中国弁護士 陳 傑  姚 敏
北京魏啓学法律事務所
 
商品の包装・装飾は、企業の市場競争における重要な資源である。司法実務では、商品の包装・装飾の模倣行為は、知的財産権侵害によくある種類である。中国の法律と司法実務は、商品の包装・装飾に対して様々な保護方法を提供している。そのうち、不正競争防止法は、比較的高い知名度を有し、かつ識別力のある商品の包装・装飾を、「一定の影響力を有する包装・装飾」として保護している。ただし、この権益は同じく出所識別力を保護する商標権とは異なり、「一定の影響力を有する包装・装飾」には、権利主体、範囲、存続期間などの内容が明記された商標登録証のような証明書がない。本稿では、商品の包装・装飾の不正競争防止法による保護について、司法実務においてよくある問題点を実例と結び付けて検討する。少しでも参考になれば幸いである。

1.不正競争防止法に保護される「一定の影響力を有する包装・装飾」の権益主体について

包装・装飾は製品に付されたものであるため、当該包装・装飾の権益主体は通常、製品の生産経営者であるとされている。ただし、包装・装飾には、包装・装飾上に表示されている標識である商標権、包装・装飾について同時に出願できる意匠権、包装・装飾において独創性を有する作品としての著作権のような他の権利が存在する可能性もある。例えば、これらの権利者が製品の生産経営者と一致しない場合、包装・装飾に係る権益の帰属に関する紛争が発生することがある。

司法実務において、商標の使用許諾により生じた商品の包装・装飾に係る権益の帰属は、よく議論されている問題である。広東省加多宝飲料食品有限公司(以下「加多宝社」という)が広州王老吉大健康産業有限公司を訴えていた知名商品特有の名称、包装・装飾の無断使用に係る紛争事件〔一審案件番号:(2013)粤高法民三初字第1号、二審案件番号:(2015)民三終字第2号〕はその一例である。本件に係る知名商品の実際の経営者である加多宝社と「王老吉」商標の商標権者である広薬集団はいずれも、「王老吉」赤色缶入りハーブティーの包装・装飾に対して権益を有していると主張した。一審の広東高等裁判所は、当該包装における顕著な部分である「王老吉」商標は、大きな商業的信用と価値を有し、本件「王老吉」赤色缶入りハーブティー製品の知名度を継続、発展させるために不可欠な要素であると認定し、当該包装・装飾の権益は商標権者である広薬集団に属すると判示した。そして、二審の最高裁判所は同様に、製造業者の情報を権利帰属の直接的な根拠とすることを否定し、係争包装・装飾の権益の形成過程において、「王老吉」ブランドが果たした役割、「王老吉」赤色缶入りハーブティーの経営行為に対して係争包装・装飾の権益の形成過程で加多宝社が果たした役割、消費者の認知及び公平の原則などを総合的に考慮すべきであると示した。最終的に、係争包装・装飾の権利を完全に一方の所有に帰するという判決を下すことは、明らかに不公平な結果を招き、かつ社会公衆の利益を害するおそれがあると認定した。したがって、本件知名商品特有の包装・装飾の権利は、信義誠実の原則を守り、消費者の認識を尊重し、かつ他者の合法的な権益を損なわないことを前提として、広薬集団と加多宝社が共有することができると判示した。

上記「王老吉」赤色缶入りハーブティーのような包装・装飾に係る紛争が発生するのは、商標使用許諾契約において、使用許諾期間内に発生する権益に関する明確な約定がないからである。このような紛争をできるだけ回避するために、後に続いて生じる商品の包装・装飾に関する権益の帰属について、商標使用許諾契約において明確に約定することを提案する。例えば、弊所が代理した日本のある知名ブランド製品について、大量の包装・装飾の模倣が発見された案件では、当該ブランドの商標権者、中国において生産・経営の責任を負う子会社及び生産工場などに、包装・装飾の権益帰属に関する合意書を締結するよう提案した。また、当該書面による約定は、権益の所有者を原告として模倣業者に訴訟を提起できると定めている。被告として原告の主体適格性を争う模倣業者もいたが、当方に権利の帰属を明記した合意書があったため、被告側の抗弁理由は裁判所に支持されなかった。当該ブランド製品の包装・装飾は、すでにいくつかの案件で「一定の影響力を有する商品の包装・装飾」に認定され、中国の不正競争防止法によって保護されているので、包装・装飾の模倣行為も効果的に抑制された。

2.商品の包装・装飾が取得した意匠権期限満了、又は存続している場合、不正競争防止法による保護を受けられるか。

商品の包装・装飾に係る形状と図案は、意匠権の保護対象でもある。実務において、多くの企業が、自社製品の包装・装飾について意匠権出願をしている。しかし、意匠権の存続期間は、第4次専利法改正前は10年、現行法では15年とされている。では、以前に意匠権を取得して、すでに存続期間が満了した包装・装飾について、不正競争防止法による保護を選択できるのだろうか。

最高裁判所は、(2010)民提字第16号の「晨光ノック式中性ペン」における知名商品特有の包装・装飾の無断使用に係る紛争事件について、以下のことを明らかにしている。すでに意匠権を取得した商品の外観について、意匠権が満了した後に、当該意匠を使用する商品が知名商品になった場合、他人が当該意匠を使用することにより、商品の出所について関連公衆に混同や誤認を生じさせる後使用行為は、当該意匠の先行使用者の商業的信用の不正利用に当たることで、不正競争に該当する。したがって、意匠権の存続期間の満了後、当該意匠はもちろん公有分野に入るわけではなく、不正競争防止法の保護条件を満たした場合に、同法によって保護されるべきである。

