者に係争商標1件しか保有していないため、上記商標の使用は係争商標の使用と見なすことができると判断した。
 
また、このような判断基準は訴訟事件に限らず、審判事件でも多く適用されている。第16796870号「」、第6218421号「」、第4994311号「」、第1322293号「」商標の審決取消不服審判事件5において、商標の構成要素を分割、追加、削除または変更する使用が商標の顕著な特徴を変更していないと判断され、関連商標の使用証拠の有効性が認められた。

商標取消事件では、より緩い審理基準が適用されるが、変更後の商標標識が他人の先行商標と混同されやすい場合、当該商標の使用は他人の商標権を侵害することで正当性を失う可能性がある。関連する使用行為が民事訴訟ですでに権利侵害と認定された場合、その使用証拠の有効性は認められず、商標取消事件の判断基準にも影響を与え、商標登録が取り消されるリスクが生じてしまう。

おわりに

以上をまとめると、登録商標を変更して使用することは、他人の商標権を侵害するリスクがあるだけでなく、登録商標が取消されるリスクもある。商標登録者としては、登録商標の使用を規範化する必要があり、無断で商標を分割したり、組み合わせたり、顕著な特徴を変えたりせず、できるだけ登録商標との一致性を維持しなければならない。
 
参考文献

1. 「最高人民法院による著名商標の保護に関する民事紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」
2. 浙江省高級人民法院(2020)浙民終1181号民事判決書(浙江2020年度十大知識産権司法保護事件)
3. 北京知識産権法院(2020)京73行初4759号行政判決書
4. 北京市高級人民法院(2021)京行終8570号行政判決書
5. 商評字[2022]第0000353791号、商評字[2017]第0000166633号、商評字[2021]第0000165345号、商評字[2022]
 第0000355148号商標取消不服審判決定書