中国弁護士 李 琦
北京魏啓学法律事務所
 
被疑侵害品が展示会又はインターネットで展示されているだけで、専利権者はその製品の製造、販売に関する証拠を把握していない場合、関連の販売の申出行為のみに対し、権利行使を行うべきであるか。関連の展示、宣伝を行う主体がその製品を製造、販売する主体ではない場合、関連の宣伝行為の権利侵害責任は製造者に遡ることができるか。本稿では、筆者は司法判例と結び付けて、専利権侵害紛争における販売の申出の賠償責任の確定に関する過去の司法裁判観点及び最新の司法判例における指導的な観点について簡単に分析を進めるが、参考になれば幸いである。

1.専利権侵害紛争における販売の申出の賠償責任に関する過去の司法裁判観点

2021年前、各地の裁判所は専利権侵害紛争における販売の申出の賠償責任の裁判に対し、異なる観点を示し、主要な観点が2つに分けられていた。即ち、1)権利者が証拠を提供し、権利侵害に与えられた実際の損失を証明できない場合、販売の申出を実施する行為者は合理的支出の賠償責任のみを負う。2)販売の申出を実施することによって権利侵害をした場合に経済的損失及び合理的支出の賠償責任を同時に負う必要がある。

例えば、上海知的財産権裁判所は(2015)滬知民初字第762号意匠権侵害紛争事件の一審判決において、「原告が主張した経済的損失及び合理的支出について、本件において、被告が販売の申出のみを実施し、原告に実際の経済的損失を与えていないことを明らかにしたため、損害賠償の支払いという原告の主張を支持しない。原告が主張した合理的支出について、当裁判所がすでに採択した(2016)粤仏順徳第34284号公証証書に係る本件侵害品の部分及び原告が本件訴訟に支払った関連の出張費用の合理的な部分を支持する。」と指摘した。また、最高裁は(2015)民申字第2000号実用新案権紛争事件の再審民事裁定書において、「当裁判所は、特許法第65条の適用は権利者が実際の損失を受けたことを前提とすべきであると考えている。……訴訟で発生した合理的支出の他、王崇氏は十分な証拠を提供し、科特誠業公司、科特興業公司が係争の販売の申出を実施することによって王崇氏に実際の経済損失を与えたと証明できないことを鑑み、科特誠業公司、科特興業公司に対し、王崇氏に合理的支出の支払いを命じた一審裁判所、二審裁判所の判決に明らかな不当はない。」と指摘した。

上述の司法判例において、上海知的財産権裁判所も最高裁も権利者が証拠を提供し、実際の損失を受けたことを証明できない場合、販売の申出を実施する行為者は合理的支出の賠償責任のみを負うと、判断した。しかし、専利権侵害紛争における権利者が受けた実際の損失又は侵害者が得た利益自体は証明され難いため、この司法裁判観点は販売の申出行為を訴訟で差止めさせることができるが、権利者は経済的損失の補償を受けにくく、権利者への保護に不利である。

2.専利権侵害紛争における販売の申出の賠償責任に関する最新の司法裁判動向

1)被疑侵害者は販売の申出のみを実施したとしても、侵害の差止め及び損賠賠償の民事責任を負わなければならない。

2021年、最高裁知的財産法廷は2件の実用新案権侵害紛争事件の二審判決を下し、被疑侵害者が販売の申出のみを実施したとしても、侵害の差止め及び損害賠償の民事責任を負うべきであると、明確に指摘し、販売の申出のみを実施した侵害行為に対する最新の司法裁判の方向性を確定した。

具体的には、『最高裁判所知的財産権法廷裁判要旨抜粋(2021)』に選出された(2020)最高法知民終1658、1659号判決において、最高裁判所知的財産権法廷は、「販売の申出による権利侵害の民事責任を負うことは販売行為が実際に発生することを前提としない。販売の申出行為が一旦発生したら、専利物品の合理的な定価を影響し、専利権者のビジネスチャンスを減少又は遅延するなどの損害を生じるため、販売の申出を実施する行為者は侵害を差止め、権利行使による合理的支出を支払う民事責任を負うだけでなく、損害賠償責任も負わなければならない。侵害者が販売の申出のみを実施し、専利権者が販売の申出行為で受けた具体的な損失を立証し難い場合、案件の具体的な状況に基づき、関連証拠が反映した侵害情状などを重点的に考慮し、法定損害賠償で損害賠償額を算定することができる。」と、明確に指摘した。

2)販売の申出行為が第三者により実施されたとしても、製造者は関連の賠償責任を負わなければならない。

過去の司法判例において、関連証拠には被疑侵害者が関連の侵害行為を実施したことを厳格に証明できる直接証拠がないか、又は完成な証拠チェーンが形成されていない場合、通常、原告の関連の主張が成立しないと推定する。

最高裁知的財産権法廷がこのごろ発表した判例分析によれば、最高裁知的財産権法廷は(2021)最高法知民終60号判決において、「本件の事実に基づき、飛航公司が第三者に依頼し、展示会で販売の申出を実施した可能性は高いと推定できる。たとえ第三者が飛航公司の依頼を受けて展示会で販売の申出を実施したことを推定できなくても、第三者は専利権者の許諾を受けて展示会で販売の申出行為を実施したのではなく、その行為は製品を販売する製造者である飛航公司の意思表示により実施され、一部の利益が最終的に飛航公司に帰属する。侵害品の販売の申出行為が一旦発生したら、専利権者に専利物品の価格を低下し、ビジネスチャンスを減少又は遅延するなど、結果を合理的に推定できる損害を与えるため、権利侵害の一番のもとを打撃する視点から見れば、飛航公司は展示会で販売の申出を実施する侵害行為に関連の賠償責任を負うべきである。」と指摘した。この判決の旨に基づき、販売の申出行使が第三者により実施されたとしても、侵害品の製造者はその販売の申出行為の侵害結果に関連の賠償責任を負わなければならない。

以上を鑑み、専利権侵害紛争において、権利者は販売の申出による侵害行為を発見した場合、積極的に権利行使することができ、関連の侵害行為で受けた損失を正確に証明できなくても、権利侵害の賠償の関連認定を最大限で高めるため、権利侵害の規模、時間などを証明できる関連証拠をできる限り提供すべきである。しかも、関連の展示会の出展行為又はオンライン宣伝行為が製造者ではない第三者より実施した場合、侵害行為の発生を効果的に抑制するとともに、侵害行為ですでに生じた損失を補償するため、製造者に販売の申出の民事責任を負うことを求め、侵害行為の一番のもとを遡り、積極的に権利行使を行うことができる。