そこで、商品の包装・装飾の意匠権が存続期間内である場合、権利者は不正競争防止法の適用による保護を選択できるのかという問題があるが、それはもちろん問題なく選択できる。例えば、弊所が代理したハウス食品グループ本社株式会社が仏山市徳生星火食品有限公司及び広州市徳生食品有限公司を訴えていた案件〔一審案件番号:(2018)滬0115民初28733号、二審案件番号:(2019)滬73民終242号〕において、当方は原告の商品の包装・装飾が「一定の影響力を有する包装・装飾」に該当すると主張し、不正競争防止法による保護を求めたが、被告は原告が当該包装・装飾についてまだ意匠権を有しており、専門法である専利法に関連条項がある限り、一般法である不正競争防止法による保護を適用するべきではないと抗弁した。当方は、専利法と不正競争防止法の関係、意匠権と包装・装飾の権益の保護対象及び保護要件、保護範囲といった多方面から反論して、最終的に本件の一審、二審裁判所はいずれも、原告には保護方式を選択する権利を有すると認定し、当方の主張を支持してくれた。

全体的に言えば、商品の包装・装飾について、意匠権と不正競争防止法により多重に保護される可能性はあるものの、保護要件と保護範囲は完全に同一であるわけではない。より全面的かつ効果的な保護を受けるために、できる限り多くの権利を取得することを提案する。製品が発売される前にまず意匠権を出願して、権利保護期間内に意匠権が模倣されることを抑制することで、包装・装飾の顕著性や識別力を確保できる。それによって、意匠権の満了後も、不正競争防止法の保護要件を満たせば、不正競争防止法による保護を引き続き受けられる。

3.更新された新たな包装・装飾は元の包装・装飾の知名度と影響力を引き継ぐことはできるか否か?

製品がバージョンアップされると、識別のためにその包装・装飾も同様に更新されることが多い。では、包装・装飾が更新された後、新たな包装・装飾は元の包装・装飾の市場知名度と影響力を引き継ぐことはできるのだろうか。

新たな包装・装飾の全体的なデザインスタイル、中核となる識別要素が元の包装・装飾と一致している場合、新たな包装・装飾は元の包装・装飾の市場知名度と影響力を引き継ぐことができる。上述した弊所が代理したハウス食品グループ本社株式会社が仏山市徳生星火食品有限公司及び広州市徳生食品有限公司を訴えていた案件において、原告が係争商品「百夢多咖喱」の包装・装飾を更新したことによって、その包装・装飾に対する使用には連続性がなくなり、当該商品の包装・装飾は原告に帰属していないと、被告は抗弁した。しかし、本件の一審裁判所と二審裁判所はいずれも、当該商品の更新前後の包装・装飾はいずれも全体的なスタイルが一致し、主要なデザイン要素にも明らかな差異がないため、更新によって商品の出所との識別関係を断ち切ることはないとして、新たな包装・装飾は元の包装・装飾の影響力を引き継ぐことができると、原告の主張を支持した。
したがって、ある包装・装飾が市場において一定の知名度と影響力を獲得した後、その知名度と影響力を継続させるために、包装・装飾を更新する際に、その包装・装飾の中核となる識別要素、全体のスタイルを変更しないように注意することを提案する。

4.不正競争防止法によって工業製品の外観を保護できるか否か?

不正競争防止法によって工業製品の外観を保護するには、比較的厳しく、難しい条件を満足しなければならないが、商品の出所を識別する役割を有する製品の外観を長期間にわたり大量に使用している場合、その外観を不正競争防止法に規定される一定の影響力を有する装飾に該当するとして、保護を受けられることもある。近年、商品の形状や構造が知名商品特有の装飾として不正競争防止法による保護を受けられる司法判例も少なくない。

弊所が代理した(2020)粤03民初3331号案件において、原告であるオーデマ ピゲホールディングS.A.は1972年に「Royal Oak(ロイヤル オーク)」腕時計を発売し、数十年にわたり当該腕時計を経営してきた。八角形のベゼルに留められた8個の六角形ビスというデザインが当該腕時計の特徴である。しかし、本件の被告製品は原告の腕時計のデザインを模倣し、多くのECプラットフォームで販売していた。弊所は原告の代理人として、当該腕時計のデザインは一定の影響力を有する包装・装飾に該当すると主張し、裁判所に訴訟を提起したが、被告は、腕時計の造形デザインは商品自体の一部であり、商品の出所を識別する役割を有しないと抗弁した。「Royal Oak」腕時計の造形デザインは、すでに商品の出所を識別する役割を有することで、一定の影響力を有する商品包装・装飾として不正競争防止法による保護を受けるべきであることを証明するために、弊所の弁護士は大量の証拠を収集し、原告製品の八角形のベゼルに留められた8個の六角形ビスというデザインは、市場における一般的な腕時計のデザインと区別できる顕著な特徴であり、且つ関連公衆に高い識別力を有し、長期間の使用と大量の宣伝活動によりすでに原告との安定的な市場関係を築いているため、商品の出所を識別する役割を有していることを強調し、証明した。最終的に、当方の主張は裁判所に支持され、原告が製造した「Royal Oak」腕時計のデザインは、一定の影響力を有する包装・装飾に該当すると認定された。本件は一審判決がすでに発効した。